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終わりの始まりの章2 “目覚めと薔薇”
しおりを挟む『ねえ 起きて ねー……』
ユーリィが眠っている友達の一人を揺らして起こす。
少し呼び掛けているうちに、ユーリィが起こしていた子ではない男の子が目を覚ました。
『……ん』
『あ、クロス おはよう』
『ユーリィか……ここはどこだ?』
クロスはユーリィと同い年で、時空崩壊の生き残りの一人である少年。
リンジェマーハでは悪魔から剣を教わっていたらしく、
強くなって人や悪魔を問わず、誰でも守れる人になることを夢見ている。
クールだけどそんな熱い想いを秘めてて、意外といいやつ。
『わかんない』
『そうか……他のみんなは? 俺たちだけか?』
『私とクロスと、あとほらここにミコトもいる』
ユーリィは最初に起こそうとしたもう一人の友達の存在をクロスに伝える。
ミコトも私達と同い年で、ちょっと怖がりな女の子。
悪魔は怖いみたいで リンジェマーハではいつも隠れてたんだって。
お家が元々、“出雲の国”(いずものくに)っていう国の人みたいで、その国のお洋服の
“着物”っていう不思議な服を着てるの。
『!』
ユーリィとクロスで起こし続けると、そのうちにミコトが目を覚ました。
『わっ……ユーリィ、クロス……』
『おはよう ミコト』
ミコトは知らない部屋で怖くなったのか、
ユーリィに抱きついてきた。
……ユーリィが一番最初に孤児院で仲良くなったのがこのミコトだ。
それから、こんな風にいつもくっついてくるようになった。
同い年なのに妹みたいだとユーリィは思っていた。
……ユーリィ自身もクロスやミコトらと同じ時空崩壊での生き残りの一人だが
彼女自身は、謎の存在である。
というのも、ユーリィはあの時空崩壊以前の自身の記憶がほとんどない。
そもそも自分はどこの家の子供なのか、
名字は何なのか、
そんなことすらわからない。
……この数ヶ月、孤児院のみんなと過ごした楽しい記憶の方が強くなり初めている。
ユーリィ自身に弟や妹がいるかは不明だが、
彼女は孤児院のみんなのお姉さん的な存在である。
なので、ミコトやクロスも心を開いているのだが……。
『大丈夫だよミコト ……でもここ、どこなのかなぁ』
ユーリィがミコトを撫でながらそんなことを呟いた時だった。
『目を覚ましたか』
低い声とともに誰かが部屋の中に入ってきた。
一瞬にして三人の視線はそちらに注がれる。
『……お前たちが噂の、“時空崩壊”での生き残りか』
声の主は知らない大男だった。
ベッドの上の三人を開いた扉の向こうから見ている。
黒い短髪に、地肌に直接羽織った黒いスカジャン。
履いているジーンズも黒と全身真っ黒。
すごくガタイがいい。
それに両手に鎖の千切れた手錠の輪がついていて危険な雰囲気を纏っている。
『な……何だよあんた! ここどこだよ!』
『俺は絶黒(ぜつぐ) ここは俺たち薔薇の拠点の一室だ ……そう睨むな』
気圧されつつも噛み付くクロスに対し、
黒い大男……絶黒は落ち着いた声で言った。
『ここは俺のプライベートルームでな 殺風景ですまないが まあ辛抱してくれ』
絶黒に言われてユーリィたちが改めて部屋の中を見回す。
この部屋も全てが黒い。
ベッドも、 カーテンも、タンスも。
木でできた床も全てが。
それに何故かベッドを初めとした至るところに黒い手すりがついている。
質素な部屋だが、少しそれが異彩を放っていた。
『……髑紫、子供たちが目を覚ました』
絶黒が言うと、
彼の背中側から肩にカサカサという音とともに何かが登ってきた。
それを見た私達三人はそれぞれ絶叫した。
なんとそれは、血管をまるでクラゲの触手のように生やした人の眼球だったのだ。
『……はじめましてですね リンジェマーハの生き残りの子供たち』
挙げ句、その異形な触手目玉が喋った。
ミコトが『ひっ』と声をあげ、すとんとベッドに倒れてしまった。
あまりの恐怖に気絶してしまったようだ。
『ミコト! 大丈夫?』
ユーリィが揺すってもミコトはうんともすんとも言わない。
『……髑紫、だからその姿はやめろって言っただろ?見た目で子供の心がノックアウトされちまうって』
『んー……じゃあクロに任せて私は黙って見てますね ちゃんと聞いてくださいね?例の事』
絶黒と目玉の会話。
それをこの世の終わりのような表情で見ているユーリィとクロス。
『……というわけだ うちのボスがあのリンジェマーハが何故滅びたのか知りたがっててな 何があったか教えてくれないか?』
ユーリィたちが怖がっているので少し優しげな聞き方をする絶黒。
見た目は厳ついが意外と優しいのかもしれない。
しかし
『知らねぇよ……俺たちだって気付いたら保護されてたんだ』
『そうか ……そっちの派手な髪色のお嬢ちゃんはどうだ?』
派手な髪色……はユーリィのこと。
ブロンドベージュのロングヘアー。
しかしユーリィは毛先だけは綺麗なコバルトブルーをしている。
『私は……その』
ユーリィはたどたどしく絶黒に説明した。
自分の記憶がほとんどないこと。
どこの子供か、家族の有無に出身なんかも知らないこと。
なので当然、あの時リンジェマーハで何が起きたかなど全く知らないということを。
それを聞いた絶黒は
『……だそうだ 髑紫』
『へぇ……そうですか それは大変でしたねぇ』
全く同情などしていないような態度で目玉はそう言う。
そんな二人に対し、
『なぁ、もういいだろ? 俺たちを孤児院に帰してくれよ!』
クロスが噛みついた。
ユーリィも隣でうんうんと頷く。
ユーリィたちは何も知らない。
それをちゃんと話したんだから、
もうユーリィ達を置いておく必要はないはずだ。
……しかし
『まあ仕方ないですね それについてはまた別の角度から調べてみましょうか ……ではクロ もういいですよ 何も知らないということが聞けたので “これ”を』
『ああ』
目玉の言葉とともに絶黒の腕に絡みついてきた血管が絶黒にあるものを渡した。
『お花……?』
ユーリィたちにはそれは花にしか見えなかった。
白い花びらの一輪の薔薇。
葉っぱが2枚だけついている。
茎も含めた全体的な長さはボールペンより少し長いくらい。
……何となく、理由はわからないが
ユーリィはその花を見た途端
不快感を覚えた。
とても綺麗な白い薔薇なのに。
『そうですねぇ……一番強そうなのはこの男の子でしょうか この子にしましょう “私達の仲間”に加えるのは ……今の記憶がなくなると例の国でのことを忘れてしまう恐れもありましたが知らないのなら要らぬ心配でしたね』
『残りの娘二人は?』
『そうですねぇ……喰うか、他の“色”を試すか……後で考えましょう』
『わかった』
目玉の指示で頷いた絶黒がクロスを掴み上げた。
『な!なんだよ!離せよ!仲間ってどういうことだよ!?』
『私達 “髑絶芒化”(どくぜつぼうか)は全員、元は人間でしてね この薔薇はかつて人類が生み出した、生命体を人口的に悪魔化させる代物です 私もクロも、薔薇を刺された元人間で……全員
いわゆる人口悪魔で私達の組織は構成されています』
人口悪魔計画。
それはかつて、人類が強力な戦力を求めて開発した “生命体を人口的に悪魔化させる薔薇”により
悪魔と同じ強き力、細胞、特性を
後天的に与えられた者たちによる兵力を作る
という計画。
薔薇を刺されると即座に細胞が変貌していき、
数分以内に人口悪魔生命へと変化する。
体組織は悪魔の特性が強いが、植物にも近いとされている。
なお、副作用として人間であった頃の記憶がなくなることが多いという。
また、死後間もないうちに薔薇が投与されれば
死体からでも変貌し、悪魔化が可能。
こんな効力を持った薔薇の花が作られた理由は正確には伝わっていないが
当時の悪魔との戦争に使うつもりだったのではないかと推察されている。
1本の薔薇につき1個体の人口悪魔が生まれる。
総数は不明。
理由は単純で、この計画の第1の実験台となった
紫色の薔薇を刺された、“髑紫”(どくし)が人類側を裏切り、
残りの薔薇を持って逃走したからである。
そして今現在も、彼は生きており仲間を増やし続けている。
髑絶芒化という組織名はリーダーの髑紫を初めとした“初期メンバー”の名前から取られているという。
なお、組織の目的は不明だが
度々薔薇の者に人間が喰われており
世界的には危険な組織とされている。
『暴れるな ……別にお前を殺そうってわけではないんだ』
『やめて……!クロスを離して……!』
ユーリィが絶黒にしがみつき、クロスから引き剥がそうとする。
『離すのはあなたの方ですよ』
『やだ!やめて!クロスをいじめないで!』
『そうですか ……では』
目玉がそう言った直後、
目玉の繋がっている血管から緑色のツタのようなものが伸びてきて
ドッ……!!
『あうっ……』
『死んでもらいます』
ユーリィの鳩尾(みぞおち)が
そのツタに貫かれたのだった。
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