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読書の秋撫でなきゃ飛び乗る猫の貌
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どくしょのあき なでなきゃとびのる ねこのかお
読書の秋から一句。
秋口、買ってきた本を読もうと床に座ったら、猫の一匹が寄ってきて、寂しそうな顔を浮かべてきました。
具体的には、「お座り」の座り方で、首から上がしょげているように少し下向き。目は黒目の部分が小さくなり、上目遣いでこちらの顔を見る。そして、この角度で「にゃー」と鳴くので下の歯が2本ちょこんと見え、その口の周りにある髭は下向きに垂れ下がってる、とそんな感じの顔です。
この猫がこんな顔をするとき、背中を撫でてあげると大人しく寝転がるのですが、本人(?)はむしろ人の上に乗りたがっているようで。私が寝転がると、ゴロゴロ言いながら乗って来ます。しかし、寝転がらず、かつ、撫でずにいると、肩の上に飛び乗ってくる。なぜか、胡坐をかいている膝の上には来ないのです。
これはもしかして、甘えではなく支配欲の現れなのか……浮かべる表情は「寂しそう」なのに、なんとも判断に困る行動です。
と、こんな状況から生まれたのが、今回の句でした。
実は、前々から、パソコンを使っているときに邪魔してくるので「パソコンは猫がやきもちやく装置」という形(五・七・五だけど季語がない)を考えており、これを俳句の形に落とし込めないかな、と思っていたのですが、そこに冒頭の床で本を読む出来事が起こったので、「読書の秋」を使うことにしたわけです。
そこからの推敲の過程は、次の通り。
読書の秋背中に飛びつきたがる猫
読書の秋「撫でなきゃ背中に飛び乗るぞ」
読書の秋背中に飛び乗らんと猫
読書の秋背中に飛び乗りそうな猫
読書の秋猫の飛び乗りそうな顔
読書の秋飛び乗りそうな顔の猫
読書の秋飛び乗りたそうな顔の猫
読書の秋飛び乗らんとする顔の猫
読書の秋飛び乗る構えの猫の顔
読書の秋撫でなきゃ飛び乗る猫の顔
読書の秋撫でなきゃ飛び乗る顔の猫
読書の秋撫でなきゃ飛び乗る貌の猫
「読書の秋」を上の句に持ってくると必然的に字余りになってしまうのですが、そこは最初から割り切ることにしました。
その上で、それぞれの過程でどのようなことを考えていたか、というと……
1番目の「背中に飛びつきたがる猫」。これは散文的、つまり、説明文調になってしまっています。状況は分かるのですが、句を見た瞬間の印象が薄く、面白くない形です。まあ、叩き台としては十分。
2番目の「『撫でなきゃ背中に飛び乗るぞ』」は、1番目が散文的だったことに反発して考えたものです。台詞の後半、「『背中に飛び乗るぞ』」だけでも印象を生めたのですが、さらに印象を強めるために「『撫でなきゃ』」を追加。そして、ここで気づきます。この形だと猫だという情報が伝わらないのでは、と。
3番目の「背中に飛び乗らんと猫」と4番目の「背中に飛び乗りそうな猫」はこの点を踏まえて考案したものです。この形を作ったことで、背中という情報は不要と気づきます。そこで、「背中」の代わりに「顔」を使い、「飛び乗りそうな顔」で色々試してみることに。これが5番目から9番目(「読書の秋飛び乗る構えの猫の顔」)の形。ほとんど、「飛び乗りそう」を別の言葉で言い換えているだけです。
このとき、「飛び乗りそうな」、「飛び乗りたそうな」、「飛び乗らんとする」、「飛び乗る構え」、いずれも、なんとなく間延びしているというか、薄めて引き延ばしたように感じました。文法的にどいうこういうよりも、直感的なものです。今まで情報をぎゅうぎゅう詰めにすることを頑張ってきたからか、もっと頑張れる余地があるはず、と感じました。
そこで、2番目で使った「撫でなきゃ」を再利用。「飛び乗りそうな」も「撫でなきゃ飛び乗る」も中の句を丸ごと全部使いますが、後者のほうが情報量が増えます。ここはこれで満足し、上の句と中の句が決定しました。
あとは、下の句をどうするか、という問題に。そこで候補を並べたのが、10番目から12番目までと、今の形。「猫」と「かお」のどちらを先にするか、「顔」と「貌」のどちらを使うか、という組み合わせの問題です。こういうのが悩みどころで、どれでも大差ないように見えるのですが、だからこそどれかに決めにくいのです。
ただ、「貌」には怖い印象もあるので、使うなら「猫」を先に見せて柔らかい印象を生んでおかなければ、とは感じました。一方、「顔」だと「顔の猫」のほうが座りが良い。結果、2択になり、字のインパクトがある「貌」を採用。こうして、今の形に決まりました。
……なんてことを考えている間も、猫のことは放置してしまっているわけですが。飛び乗られないように、しっかり撫でないと。
読書の秋から一句。
秋口、買ってきた本を読もうと床に座ったら、猫の一匹が寄ってきて、寂しそうな顔を浮かべてきました。
具体的には、「お座り」の座り方で、首から上がしょげているように少し下向き。目は黒目の部分が小さくなり、上目遣いでこちらの顔を見る。そして、この角度で「にゃー」と鳴くので下の歯が2本ちょこんと見え、その口の周りにある髭は下向きに垂れ下がってる、とそんな感じの顔です。
この猫がこんな顔をするとき、背中を撫でてあげると大人しく寝転がるのですが、本人(?)はむしろ人の上に乗りたがっているようで。私が寝転がると、ゴロゴロ言いながら乗って来ます。しかし、寝転がらず、かつ、撫でずにいると、肩の上に飛び乗ってくる。なぜか、胡坐をかいている膝の上には来ないのです。
これはもしかして、甘えではなく支配欲の現れなのか……浮かべる表情は「寂しそう」なのに、なんとも判断に困る行動です。
と、こんな状況から生まれたのが、今回の句でした。
実は、前々から、パソコンを使っているときに邪魔してくるので「パソコンは猫がやきもちやく装置」という形(五・七・五だけど季語がない)を考えており、これを俳句の形に落とし込めないかな、と思っていたのですが、そこに冒頭の床で本を読む出来事が起こったので、「読書の秋」を使うことにしたわけです。
そこからの推敲の過程は、次の通り。
読書の秋背中に飛びつきたがる猫
読書の秋「撫でなきゃ背中に飛び乗るぞ」
読書の秋背中に飛び乗らんと猫
読書の秋背中に飛び乗りそうな猫
読書の秋猫の飛び乗りそうな顔
読書の秋飛び乗りそうな顔の猫
読書の秋飛び乗りたそうな顔の猫
読書の秋飛び乗らんとする顔の猫
読書の秋飛び乗る構えの猫の顔
読書の秋撫でなきゃ飛び乗る猫の顔
読書の秋撫でなきゃ飛び乗る顔の猫
読書の秋撫でなきゃ飛び乗る貌の猫
「読書の秋」を上の句に持ってくると必然的に字余りになってしまうのですが、そこは最初から割り切ることにしました。
その上で、それぞれの過程でどのようなことを考えていたか、というと……
1番目の「背中に飛びつきたがる猫」。これは散文的、つまり、説明文調になってしまっています。状況は分かるのですが、句を見た瞬間の印象が薄く、面白くない形です。まあ、叩き台としては十分。
2番目の「『撫でなきゃ背中に飛び乗るぞ』」は、1番目が散文的だったことに反発して考えたものです。台詞の後半、「『背中に飛び乗るぞ』」だけでも印象を生めたのですが、さらに印象を強めるために「『撫でなきゃ』」を追加。そして、ここで気づきます。この形だと猫だという情報が伝わらないのでは、と。
3番目の「背中に飛び乗らんと猫」と4番目の「背中に飛び乗りそうな猫」はこの点を踏まえて考案したものです。この形を作ったことで、背中という情報は不要と気づきます。そこで、「背中」の代わりに「顔」を使い、「飛び乗りそうな顔」で色々試してみることに。これが5番目から9番目(「読書の秋飛び乗る構えの猫の顔」)の形。ほとんど、「飛び乗りそう」を別の言葉で言い換えているだけです。
このとき、「飛び乗りそうな」、「飛び乗りたそうな」、「飛び乗らんとする」、「飛び乗る構え」、いずれも、なんとなく間延びしているというか、薄めて引き延ばしたように感じました。文法的にどいうこういうよりも、直感的なものです。今まで情報をぎゅうぎゅう詰めにすることを頑張ってきたからか、もっと頑張れる余地があるはず、と感じました。
そこで、2番目で使った「撫でなきゃ」を再利用。「飛び乗りそうな」も「撫でなきゃ飛び乗る」も中の句を丸ごと全部使いますが、後者のほうが情報量が増えます。ここはこれで満足し、上の句と中の句が決定しました。
あとは、下の句をどうするか、という問題に。そこで候補を並べたのが、10番目から12番目までと、今の形。「猫」と「かお」のどちらを先にするか、「顔」と「貌」のどちらを使うか、という組み合わせの問題です。こういうのが悩みどころで、どれでも大差ないように見えるのですが、だからこそどれかに決めにくいのです。
ただ、「貌」には怖い印象もあるので、使うなら「猫」を先に見せて柔らかい印象を生んでおかなければ、とは感じました。一方、「顔」だと「顔の猫」のほうが座りが良い。結果、2択になり、字のインパクトがある「貌」を採用。こうして、今の形に決まりました。
……なんてことを考えている間も、猫のことは放置してしまっているわけですが。飛び乗られないように、しっかり撫でないと。
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