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いざ行かん猫跳び出せば風光る
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いざゆかん ねことびだせば かぜひかる
猫といえば跳躍力も特徴の一つ。高いところへ上るのも見事ですが、反対に高いところから跳び降りたり、駆けながら溝などを跳び越えたりするのも見事です。
そうした、猫がぽーんと跳ぶ様子を詠んでみたのが今回の句です。
もっとも、最初は跳ぶ様子から着想したわけではなく、「春一番」という季語を猫と結び付けてみたところから俳句作りが始まったのですが。
その最初の形は、次のものでした。
春一番猫のジャンプも春一番
上の句の「春一番」は、春になって最初に吹く強い風の春一番。下の句の「春一番」は、この春で一番のもの、という意味で書いたものです。突風の春一番に負けないほどの見事なジャンプで、その見事さがこの春で一番、という意味を込めつつ、同じ字で意味が違うという遊び要素も入れてみた……つもりになっていました。
ですが、時間をおいて見てみると、色々と問題が見えてくることに。
一番引っかかったのが、説明なしで意図が伝わるか、ということでした。
この形を作った私自身には下の句の「春一番」が「この春で一番」という意味だということは、すぐ分かります。しかし、その事情を知らない人が見れば、2つの「春一番」はどちらも風のことに見えるはず。じっくり考えてくれる人であれば気付いてくれるかもしれませんが、それでも、猫のジャンプの様子を突風に喩えた句なのか、と思ってしまう人もいるはずです。
しかも、私の想定する意味だと、時制が一致しません。
突風の春一番が吹くのは春の初め頃。これに対し、猫が見せてくれたジャンプがその春の間で一番のものだったのかどうかは春が終わってみないと分からないことです。
ともあれ、最初の「春一番猫のジャンプも春一番」には色々問題があるという結論に。そこで、推敲の過程に入りました。その過程が次の通りです。
春一番猫のジャンプは一直線
春一番猫のジャンプの放物線
春一番猫のぽーんととぶ姿
春一番猫のぴょーんととぶ姿
春一番とびだす猫の放物線
春一番駆け抜ける猫一直線
春一番駆け抜けた猫ぴょんと跳び
春一番猫のジャンプも一直線
春一番跳び越す猫の放物線
春風や跳び出す猫の放物線
放物線跳び出す猫に風光る
放物線猫のジャンプに風光る
いざ行かん猫跳び出せば風光る
いざ行かん跳び出す猫に風光る
いざ行かん春光を背に猫が跳ぶ
いざ行かん跳ぶ猫の背に風光る
この通り、推敲の最初のうちは「春一番」を残しつつ、他の部分でどう調節するか、と考えていました。これは、「春一番」に拘ったというよりは、そこを変えることを思いつかなかったからです。
そして、この頃に悩んでいたのが、「一直線」か「放物線」か、という問題。突風との対比なら「一直線」のほうが良いのですが、ジャンプした猫が描く軌道は放物線です。一直線になるのは真上にジャンプしたときだけ。言葉の並びと正確性、どちらを取るかの問題、なのですが……
我ながらアホなことで悩んでいるな、という自覚はありました。なんで俳句を詠むときに物理の先生のようなことを気にしているのか、と。それも、今振り返れば、の話ではなく、当時から、です。
尚、この過程で、「一直線」ならば地面を駆け抜ける描写のほうが近いのでは、「駆け抜ける」なども試しに入れています。実はこれが別の句で活きることになりました。アホな悩みなりに真剣に向き合うと、こういう意外な副産物に出会えるんですね……これが俳句づくりの良いところなのかも。
それはそれとして、この段階では納得のいく形のものが作れず、実は一度、お蔵入りにしていました。
ですが、その状況は、歳時記を手にしたことで一変します。
歳時記で季語を調べると、その季語の意味だけでなく傍題|《バリエーションのようなもの》や近い意味の季語なども一緒に見られます。そして、試しに「春一番」を調べてみたらその欄に「春風」、そして「春風」の欄には「風光る」が載っていました。
他にも春の風に関係のある季語を色々知れたのですが、この2つは今回の題材にぴったりだと感じました。その理由は、春の風の中でも穏やかなものを指しているから。
……はい。この段階で気づいたのですが、「春一番」だと問題になる点がもう一つあったのです。警戒心の強い猫が風の強いときに跳ぶだろうか、という問題です。もちろん、そんなのお構いなしの猛者もいるのでしょうが。
こうしたわけで、「春風」と「風光る」を試してみました。すると、今度は「放物線」が浮いてくることに……
そこで思い切って「放物線」を消し、その代わりに入る5音を探して出てきたのが「いざ行かん」です。
もともと、猫が元気よく跳び出す様子を描きたかったので、跳び出す前の猫の気持ちを言葉にしてしまおう、という発想からのものでした。
あとは、語順や細かな違いで4通りを並べて比較。「背に」が入ると固くなりすぎる気がしたので、「猫」と「跳び出す」のどちらを先にするかという2択に。ここは主役の「猫」を先に出したほうが良いという判断から、「いざ行かん猫跳び出せば風光る」を使うことにしました。
今回は、歳時記にかなり助けられた形になりました。ツールの存在って大きいですね……
猫といえば跳躍力も特徴の一つ。高いところへ上るのも見事ですが、反対に高いところから跳び降りたり、駆けながら溝などを跳び越えたりするのも見事です。
そうした、猫がぽーんと跳ぶ様子を詠んでみたのが今回の句です。
もっとも、最初は跳ぶ様子から着想したわけではなく、「春一番」という季語を猫と結び付けてみたところから俳句作りが始まったのですが。
その最初の形は、次のものでした。
春一番猫のジャンプも春一番
上の句の「春一番」は、春になって最初に吹く強い風の春一番。下の句の「春一番」は、この春で一番のもの、という意味で書いたものです。突風の春一番に負けないほどの見事なジャンプで、その見事さがこの春で一番、という意味を込めつつ、同じ字で意味が違うという遊び要素も入れてみた……つもりになっていました。
ですが、時間をおいて見てみると、色々と問題が見えてくることに。
一番引っかかったのが、説明なしで意図が伝わるか、ということでした。
この形を作った私自身には下の句の「春一番」が「この春で一番」という意味だということは、すぐ分かります。しかし、その事情を知らない人が見れば、2つの「春一番」はどちらも風のことに見えるはず。じっくり考えてくれる人であれば気付いてくれるかもしれませんが、それでも、猫のジャンプの様子を突風に喩えた句なのか、と思ってしまう人もいるはずです。
しかも、私の想定する意味だと、時制が一致しません。
突風の春一番が吹くのは春の初め頃。これに対し、猫が見せてくれたジャンプがその春の間で一番のものだったのかどうかは春が終わってみないと分からないことです。
ともあれ、最初の「春一番猫のジャンプも春一番」には色々問題があるという結論に。そこで、推敲の過程に入りました。その過程が次の通りです。
春一番猫のジャンプは一直線
春一番猫のジャンプの放物線
春一番猫のぽーんととぶ姿
春一番猫のぴょーんととぶ姿
春一番とびだす猫の放物線
春一番駆け抜ける猫一直線
春一番駆け抜けた猫ぴょんと跳び
春一番猫のジャンプも一直線
春一番跳び越す猫の放物線
春風や跳び出す猫の放物線
放物線跳び出す猫に風光る
放物線猫のジャンプに風光る
いざ行かん猫跳び出せば風光る
いざ行かん跳び出す猫に風光る
いざ行かん春光を背に猫が跳ぶ
いざ行かん跳ぶ猫の背に風光る
この通り、推敲の最初のうちは「春一番」を残しつつ、他の部分でどう調節するか、と考えていました。これは、「春一番」に拘ったというよりは、そこを変えることを思いつかなかったからです。
そして、この頃に悩んでいたのが、「一直線」か「放物線」か、という問題。突風との対比なら「一直線」のほうが良いのですが、ジャンプした猫が描く軌道は放物線です。一直線になるのは真上にジャンプしたときだけ。言葉の並びと正確性、どちらを取るかの問題、なのですが……
我ながらアホなことで悩んでいるな、という自覚はありました。なんで俳句を詠むときに物理の先生のようなことを気にしているのか、と。それも、今振り返れば、の話ではなく、当時から、です。
尚、この過程で、「一直線」ならば地面を駆け抜ける描写のほうが近いのでは、「駆け抜ける」なども試しに入れています。実はこれが別の句で活きることになりました。アホな悩みなりに真剣に向き合うと、こういう意外な副産物に出会えるんですね……これが俳句づくりの良いところなのかも。
それはそれとして、この段階では納得のいく形のものが作れず、実は一度、お蔵入りにしていました。
ですが、その状況は、歳時記を手にしたことで一変します。
歳時記で季語を調べると、その季語の意味だけでなく傍題|《バリエーションのようなもの》や近い意味の季語なども一緒に見られます。そして、試しに「春一番」を調べてみたらその欄に「春風」、そして「春風」の欄には「風光る」が載っていました。
他にも春の風に関係のある季語を色々知れたのですが、この2つは今回の題材にぴったりだと感じました。その理由は、春の風の中でも穏やかなものを指しているから。
……はい。この段階で気づいたのですが、「春一番」だと問題になる点がもう一つあったのです。警戒心の強い猫が風の強いときに跳ぶだろうか、という問題です。もちろん、そんなのお構いなしの猛者もいるのでしょうが。
こうしたわけで、「春風」と「風光る」を試してみました。すると、今度は「放物線」が浮いてくることに……
そこで思い切って「放物線」を消し、その代わりに入る5音を探して出てきたのが「いざ行かん」です。
もともと、猫が元気よく跳び出す様子を描きたかったので、跳び出す前の猫の気持ちを言葉にしてしまおう、という発想からのものでした。
あとは、語順や細かな違いで4通りを並べて比較。「背に」が入ると固くなりすぎる気がしたので、「猫」と「跳び出す」のどちらを先にするかという2択に。ここは主役の「猫」を先に出したほうが良いという判断から、「いざ行かん猫跳び出せば風光る」を使うことにしました。
今回は、歳時記にかなり助けられた形になりました。ツールの存在って大きいですね……
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