武田義信は謀略で天下取りを始めるようです ~信玄「今川攻めを命じたはずの義信が、勝手に徳川を攻めてるんだが???」~

田島はる

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名門の凋落

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 氏真が朝比奈泰朝を暗殺すると、駿府館では蜂の巣を突いたような騒ぎになっていた。

「朝比奈殿ほどの忠臣を殺めるなど……これでは武田につけこまれる口実を与えてしまいますぞ!」

「朝比奈殿は今川家の重鎮……あやつがいなくなれば、家臣の心が離れていくとなぜわからないのですか!」

 家臣に詰め寄られ氏真がたじろいだ。

「殺した後に口を出すな! そういうことは、泰朝を手にかける前に言え!」

「聞く耳を持たなかったのは殿でしょう!」

「寿桂尼様が亡くなられ、ただでさえ家臣の足並みが乱れているというのに……! なにゆえ朝比奈殿をっ……!」

 家臣と口論になる氏真を横目に、岡部元信がため息をついた。

 氏真が当主でいる限り、今川家が生き残れるとは思えない。

 それならば、武田義信から男児をもらい、今川の新たな当主とした方が、まだ望みが繋がるというものだ。

 今川が武田家の傀儡となることを余儀なくされるが、長年同盟関係を続けてきたこともあり、武田とは縁が深い。

 義元の正室は武田信虎の娘で、義信の正室は義元の息女なのだ。

 武田義信とて、悪いようにはしないだろう。

 元信の中では、既に武田に味方をする決意は固まっていた。

 そのために人質を遠江に送り、他の今川家臣を武田に味方させるべく、積極的に動いてきたのだ。

 あとは義信からの連絡を待つのみだ。

 岡部元信が館の裏手に移動すると、忍びと思しき影が近づいてきた。

「……若君からの使者か」

 忍びが静かに頷く。

「決行は今夜。氏真様が床についたのち、速やかに駿府館を制圧せよとのこと」

 ──来たか。

「此度のはかりごと、極力今川家臣の皆様だけで進めて頂きます。必要とあらば我らも助力いたしますが、あまり派手に動いては……」

「わかっておる。ご助力、かたじけない」

 元信が頭を下げると、いつの間にか忍びは消えていた。





 永禄11年(1568年)7月。

 岡部元信ら今川家臣が蜂起すると、またたく間に駿府館を制圧した。

 そのまま今川家当主、今川氏真を捕縛すると、菩提寺である増善寺に幽閉し、新たな今川家の指導者として武田義信の子を担ぎ上げた。

 後に駿府館の変と呼ばれるこの騒動で、今川家は実質的に武田家の傀儡となるのだった。
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