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左道四天王見参 《第五章》
其の弐
しおりを挟むところが、当の四悪党は――、
「喂、栄碩。少しは調子を合わせんかい。オチがなくては、つまらんではないか」
一人、二人、三人――杏瑚の両鎌槍が、串刺し、引き裂き、首を刎ねる。
「ホント、お前はいつだって、ノリが悪いモンねぇ。なにを今更、照れてんのさ」
四人、五人、六人――彗侑の鉄弓矢が、射抜き、つらぬき、磔刑に処す。
「人生、肩肘ばっか張ってたって、疲れるだけだぜ、栄碩。もっと素直になれよ」
七人、八人、九人――倖允の独鈷杵が、突き刺し、叩き割り、粉砕する。
「そんな子供じみたこと、やってられるか、莫迦!」
十人、十一人、十二人――栄碩の二刀が、寸断し、薙ぎ払い、斬り刻む。
「ふふふ……本当に、愉快なかたたちだ」
十三人、十四人、十五人――匝峻の鉄扇が、殴打し、圧潰し、へし折る。
こうして五人は、余所見しながら、口喧嘩しながら、談笑しながら、こともなげに襲撃者を全員、粛清してしまった。吹き荒ぶ血風、無残な死屍累々。そして誰もいなくなった。
あまりにも見事な武功……遠巻きに様子をうかがっていた住民は、慄然と震え上がった。
「ほほぅ、これは圧巻じゃ喃。お前さん、結構やるじゃないか」と、杏瑚。
「誦式八音の系列……【鉄扇術】だな。なかなか大した腕前だ」と、栄碩。
「いいえ、ホンの護身術程度。皆さまの足元にも及びませんよ」と、匝峻。
「やっぱ、能ある鷹は爪を隠すモンなんだねぇ。見なおしたよ」と、彗侑。
「ビビッて逃げ出すかと思ったが、人は見た目じゃねぇんだな」と、倖允。
互いの健闘をたたえ合う五人……なにやら信頼関係が、生まれつつあるようにも見えた。
さて、その時である。
方々の暗がりから、武器を手にした不審な連中が、次々と姿を現し、五人を取り囲んだのは……サッと身がまえる五人。登場したのは、いずれ劣らぬ悪相の、前科者や罪人ばかりであった。その中から、頭目格とおぼしき筋骨隆々の大男が、一歩前へ進み出た。
「さすがは、天下のお尋ね者《左道四天王》だな。斯様な雑魚など、歯牙にもかけぬか」
あらかじめ、黒子の存在に気づいていた杏瑚が、唇をとがらせ、不満そうに吐き捨てた。
「ようやく、姿を現しおったか。黒幕が……」
天才軍師のセリフに、驚愕したのは仲間三人だ。目を瞠り、足元の死骸を検分する。
「……ってことは、こいつら全員、仕込みかい?」
「お前の差し金で、一人残らず地獄に赴いたぞ!」
「なんだよ! 道理で、手応えがないはずだぜ!」
騙されて怒り心頭の彗侑、栄碩、倖允は、すかさず臨戦態勢を整える。
ところが、ここで両者間に割り入った匝峻。
四天王を制し、にこやかな笑顔で、こう告げた。
「皆さま、お待ちください。こちらは『薩唾蓋迷宮』を取り仕切る、顔役のお一人ですよ」
匝峻の紹介を受けて、手下に武器を退かせた頭目は、あらためて正体を明かした。
「俺は、顔役【白鴉組】の副頭領《マクナギ》だ。お前らの見事な手腕には、本当に感服したよ。そこで我らの根城に、お前らを招待したいと思うのだが、勿論ついて来るよな?」
威圧的な口調で《左道四天王》に追従を迫るマクナギの態度は、いかにも横柄で四人をイラ立たせた。けれど杏瑚には、なにか策があるのだろう。
マクナギの意向を、あっさり呑んだ。
「よかろう。ここは、匝峻の顔を立ててやろうじゃないか、皆の衆」
「「「本気か、杏瑚!?」」」と、仰天する仲間三人。
互いの顔を見合せたのち、もう一度、軍師に念を押した。
「ふぅん……なぁんかイマイチ、納得できないねぇ。どうなのよ、杏瑚」
「おぅ、怪しさ芬々だな。こいつ、簡単に信用しちまっていいのか、杏瑚」
「どうも虫が好かん。やはりこの場で斬り捨てた方が得策だと思うがな、杏瑚」
ところが、杏瑚は悠々閑々で、実に似合わぬことをうそぶいたものだ。
「お前さんらは、相変わらずじゃ喃。タマには、人を信じることも大切じゃぞ?」
〈〈〈お前が、それを云うか?〉〉〉と、心の声をそろえつつ、仲間三人は肩をすくめた。
反対に、マクナギは喜色を浮かべ、大きくうなずいた。
「賢明な判断だ。では、往こうか」
杏瑚に促され、最初はしぶっていた仲間三人も、仕方なく従った。そうして、顔役一味の案内で、匝峻と《左道四天王》は『薩唾蓋迷宮』の最奥部へ、ゆっくりと歩き始めた。
杏瑚と倖允は、薩唾蓋住民から奪った楽器を、さっさと捨てて往く。
そんな悪党どもの様子を、一段高い吊り橋の上から見下ろし、観察している者がいた。
「あれがお尋ね者《左道四天王》か。ふん、この世の地獄に、もう上手く順応してやがる。まったく、とんでもない奴らだな……しかし五人いるぞ? 白髪頭は一体、誰なんだ?」
「判らん……初めて見る顔だな。だがなんにせよ、奴らに見つかると、色々面倒だ。とにかく、師父の庵へ早く案内してくれ。三日月に、これ以上、悲惨な光景を見せたくない」
「私なら、大丈夫です。ごめんなさい、恣拿耶……迷惑ばかり、かけてしまって」
路地裏での一悶着を、苦々しい表情で見届けた三人は、無論《雁木紋の恣拿耶》と《三日月》、それに《夜懸けの董嗎》である。やがて彼らは、他の住民たちに訝られぬよう細心の注意を払いつつ、師父《楊漣》の庵を目指し、四天王とは反対方向へ歩き出した。
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