きまぐれ推敲ねこ俳句

小戸エビス

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膝の猫師走の朝も毛づくろい

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 ひざのねこ しわすのあさも けづくろい

 朝、出かけなければいけないのに、膝に猫が乗っていて出かけられない。そんな状況を詠んだ句です。
 なぜか、出かける直前になると乗って来ます。猫には分かるんでしょうかね、そういう気配が。
 なので、毎朝、自発的に降りてくれるを待つか、手で持ち上げて降ろすか、という2択を迫られます。

 さて、この句、冬の季語の「師走」を使いましたが、描いている題材自体は一年中どの季節でも起こることです。これが、句を作る上での最初の悩みどころでした。季節問わず起こることをどうやって季語と結び付けようか、と。
 ここでもし、俳句のルール上必要だから取り敢えず季語を入れた、なんて形になってしまうと、俳句としては失敗作です。その場合、季語を入れずにもっと短い詩にすることもできたのに、俳句という形にするためにわざわざ意味のない言葉を加えた、ということになってしまいますから。
 ちなみに、詩で余計な言葉を加えると、その言葉の分、詩の印象は薄くなります。だから、ルールのためだけに取り敢えずで季語を入れると、俳句という形式が詩の邪魔をする方向に作用してしまった、などということになりかねないのです。

 そんな中、「師走」という言葉が存在してくれていたのは幸運でした。お坊さん(師)が忙しく走り回る月、というところから生まれた言葉、という説があるくらいですから。そんな師走でさえも、という言い方にすれば、忙しいのに、という意味を込められます。「師走」という言葉を作ってくれた昔の人に感謝。
 言葉の存在って偉大ですね……
 
 ちなみに、推敲の過程は、次の通りでした。

 膝の猫師走の朝のすまし顔
 膝の猫師走の朝はすまし顔
 師走の朝膝乗る猫のすまし顔
 師走の朝膝には猫の毛づくろい
 師走の朝膝では猫が毛づくろい
 師走の朝膝にはすまし顔の猫
 師走の朝すまし顔した膝の猫

 最初の形で「すまし顔」を使ったのは、猫のしたたかさを表現したかったからです。こちらが出かけなければならない事情を分かっていて、それでも乗って来る、という風に。「おこり顔」にして出かけることに抗議している可愛さを出すことも考えたのですが、ここはしたたかさを優先。油断ならない部分も猫の魅力ですからね。
 次の形で「朝は」にしたのは、忙しいのが分かっているから余計得意になる、という風にできると思ったからでした。今思い返してみると、作りすぎと感じてしまいますが。
 3番目の「師走の朝膝乗る猫のすまし顔」は、「師走の朝」を最初に持ってきたほうが忙しさを強調できる、という観点で作ったものです。強調したいものを先に持ってくるのはプレゼンの基本、と考えて。これも今考えると、必ずしもそうではなかったわけですが。
 4番目の「師走の朝膝には猫の毛づくろい」。3番目の「膝乗る猫」に違和感を感じたことから作ったものです。「膝乗る猫」だと既に乗っているのではなくこれから乗ろうとしている猫、という意味になってしまうのでは、と。猫がすまし顔を浮かべるとしたら膝に乗ることに成功してからのはずなので、これは変。そこで、「膝には」にして既に乗っているという意味に戻し、さらに、「すまし顔」の対案を探して「毛づくろい」に。
 けれど、ここで、「には」という助詞を「毛づくろい」という動作で受けられるのかが気になりました。そこで、「には」を「では」に変え、5番目の「師走の朝膝では猫が毛づくろい」の形を作成。
 これがどうにも説明文調に感じたので、6番目の「師走の朝膝にはすまし顔の猫」を考案しました。さらに、句またがりを避けるために、7番目の「師走の朝すまし顔した膝の猫」の形に。字余りだけど仕方ないか、と妥協し、一旦はここで推敲終了とするつもりでした。
 けれど、やはり字余りが気になり、修正を試みることに。
 その中で、「師走の朝も」ならば、一年中のことだけどこの時期は困る、でもやめてくれない、という情報を強調できることに気づきました。さらに、これならば「師走」を最初に置かなくても十分忙しさを表現できる、と判断。
 こうして、今の「膝の猫師走の朝も毛づくろい」形に至ったわけです。

 細かい変更が次々に重なってきた、といった感じの推敲になってしまいましたが、こういう細かいことも積み重なると大きいんですね……

※タイトルの句の形のことを「今の」形と表記しているのは、「完成形」とか「最終形」とかいった表記に抵抗があったためです。
 余程のことでもない限り一度公開した句を後から変えるつもりはありませんが、まだまだ推敲の余地があるかもしれない、という思いは消せないものでして……
 今後も、同じような表記は登場しますが、そのような意味だと思ってください。
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