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お中元猫髭開く段ボール
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おちゅうげん ねこひげひらく だんぼーる
猫というものは感情が髭に現れる生き物です。
寝ているときなど平静でいる間は髭の向きは真横よりもやや後ろ方向に伸び、かつ、閉じかけた扇子のように髭がほぼ平行に揃っているのですが、何かに興味を持つと髭が前方向にも向くようになってきます。しかもその向きの変わり具合が一本一本違っており、顔の中心に近い髭ほど角度の変化が大きいため、ウニの棘のように全方位に広がるように髭と髭の間が開きます。
ソファなどで横になっているとき、何故か猫が顔を近づけてくることがあって、そういうとき目の前に開いた髭があると、ああこれ黙って言いなりになるしかないと覚悟を決めるほかないんですね……ちなみこの場合の言いなりになるとは、お腹の上に乗って来るので気のすむまで撫でてあげること。
ともあれ、今回はそうした猫の生態(?)を題材にした句に挑戦してみました。
最初に頭に浮かんだのは、「猫の髭開く」というフレーズでした。「猫の」と「髭開く」で3音と5音に分かれるので、これより前に5・4で分かれる9音のフレーズを加えればちょうど五・七・五の諧調に乗せられます。そして前半の9音に季語を入れれば俳句としては完成。その場合、季語を活かす関係上、猫が髭を開く様子と対になるような季語を選ぶことになります。
こうした条件から考えたのが、「満開の桜や猫の髭開く」という形でした。
猫が満開の桜に興味を持つかどうかは分かりませんが、人にとっては華やかな情景で、人も楽しいし猫も何かに興味持ってて楽しいし皆楽しくて大変宜しい、という作りにできるかなと思ったわけです。
後々よく考えてみたら、桜が満開の時は猫は寝ているほうが風情があるんですけどね。
そして実は、最初、この形から動かしようがないのではないか、とも思っていました。最初から完成形になってしまった、という感覚です。
まあ、これは錯覚で、そのように錯覚してしまった理由は、詠みたい要素が少なすぎたからなのですが。この時点では「猫の髭開く」が言えれば満足だったので、他の部分が何でもよい状態になってしまっていたのです。
要するに、目標が低すぎたので、満足するまでも早かった、ということ。
ですが、季語含む9音の部分をいろいろ入れ替えてみて、やはり単調だったことに気付きました。その過程で作ったものが次の形です。
満開の桜や猫の髭開く
お歳暮の包みに猫の髭開く
冷蔵庫開けば猫の髭開く
紋白蝶ひらひら猫の髭開く
揚羽蝶ひらひら猫の髭開く
真っ赤なる紅葉や猫の髭開く
実はここまでの過程は、この連載は推敲過程を示すものなのでひとまず推敲してみる、という足掻きからのものでした。
が、こうして候補を並べてみると、なんとなく薄味であることに気付きます。そこで、俳句の中に動きを持たせたらどうか、と思うに至りました。
そしてできたのが次の3つ。
啓蟄や寝起きの猫の髭開く
啓蟄や猫の寝起きの髭開く
お歳暮の開けば猫の髭開く
上2つの季語「啓蟄」(春)は二十四節季の一つで、暖かくなって土の中から虫が出てくる時期という意味があります。現在の暦では3月の上旬ごろ。虫が出てきたので、それを捕まえる猫もそわそわしてきた、という作りにしてみました。
「や」を入れても5音で済んだので、「寝起き」を入れる余裕があったのです。猫があくびしながら起きてみたら目の前を虫がもぞもぞと。ぴくっ気が付いてじっと見つめるという。虫さんには逃げて欲しいところですが。
そして、ついでにと「お歳暮」の形から動きを持たせるものも作ってみました。アイデア出しをするとき、こうした「ひとまずやってみる」をすると、次のアイデアが出やすくなることがあります。今回もそうでした。
お歳暮の箱にぞ開く猫の髭
お歳暮の箱にこそ猫髭開く
お歳暮や箱にぞ猫の髭開く
お歳暮や箱にぞ開く猫の髭
先に「お歳暮」に対して「包み」を使った形がありましたが、これを「箱」にしたらどうか、と言うアイデアが浮かんできました。音数が少し余るので、「ぞ」や「こそ」を入れて、お歳暮の中身ではなく包装のほうなのだということを強調できます。
ここでは上の句の「の」を「や」に替えてみたり、後半の語順を入れ替えたりしてみました。この4つの中からだと「お歳暮や箱にぞ猫の髭開く」が私の中では一番。お歳暮って中身が重要なのにお猫様は箱のほうに夢中、という意味合いが一番強く出てきています。
そして、「お歳暮」以外にも贈り物に関する季語はないかと考えて、「お中元」を試してみました。
それがこちら。
お中元箱にぞ猫の髭開く
これだと、「お歳暮や」のほうがインパクトがあります。「や」のあるなしの違いなのですが、強調の「や」が入るかどうかは案外大きいです。
そこでやっぱり「お歳暮」かな、と思っていたのですが、ふと、上手く詰めれば最後「段ボール」でも五・七・五に収まると気付きました。それが次の形。
お中元猫髭開く段ボール
そのまま今の形になっているものです。
「箱」よりも「段ボール」のほうが猫が好みそうなものという感じがありますし、日常感があってイメージしやすいとういこと、「元」と「段」で韻を踏めることから、こちらにすることにしました。
アイデアを否定せずにとにかく出してみる、というのがブレインストーミングの基本ですが、今回はその基本に助けられた形でした。やはり、アイデアって、頭の中にあるものを一旦吐き出すと、次のものが生まれやすくなるんですね……
※あとがき:今回はギリギリ間に合いましたが、もうストックが尽きました。次の更新日には間に合うか…?!
猫というものは感情が髭に現れる生き物です。
寝ているときなど平静でいる間は髭の向きは真横よりもやや後ろ方向に伸び、かつ、閉じかけた扇子のように髭がほぼ平行に揃っているのですが、何かに興味を持つと髭が前方向にも向くようになってきます。しかもその向きの変わり具合が一本一本違っており、顔の中心に近い髭ほど角度の変化が大きいため、ウニの棘のように全方位に広がるように髭と髭の間が開きます。
ソファなどで横になっているとき、何故か猫が顔を近づけてくることがあって、そういうとき目の前に開いた髭があると、ああこれ黙って言いなりになるしかないと覚悟を決めるほかないんですね……ちなみこの場合の言いなりになるとは、お腹の上に乗って来るので気のすむまで撫でてあげること。
ともあれ、今回はそうした猫の生態(?)を題材にした句に挑戦してみました。
最初に頭に浮かんだのは、「猫の髭開く」というフレーズでした。「猫の」と「髭開く」で3音と5音に分かれるので、これより前に5・4で分かれる9音のフレーズを加えればちょうど五・七・五の諧調に乗せられます。そして前半の9音に季語を入れれば俳句としては完成。その場合、季語を活かす関係上、猫が髭を開く様子と対になるような季語を選ぶことになります。
こうした条件から考えたのが、「満開の桜や猫の髭開く」という形でした。
猫が満開の桜に興味を持つかどうかは分かりませんが、人にとっては華やかな情景で、人も楽しいし猫も何かに興味持ってて楽しいし皆楽しくて大変宜しい、という作りにできるかなと思ったわけです。
後々よく考えてみたら、桜が満開の時は猫は寝ているほうが風情があるんですけどね。
そして実は、最初、この形から動かしようがないのではないか、とも思っていました。最初から完成形になってしまった、という感覚です。
まあ、これは錯覚で、そのように錯覚してしまった理由は、詠みたい要素が少なすぎたからなのですが。この時点では「猫の髭開く」が言えれば満足だったので、他の部分が何でもよい状態になってしまっていたのです。
要するに、目標が低すぎたので、満足するまでも早かった、ということ。
ですが、季語含む9音の部分をいろいろ入れ替えてみて、やはり単調だったことに気付きました。その過程で作ったものが次の形です。
満開の桜や猫の髭開く
お歳暮の包みに猫の髭開く
冷蔵庫開けば猫の髭開く
紋白蝶ひらひら猫の髭開く
揚羽蝶ひらひら猫の髭開く
真っ赤なる紅葉や猫の髭開く
実はここまでの過程は、この連載は推敲過程を示すものなのでひとまず推敲してみる、という足掻きからのものでした。
が、こうして候補を並べてみると、なんとなく薄味であることに気付きます。そこで、俳句の中に動きを持たせたらどうか、と思うに至りました。
そしてできたのが次の3つ。
啓蟄や寝起きの猫の髭開く
啓蟄や猫の寝起きの髭開く
お歳暮の開けば猫の髭開く
上2つの季語「啓蟄」(春)は二十四節季の一つで、暖かくなって土の中から虫が出てくる時期という意味があります。現在の暦では3月の上旬ごろ。虫が出てきたので、それを捕まえる猫もそわそわしてきた、という作りにしてみました。
「や」を入れても5音で済んだので、「寝起き」を入れる余裕があったのです。猫があくびしながら起きてみたら目の前を虫がもぞもぞと。ぴくっ気が付いてじっと見つめるという。虫さんには逃げて欲しいところですが。
そして、ついでにと「お歳暮」の形から動きを持たせるものも作ってみました。アイデア出しをするとき、こうした「ひとまずやってみる」をすると、次のアイデアが出やすくなることがあります。今回もそうでした。
お歳暮の箱にぞ開く猫の髭
お歳暮の箱にこそ猫髭開く
お歳暮や箱にぞ猫の髭開く
お歳暮や箱にぞ開く猫の髭
先に「お歳暮」に対して「包み」を使った形がありましたが、これを「箱」にしたらどうか、と言うアイデアが浮かんできました。音数が少し余るので、「ぞ」や「こそ」を入れて、お歳暮の中身ではなく包装のほうなのだということを強調できます。
ここでは上の句の「の」を「や」に替えてみたり、後半の語順を入れ替えたりしてみました。この4つの中からだと「お歳暮や箱にぞ猫の髭開く」が私の中では一番。お歳暮って中身が重要なのにお猫様は箱のほうに夢中、という意味合いが一番強く出てきています。
そして、「お歳暮」以外にも贈り物に関する季語はないかと考えて、「お中元」を試してみました。
それがこちら。
お中元箱にぞ猫の髭開く
これだと、「お歳暮や」のほうがインパクトがあります。「や」のあるなしの違いなのですが、強調の「や」が入るかどうかは案外大きいです。
そこでやっぱり「お歳暮」かな、と思っていたのですが、ふと、上手く詰めれば最後「段ボール」でも五・七・五に収まると気付きました。それが次の形。
お中元猫髭開く段ボール
そのまま今の形になっているものです。
「箱」よりも「段ボール」のほうが猫が好みそうなものという感じがありますし、日常感があってイメージしやすいとういこと、「元」と「段」で韻を踏めることから、こちらにすることにしました。
アイデアを否定せずにとにかく出してみる、というのがブレインストーミングの基本ですが、今回はその基本に助けられた形でした。やはり、アイデアって、頭の中にあるものを一旦吐き出すと、次のものが生まれやすくなるんですね……
※あとがき:今回はギリギリ間に合いましたが、もうストックが尽きました。次の更新日には間に合うか…?!
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