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第一話

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「おまえとの婚約は破棄する」

 婚約者からの思いもよらない言葉は、ルイーゼの思考を停止させた。

「……なにを言っているの、レオン?」

 どうにかそれだけを口にするのが精一杯。頭が真っ白になり、足元がぐらぐらと揺れた。

「わからないのか、婚約破棄だ。もう俺に関わらないでくれ」

 普段、無骨だが優しさのこもっていた彼の声が、今はただとげとげしい。まるで別人の声音のようだ。

「ま、待って、レオン!」

 背を向ける彼に呼びかけるが、振り返ることなく去って行ってしまう。ルイーゼは追いすがろうと二、三歩進んだところで膝から崩れ落ちた。レオンの背中から完全な拒絶を感じてしまったからだ。

(どうして……?)

 最愛の人のはずだった。昨日までは間違いなくそうだった。理解が追い付かない。心変わり? 有り得ない。彼に限ってそんなことあるはずがない。多くは語ることはなくても、幾千万の美辞麗句を並べられるよりも強く愛情感じさせてくれた。

(寒い……)

 いつの間にかルイーゼは、自らの体をかき抱いていた。まだ秋だというのに、芯から身が冷える。
 孤独。世界から、自分だけが切り離されたような感覚。光も音も膜を隔てたように曖昧で、不確かで。

(あの頃もそうだった)

 幼い頃、両親が亡くなって叔父に預けられていたあの頃。世界に絶望していた。ただ耐えるしかないと思っていた。そこから救い出してくれたのが、レオンだった。

(レオン……)

 ルーイゼが伏せた顔を上げると、彼は屋内へ入って行くところだった。その入り口に立っているドレス姿の女性が見えた。レオンを待っていたようで、なにか声を掛けている。

「アリシア王女……?」

 顔までははっきりとは見えなかったが、あんな豪奢なドレスを身に着けている者はこの城に他にはいない。
 それで察した。アリシア王女は、かねてからレオンへの好意を隠していなかった──というよりも露骨に誘惑をしようとしていた。ルイーゼがレオンと婚約してあとでも、それは変わらなかった。
 恐らく王女は、魔術か特殊な薬物かなにかを使って、レオンの精神を操っているのだろう。

「絶対に取り戻して見せる」

 ルイーゼは、覚悟と共にゆっくりと立ち上がった。
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