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1.追放される俺
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「え……なんて……?」
戦闘が終わったあと、パーティーのリーダーであり俺の幼なじみでもある勇者アルフレッドから突き付けられた言葉に、俺は間の抜けた声を出してしまった。
「……エミール、おまえ、パーティーから抜けろ。田舎帰って畑でも耕せよ」
うぅ……やっぱり聞き間違いじゃなかったのか。聞こえなかったわけじゃない。信じたくなかったんだ。
「どうして!?」
反射的に叫んでしまったが、心当たりが全くないわけでもない。
アルフレッドは、額に手を当てて目を閉じた。それから片目を開けて、『俺に言わせるのかよ』という顔をしてうんざりしたように吐き出す。
「おまえさ、俺たちと一緒にいるから経験値稼げてもうレベル30になるけど、村人のまま転職もできねえし、未だにスキルのひとつも覚えねえじゃねえか」
その通りだった。戦闘中もいつもみんなの後ろでちょろちょろ動き回るだけで、なんの貢献もできてはいない。自覚はできていた―─できてはいたけど、やっぱり他人の口からはっきり言われると酷く胸に刺さる……。
「で、でもさ、ほら大器晩成っていうの? これからレアスキルに目覚めるかもしれないし、上級職に転職できるようになるかもしれないだろ?」
その可能性だってある。いつだって可能性は無限大だ。そのはずだ。俺のポジティブシンキングは、
「ねーよ」
アルフレッドに躊躇なく否定されてしまった。
「ごり押しじゃきつくなってきたしな。おまえの代わりに魔法使いでも入れたいんだよ」
あぁ……いや、まだだ、まだ俺には能力なんかより価値のある〝武器〟がある! 俺は、折れかかった心を奮い立たせて言った。
「けどさ、俺たち幼なじみだろ? なあ、アルたん、今までずっと一緒だったじゃん」
俺が絶対的な武器だと信じていたそれは、けれど完全な地雷だった。
「それがうぜーんだよ。いつまでもアルたん、アルたんって、ガキじゃねーんだからいい加減わかれよ」
不快感を露わにしたアルフレッドの放つ言葉が、俺の精神を凍えさせる。
なんてことだろう。一緒に村を出た時には、アルたんも俺のことをエミっち、エミっちって笑顔で呼んでくれていたのに……。長く過酷な旅が、純朴な青年の魂をささくれさせてしまったのだろうか?
これ以上、アルたんにはなにを言っても無駄か……。俺はアルたんを説得するのは諦めて、他の仲間に視線を送った。
まず目が合ったのは、アルたんの後方でじっと話に耳を傾けていた糸目の僧侶、ゲオルクだ。普段から救いだの許しだのご高説をぶっているから、俺に助け舟を出してくれる可能性は一番高い。
「時にははっきりと事実を伝えて差し上げることが、なによりの慈悲でしょうな」
く・た・ば・れ。
さらに後方に目をやると、岩に腰かけて弓の手入れをしているパーティー最年少のシーフ、クルトがいる。
「いいんじゃね、それで。正直、なんで付いて来てんだろって思ってたし」
手入れの手を止めず、こちらを一瞥もしないまま心底どうでもいいように言った。クルトとはろくに会話もしなかったし、期待はしていなかったけど……。
最後の望みをかけて背後に顔を向けると、戦斧を背負った長身の戦士カールが腕組みをして立っている。
「ははっ、リーダーが決めたことなら仕方ないな、ははっ」
カールは、なぜか笑いながら俺の視線に答えた。駄目だこいつ……なにも考えちゃいない。
冷たい視線と重苦しい空気に襲われてその場にへたり込んでしまいそうになるのを、俺は膝に手をついてギリギリで堪えた。
「わかったよ……こんなパーティーこっちから辞めてやるよ」
歯を食いしばりながら絞り出すように言って、俺は全力で駆け出した。
「ばっかやろーっ!」
捨て台詞に誰かが反応する気配はなく、ただ山々に幾重にもやまびこが反響するだけだった。
戦闘が終わったあと、パーティーのリーダーであり俺の幼なじみでもある勇者アルフレッドから突き付けられた言葉に、俺は間の抜けた声を出してしまった。
「……エミール、おまえ、パーティーから抜けろ。田舎帰って畑でも耕せよ」
うぅ……やっぱり聞き間違いじゃなかったのか。聞こえなかったわけじゃない。信じたくなかったんだ。
「どうして!?」
反射的に叫んでしまったが、心当たりが全くないわけでもない。
アルフレッドは、額に手を当てて目を閉じた。それから片目を開けて、『俺に言わせるのかよ』という顔をしてうんざりしたように吐き出す。
「おまえさ、俺たちと一緒にいるから経験値稼げてもうレベル30になるけど、村人のまま転職もできねえし、未だにスキルのひとつも覚えねえじゃねえか」
その通りだった。戦闘中もいつもみんなの後ろでちょろちょろ動き回るだけで、なんの貢献もできてはいない。自覚はできていた―─できてはいたけど、やっぱり他人の口からはっきり言われると酷く胸に刺さる……。
「で、でもさ、ほら大器晩成っていうの? これからレアスキルに目覚めるかもしれないし、上級職に転職できるようになるかもしれないだろ?」
その可能性だってある。いつだって可能性は無限大だ。そのはずだ。俺のポジティブシンキングは、
「ねーよ」
アルフレッドに躊躇なく否定されてしまった。
「ごり押しじゃきつくなってきたしな。おまえの代わりに魔法使いでも入れたいんだよ」
あぁ……いや、まだだ、まだ俺には能力なんかより価値のある〝武器〟がある! 俺は、折れかかった心を奮い立たせて言った。
「けどさ、俺たち幼なじみだろ? なあ、アルたん、今までずっと一緒だったじゃん」
俺が絶対的な武器だと信じていたそれは、けれど完全な地雷だった。
「それがうぜーんだよ。いつまでもアルたん、アルたんって、ガキじゃねーんだからいい加減わかれよ」
不快感を露わにしたアルフレッドの放つ言葉が、俺の精神を凍えさせる。
なんてことだろう。一緒に村を出た時には、アルたんも俺のことをエミっち、エミっちって笑顔で呼んでくれていたのに……。長く過酷な旅が、純朴な青年の魂をささくれさせてしまったのだろうか?
これ以上、アルたんにはなにを言っても無駄か……。俺はアルたんを説得するのは諦めて、他の仲間に視線を送った。
まず目が合ったのは、アルたんの後方でじっと話に耳を傾けていた糸目の僧侶、ゲオルクだ。普段から救いだの許しだのご高説をぶっているから、俺に助け舟を出してくれる可能性は一番高い。
「時にははっきりと事実を伝えて差し上げることが、なによりの慈悲でしょうな」
く・た・ば・れ。
さらに後方に目をやると、岩に腰かけて弓の手入れをしているパーティー最年少のシーフ、クルトがいる。
「いいんじゃね、それで。正直、なんで付いて来てんだろって思ってたし」
手入れの手を止めず、こちらを一瞥もしないまま心底どうでもいいように言った。クルトとはろくに会話もしなかったし、期待はしていなかったけど……。
最後の望みをかけて背後に顔を向けると、戦斧を背負った長身の戦士カールが腕組みをして立っている。
「ははっ、リーダーが決めたことなら仕方ないな、ははっ」
カールは、なぜか笑いながら俺の視線に答えた。駄目だこいつ……なにも考えちゃいない。
冷たい視線と重苦しい空気に襲われてその場にへたり込んでしまいそうになるのを、俺は膝に手をついてギリギリで堪えた。
「わかったよ……こんなパーティーこっちから辞めてやるよ」
歯を食いしばりながら絞り出すように言って、俺は全力で駆け出した。
「ばっかやろーっ!」
捨て台詞に誰かが反応する気配はなく、ただ山々に幾重にもやまびこが反響するだけだった。
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