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独立編
第三十七話「最嘉と臨海国の面々」後編(改訂版)
しおりを挟む第三十七話「最嘉と臨海国の面々」後編
臨海版図のほぼ中央に位置する主城”九郎江城”。
その中央大広間への扉が開放され、俺と後ろに控える雪白が入室する。
――ざざっ!
扉から最奥部に鎮座する玉座に向け、伸びた一帯の赤絨毯。
その両脇に居並ぶ諸将が同時に深々と頭を下げてゆく。
「……」
――とりあえず……ここまでは来た
俺は姿勢を正し玉座に向け一歩、また一歩と歩みを始める。
――今日この日……この瞬間から新たに始めよう……
「……」
広間最奥部――
玉座にたどり着いた俺は百八十度反転し正面に向き直り、付き従っていた雪白はそのまま俺の左後ろに控える。
――スッ
ババッ!
居並ぶ諸将に俺が右手を挙げると、彼らはなお一層深く頭を上げた。
――ズイッ
そして居並ぶ諸将の左列、先頭から一人の少女が歩み出る。
「我が君、本日、我が臨海が栄えある一歩を踏み出す今日を迎えられたこと、誠に喜ばしくお祝い申し上げます!」
黒髪ショートカットの清楚な美少女は、きっちりと折り目の付いた礼をした後で俺の顔を見てニッコリと微笑んだ。
「そうだな真琴、お前が死守してくれたからこそ、この九郎江で今日を迎えることが出来た」
「不肖のこの身には勿体ないお言葉です、我が君」
少女は俺に微笑んで、再び頭を下げてから……
「……」
俺の左後ろの人物に一瞬だけ鋭い目線を送った後、元の位置に戻った。
――やれやれ、真琴には雪白のことはもう散々話したんだが……
俺は真琴に頷いた後、今度は右列の先頭に立つ男に目配せする。
「はっ!」
スッキリとした顔立ちで、後ろ髪を尻尾のようにチョンと縛った見た目から爽やかな好青年の宗三 壱は、姿勢を正すとよく通る声で言葉を発する。
「臨海軍総司令補佐、宗三 壱。並びに九郎江城城代、鈴原 真琴。御前に!」
青年の名乗りと同時に、本人と左列最前列の先ほどの黒髪ショートカット少女が一礼する。
そして宗三 壱はくるりと後方を向き、更に続けた。
「臨海軍将軍統括、比堅 廉高!」
「応っ!」
大柄で隻眼、顔中に傷のある一際風格のある白髪老人が無骨に頭を下げ――
「特殊工作部隊隊長及び対”七峰”方面責任者、神反 陽之亮!」
「どうも、最嘉様にはご機嫌麗しく……」
一見華奢な優男風、長身長髪の男が婦人にダンスを申し込むごとき優雅な仕草で大仰にお辞儀する。
「諜報部隊隊長及び対”南阿”方面責任者、花房 清奈!」
「あ、あの……ど、どうも……です……」
堂々たる面々の中で一転、おどおどした態度の可愛らしい女性が折れんばかりに頭を下げる。
「続いて……」
――
―
と、そんな感じでその後も次々と肩書きと名を呼ばれ、一礼していく臨海の重臣達。
「……最後に、那知城城主、草加 勘重郎!」
「ふむ、新参のみではありますが、方々どうぞお見知りおきを」
そして最後の人物が頭を下げて形式上の顔合わせが終わった。
「……」
俺は最後に挨拶を済ませた草加 勘重郎に頷いてから、再び右列の先頭に立つ男に視線を戻す。
「内外、特殊任務遂行中の者を除いてほぼ全員、我が主の御前に揃っております」
最後にそう締めくくると、宗三 壱は頭を下げた。
「ああ、ご苦労だった壱。それから皆も政務多忙の中よくこの九郎江に集ってくれた、感謝する」
――
そして俺は玉座前から、紹介された臨海の主立った人物達をもう一度見渡した。
――これが現在の全てだ
――臨海の鈴原 最嘉が現在持つ戦力の全て……
俺は自然と引き締まる身を感じながら言葉を発する。
「今日皆を集めたのは他でもない。既に文書で連絡はしてあると思うが、此度の一連の戦で新たに我が陣営に加わったこの久鷹 雪白改め、”久井瀬 雪白”の紹介と……さらには今後の我が臨海の方針を知ってもらうためだ!」
「……」
皆の視線が俺の左後ろに控えて立つ白金の美少女に注がれる。
少女は南阿の”純白の連なる刃”。
”閃光将軍”と称えられる謎多き烈将だ。
それが我が臨海の一員になる……皆の注目も無理も無いことだろう。
「……うん」
俺が促す視線に頷いた雪白が半歩前に出る。
「…………え……と……け」
雪白の白い肌は少し朱みを帯び、整った口元はいつになくぎこちない。
――ほぅ、あの雪白でも緊張なんてするのか?
俺は少しだけ雪白の意外な殊勝さに感心を……
「け、家来の皆さん、主人がいつもお世話になっております……えっと、それから……」
ざわっ!
「っ!」
――感心した俺が馬鹿だった……
雪白の可愛らしい桜色の口は、辿々しくもとんでもない事を口走る。
ざわざわっ……
俄にざわつく九郎江城中央大広間。
そりゃそうだ、のっけにこんな挨拶された日には、ざわつきもするだろう。
とは言え、こんな暴言を放置するわけにも行かない。
それは俺の沽券に関わるからだ。
「って、何言ってんのお前!?」
「??」
「いや、だから不思議そうな顔すんな!おかしいだろこの場でその挨拶はっ!」
俺は当然ツッコミを入れる。
「…………あ!……えっと、平素は格別のお引き立てにあずかり、厚くお礼……」
「そのネタはもういいっ!!」
「…………っ……ぅぅ」
そして、なんだか恨めしそうな顔で上目遣いに俺を見上げてくる雪白……
――俺か?俺が悪いのかよ……
「……ぅぅ」
潤む美しい白金の星々……それは幾万の星の大河の双瞳……
――く、くそ、”至宝の白金瞳”を無駄使いしやがって!
ざわざわ……
「さ、最嘉さまっ!!雪白殿は少し緊張で言葉が出てこないようですので……」
――おお!ナイスだ真琴!ナイスフォロー!
事態を収めようと、側近の鈴原 真琴が絶妙な助け船を出してくれた。
「そうだな、ここから先は俺が説明を……」
「はい、お願いします、最嘉さ……」
「あっ……まだ私の挨拶が終わってな……」
しかし流石は天然物。
純白いお嬢様は空気を読まない、未だ自分のターンだと主張する!
「チッ!黙れっ!馬鹿女!……それから私の最嘉様になに唾つけてんのよっ!」
「お、おい!真琴?」
ざわざわ……
再び、また違った意味でざわつく場。
――同じ土俵に上がってどうする、真琴よ……それに地が出てるぞ
「……え?……あ!?……あはは、はは……」
黒髪ショートカットの美少女は誤魔化すように笑ってみるが、全く意味なし!
覆水盆に返らず、後悔先に立たず、吐いた唾は飲み込めない、アフターカーニバルだ!
「……」
結果、赤くなり小さくなって俯く俺の自慢の腹心、鈴原 真琴。
――滅茶苦茶だ……臨海の……俺の新たなる野望の門出が……
「……」
「も、申し訳ありません……最嘉さま」
「さいか……自己紹介がまだ……」
二人の美少女は縋る視線を俺に向けてくる。
「……」
「まぁまぁ、我が主もお嬢様方も……これもまた我が臨海らしいと言えばらしいではないですか」
そう声を上げて割り込んだのは、和やかな表情の神反 陽之亮だった。
「……しかし我が主よ、形式張った自己紹介より、俺的には久井瀬殿の白雪のごとき美しさの方が気にかかりますが?天都原の京極 陽子嬢といい、流石わが主はお目が高い」
「ち、ちょっと、陽之亮くん!そ、それは少し、お、王様に対して、ふ、不遜な発言では……」
あわあわとしながら花房 清奈がそれを窘めようとする。
「不遜?どこが?俺は我が主の女性を見る目の確かさを称えているのだ。流石だと……っ!!」
と、そこまで言いかけた陽之亮だったが、突如、青い顔で言葉を飲んだ。
「いや……はは」
そして取り繕うように苦笑いする。
「……」
彼を見据える鋭い視線……
言葉こそ無いが、その大きめの瞳が言っていた。
――”これ以上、下らないことを並べるなら……型にはめるわよ!”と……
「うう……俺としたことが……ま、真琴ちゃん、べつに悪気があったわけじゃ」
ザッ!
「小童共、いつまでじゃれ合っておるかっ!若の御前であるぞっ!」
堪りかねたように、大柄で隻眼の顔中に傷のある一際風格のある白髪老人が中央に進み出る。
――!!
そしてその威厳ある威圧感にその場は静まりかえった。
臨海軍将軍統括、つまり全ての指揮官、将軍達の纏め役、ご意見番……
俺の父の代から仕える宿将、比堅 廉高だ。
「廉高……」
俺の方を見て宿将はペコリと会釈してから、鋭い眼光で浮き足だった面々に向き直る。
――流石だ廉高……この曲者達(俺も含む)を一喝で……
正直、君主たる俺なんかよりもよっぽど堂々としている!
流石は俺の尊敬する”臨海の王虎”!カッコいいぜ!
「久鷹……いや久井瀬殿の噂は聞き及んでおる!”純白の連なる刃”と称えられし烈将と轡を並べられる事、心強い!」
宿将はぐるりと周囲の面々を見渡した後で、がははっと豪快に笑った。
「……」
流石、歴戦の強者……誰にも有無を言わせぬ威厳……
「うむ、器量も申し分ない!、若、これは良い嫁を娶りましたな!」
――っ!
しかし、その言葉に再び場の空気が凍り付いた!
「ちっ!」
威厳ある老将を見据える鋭い視線……
言葉こそ無いが、その大きめの瞳がまたも言っていた。
――”これ以上、下らないことを並べるなら……型にはめますよっ!”……と
「う!……むむ……あれだ……その……うっ!ゴホゴホッ!最近年のせいかどうも体調がのう……」
途端に、ほざきながら大きな図体をすぼめて俺に縋る視線を送るしょぼくれ老人。
「……」
――流石だ廉高……場の空気を察して外聞もなく老人のアドバンテージを使う……
正直、先ず言い訳することを考える俺なんかよりもよっぽど見苦しい!
流石は俺のいまいち尊敬するか疑問符のつく”臨海の王虎”!カッコわるいぜ!
老将軍は自分の胸までもない小柄な、孫ほど年の違う真琴に一睨みされて、すごすごと引き下がる。
――ってか、こんなんばっかか?わが臨海軍!大丈夫か!?
「あ、あの……その……えっと王様……久井瀬さんの名字変更っていうのはもしかして……」
そんな中、とても戦争などと縁がなさそうな可愛らしい女性、花房 清奈がおどおどとした態度で俺に問いかけてきた。
――うぉっ!意外な伏兵……やはり痴情の縺れをなんとか出来るのは女性か?
というか、”痴情の縺れ”もなにも、俺にはとんと覚えが無いのだが……
とにかく話が本道に戻るのはありがたい!
「そう!その辺だよっ!それを話したかったんだっ!清奈さんエライっ!」
やっと本題に入れた俺は”ビシリッ”と女性を指さすが、当の彼女はビクリと小動物のように縮こまって、消え入るような声で応えるのだった。
「…………あ、ありがとう……ございます……王様」
第三十七話「最嘉と臨海国の面々」後編 END
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