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下天の幻器(うつわ)編
第十四話「徒花不実(あだばなふじつ)」中編(改訂版)
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第十四話「徒花不実」中編
「じゃまっ!」
白馬を駆った白金の姫騎士が剣を振るい――
ギャリィーーン!
「うぉっ!?」
彼女の進行方向に立ちはだかった偉丈夫がそれを槍で受け止める!
「久鷹 雪白!その様な不純な剣では貴様の真価は……」
キンッ!
そして彼女の背後から斬りつけられる居合いの一閃!
「っ!」
ガキィィーーン!
直ぐさま振り返り、後方から放たれた見えぬほどの太刀筋を叩き落とすプラチナブロンドの乙女!
「ここは通さぬぞ、終の天使よ!いざ!いざ、いざっ!!この武春と尋常に勝負!!」
ブゥォォォーーン!
ほんの一瞬だけ動きが止まった少女を、彼女の白馬ごと押し返すほどの豪槍が一振りされる!
「……」
ダッ――ダッ!ダッ!
傾斜した地面に転々と砂煙を刻みつつ……
騎士姫の白馬は斜め後方へと二度ほど飛び退いて、再び距離を取らざるを得なかった。
「…………」
先に負った傷、右手の甲を滴る赤い一筋。
それを庇うこと無く白刃を振るい、再三にわたり敵陣突破を試みる騎士姫だったが……
――結局は元の木阿弥
久井瀬 雪白の銀河の双瞳は此所に来て今一度、戦場全体を見渡していた。
「さぁ!さぁ!一騎打ちの続きをっ!!」
「……」
――前門の”武神”
「久鷹 雪白。剣として、その無様な”不純”を良しとし続けるならば……斬る!」
「……」
――後門の”剣聖”
見事に板挟みになった臨海の終の天使は、表面上はその美しく整った表情を崩すこと無く、自らの置かれた戦場を確認する。
――
臨海の久井瀬 雪白VS旺帝の木場 武春VS謎の武芸者、林崎 左膳……
最初こそ混乱の三つ巴になるかと思われた三者の争いは、何の因果か完全に”久井瀬 雪白”包囲網を成していたのだ。
「…………」
――こんなところで……足踏みしてちゃダメ
プラチナブロンドの乙女は、心中で独り呟く。
――早く”広小路砦”を落として、本丸の”那古葉”を落として、
「……さいかに”一番”必要だって言ってもらうんだ!」
そしてその窮地にも真っ向から対峙する彼女の表情には、決意の光りが集約された輝く白金の双瞳があった。
ダダッ!!
決意を纏った白金の乙女を乗せ、白馬は雄雄しく戦場を跳躍するっ!!
――暗黒の姫様みたいに”さいか”の心を支配していなくたって!
愛馬を駆る雪白の脳裏に……
彼女の想い男性が最も気にしているだろう”天都原の暗黒姫”が底意地悪く微笑んで彼の隣に座っている姿が浮かんでいた。
ヒュオン!
「ぬぅっ!?」
と、同時に――
彼女によって振るわれた高速の白刃が、道を塞ぐ最強無敗の武人を襲い!その心胆を寒からしめる!
ズザザザーーッ!
間一髪!その一刀を躱した武春と交錯し、すれ違ったかと思う間もなく、馬首を返して反転――
往路と復路!
僅か馬の数歩分の距離にて瞬時に折り返された白馬の軌跡に!蕩ける光糸を束ねた三つ編みが遅れて反転し翻った!
――真琴みたいに”さいか”の過去に寄り添ってなくたって!
馬上で愛剣”白鷺”の白刃を構える雪白の脳裏にまた、彼女の想い男性が最も長い時間を共有しただろう、家族同然の少女が……
然もそこが自分の居場所だとばかりに笑って”想い人”の隣に立っていた。
ギャリリリィィーー!!
二騎の戦士が振るう刃が交錯し、僅かに遅れてやや受けに回った木場 武春が握る槍の穂先が削られ――
その刃渡りに激しく火花の道が弾けた!!
「ぐぅぅっ!!痺れるなぁぁっ!!終の天使ううっっ!!」
ギァリリリィィィィーーーー
――ガガッ!!
それを常識外の膂力で強引に引き剥がす、木場 武春!
「応よっ!!」
ブォォォォーーーーンッ!!
そして、雪白の攻撃を凌いだ木場 武春が放つ豪腕の一振りが大きく横一線!
周囲の空気を根こそぎ巻き込んで、乙女の華奢な胴を薙ぎ払った!!
ヒュバッ!
だがその彼女は、十倍返しとも言える轟雷一撃の一振りを!
なんとその懐に、自らの体を僅かに傾けてズラし、スルリと入り込むっ!!
ヒュヒュ――ヒュォォン!!
思いも描け無い!
いや、予想できるはずの無い、超高難易度な攻防からの!ゼロ距離連撃!
“武神”木場 武春、その自らの懐から放たれし”白刃の三連撃”は――
最早、”人の業”と表現するには嘘臭いほどの非現実的な動きだった。
「がっ!?くぉっ!!」
ズザザザザァァァァッ!!
そして”三連撃”には流石の”武神”も無様に仰け反って乗馬ごと大きく下がるしかない。
「はぁはぁ……今のは……流石に肝を冷やしたぞ、終の天使」
丸く見開いた余裕の無い顔に汗が伝う。
大きく肩を上下に、馬上で息を切る男……
だが確かな事は、あの必殺の三連撃を凌ぐ武勇を所持するこの男もまた、噂以上の化け物であるということだ。
「…………っ」
そして一見涼しい表情の美少女は、
彼女には珍しく……
桜色の唇を僅かに歪ませて、小さく舌打ちをしたかの様に見えた。
――久井瀬 雪白は苛立っているのか?
いや、焦っていると表現した方が正しい。
彼女が決意して挑んだ目的を未だ果たせていないことに……
「……………………だいじょうぶ」
――鈴原 最嘉の”現在”の心
――鈴原 最嘉の”過去の”心
プラチナブロンドの美少女は豪傑達と交戦える熱い戦場に身を置いて尚、独りの都合を心に呟く。
「京極 陽子にも、鈴原 真琴にも…………私は負けない」
――”現在”も”過去”も
「…………わたしは”剣”」
――そう、久井瀬 雪白が優れるのは剣術しか無い!
剣を振るうことしか無かった人生。
「でも……決してもう”人形の剣”じゃない!わたしは……私は……」
鈴原 最嘉と出会って、人生を変える事が出来た少女には成すべき事がある!
彼女が唯一所有すると自負する”剣”で!
”他人の思惑”で”彼女の全て”を犠牲にしてきて得たその”剣”で!
「……」
今度は……雪白の心で、唯一欲する大切な存在を手に入れるっ!!
――そうだよ、”未来”を手に入れるのっ!!
出会いから何時も、
そしてその想いは日を増すごとに……
「……」
抑えきれぬほど溢れ、加速し――
ヒュバッ!
「さいか……あのね……わたし、わたし欲しいものがあるんだよ」
抜刀した白刃を手に、独り呟いた少女は……
――
「噂以上だ、終の天使!まだまだ愉しもうじゃないかぁ!」
前門の”武神”……
旺帝が最強無敗の将、木場 武春。
「久鷹 雪白……我が元に戻れ。そしてお前は”至高の剣”として完成を見るのだ!」
後門の”剣聖”……
曾ての彼女の師だった、林崎 左膳。
――
――けれど
加速を始めた彼女の剣と心は、そんな障害では止まらない――
「…………だから……じゃま」
既に誰にも止めることが出来ないくらいに疾走り始めてしまった!
ヒュッ――
風を切る白刃の白金姫。
だが、それはある意味で……
「邪魔だからっ!!」
暴走と例えられる愚行かもしれなかったのだった。
第十四話「徒花不実」中編 END
「じゃまっ!」
白馬を駆った白金の姫騎士が剣を振るい――
ギャリィーーン!
「うぉっ!?」
彼女の進行方向に立ちはだかった偉丈夫がそれを槍で受け止める!
「久鷹 雪白!その様な不純な剣では貴様の真価は……」
キンッ!
そして彼女の背後から斬りつけられる居合いの一閃!
「っ!」
ガキィィーーン!
直ぐさま振り返り、後方から放たれた見えぬほどの太刀筋を叩き落とすプラチナブロンドの乙女!
「ここは通さぬぞ、終の天使よ!いざ!いざ、いざっ!!この武春と尋常に勝負!!」
ブゥォォォーーン!
ほんの一瞬だけ動きが止まった少女を、彼女の白馬ごと押し返すほどの豪槍が一振りされる!
「……」
ダッ――ダッ!ダッ!
傾斜した地面に転々と砂煙を刻みつつ……
騎士姫の白馬は斜め後方へと二度ほど飛び退いて、再び距離を取らざるを得なかった。
「…………」
先に負った傷、右手の甲を滴る赤い一筋。
それを庇うこと無く白刃を振るい、再三にわたり敵陣突破を試みる騎士姫だったが……
――結局は元の木阿弥
久井瀬 雪白の銀河の双瞳は此所に来て今一度、戦場全体を見渡していた。
「さぁ!さぁ!一騎打ちの続きをっ!!」
「……」
――前門の”武神”
「久鷹 雪白。剣として、その無様な”不純”を良しとし続けるならば……斬る!」
「……」
――後門の”剣聖”
見事に板挟みになった臨海の終の天使は、表面上はその美しく整った表情を崩すこと無く、自らの置かれた戦場を確認する。
――
臨海の久井瀬 雪白VS旺帝の木場 武春VS謎の武芸者、林崎 左膳……
最初こそ混乱の三つ巴になるかと思われた三者の争いは、何の因果か完全に”久井瀬 雪白”包囲網を成していたのだ。
「…………」
――こんなところで……足踏みしてちゃダメ
プラチナブロンドの乙女は、心中で独り呟く。
――早く”広小路砦”を落として、本丸の”那古葉”を落として、
「……さいかに”一番”必要だって言ってもらうんだ!」
そしてその窮地にも真っ向から対峙する彼女の表情には、決意の光りが集約された輝く白金の双瞳があった。
ダダッ!!
決意を纏った白金の乙女を乗せ、白馬は雄雄しく戦場を跳躍するっ!!
――暗黒の姫様みたいに”さいか”の心を支配していなくたって!
愛馬を駆る雪白の脳裏に……
彼女の想い男性が最も気にしているだろう”天都原の暗黒姫”が底意地悪く微笑んで彼の隣に座っている姿が浮かんでいた。
ヒュオン!
「ぬぅっ!?」
と、同時に――
彼女によって振るわれた高速の白刃が、道を塞ぐ最強無敗の武人を襲い!その心胆を寒からしめる!
ズザザザーーッ!
間一髪!その一刀を躱した武春と交錯し、すれ違ったかと思う間もなく、馬首を返して反転――
往路と復路!
僅か馬の数歩分の距離にて瞬時に折り返された白馬の軌跡に!蕩ける光糸を束ねた三つ編みが遅れて反転し翻った!
――真琴みたいに”さいか”の過去に寄り添ってなくたって!
馬上で愛剣”白鷺”の白刃を構える雪白の脳裏にまた、彼女の想い男性が最も長い時間を共有しただろう、家族同然の少女が……
然もそこが自分の居場所だとばかりに笑って”想い人”の隣に立っていた。
ギャリリリィィーー!!
二騎の戦士が振るう刃が交錯し、僅かに遅れてやや受けに回った木場 武春が握る槍の穂先が削られ――
その刃渡りに激しく火花の道が弾けた!!
「ぐぅぅっ!!痺れるなぁぁっ!!終の天使ううっっ!!」
ギァリリリィィィィーーーー
――ガガッ!!
それを常識外の膂力で強引に引き剥がす、木場 武春!
「応よっ!!」
ブォォォォーーーーンッ!!
そして、雪白の攻撃を凌いだ木場 武春が放つ豪腕の一振りが大きく横一線!
周囲の空気を根こそぎ巻き込んで、乙女の華奢な胴を薙ぎ払った!!
ヒュバッ!
だがその彼女は、十倍返しとも言える轟雷一撃の一振りを!
なんとその懐に、自らの体を僅かに傾けてズラし、スルリと入り込むっ!!
ヒュヒュ――ヒュォォン!!
思いも描け無い!
いや、予想できるはずの無い、超高難易度な攻防からの!ゼロ距離連撃!
“武神”木場 武春、その自らの懐から放たれし”白刃の三連撃”は――
最早、”人の業”と表現するには嘘臭いほどの非現実的な動きだった。
「がっ!?くぉっ!!」
ズザザザザァァァァッ!!
そして”三連撃”には流石の”武神”も無様に仰け反って乗馬ごと大きく下がるしかない。
「はぁはぁ……今のは……流石に肝を冷やしたぞ、終の天使」
丸く見開いた余裕の無い顔に汗が伝う。
大きく肩を上下に、馬上で息を切る男……
だが確かな事は、あの必殺の三連撃を凌ぐ武勇を所持するこの男もまた、噂以上の化け物であるということだ。
「…………っ」
そして一見涼しい表情の美少女は、
彼女には珍しく……
桜色の唇を僅かに歪ませて、小さく舌打ちをしたかの様に見えた。
――久井瀬 雪白は苛立っているのか?
いや、焦っていると表現した方が正しい。
彼女が決意して挑んだ目的を未だ果たせていないことに……
「……………………だいじょうぶ」
――鈴原 最嘉の”現在”の心
――鈴原 最嘉の”過去の”心
プラチナブロンドの美少女は豪傑達と交戦える熱い戦場に身を置いて尚、独りの都合を心に呟く。
「京極 陽子にも、鈴原 真琴にも…………私は負けない」
――”現在”も”過去”も
「…………わたしは”剣”」
――そう、久井瀬 雪白が優れるのは剣術しか無い!
剣を振るうことしか無かった人生。
「でも……決してもう”人形の剣”じゃない!わたしは……私は……」
鈴原 最嘉と出会って、人生を変える事が出来た少女には成すべき事がある!
彼女が唯一所有すると自負する”剣”で!
”他人の思惑”で”彼女の全て”を犠牲にしてきて得たその”剣”で!
「……」
今度は……雪白の心で、唯一欲する大切な存在を手に入れるっ!!
――そうだよ、”未来”を手に入れるのっ!!
出会いから何時も、
そしてその想いは日を増すごとに……
「……」
抑えきれぬほど溢れ、加速し――
ヒュバッ!
「さいか……あのね……わたし、わたし欲しいものがあるんだよ」
抜刀した白刃を手に、独り呟いた少女は……
――
「噂以上だ、終の天使!まだまだ愉しもうじゃないかぁ!」
前門の”武神”……
旺帝が最強無敗の将、木場 武春。
「久鷹 雪白……我が元に戻れ。そしてお前は”至高の剣”として完成を見るのだ!」
後門の”剣聖”……
曾ての彼女の師だった、林崎 左膳。
――
――けれど
加速を始めた彼女の剣と心は、そんな障害では止まらない――
「…………だから……じゃま」
既に誰にも止めることが出来ないくらいに疾走り始めてしまった!
ヒュッ――
風を切る白刃の白金姫。
だが、それはある意味で……
「邪魔だからっ!!」
暴走と例えられる愚行かもしれなかったのだった。
第十四話「徒花不実」中編 END
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