上 下
73 / 308
王覇の道編

第十一話「混迷する?六大国家会議」前編(改訂版)

しおりを挟む





 第十一話「混迷する?六大国家会議」前編

 ブワッ!

 赤いドレスを閃かせ、紅蓮の戦姫が天翔あまかけるっ!

 素手格闘……”戦国世界”組み打ち術の最高峰と云われる紅蓮の焔姫ほのおひめ

 真面まともに殴り合って勝てる相手じゃない……

 ――が!

 咄嗟にそれを受ける俺は、両手を身体からだの前面に構えて敵の脅威に備えた!

 両肘に余裕を持たせ、両拳は握らずに開手に……

 そうだ、元来剣士の俺でも戦国の戦士なら皆、素手格闘も一通り身につけているのは常識だ。

 だが、今回は相手が悪すぎる!

 ”一通り”程度では瞬殺……真面まともな戦闘で勝てる確率は皆無だ。

 「……」

 ――故に俺は殴り合わない!

 俺は十歳そこそこだった時に、傭兵あがりの鈴原の一族、実践重視の鈴原一族の中でも既に最強だったと自負している。

 実際そうして俺は臨海りんかいの次期当主として家督を継ぎ、現在いまに至っているのだ。

 そして俺をそう至らしめたのが……

 ――我が剣の奥義!

 俺の剣術は普段から敵の攻撃を利用した返し技、所謂いわゆるカウンター攻撃を得手としているが、それはその神髄ともいえるものだ。

 相手の攻撃を利用する返し技は、敵の攻撃を正確に見極めた後に動き、そして敵の一撃より速く対応する為の迎撃準備に入らないといけない。

 後に動きつつ、先手を取る……所謂いわゆる”後の先”と云われる戦法だ。

 だが、これは頭で理解するほど簡単ではない。

 言うまでも無いが、初動で相手の攻撃を観察、分析、対策の構築まで、一瞬で辿り着かねばならないのだ。

 そしてその後は、既に攻撃動作に入った敵より先んじて一手を投じる。

 只でさえ神業の部類ではあるが、相手が自分と同等以上かしくは達人、或いは化け物レベルであった場合は……

 後に動いて先手など神業のそのまだ先だ。

 そして俺の独自オリジナル奥義は、”鈴原すずはら 最嘉さいか”の奥義はそれさえもの遙か先を行く!!

 ――相手の後に動いて、先を取るのではない

 ――相手の後に動いて、未来さきを完了させる!

 相手の剣筋の前に”其処そこ”に至り、これを待ち受けて自在に望む結果を創り上げる!!

 最早、剣技を逸脱したと謂われる、因果律への冒涜は……我が最強の矛!

 それが俺の編み出した”究極の返し業オリジナル・カウンター

 ――”虚空完撃”だ!!


 グォォォォーー!!

 唸りを上げる紅蓮女の拳が俺に迫る!

 ゾクリッ!

 同時に背筋に怖気が走り、心臓が縮み上がるのがわかる。

 ――普通じゃない……例えるなら、化け物さえも喰らう紅蓮の戦姫が鉄槌だ!

 とても女の……いや、人類の放つ拳で無いと喰らうまでも無く確信していた。

 ――驚異の一撃!

 ――だが初手ならばいなせる……はずだ

 竹林から跳びかかる猛虎のように、跳躍した紅蓮あかい戦姫が高所から振り下ろす牙!

 素手の攻防では、俺の勝機は初手これにしか無いっ!

 速度や威力や化け物でも、初見に放つ拳には殺意が希薄だ。

 俺の戦闘力じつりょくに興味があるなら尚更……

 故に、初撃にて俺はこの戦闘の命運を賭ける!

 ガッ!

 「っ!!」

 俺は絶妙の機で、その拳の軌道に己の肩ごと右腕を入れ、女の体を流し……

 「くっ!?」

 交錯した瞬間に――

 「……」

 相手の白い肘を、内側から絡め取って……

 ――力とはなんだ?

 強力無比、怪力無双……それは確かに恐ろしいほどの武器アドバンテージだ。

 しかし、残念ながら”それら”は”脅威的”であっても”絶対的”では無い!

 力とは一定の方向へ向けられたエネルギー……

 つまりは一方向へと流れる水だろう。

 水は流れる……

 その勢いが強いほどに、それは定められた方向へと我先にへと流れ去る。

 そしてそれは……

 ちょっとした”コツ”で進路を変える。

 ――そうだ、即ちそれは……

 「っ!?り、りんかい王……あな……」

 俺の顔の直ぐ至近で!
 そこで見開かれる美しい深紅の紅玉石ルビー

 ――滝に変貌する!!

 グイッ!

 内側から絡め取った相手の牙を支点にそれを下方へ一気に引き落とす!

 紅蓮い女のしなやかな身体からだは跳びかかった勢いのまま、横のベクトルを下へと転換して崩れ落ちる。

 ――よし!これで”焔姫おんな”は自重の衝撃と共に地面にへばり付くはず!

 そして、そのまま組み倒した俺は、絡めた彼女の右腕を捻り上げて降伏を促す……

 全ては計算通り……

 素手格闘、本来の実力差を埋める、俺の描いた”初手の奇襲ビギナーズ・ラック”だ!

 ズキリッ!

 ――っ!?

 しかし現実は、常に思い通りに行く訳ではなかった。

 「くっ!……うっ」

 俺の右足の膝辺りが……

 相手の肘を押さえ、地面に叩き付ける寸前で、俺の古傷が悲鳴をあげたのだ!

 「ぐっ!ぐおぉぉっ!!」

 ――耐える!なんとしてもこらえる!……もうちょっとなんだ……なんと……か

 メリッ!

 「っ!?」

 ――だ、駄目だ……もち……こたえられない……

 ドシャァァァアーー!!

 舞い上がるチリとホコリ。

 盛大なファンファーレのような轟音と共に、俺はその場に仰向けにひっくり返るように女に引き倒されていた。

 「……ぐ……うぅ」

 軽く頭も打った俺は、眼をしかめながら天井と……俺の上に跨がる人物を見る。

 「…………」

 目の覚めるような深紅の長い髪、二十歳前後の美貌の女。

 間近で見ると、少し癖のある燃えるような深紅の髪に、一度ひとたび目見まみえただけで確実に脳裏に刻み込まれる程の見事な紅蓮の双瞳ひとみが良くわかる……

 魅つめる者、ことごとくを焼き尽くしそうなほどあかあか紅蓮あかく燃える紅玉石ルビー双瞳ひとみ

 ――ペリカ・ルシアノ=ニトゥ……

 それは当然、”紅蓮ぐれん焔姫ほのおひめ”と呼称される長州門ながすどが覇王姫だった。

 「……」

 美しい容姿……妖艶であり、天衣無縫で、自由奔放な美女……

 「……?」

 ひとしきり見蕩みとれた後、俺が注目したのは彼女の拳だった。

 今は俺の上で、押さえ込むように俺の肩に置かれた左手と軽く握った右拳。

 その拳の周りの空気が僅かに揺らめいて、空間が歪んでいた。

 ――陽炎?……拳が燃えて、拳の熱気で、周囲の光が屈折しているとでもいうのか?

 そういえば、先ほど彼女に絡めた俺の右肘……
 少し拳に触れた箇所がヒリヒリとした痛みを帯び、心なしか空気も焦げ臭い感じが……

 「鈴原……最嘉さいか……」

 ポツリと紅蓮の美姫の石榴の唇から俺の名が零れた。

 「あなた……」

 「なるほど、序列三位、紅玉ルビー……至高の黄金と苛烈なる紅蓮が重なる時、地上は焦土と化し……それが紅玉石ルビーの魔眼の能力か?」

 俺は京極きょうごく 陽子はるこから聞いた”十戒指輪クロウグ・ラバウグ”の指輪による序列と、那伽ながの破戒坊、根来寺ねごでら 数酒坊かずさのぼうがしきりにせっついてきた話題、”あかつき”の古代史文献に登場する”邪眼魔獣バシルガウ襲来”の章のとある一節を口走っていた。

 「……あ、あなた……それをどこで?」

 ”紅玉石ルビー”の双瞳ひとみは敗者たる俺を見下ろしたまま、怪訝な光りを灯す。

 「殺るなら早く殺ってくれ、この状態はさすがに恥ずかしい」

 俺はというと、自分から試しておいて、その話題は一方的に仕舞い、ただそう告げて目を閉じる。

 ――全くその通りだよ

 何かを企てて、成功を確信して失敗……カッコ悪い。

 今の一瞬の攻防で、他の誰もが、俺が”究極の返し業オリジナル・カウンター”を画策したことに気づいていないだろうが……

 俺が知っているのだから恥ずかしいのには変わりない。

 傍目には一方的に俺が押し倒され、これから仕留められる風にしか見えないだろうし。

 「……」

 ――うぅ、痛いだろうな……ちっ

 仮初めの死といっても、怖くないというと嘘になる。

 なんといっても、俺は死ぬのが初めてだからだ。

 「…………」

 ――長いな……愉しんでいるのか?

 いや、この紅蓮あかい女は戦闘狂であっても殺人狂ではないはずだ……
 敗者をなぶることなど、することは無いと思うが……多分?

 ――スッ……

 俺の視界……と言っても目を閉じているから自分のまぶたの裏しか見えてないが……

 それが不意にすうぅっと陰った。

 ――なんだ?

 トドメを刺す”拳”の影にしては大きすぎると、恐る恐る薄目を開けた俺の視界には……

 ――おぉっ!?

 あかあか紅蓮あかく燃える、紅玉石ルビー双瞳ひとみ……

 仰向けになった俺の視界に飛び込んできたのは、比較的高めの会議場の天井では無くて、一度ひとたび目見まみえただけで確実に脳裏に刻み込まれる程の見事な紅蓮の双瞳ひとみだった。

 「ペリカ・ルシアノ=ニトゥ……なんのつもりだ」

 間近で見るとよく解る木目きめの細かい肌とスッと通った鼻筋……
 少し癖のある燃えるような深紅の髪が映える妖艶なる美女。

 そんな女の顔が直ぐ近く、俺の顔の上、約二十センチほどに迫っていたのだ。

 第十一話「混迷する?六大国家会議」前編 END 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

年下幼馴染みは加減しない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:24

0から始まった異世界転生 〜0から成り上がる〜

A
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:142pt お気に入り:2

真・シンデレラ

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:319pt お気に入り:1

結婚式の前夜、花嫁に逃げられた公爵様の仮妻も楽じゃない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:129,980pt お気に入り:2,745

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,280pt お気に入り:1,782

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:12,950pt お気に入り:3,313

転生したらついてましたァァァァァ!!!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:462pt お気に入り:87

【完結】あなたは知らなくていいのです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:33,306pt お気に入り:3,829

チートな親から生まれたのは「規格外」でした

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,627pt お気に入り:529

処理中です...