神さまなんて大嫌い!

緑青あい

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汪楓白、鬼憑き芝居に加担するの巻

其の四

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「例の怪鳥だっ……すぐ近くまで、来ているぞ!」
 住民たちはどよめき、かなりおびえているらしい。(なにしろ、まぶたが膠着して、周囲の状況が、まったく見えないからな……あくまで、推測の域を出ないんだよ。悪しからず)
茅娜ちな、来るぞ! 気を引き締めろ!」
「はい、師父しふ!」
 なにを、格好つけてやがるんだ! またぞろ、ニセ芝居を開演するだけだろ!
――バササッ!
『ギヒィ――――ッ!』
「うわぁあっ! 出たぁあぁぁあっ!」
「危ない、茅娜!」
「きゃっ……」
「大丈夫か! うぬっ……」
――キィ――ンッ!
「こいつの翼……まるで刃だな!」
ああっ! 師父、あそこを見てください!」
「あれは……あれは、お父さま! お父さまだわ!」
「なるほど、あいつが問題の鬼憑きか……凄まじい殺意だ」
シャァアァァアァァァアッ!』
「道士さま! 村長むらおさに罪はありません!」
「お嬢さまのためにも、どうか無傷で鬼祓いを!」
「判ってますよ! この神々廻ししば道士を、見くびってもらっちゃ困りますな!」
『殺ァアァァァアァァァァァアッ!』
――ドドドドドッ……ザァンッ!
「ひぃっ……大木を、木端微塵に……なんて怪力だ!」
「茅娜! 怪鳥を引きつけとけ! その隙に、俺が鬼憑きをなんとかする!」
「はい、師父!」
――ヒュンヒュンヒュン!
『ギヒィ――――ッ! ゲェッ、ゲェッ……』
 もう、好い加減、莫迦ばか莫迦しいったら……なにやってんだよ、こいつら……ハァ。
 僕はだんだん、気持ちに余裕が出て来て、冷静な心の目で彼らの戦況……いや、三文芝居を、傍観することができるようになっていた。 
 声だけ聞いてると、本当にくだらないな。
「師父! 死門しもんの陣形に追いこみました!」
「今だ! バン・ウン・タラク・キリク・アク!」
『殺ァアッ……ふぐっ、ぬっ……ぬぎぎっ!』
「おおっ! 村長の、まるでぎこちなく盆踊りを踊っているかのような、異様な動きが、急に止まったぞ!」
「なんだか、酷く苦しんでるようですな! 大丈夫でしょうか!」
「啊っ……道士さま! 父を……父を鬼難きなんから、一刻も早く助けてください!」
 あ~あ、阿呆クサ。はいはい、それで? 次はなに? いつまで続くの、このくだり。
「茅娜! 罪人の死骸を、ここへ!」
「はい、師父!」
 えぇえっ!? ま、まさか……もう僕の出番!? ちょっ……心の準備が、まだだよ!
「ぎゃあっ! 村長の口から……黒いものが!」
鬼業きごうの瘴気ですね、師父!」
「そう、アレが邪鬼の正体だ! みなの衆、口をつぐんで、己の体内に入りこませるな!」
――シュウゥゥゥゥゥウッ!
「さぁ、来い! 新しい憑坐よりましだぞ! 体が欲しいんだろ!」
「師父! 急がないと……怪鳥を縛めた辮索べんさくが、千切れそうです!」
「心配ない! もう、うつった!」
 へ? うつった……って、僕に? もう? 嫌だな……悪い冗談で……ヴッ!
『ヴオォオォォォオォォォォォオッ!』
 まるで、鬼畜か野獣のような慟哭を発したのは、なんと僕自身だった。
 とても、自分の声とは思えない凄まじさだ。
 すると、あれだけ強固に、接着されていた上まぶたと下まぶたが、ようやく離れ、僕は、カッと両目を見開いた。その途端、僕はそこに、とんでもない光景を、目撃したのだった。
「きゃあぁぁあぁぁぁあっ!」
「うわぁっ……新たな鬼憑きだぁぁあっ!」
「ひぃいっ……道士さま! 早く、退治してください!」
 目をむき、泣き叫ぶ、朴訥ぼくとつな住民たちの数は、おおよそ三十。男たちの顔は恐怖で引きつり、女たちの顔は何故か赤らんでいる。とくに、思いのほか美貌の持ち主だった村長の娘は、僕を見るなり、顔を手でおおった。それというのも、僕の姿形に関係していたのだ。
「なんじゃ、ありゃあ!? 皮膚全体に、薄気味悪い唐草模様が、浮かんどるぞ!」
「目は深紅だし、頭には角も生えてるぞ! その上、ぶら提げてるモノも、並みじゃない!」
 なんだって? ぶら提げてる? そう云えばなんか、スゥスゥする……って! 僕、素っ裸じゃないかぁ! ひぃ――っ! 恥ずかしすぎる! 今すぐ逃げたい! 隠したい!
哈哈ハハ、こいつ……なかなか立派なモン、持ってるじゃねぇか。これで女房に逃げられるって、どんだけあっちが下手なんだか……それとも、デカすぎて女房にゃ苦痛だったか?」
「嫌だわ、本当ねぇ……私と、いい勝負かも。クス❤」
 村人たちには聞えぬよう小声で、悪意ある軽口を叩く神々廻道士と蛇那じゃなだった。
 当の僕は……というか、僕の体は、相変わらず自由を奪われたままで、ことごとく僕の意に反する行動を取り続けた。両手を広げ、柩の上に仁王立ちし、奇声をとどろかせる。
 まるで、首輪以外、なにも着けていない自分の裸身を、みんなに見せつけるかの如く。
(そう、首輪だけは相変わらず着けてるから、余計に変態味が増すんだよな!)
 云っとくけど、これは多分……いや、まちがいなく、僕の影に入りこんだ《蒐影しゅうえい》が面白半分で、やってることなんだからね! それというのも、神々廻道士の命令で、僕を晒し者にしてるだけなんだからね!
 絶対に、僕の意志だなんて、勘ちがいしないでよね!
 ところが、そこへ――、
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