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三河武士の意地
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命からがら岡崎城に逃げ延びた家康が「ふぅ」と息をつく。
軍議を開いていた部屋に戻るも、家臣たちの顔ぶれが少なくなっている。
……おそらく、武田に討ち取られたか、あるいは逃げ出したか。
「……戻ってこられたのはどれくらいだ」
「はっ、城外へ討って出た兵2000のうち、戻ってきたのは1000ほどにございます」
「…………大敗、だな」
家康がガックリとうなだれる。
甘かった。
息子とはいえ、相手は武田。油断せず、もっと慎重になるべきだった。
おまけに、戻ってきた兵が錯乱状態にあり、城内に残っていた兵にまで混乱が伝播してしまった。
おかげで兵たちは怯えてしまい、脱走する者も出る始末だ。
……これでは戦いにならない。
「もはや、これまでか……」
「諦めなさるな!」
戦意喪失しかけた家康に、本多忠勝がドンと胸を叩いた。
「城を出て、織田様を頼られませ」
「……儂に生き恥を晒せと申すか」
「さにあらず! 生きておれば、また浮かぶ瀬もありましょう」
本多忠勝の言葉に、他の徳川家臣も同調する。
「殿の盾となれるのなら、この命、安いもの……!」
「三河武士の意地、武田の奴らに見せてくれましょうぞ!」
「お主ら……」
皆、最後の瞬間まで家康に忠義を捧げ、力を尽してくれる。
(儂はいい家臣を持った……)
惜しむらくは、自分の力が及ばず彼らに犠牲を強いてしまうことだ。
死を覚悟する家臣たちを前に、家康の目に涙が浮かんだ。
「すまぬ……すまぬ……」
「なんのこれしき……」
「短き夢でしたが、殿に仕えられて幸せでした……!」
「殿が再び立ち上がり武田を倒すのを、冥土で楽しみにしておりますぞ……!」
永禄9年(1566年)9月。
城内に残っていた徳川兵たちは再び討って出ると、武田軍に総攻撃を仕掛けた。
先の戦いと同じく武田軍は野戦陣地で迎え撃つも、徳川軍の攻撃は凄まじく、義信のいる本陣に迫る勢いであった。
戦が終わる頃には、倒された柵と武田徳川双方の旗が踏み荒らされ、戦いの激しさを物語っていた。
圧倒的に不利な戦いにも関わらず、徳川兵たちは己の意地を見せんと大暴れしたのだった。
戦が終わる頃には、敵味方の死体が入り交じった戦場だけが残されていた。
首実検をする傍ら、義信の脳裏には徳川兵の戦いぶりが鮮明に映し出されていた。
敵ながら、見事な最期であった。
「三河武士、噂に違わぬ益荒男ぶりよ……!」
忠義を尽して主に命を捧げた三河武士たちに、義信は惜しみない賞賛を送るのだった。
軍議を開いていた部屋に戻るも、家臣たちの顔ぶれが少なくなっている。
……おそらく、武田に討ち取られたか、あるいは逃げ出したか。
「……戻ってこられたのはどれくらいだ」
「はっ、城外へ討って出た兵2000のうち、戻ってきたのは1000ほどにございます」
「…………大敗、だな」
家康がガックリとうなだれる。
甘かった。
息子とはいえ、相手は武田。油断せず、もっと慎重になるべきだった。
おまけに、戻ってきた兵が錯乱状態にあり、城内に残っていた兵にまで混乱が伝播してしまった。
おかげで兵たちは怯えてしまい、脱走する者も出る始末だ。
……これでは戦いにならない。
「もはや、これまでか……」
「諦めなさるな!」
戦意喪失しかけた家康に、本多忠勝がドンと胸を叩いた。
「城を出て、織田様を頼られませ」
「……儂に生き恥を晒せと申すか」
「さにあらず! 生きておれば、また浮かぶ瀬もありましょう」
本多忠勝の言葉に、他の徳川家臣も同調する。
「殿の盾となれるのなら、この命、安いもの……!」
「三河武士の意地、武田の奴らに見せてくれましょうぞ!」
「お主ら……」
皆、最後の瞬間まで家康に忠義を捧げ、力を尽してくれる。
(儂はいい家臣を持った……)
惜しむらくは、自分の力が及ばず彼らに犠牲を強いてしまうことだ。
死を覚悟する家臣たちを前に、家康の目に涙が浮かんだ。
「すまぬ……すまぬ……」
「なんのこれしき……」
「短き夢でしたが、殿に仕えられて幸せでした……!」
「殿が再び立ち上がり武田を倒すのを、冥土で楽しみにしておりますぞ……!」
永禄9年(1566年)9月。
城内に残っていた徳川兵たちは再び討って出ると、武田軍に総攻撃を仕掛けた。
先の戦いと同じく武田軍は野戦陣地で迎え撃つも、徳川軍の攻撃は凄まじく、義信のいる本陣に迫る勢いであった。
戦が終わる頃には、倒された柵と武田徳川双方の旗が踏み荒らされ、戦いの激しさを物語っていた。
圧倒的に不利な戦いにも関わらず、徳川兵たちは己の意地を見せんと大暴れしたのだった。
戦が終わる頃には、敵味方の死体が入り交じった戦場だけが残されていた。
首実検をする傍ら、義信の脳裏には徳川兵の戦いぶりが鮮明に映し出されていた。
敵ながら、見事な最期であった。
「三河武士、噂に違わぬ益荒男ぶりよ……!」
忠義を尽して主に命を捧げた三河武士たちに、義信は惜しみない賞賛を送るのだった。
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