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三河統治と遠江調略
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家臣たちへの恩賞と在郷の国衆たちへの所領安堵が完了すると、いよいよ三河統治に本腰を入れて取りかかれる。
飯富虎昌や長坂昌国をはじめ、集まった義信家臣団を見回し、義信は声を張り上げた。
「三河を手中に収めたとはいえ、戦による荒廃が酷い。……元より豊かな土地なのだ。三河の復興は、我らの腕にかかっておる。皆、心してかかるように」
「「「ははっ!」」」
三河の統治にあたって、義信は戸籍の管理や土地の整理から手をつけ始めた。
これにより、徴兵可能な数が明らかになり、年貢の徴収が円滑に行えるようになる。
また、武田の統治に切り替わるのを機に、今川、徳川時代の土地問題を解決することで、三河の支配者が武田家に変わったのだと知らしめることができる。
武田家に届いた訴状を手に、長坂昌国がううむと唸った。
「河川の利権に、村落の帰属……。国衆の土地争いか……」
「これは一筋縄ではいかないぞ……」
同じく訴状を読んでいた曽根虎盛が疲れた様子でため息をついた。
「この忙しい時に、いったい若はどちらへ行かれたのだ……」
不平不満を並べる家臣たちに、筆頭家老の飯富虎昌が立ち上がった。
「いま若は他にやるべきことがある。それゆえ、お主らを信じてこの場を任せたのだ。お主らは若の期待を背負っていること、ゆめゆめ忘れるでないぞ」
飯富虎昌が檄を飛ばしたこともあり、義信家臣団の動きが目に見えて早くなっていく。
そんな中、ふと曽根虎盛の手が止まった。
「して、若はいまどちらに……?」
岡崎城にやってきた客人を前に、義信が口を開いた。
「よう参られた、菅沼殿」
井伊谷三人衆の一人、菅沼忠久が頭を下げる。
「此度の戦に勝利されたこと、まことにおめでとうございます。……つきましては、挨拶が遅れましたこと、誠に申し訳ございませぬ」
「構わぬ。お主も今は今川に臣従している身……背負うものも重ければ、何かと動きにくいだろう」
「はっ……」
菅沼忠久が顔を引きつらせながら頭を下げる。
現在、遠江では今川派と反今川派で事実上内乱状態に陥っている。
菅沼忠久ら西遠江の国衆が反今川派として徳川に与していたこと、義信が知らないわけではあるまい。
それを無視して今川に従属しているテイで話を進める義信に、菅沼忠久は徳川に与したことを責められているような気がした。
「……それがしは、今川の軛から抜け出したい一心で反旗を翻し遠江の今川勢力と戦っておりました。
徳川に与したのは、後ろ盾となってくれる者が徳川しか居らなかったため……。若君に後ろ盾になって頂けるのであれば、この菅沼忠久、身命を賭してお仕えいたしましょう!」
熱弁を振るう菅沼忠久を義信は冷めた目で見つめていた。
裏切ろうという者が身命を賭してとは、よく言えたものである。
菅沼忠久は信用できない。……が、遠江の調略にはこの男が必要だ。
義信が菅沼忠久に向き直る。
「よくぞ申した。遠江の調略、お主に任せてよいのだな?」
「はっ、西遠江の国衆である鈴木重時も近藤康用もよく知った間柄……。必ずや武田家に寝返らせてご覧入れましょう」
「……いいだろう。頼りにしているぞ」
「はっ」
義信に従属を認められ、菅沼忠久が深々と頭を下げる。
ひとまずは武田家に乗ることに成功し、菅沼忠久は安堵するのだった。
飯富虎昌や長坂昌国をはじめ、集まった義信家臣団を見回し、義信は声を張り上げた。
「三河を手中に収めたとはいえ、戦による荒廃が酷い。……元より豊かな土地なのだ。三河の復興は、我らの腕にかかっておる。皆、心してかかるように」
「「「ははっ!」」」
三河の統治にあたって、義信は戸籍の管理や土地の整理から手をつけ始めた。
これにより、徴兵可能な数が明らかになり、年貢の徴収が円滑に行えるようになる。
また、武田の統治に切り替わるのを機に、今川、徳川時代の土地問題を解決することで、三河の支配者が武田家に変わったのだと知らしめることができる。
武田家に届いた訴状を手に、長坂昌国がううむと唸った。
「河川の利権に、村落の帰属……。国衆の土地争いか……」
「これは一筋縄ではいかないぞ……」
同じく訴状を読んでいた曽根虎盛が疲れた様子でため息をついた。
「この忙しい時に、いったい若はどちらへ行かれたのだ……」
不平不満を並べる家臣たちに、筆頭家老の飯富虎昌が立ち上がった。
「いま若は他にやるべきことがある。それゆえ、お主らを信じてこの場を任せたのだ。お主らは若の期待を背負っていること、ゆめゆめ忘れるでないぞ」
飯富虎昌が檄を飛ばしたこともあり、義信家臣団の動きが目に見えて早くなっていく。
そんな中、ふと曽根虎盛の手が止まった。
「して、若はいまどちらに……?」
岡崎城にやってきた客人を前に、義信が口を開いた。
「よう参られた、菅沼殿」
井伊谷三人衆の一人、菅沼忠久が頭を下げる。
「此度の戦に勝利されたこと、まことにおめでとうございます。……つきましては、挨拶が遅れましたこと、誠に申し訳ございませぬ」
「構わぬ。お主も今は今川に臣従している身……背負うものも重ければ、何かと動きにくいだろう」
「はっ……」
菅沼忠久が顔を引きつらせながら頭を下げる。
現在、遠江では今川派と反今川派で事実上内乱状態に陥っている。
菅沼忠久ら西遠江の国衆が反今川派として徳川に与していたこと、義信が知らないわけではあるまい。
それを無視して今川に従属しているテイで話を進める義信に、菅沼忠久は徳川に与したことを責められているような気がした。
「……それがしは、今川の軛から抜け出したい一心で反旗を翻し遠江の今川勢力と戦っておりました。
徳川に与したのは、後ろ盾となってくれる者が徳川しか居らなかったため……。若君に後ろ盾になって頂けるのであれば、この菅沼忠久、身命を賭してお仕えいたしましょう!」
熱弁を振るう菅沼忠久を義信は冷めた目で見つめていた。
裏切ろうという者が身命を賭してとは、よく言えたものである。
菅沼忠久は信用できない。……が、遠江の調略にはこの男が必要だ。
義信が菅沼忠久に向き直る。
「よくぞ申した。遠江の調略、お主に任せてよいのだな?」
「はっ、西遠江の国衆である鈴木重時も近藤康用もよく知った間柄……。必ずや武田家に寝返らせてご覧入れましょう」
「……いいだろう。頼りにしているぞ」
「はっ」
義信に従属を認められ、菅沼忠久が深々と頭を下げる。
ひとまずは武田家に乗ることに成功し、菅沼忠久は安堵するのだった。
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