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王覇の道編
第五十三話「十字傷の魔人」前編(改訂版)
しおりを挟む第五十三話「十字傷の魔人」前編
おおおおおぉぉぉぉっ!!!!
おおおおおぉぉぉぉっ!!!!
自軍優勢に勢いを増す旺帝軍は両軍の激突した正面を面で押し切り、天都原軍を圧倒していた。
「崩れたぞっ!突入せよっ!」
ドドドドォォーー!!
しかし、勢いよく突入した旺帝軍は直ぐに行き止まる!
――シュオォーーン!
――シュオォーーン!
崩れる天都原軍をかき分け、分断しようとした先に待ち受ける二体の異形の姿。
ブウオォーーン!
バキィィッ!
「ぎゃっ!」
「がはっ!」
二メートルはあろう人型の影、見上げる高さのズングリムックリとした白銀の体躯。
人なら関節に当たる部分の隙間などからピコピコと何色もの光を明滅させ、おかしな音を漏れさせて、突入した旺帝軍を阻むように立ち塞がる異形の壁。
異形が蛇腹状の腕は大蛇のように畝って回転し、それに弾かれた旺帝騎馬達は信じられないほど彼方へ飛んでゆく!
「”鋼鉄”の……兵士……」
その異形の頭部に赤く光る二つの円形のモノは人の双眼に似た役割を果たして不気味に光っていた。
「こ、これはまさか……機械化兵!?」
「うっ……」
「バケ……モノ……」
二体の鋼の怪物による惨状を目の当たりにした旺帝兵士達は躊躇し、一時的に侵攻を止め……
ワァァァァッーー!!
ワァァァァッーー!!
「なっ!?」
そこに後背、左右から蹴散らしたはずの天都原軍が押し寄せる!
「ぎゃっ!」
「ぐはぁぁっ!」
敵中突破、分断どころか、其処で足を止めた旺帝軍は蟒蛇に呑み込まれた野鼠の如し!
碌な抵抗も出来ずに殲滅されていった。
――
―
「此所はこんなものか」
俺は誘い込まれ、今まさに壊滅の憂き目にある旺帝軍を眺めながら馬上にて呟く。
開戦当初、同種の横長方形陣で激突した両軍。
お互いの前面で激しく押し合い、馬鹿正直な力比べを展開したわけだが……
愚直な戦法による対決は、兵力と士気に勝る旺帝軍の圧倒的な攻勢により天都原軍の陣形は総崩れになった。
煉瓦に亀裂が入るように激突した面が縦に幾つもこじ開けられ、旺帝軍の侵入を許すこととなったが……
――実は”これ”は”鈴木 燦太郎”の想定内
遙々と尾宇美から逃れてきた俺達、京極 陽子の天都原軍先遣隊にそれほどの余力も士気の高さも望めないと踏んだ俺は、戦線を維持することに固執すること無く、無理そうなら退却しても良いと各現場指揮官に通達していた。
そして案の定、旺帝軍が優勢、我が陣に楔を打ち込もうと勢いに乗って深々と侵入して来た。
――飛んで火に入る……なんとやら
俺は予め、最終防衛ラインとも言える場所に罠を用意する。
”今回は”……敵の足止め用として穂邑 鋼の取って置き、機械化兵。BTーRTー06とやらを用意していた。
そして我が陣の只中に停止った敵軍を新たに投入した精鋭部隊で取り囲み駆逐する!
で、この局面での”精鋭部隊”の存在とは……
今回用意した先遣隊二千の内訳は、
尾宇美城での残兵千四百。
そして、尾宇美城東門に駆けつけた我が臨海軍六百だ。
臨海の王虎、比堅 廉高が援軍として率いて来た臨海兵一千の内、無傷の六百を調達して配置していたのだ。
陣形は一見すると旺帝軍と同じ横長の方陣……
而してその実態は、各々が百の兵を方陣に束ねた小隊だ。
それを五列、四段に並べた総兵力二千の”複合陣”だった。
疲労で士気が低く、”鈴原 最嘉”にとっては尚且つ借り物の兵という扱いにくさ、
それを補う為の編成として臨海の兵を導入した混成軍を編成した。
つまり、前面の天都原軍は見かけだけ、蹴散らされるというよりも自ら退いて相手を陣内に誘い込み、後背の三段目と四段目に三隊づつ中央から交互に並べていた隊、消耗が薄く日頃から俺の練兵を受けてきた臨海精鋭部隊をタイミングを計って投入するという、自陣内誘導の包囲殲滅作戦だった。
「我が軍を自軍と同様に”只一つの塊”と思い込んだ敵を、その”隙”にまんまと誘い込み、身動きできない密集状態で効率よく取り囲む……鈴木 燦太郎様考案の”迷宮封殺陣”と言いましたか?恐ろしい陣形ですね」
俺の横で天都原の士官が感心しきりに称えていた。
「……」
――恐ろしい陣形、”迷宮封殺陣”ね……だが”これ”は擬きだけどなぁ……
俺はその士官の言葉に皮肉っぽい笑みを返す。
ヒュルルルーー
「おっ!?」
とその時、戦場である香賀城前平原から少し離れた丘から甲高い音を響かせて鏑矢が上がる。
――合図、角度は西南か
「まぁな……けど、これは全体を把握したうえで、その都度的確な指示を出せる人物が居なければ機能しない。優れた総指揮官あっての陣形だからな」
俺の皮肉っぽい笑み、”迷宮封殺陣”の本来の姿は今回は扨置き……
俺は傍らの士官、ここに陣取る小隊の指揮官にそう答え、彼同様に天都原軍所属であって本作戦の総指揮を執る”王族特別親衛隊”が八枚目の少女を評価する。
「な、なるほど……あっ?」
ダッ!
そして、天都原の士官がそう応えた時、、既に俺は納得顔の小隊長を置いて次の戦場へと移動の為に馬を駆っていた。
――
―
戦場から少し離れた丘の上……
数人の護衛兵に護られ、馬上にて眼下で展開される自軍と旺帝軍の戦いを注視する少女の姿があった。
「……」
くせっ毛のショートカットに、そばかす顔の快活そうな少女の瞳には澄んだ叡智が見て取れる。
――それは彼女が”策士”たる証の煌めき
「中央やや左に新たに突入した旺帝軍、そして右側面……中央付近は、鈴は……いえ、鈴木様に対応頂くよう指示を出したけど、側面は十三子さんの方が近い……」
彼女の待機する小高い丘からなら戦場が一望でき、自軍が採る陣形、碁盤の目のように格子状に並んだ小隊が成す複合陣と、その路地に誘い込まれた迷い人の如き敵軍の数隊が手に取るように確認出来る。
少女は独りブツブツと呟き、少し思案したかと思うと……サッと右手を挙げる。
「移動中の十三子さんの隊からなら、”四の五”から一旦外を迂回して”五の三”から後背を突ける、その後に”五の三”の機械化兵を二体、中央に移動させる……これです!直ぐに指示をお願いします!」
「は、はい、了解しました!」
少女に付き従う兵士の内、直ちに弓兵が鏑矢を番えて立て続けに二本、天高くに撃ち上げたのだった。
ヒュルルルーー
ピュロローー
種類の違う二本の鏑矢が微妙に異なる角度で飛ぶ。
矢の種類と角度、それが八月から前線への指示内容を現しているのだろう。
「これで……多分、詰み。敵兵力の殆どは絡め取れたみたいですね」
ふぅ、と軽く息を吐いて額の汗を拭った少女の顔は極度の緊張から解放された安堵と、軽い疲労に染まってはいたが……
可愛らしい口元には僅かに微笑みがあった。
「八月隊長?」
それを見た部下の不思議そうな顔を余所に少女はボソリと呟く。
「鈴木……鈴原 最嘉と言う男性は……こんな重要な局面を私に託してくれる。こんな予想だにしない策を次々と用意し、そしてその実践を私なんかに…………託してくれる」
”王族特別親衛隊”が八枚目の少女が見せる瞳は、”策士”という同種の偉大なる相手に対する尊敬と言うより……
「…………」
本人も未だ自覚は無いであろうが、既に恋い焦がれる少女の”瞳”であった。
そして八十神 八月の呟いた通り、眼下での戦いはこの時既に大局を決しつつあったのだった。
第五十三話「十字傷の魔人」前編 END
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