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カーテンに隠れきらぬか夏の猫
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かあてんに かくれきらぬか なつのねこ
うちの猫はカーテンを閉めるとその裏側(窓側?)に隠れることがあります。特に、朝。
猫としては、隠れるつもりはなくて単に窓の外を見たいから邪魔なカーテンを潜って外を見ているだけ、なのかもしれませんが、人間目線で、猫を探しても見つからないときに「あ、カーテンの裏にいた」ということがあると、隠れていると感じてしまうものでして。
今から出かけるからちゃんとリビングの中に二匹ともいることを確認したい、というときにこの状況になると、なかなか困りものです。
……が、最近では身体が大きくなってきたからなのか、カーテンの裾から肢や尻尾が突き出していることがありまして。
その場合はもう、そこにいることが一目瞭然です。まさに「頭隠して尻隠さず」状態。隠れてるつもりはないのかもしれませんが。
今回はそんな状況を詠んでみました。
そして俳句作りでは、猫がカーテンから体の一部を突き出している状況を描きつつ、その描写にどうやって季節の要素を加えるか、という点に頭を悩ませることに。
単純に季節を入れるだけなら「夏の猫」などのようにしてしまう手もあるのですが、そうした場合、その季節の猫だから何なのか、という点に意味を持たせられなければ、ただルールだから季語を入れました、ということになってしまいます。
しかも、季語を入れると当然音数も圧迫されますから、17音に収まるかどうかも課題に。
ですが、このように悩むときは、「とにかく色々なバリエーションを作って並べてみる」のが一番。うんうん悩むのではなく、とにかく書いてみる。そうしているうちに良いアイデアが浮かんでくるかもしれない。
ブレインストーミングの基本です。
そんなわけで、今回は候補作が結構な数に上りました。数えてみると、40近くあります。
それがこちら。
カーテンから漏れる日差しと猫の尻尾
カーテンから漏れる日差しと猫の肢
カーテンの隙間の日差し猫の肢
カーテンの隙間に日差し猫の肢
カーテンの隙間の夏日猫の肢
カーテンの隙間に夏日猫の肢
カーテンに漏れて夏日と猫の肢
カーテンの裾の夏日と猫の肢
カーテンの裾に夏日と猫の肢
カーテンの裾から夏日猫の肢
カーテンの裾から夏日猫の肢
カーテンを漏れて夏日と猫の肢
カーテンや漏れた夏日と猫の肢
カーテンや裾に夏日と猫の肢
カーテンや裾には夏日猫の肢
猫の肢カーテン捲り夏日差す
猫の肢夏日と突き出すカーテンに
猫の肢夏日と突き出すカーテン裏
帳の裾夏日と突き出す猫の肢
帳の裾夏日と漏れる猫の肢
帳の裾漏れて夏日と猫の肢
帳の裾突き出す猫の尾と夏日
帳の裾隙間に猫の尾と夏日
カーテンや隙間に猫の尾と夏日
カーテンや隙間に猫の尾と夏日
眠り猫帳に肢出して春日
カーテンや春日に眠る猫の肢
カーテンや夏の朝日と猫の肢
カーテンや猫が肢出す夏の朝
春日に猫帳の裾に肢出して
春日に猫肢は帳に隠されず
春日に猫肢は帳のこちら側
春の猫肢は帳の内側に
春の猫帳に突き出すは肉球
春の猫帳の隙間に肢見せて
夏の朝帳の裾に猫の肢
春日や帳の裾に猫の肢
夏日影帳の裾に猫の肢
夏日影カーテンから出た猫の肢
夏日影帳を漏れて猫の肢
カーテンや漏れし夏日と猫の肢
以上のうち、最初の4つは、季語がありません。「日差し」は季語にはならないのです。
それでもあえてこれら4つを作ったのは、季語のことは一旦脇に置いて17音に収める形を探る必要があったから。この過程で、ひとまず字余り込みでなら音数は調節できることを確認しました。
そして5つめ以降。「夏日」あるいは「春日」が登場します。ここでルビを振ったのは、この二文字が色々な読み仮名を持つため。
ちなみに、春夏秋冬の一文字を冠した「〇日」という言葉はそれぞれの季節の季語に存在しているのですが、そのいずれでも、その季節の一日という意味と、その季節の太陽または日差しという意味とで、独立した別の季語になります。そして候補作の最後のほうから登場する「夏日影」は、日差しの意味での「夏日」の傍題。「影」と入りますが日差しの意味で、この「〇日影」も春夏秋冬全てに存在。
もともと「日差し」に置き換える季語を探していたので、ちょうどいい季語ではあります。
……なのですが、ここからが迷走したところでして。
まず、「カーテン」に続く助詞を「に」、「を」、「から」、「や」のどれにするかを悩んだ点。日本語として状況を正しく描くには「に」、「を」、「から」のいずれかなのですが、それらだと散文的(説明口調)になり、詩らしくない、一方で「や」だと俳句っぽくはあるのですがどこか狙いすぎ感も出てきてしまう、というのが悩みどころでした。
次に、「夏日」と「春日」の対立。「夏の朝」と「春の猫」の対立にもつながっています。
猫がのんびり寝転がっている長閑な様子、ということであれば春が一番なのですが、春は遮光のカーテンは開けていることのほうが多いのでは、という点が気になりました。カーテンを閉め切っているのに猫が隙間を開けるせいで日差しが入ってくる、という状況であれば季節は夏です。
さらに、「カーテン」をもっと短い言葉で言い換えられないか、という悪あがきもしてます。その中で見つかったのが、「帳」。
厳密にはカーテンそのものを言う言葉ではなく垂らした幕のことを言う言葉なのですが、日差しを連想させる言葉とセットにすることでカーテンを意識させる、という方法を試みています。その方法自体は成功したとは思うのですが、結局、「カーテン」とどちらが面白みがあるかという問題に。
こうしたことを一通り書き並べた後で見比べてみて、ひとまず「カーテンを漏れて夏日と猫の肢」に決まりました。候補作の最後「カーテンや漏れし夏日と猫の肢」は前述した散文的という点を気にしてのものだったのですが、「漏れて」ならば詩的にもなるかなと判断。
……で、これで推敲を終えようと思ったのですが、ふと、結局カーテンの裾のところから猫の肢が突き出してましたということしか描けていないな、と感じました。状況は見えてきそうなのですが、それだけ。
そこでさらに悪あがきをして、その状況だからどう思ったのか、という内容を加えられないかと考えてみました。
こうして出てきたのが、「カーテンに隠れきらぬか夏の猫」という今の形。
夏ならば猫が「ぐでっ」と横になるのでカーテンの裾から肢や尻尾が突き出してくる、ということを含意できます。こう考えると、「隙間」や「漏れる」、「肢」といった言葉はこの方法で削れたのですね……
さんざん悩みぬいて決まった後に根底からひっくり返る、というのはこの企画で何度も経験したことですが、今回もそのパターンでした。今までの苦労は何だったんだと思う一方、凝っていたものが一気にほぐれたような解放感を味わえる瞬間です……
うちの猫はカーテンを閉めるとその裏側(窓側?)に隠れることがあります。特に、朝。
猫としては、隠れるつもりはなくて単に窓の外を見たいから邪魔なカーテンを潜って外を見ているだけ、なのかもしれませんが、人間目線で、猫を探しても見つからないときに「あ、カーテンの裏にいた」ということがあると、隠れていると感じてしまうものでして。
今から出かけるからちゃんとリビングの中に二匹ともいることを確認したい、というときにこの状況になると、なかなか困りものです。
……が、最近では身体が大きくなってきたからなのか、カーテンの裾から肢や尻尾が突き出していることがありまして。
その場合はもう、そこにいることが一目瞭然です。まさに「頭隠して尻隠さず」状態。隠れてるつもりはないのかもしれませんが。
今回はそんな状況を詠んでみました。
そして俳句作りでは、猫がカーテンから体の一部を突き出している状況を描きつつ、その描写にどうやって季節の要素を加えるか、という点に頭を悩ませることに。
単純に季節を入れるだけなら「夏の猫」などのようにしてしまう手もあるのですが、そうした場合、その季節の猫だから何なのか、という点に意味を持たせられなければ、ただルールだから季語を入れました、ということになってしまいます。
しかも、季語を入れると当然音数も圧迫されますから、17音に収まるかどうかも課題に。
ですが、このように悩むときは、「とにかく色々なバリエーションを作って並べてみる」のが一番。うんうん悩むのではなく、とにかく書いてみる。そうしているうちに良いアイデアが浮かんでくるかもしれない。
ブレインストーミングの基本です。
そんなわけで、今回は候補作が結構な数に上りました。数えてみると、40近くあります。
それがこちら。
カーテンから漏れる日差しと猫の尻尾
カーテンから漏れる日差しと猫の肢
カーテンの隙間の日差し猫の肢
カーテンの隙間に日差し猫の肢
カーテンの隙間の夏日猫の肢
カーテンの隙間に夏日猫の肢
カーテンに漏れて夏日と猫の肢
カーテンの裾の夏日と猫の肢
カーテンの裾に夏日と猫の肢
カーテンの裾から夏日猫の肢
カーテンの裾から夏日猫の肢
カーテンを漏れて夏日と猫の肢
カーテンや漏れた夏日と猫の肢
カーテンや裾に夏日と猫の肢
カーテンや裾には夏日猫の肢
猫の肢カーテン捲り夏日差す
猫の肢夏日と突き出すカーテンに
猫の肢夏日と突き出すカーテン裏
帳の裾夏日と突き出す猫の肢
帳の裾夏日と漏れる猫の肢
帳の裾漏れて夏日と猫の肢
帳の裾突き出す猫の尾と夏日
帳の裾隙間に猫の尾と夏日
カーテンや隙間に猫の尾と夏日
カーテンや隙間に猫の尾と夏日
眠り猫帳に肢出して春日
カーテンや春日に眠る猫の肢
カーテンや夏の朝日と猫の肢
カーテンや猫が肢出す夏の朝
春日に猫帳の裾に肢出して
春日に猫肢は帳に隠されず
春日に猫肢は帳のこちら側
春の猫肢は帳の内側に
春の猫帳に突き出すは肉球
春の猫帳の隙間に肢見せて
夏の朝帳の裾に猫の肢
春日や帳の裾に猫の肢
夏日影帳の裾に猫の肢
夏日影カーテンから出た猫の肢
夏日影帳を漏れて猫の肢
カーテンや漏れし夏日と猫の肢
以上のうち、最初の4つは、季語がありません。「日差し」は季語にはならないのです。
それでもあえてこれら4つを作ったのは、季語のことは一旦脇に置いて17音に収める形を探る必要があったから。この過程で、ひとまず字余り込みでなら音数は調節できることを確認しました。
そして5つめ以降。「夏日」あるいは「春日」が登場します。ここでルビを振ったのは、この二文字が色々な読み仮名を持つため。
ちなみに、春夏秋冬の一文字を冠した「〇日」という言葉はそれぞれの季節の季語に存在しているのですが、そのいずれでも、その季節の一日という意味と、その季節の太陽または日差しという意味とで、独立した別の季語になります。そして候補作の最後のほうから登場する「夏日影」は、日差しの意味での「夏日」の傍題。「影」と入りますが日差しの意味で、この「〇日影」も春夏秋冬全てに存在。
もともと「日差し」に置き換える季語を探していたので、ちょうどいい季語ではあります。
……なのですが、ここからが迷走したところでして。
まず、「カーテン」に続く助詞を「に」、「を」、「から」、「や」のどれにするかを悩んだ点。日本語として状況を正しく描くには「に」、「を」、「から」のいずれかなのですが、それらだと散文的(説明口調)になり、詩らしくない、一方で「や」だと俳句っぽくはあるのですがどこか狙いすぎ感も出てきてしまう、というのが悩みどころでした。
次に、「夏日」と「春日」の対立。「夏の朝」と「春の猫」の対立にもつながっています。
猫がのんびり寝転がっている長閑な様子、ということであれば春が一番なのですが、春は遮光のカーテンは開けていることのほうが多いのでは、という点が気になりました。カーテンを閉め切っているのに猫が隙間を開けるせいで日差しが入ってくる、という状況であれば季節は夏です。
さらに、「カーテン」をもっと短い言葉で言い換えられないか、という悪あがきもしてます。その中で見つかったのが、「帳」。
厳密にはカーテンそのものを言う言葉ではなく垂らした幕のことを言う言葉なのですが、日差しを連想させる言葉とセットにすることでカーテンを意識させる、という方法を試みています。その方法自体は成功したとは思うのですが、結局、「カーテン」とどちらが面白みがあるかという問題に。
こうしたことを一通り書き並べた後で見比べてみて、ひとまず「カーテンを漏れて夏日と猫の肢」に決まりました。候補作の最後「カーテンや漏れし夏日と猫の肢」は前述した散文的という点を気にしてのものだったのですが、「漏れて」ならば詩的にもなるかなと判断。
……で、これで推敲を終えようと思ったのですが、ふと、結局カーテンの裾のところから猫の肢が突き出してましたということしか描けていないな、と感じました。状況は見えてきそうなのですが、それだけ。
そこでさらに悪あがきをして、その状況だからどう思ったのか、という内容を加えられないかと考えてみました。
こうして出てきたのが、「カーテンに隠れきらぬか夏の猫」という今の形。
夏ならば猫が「ぐでっ」と横になるのでカーテンの裾から肢や尻尾が突き出してくる、ということを含意できます。こう考えると、「隙間」や「漏れる」、「肢」といった言葉はこの方法で削れたのですね……
さんざん悩みぬいて決まった後に根底からひっくり返る、というのはこの企画で何度も経験したことですが、今回もそのパターンでした。今までの苦労は何だったんだと思う一方、凝っていたものが一気にほぐれたような解放感を味わえる瞬間です……
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