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俺の持論だ 前編
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第38話「俺の持論だ」前編
――学園からおよそ四千メートルの距離に建つランドマークタワーの屋上
「な、なんなのよぉ!あの子ぉ……」
呟いた女の顔は強ばり、左手に握った弓がガクガクと揺れている。
――椎葉 凛子は
「ど、どういう……神経してるのぉ?」
明らかに動揺が隠せないでいた。
六神道でも随一の”天孫”を所持する椎葉 凛子の弱点……
一見、物怖じしない性格に見える彼女ではあるが、実際はこうして理解できない事態への対応力が極端に低かった。
――
「あ、剛ちゃん!」
窮地に陥る永伏を確認して凛子は慌てて弓を放つ。
続いて今度こそ必中の決意で一撃を放つが――
それは大きく的を逸れ命中することはなかった。
「!?もうっ!なんでよぉ!」
――なら何故、椎葉 凛子は理解できない事態への対応力が極端に低いのか?
才能が生まれついてズバ抜けた天才ともいえるだろう彼女は、その才能ゆえに失敗どころか苦戦さえしたことがない。
椎葉 凛子は二十二歳になる今の今まで、ついに”確たる実戦経験値”を得ることが適わなかったのだ。
”確たる実戦経験値”とはいわゆる実戦の中でのみ存在する。
生死の境が石ころのように当たり前な過酷な世界でこそ拾い上げられるものなのだ。
とはいえ、平和ボケした国では殆どの者がそうであろうが……
実戦経験から来る戦士に絶対必要な”順応力”と”応用力”
椎葉 凛子にはそれが圧倒的に足りていなかったのだ。
「わかったわよぉ!もぅっ!だったらお望み通り……殺してあげるっ!」
”学園”から遠く離れた地で、凛子は追い詰められて初めて真剣に必死に弓を構えた。
「……」
――黄金に輝く瞳と光の鏃……
彼女の天孫は、漸く折山 朔太郎の頭を真っ直ぐに捉えたのだった!
――
「そもそもなぁ、狙撃というのは”一撃必殺”なんだよ」
驚愕する者達を前に折山 朔太郎は言う。
威嚇射撃や生け捕りの為に急所を外した攻撃など、必要不可欠な場合を除いて”必殺”を行わない相手は俺の経験上、二通りだ。
――圧倒的優位な自分を誇示する馬鹿者か、
――相手を殺すことを躊躇する臆病者
一射目と二射目でそれに気づいたから、俺が取った奇抜な挑発と虚を突いた行動は全て俺の持論……
"交渉ごとは機先を制するに限る!”
何事もイニシアティブをとった方が後々までの選択肢を多く保持することが出来るという経験則に従ったまでだ。
”交渉ごと”も”戦闘”も、駆け引きという意味では同等のものだからな。
バシュッ!!
「さっ!朔太郎っ!」
黒髪美少女の叫びが響き!直後、俺は頭に一筋に伸びた光の一撃を食らって真後ろに倒れる。
「や、やったか?ははっ!やっと殺りやがった!凛子の野郎ッ!!」
仕留めたとばかりにガラの悪い男が拳を掲げる。
「さく……朔太郎!」
仰向けに倒れたままの俺に走り寄ろうとする黒髪美少女、波紫野 嬰美。
「っ!」
だがそれは、隣に居た彼女の弟、波紫野 剣によって阻まれていた。
「剣!どういうつもりよっ!これはもう六神道の闘いなんかじゃないわっ!あなたも茶番だと言って……」
波紫野 剣は取り乱す姉の肩に手を置いてから落ち着いた口調で言った。
「死んでない……今度こそ信じられないけど、朔ちゃんは……死んでない」
「え……」
そして嬰美も弟の視線の先……
"倒れていた”俺の方を見る。
――
「やっとなんとか……なりそうだな、これで」
そう言いながらゆっくりと立ち上がって制服の汚れをパンパンとはたく俺。
「さ、朔太郎!?」
「てっテメェ!!なん……で?頭に矢が突き刺さってくたばらねぇんだよっ!!」
嬰美も、勝ち誇っていた永伏も、目を白黒させて此方を見ていた。
「なんで?いや、刺さってないし……」
俺は眼前で間抜け面を晒すガラの悪い男にそう応える。
「いやいやっ!刺さっただろっ!こうっ”ズブッ”と!凛子の矢がっ!」
永伏は身振り手振りで説明するが、その様が強面の男には滑稽で中々に面白い。
「いや、だから刺さってないって。こうっ”バシッ”と頭に着弾した瞬間に撃ち落とした」
だから俺はそんな永伏 剛士を真似して応えてみる。
「……」
「……」
「……」
ウィットに富んだ俺の返しを完全無反応で六神道の三人は、きっかり一分間は間が空いてから……
「は?はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっーーーーーー!!」
眼前の永伏だけでなく少し離れた波紫野姉弟も含めて、裏庭中に響き渡るようなボリュームで声を上げた。
「う、撃ち落としたって?当たった瞬間に?刺さる前に?」
距離を置いた場所から嬰美が大声で割り込んでくる。
「ああ……まぁ」
「ふざけるなっ!凛子の”天孫”は障害物をすり抜けるんだよっ!」
それにさらに割り込むガラの悪い男。
「だから、当たった瞬間に……実体化した直後に撃ち落としたって言ってるだろ?馬鹿?」
口汚く突っかかって来やがって、面倒くさい男だ。
「いや、それは流石に出来るわけ無いよ……凛子さんの矢の射速は秒速1500メートル前後、ライフルの弾丸以上だし、そもそも身体の何処に着弾するか解らないものを……」
波紫野が呆れながら頭を左右に振る。
「だから障害物をすり抜ける光の矢なら、着弾した瞬間、実体化した矢をめり込む前に撃ち落とせば良いだろう?予め何処を狙ってくるかって解っていればなんとかなるんじゃね?」
「……」
「……」
「……」
色々と面倒臭い質問攻めに俺は簡潔に答えるも、それでは納得できないのか?またもや口を開けて間抜け面を晒す三人……
バシュッ!!
ダンッ!
「!?」
「あっ!」
「なにぃぃ!?」
そうこうしている間にも、放たれた次の矢を俺は今度はアッサリと左胸に突き刺さる直前に右手の手刀で撃ち落としていた。
――因みに今度はひっくり返りもしない
「テ、テメェ……」
飽きずに現実を認めず睨んで来るガラの悪い男。
「ふぅ……」
俺はもういい加減見飽きた三人の反応にため息をつきつつ、不本意だが事細かく種明かしをすることに決めたのだった。
第38話「俺の持論だ」前編 END
――学園からおよそ四千メートルの距離に建つランドマークタワーの屋上
「な、なんなのよぉ!あの子ぉ……」
呟いた女の顔は強ばり、左手に握った弓がガクガクと揺れている。
――椎葉 凛子は
「ど、どういう……神経してるのぉ?」
明らかに動揺が隠せないでいた。
六神道でも随一の”天孫”を所持する椎葉 凛子の弱点……
一見、物怖じしない性格に見える彼女ではあるが、実際はこうして理解できない事態への対応力が極端に低かった。
――
「あ、剛ちゃん!」
窮地に陥る永伏を確認して凛子は慌てて弓を放つ。
続いて今度こそ必中の決意で一撃を放つが――
それは大きく的を逸れ命中することはなかった。
「!?もうっ!なんでよぉ!」
――なら何故、椎葉 凛子は理解できない事態への対応力が極端に低いのか?
才能が生まれついてズバ抜けた天才ともいえるだろう彼女は、その才能ゆえに失敗どころか苦戦さえしたことがない。
椎葉 凛子は二十二歳になる今の今まで、ついに”確たる実戦経験値”を得ることが適わなかったのだ。
”確たる実戦経験値”とはいわゆる実戦の中でのみ存在する。
生死の境が石ころのように当たり前な過酷な世界でこそ拾い上げられるものなのだ。
とはいえ、平和ボケした国では殆どの者がそうであろうが……
実戦経験から来る戦士に絶対必要な”順応力”と”応用力”
椎葉 凛子にはそれが圧倒的に足りていなかったのだ。
「わかったわよぉ!もぅっ!だったらお望み通り……殺してあげるっ!」
”学園”から遠く離れた地で、凛子は追い詰められて初めて真剣に必死に弓を構えた。
「……」
――黄金に輝く瞳と光の鏃……
彼女の天孫は、漸く折山 朔太郎の頭を真っ直ぐに捉えたのだった!
――
「そもそもなぁ、狙撃というのは”一撃必殺”なんだよ」
驚愕する者達を前に折山 朔太郎は言う。
威嚇射撃や生け捕りの為に急所を外した攻撃など、必要不可欠な場合を除いて”必殺”を行わない相手は俺の経験上、二通りだ。
――圧倒的優位な自分を誇示する馬鹿者か、
――相手を殺すことを躊躇する臆病者
一射目と二射目でそれに気づいたから、俺が取った奇抜な挑発と虚を突いた行動は全て俺の持論……
"交渉ごとは機先を制するに限る!”
何事もイニシアティブをとった方が後々までの選択肢を多く保持することが出来るという経験則に従ったまでだ。
”交渉ごと”も”戦闘”も、駆け引きという意味では同等のものだからな。
バシュッ!!
「さっ!朔太郎っ!」
黒髪美少女の叫びが響き!直後、俺は頭に一筋に伸びた光の一撃を食らって真後ろに倒れる。
「や、やったか?ははっ!やっと殺りやがった!凛子の野郎ッ!!」
仕留めたとばかりにガラの悪い男が拳を掲げる。
「さく……朔太郎!」
仰向けに倒れたままの俺に走り寄ろうとする黒髪美少女、波紫野 嬰美。
「っ!」
だがそれは、隣に居た彼女の弟、波紫野 剣によって阻まれていた。
「剣!どういうつもりよっ!これはもう六神道の闘いなんかじゃないわっ!あなたも茶番だと言って……」
波紫野 剣は取り乱す姉の肩に手を置いてから落ち着いた口調で言った。
「死んでない……今度こそ信じられないけど、朔ちゃんは……死んでない」
「え……」
そして嬰美も弟の視線の先……
"倒れていた”俺の方を見る。
――
「やっとなんとか……なりそうだな、これで」
そう言いながらゆっくりと立ち上がって制服の汚れをパンパンとはたく俺。
「さ、朔太郎!?」
「てっテメェ!!なん……で?頭に矢が突き刺さってくたばらねぇんだよっ!!」
嬰美も、勝ち誇っていた永伏も、目を白黒させて此方を見ていた。
「なんで?いや、刺さってないし……」
俺は眼前で間抜け面を晒すガラの悪い男にそう応える。
「いやいやっ!刺さっただろっ!こうっ”ズブッ”と!凛子の矢がっ!」
永伏は身振り手振りで説明するが、その様が強面の男には滑稽で中々に面白い。
「いや、だから刺さってないって。こうっ”バシッ”と頭に着弾した瞬間に撃ち落とした」
だから俺はそんな永伏 剛士を真似して応えてみる。
「……」
「……」
「……」
ウィットに富んだ俺の返しを完全無反応で六神道の三人は、きっかり一分間は間が空いてから……
「は?はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっーーーーーー!!」
眼前の永伏だけでなく少し離れた波紫野姉弟も含めて、裏庭中に響き渡るようなボリュームで声を上げた。
「う、撃ち落としたって?当たった瞬間に?刺さる前に?」
距離を置いた場所から嬰美が大声で割り込んでくる。
「ああ……まぁ」
「ふざけるなっ!凛子の”天孫”は障害物をすり抜けるんだよっ!」
それにさらに割り込むガラの悪い男。
「だから、当たった瞬間に……実体化した直後に撃ち落としたって言ってるだろ?馬鹿?」
口汚く突っかかって来やがって、面倒くさい男だ。
「いや、それは流石に出来るわけ無いよ……凛子さんの矢の射速は秒速1500メートル前後、ライフルの弾丸以上だし、そもそも身体の何処に着弾するか解らないものを……」
波紫野が呆れながら頭を左右に振る。
「だから障害物をすり抜ける光の矢なら、着弾した瞬間、実体化した矢をめり込む前に撃ち落とせば良いだろう?予め何処を狙ってくるかって解っていればなんとかなるんじゃね?」
「……」
「……」
「……」
色々と面倒臭い質問攻めに俺は簡潔に答えるも、それでは納得できないのか?またもや口を開けて間抜け面を晒す三人……
バシュッ!!
ダンッ!
「!?」
「あっ!」
「なにぃぃ!?」
そうこうしている間にも、放たれた次の矢を俺は今度はアッサリと左胸に突き刺さる直前に右手の手刀で撃ち落としていた。
――因みに今度はひっくり返りもしない
「テ、テメェ……」
飽きずに現実を認めず睨んで来るガラの悪い男。
「ふぅ……」
俺はもういい加減見飽きた三人の反応にため息をつきつつ、不本意だが事細かく種明かしをすることに決めたのだった。
第38話「俺の持論だ」前編 END
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