神がかり!

ひろすけほー

文字の大きさ
51 / 101

俺の持論だ 前編

しおりを挟む
第38話「俺の持論だ」前編

 ――学園からおよそ四千メートルの距離に建つランドマークタワーの屋上

 「な、なんなのよぉ!あの子ぉ……」

 呟いた女の顔は強ばり、左手に握った弓がガクガクと揺れている。

 ――椎葉しいば 凛子りんこ

 「ど、どういう……神経してるのぉ?」

 明らかに動揺が隠せないでいた。

 六神道ろくしんどうでも随一の”天孫てんそん”を所持する椎葉しいば 凛子りんこの弱点……

 一見、物怖じしない性格に見える彼女ではあるが、実際はこうして理解できない事態への対応力が極端に低かった。

 ――


 「あ、たけちゃん!」

 窮地に陥る永伏ながふしを確認して凛子りんこは慌てて弓を放つ。

 続いて今度こそ必中の決意で一撃を放つが――

 それは大きく的をれ命中することはなかった。

 「!?もうっ!なんでよぉ!」

 ――なら何故なぜ椎葉 凛子かのじょは理解できない事態への対応力が極端に低いのか?

 才能が生まれついてズバ抜けた天才ともいえるだろう彼女は、その才能ゆえに失敗どころか苦戦さえしたことがない。

 椎葉しいば 凛子りんこは二十二歳になる今の今まで、ついに”確たる実戦経験値”を得ることが適わなかったのだ。

 ”確たる実戦経験値”とはいわゆる実戦の中でのみ存在する。

 生死の境が石ころのように当たり前な過酷な世界でこそ拾い上げられるものなのだ。

 とはいえ、平和ボケした国では殆どの者がそうであろうが……

 実戦経験から来る戦士に絶対必要な”順応力”と”応用力”

 椎葉しいば 凛子りんこにはそれが圧倒的に足りていなかったのだ。


 「わかったわよぉ!もぅっ!だったらお望み通り……殺してあげるっ!」

 ”学園せんじょう”から遠く離れた地で、凛子りんこは追い詰められて初めて真剣に必死に弓を構えた。

 「……」

 ――黄金に輝く瞳と光のやじり……

 彼女の天孫それは、ようや折山おりやま 朔太郎さくたろうの頭を真っ直ぐに捉えたのだった!

 ――


 「そもそもなぁ、狙撃というのは”一撃必殺”なんだよ」

 驚愕する者達を前に折山 朔太郎オレは言う。

 威嚇射撃や生け捕りの為に急所を外した攻撃など、必要不可欠な場合を除いて”必殺それ”を行わない相手は俺の経験上、二通りだ。

 ――圧倒的優位な自分を誇示する馬鹿者か、

 ――相手を殺すことを躊躇する臆病者


 一射目と二射目でそれに気づいたから、俺が取った奇抜な挑発と虚を突いた行動は全て俺の持論……

 "交渉ごとは機先を制するに限る!”

 何事もイニシアティブをとった方が後々までの選択肢を多く保持することが出来るという経験則に従ったまでだ。

 ”交渉ごと”も”戦闘”も、駆け引きという意味では同等のものだからな。


 バシュッ!!

 「さっ!朔太郎さくたろうっ!」

 黒髪美少女の叫びが響き!直後、俺は頭に一筋に伸びた光の一撃を食らって真後ろに倒れる。

 「や、やったか?ははっ!やっとりやがった!凛子りんこの野郎ッ!!」

 仕留めたとばかりにガラの悪い男が拳を掲げる。

 「さく……朔太郎さくたろう!」

 仰向けに倒れたままの俺に走り寄ろうとする黒髪美少女、波紫野はしの 嬰美えいみ

 「っ!」

 だがそれは、隣に居た彼女の弟、波紫野はしの けんによって阻まれていた。

 「けん!どういうつもりよっ!これはもう六神道ろくしんどうの闘いなんかじゃないわっ!あなたも茶番だと言って……」

 波紫野はしの けんは取り乱す姉の肩に手を置いてから落ち着いた口調で言った。

 「死んでない……今度こそ信じられないけど、さくちゃんは……死んでない」

 「え……」

 そして嬰美えいみも弟の視線の先……

 "倒れていた”俺の方を見る。

 ――

 「やっとなんとか……なりそうだな、これで」

 そう言いながらゆっくりと立ち上がって制服の汚れをパンパンとはたく俺。

 「さ、朔太郎さくたろう!?」

 「てっテメェ!!なん……で?頭に矢が突き刺さってくたばらねぇんだよっ!!」

 嬰美えいみも、勝ち誇っていた永伏ながふしも、目を白黒させて此方こちらを見ていた。

 「なんで?いや、刺さってないし……」

 俺は眼前で間抜けづらを晒すガラの悪い男にそう応える。

 「いやいやっ!刺さっただろっ!こうっ”ズブッ”と!凛子りんこの矢がっ!」

 永伏ながふしは身振り手振りで説明するが、その様が強面こわもての男には滑稽で中々に面白い。

 「いや、だから刺さってないって。こうっ”バシッ”と頭に着弾した瞬間に撃ち落とした」

 だから俺はそんな永伏ながふし 剛士たけし真似オマージュして応えてみる。

 「……」

 「……」

 「……」

 ウィットに富んだ俺の返しを完全無反応スルー六神道ろくしんどうの三人は、きっかり一分間は間が空いてから……

 「は?はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっーーーーーー!!」

 眼前の永伏ながふしだけでなく少し離れた波紫野はしの姉弟きょうだいも含めて、裏庭中に響き渡るようなボリュームで声を上げた。

 「う、撃ち落としたって?当たった瞬間に?刺さる前に?」

 距離を置いた場所から嬰美えいみが大声で割り込んでくる。

 「ああ……まぁ」

 「ふざけるなっ!凛子りんこの”天孫てんそん”は障害物をすり抜けるんだよっ!」

 それにさらに割り込むガラの悪い男。

 「だから、当たった瞬間に……実体化した直後に撃ち落としたって言ってるだろ?馬鹿?」

 口汚く突っかかって来やがって、面倒くさい男だ。

 「いや、それは流石に出来るわけ無いよ……凛子りんこさんの矢の射速は秒速1500メートル前後、ライフルの弾丸以上だし、そもそも身体からだ何処どこに着弾するか解らないものを……」

 波紫野はしのが呆れながら頭を左右に振る。

 「だから障害物をすり抜ける光の矢なら、着弾した瞬間、実体化した矢をめり込む前に撃ち落とせば良いだろう?あらかじ何処どこを狙ってくるかって解っていればなんとかなるんじゃね?」

 「……」

 「……」

 「……」

 色々と面倒臭い質問攻めに俺は簡潔に答えるも、それでは納得できないのか?またもや口を開けて間抜けづらを晒す三人……

 バシュッ!!

 ダンッ!

 「!?」

 「あっ!」

 「なにぃぃ!?」

 そうこうしている間にも、放たれた次の矢を俺は今度はアッサリと左胸に突き刺さる直前に右手の手刀で撃ち落としていた。

 ――因みに今度はひっくり返りもしない

 「テ、テメェ……」

 飽きずに現実を認めず睨んで来るガラの悪い男。

 「ふぅ……」

 俺はもういい加減見飽きた三人の反応にため息をつきつつ、不本意だが事細かく種明かしをすることに決めたのだった。

第38話「俺の持論だ」前編 END
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...