41 / 64
汪楓白、官兵に誤認逮捕されるの巻
其の五
しおりを挟むさて、同じ頃――神々廻道士の廟では、こんな事件が発生していたそうだ。
「お頼み申します! 神々廻道士さま! どうか、どうか……助けてください!」
――ドンドンドンッ!
人里離れた神々廻道士の廟を、とっぷりと日の暮れた刻限に訪れ、古びた門扉を懸命に叩く女の声は、かなり焦燥していた。
口やかましい〝ご主人さま〟がいない隙に、広間で酒肴をまじえてくつろぎ、賭博に興じていた三妖怪は、『おや?』と顔を見合わせた。
「嫌だわ……こんな刻限に、無作法ねぇ。一体、誰よ」と、蛇那が小首をかしげる。
「若い女の声だな。かなり切迫しているらしい」と、蒐影が興味なさそうにうなずく。
「しかも、飛び切りの上物と見た! いや、聞いた!」と、呀鳥が鼻息荒げて立ち上がる。
そこへ奥の間から、いつもの高密着度戦袍に着替えた琉樺耶と、いつもの高露出度戦袍に着替えた茉李が、姿を現した。
門扉の叩音に顔をしかめ、琉樺耶が三妖怪へ問いかける。
「なんの騒ぎだい? 楓白……旦那さまたちが、お帰りになったのかい?」
「悪所帰りってぇ、おちろいの匂いプンプンさせてんのよ! こんな時間までぇ、女郎とアンアンちてくるなんてぇ、いやらちいったらないわ! おちおきしゅるしかないわね!」
「茉李……あんたの云い方のが、ずっといやらしいよ」
「だってぇ、おねぇたまを差し置いてぇ、女郎の肢おっぴろげるなんて、ゆるちぇない!」
「だ、だから、茉李……その云い方、気をつけなさい」
そうこうする内にも、女の声音は、いよいよ逼迫し、悲痛さを増していく。
「どうか、お願いします! 後生ですから、ここを開けてください!」
――ドンドンドンドンドンッ!
「取りあえず、開けてあげなさいよ。美味しそうだったら、私もご相伴に預かるからね」
「判っているさ、蛇那。お前を出し抜き、勝手に我々だけで食したりせんから、安心しろ」
「そうそ、お前を怒らすほど莫迦じゃねぇよ。ホント執念深いからなぁ……蛇だけに」
呀鳥はいつもの従者姿で、蒐影は影の中を移動して、玄関口へ向かった。
口やかましい〝ご主人さま〟がいない隙に、相手の様子を見計らって、不意打ちをかけるつもりなのだ。
「こんな夜分、どちらさまですか?」
ニヤケ顔で、だが口調は怜悧にとがらせて、呀鳥が問いかける。すぐに女声が答えた。
「私は、凛樺と申します! 実は、夫を……夫を、助けて欲しいのです!」
「凛樺?」と、怪しみつつ呀鳥。
「はい!」
「凛樺?」と、疑りながら蒐影。
「はい!」
「凛樺?」と、訝るように蛇那。
「はい!」
「「「凛樺だって!?」」」
《凛樺》という名に驚愕し、勢いよく扉を開けるや、来訪者の顔と姿を確認する三妖怪だ。
「何度もお聞きにならずとも、私の名は確かに凛樺でございます!」
小雨そぼ降る廟の庭先に、濡れて佇む細身の美女……質素な藤色の襦裙に貝髷、化粧っけはなく、色白で柔和な顔立ちをしているが、黒い瞳は今にもこぼれそうなほど大粒の泪でうるんでいる。
三妖怪は『これがシロの逃げた女房か』と、しげしげ観察してしまった。
騒ぎを聞きつけ、飛んで来た琉樺耶と茉李も、凛樺をジッと見つめながら、詰問した。
「夫を助けてって……まさか、汪楓白のことか!? 彼の身に、なにかあったのか!?」
「え? あなたさまは何故、私の元夫の名をご存知で?」
「元夫ってことはぁ、今はちがうのぉ?」
「私が云う夫とは、《楊榮寧》さまのことでございます!」
「「「はぁ!?」」」
食いちがう会話、困惑する三妖怪。
琉樺耶も茉李も不可解そうだ。
それにしても、妻を取り戻すため、元夫の汪楓白が、身を寄せているとも知らず、ましてや、とんでもない苦境に立たされているとも知らず、当の本人・凛樺が神々廻道士の廟へ助けをもとめにやって来るとは、なんとも皮肉な展開……いや、運命の悪戯であった。
〔暗転〕
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
連続寸止めで、イキたくて泣かされちゃう女の子のお話
まゆら
恋愛
投稿を閲覧いただき、ありがとうございます(*ˊᵕˋ*)
「一日中、イかされちゃうのと、イケないままと、どっちが良い?」
久しぶりの恋人とのお休みに、食事中も映画を見ている時も、ずっと気持ち良くされちゃう女の子のお話です。
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる