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突撃! 赤備え

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 南門からうって出た徳川軍が、怒りに任せて攻撃を開始した。

 城門の前に陣取っていた武田軍を蹴散らすと、次々と兵が溢れだした。

 城を飛び出し武田軍本陣まで迫る徳川軍であったが、すぐに勢いが衰えた。

「なんだこれは……」

 徳川軍の目の前に広がっていたのは、柵と堀だった。

 勢いを増していた先頭集団は堀に落ち、後続の軍も後ろに押される形で堀に落とされていく。

「槍隊、今ぞ! 攻めかかれぇ!」

 長坂昌国が采配を振る。
 やっとの思いで這い上がる徳川兵に、柵の隙間から槍が襲ってきた。

「ぐぁっ!」

「く、くそっ……」

 後続の徳川兵に潰され、這い上がろうにも槍衾で袋叩きにされる。

 目の前に広がる地獄を前に、徳川兵たちは苦悶の表情を浮かべるのだった。





「若のおっしゃったとおりだ……」

 別働隊として陣を離れていた飯富虎昌がぽつりとつぶやく。

 岡崎城を包囲している間、義信に命じられ、本陣の要塞化を進めていた。

 陣の中心に土塀を築き、その周囲に柵を巡らせ、武田の誇る穴掘り衆が堀を掘る。

 簡易的な拠点とはいえ、こうして造られた野戦陣地は要塞に等しい。

 いくら徳川兵の士気が高いとはいえ、あれではひとたまりもないだろう。

 なにより、まともにぶつからずに済むため、こちらの兵の消耗も抑えられるのも大きい。

 ここまで考えて陣を築きあげ徳川を誘い込んだ義信の策略に、飯富虎昌は賞賛を送らずにはいられなかった。

(さすがは若、見事な策です。あとはこのじいにおまかせあれ……!)

 飯富虎昌は配下の赤備えに指示を出すと、徳川の脇腹目掛けて突撃を始めるのだった。





 徳川軍が堀と柵に苦戦していると、森の中から赤い影が迫ってきた。

「あれは……」

「まさか……」

 柵と堀によって勢いを削がれた徳川兵の脇腹に、赤備えが襲いかかった。

「我に続け! 家康めの首を挙げてくれようぞ!」

 飯富虎昌率いる赤備えが徳川軍を切り裂き、徳川兵が真っ二つに分断された。

 後方の兵はかろうじて城に退却を始めるも、武田の陣地側に残された前方の徳川兵は退路を断たれてしまった。

 後方に赤備え。正面に野戦築城された武田の陣。

 逃げることも叶わず、戦おうにも相手が悪すぎる。

 戦意喪失した徳川兵が逃亡を始める中、赤備えが背後に襲いかかった。

 抵抗する間もなく、次々と斬り伏せられていく。

 徳川兵の屍が山のように積み上げられるのを見て、飯富虎昌が嘆息した。

(ここまで追い詰めれば、あとはいかようにもできるな……)

 飯富虎昌率いる赤備えと長坂昌国率いる槍兵に挟まれ、残された徳川軍は壊滅的な打撃を受けるのだった。
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