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第六章 相棒

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ワクは旅を続けました。
一人きりの道行は、時には淋しくもありましたが、出逢ういろんな人との触れ合いを楽しんだり、目の前に大きく広がる世界に改めて心弾ませたり、それは楽しい旅でした。
時には、草原に寝転がって、一日中、ただただ青い空と白い雲を眺めていたり。
「ふーっ、今日は本当に何にもしなかった!」
土砂降りの雨の後、全身ずぶ濡れのままで、遠くの山にかかる大きな虹を見上げたり。
「ああ、生きてるな!」

そして、一年と少しが経った、ある初夏の日。ワクは二十一歳になっていました。

おーい。
夕暮れ迫る森のほとり。
おーい。
何かが聞こえます。人の声でしょうか。
ワクは耳を澄ましました。
おーい、誰かいないかー。
今度ははっきりと聞こえました。誰かが呼んでいる声です。
声は右手の森の中から聞こえてくるようです。森というよりは、山の中なのですが――そちらへ入っていく道が、目の前から延びています。ワクはその道へは入らず、山の脇を通る平地の道を行くつもりでいましたが、呼び声が気になり、立ち止まりました。
ワクは迷いました。こんな日暮れ時から、山道に入っていくなんて。しかし、そうしている間にも、また声は聞こえて来ます。
誰かー、いたら助けてくれー。こっちだー。
が、暗闇で何も見えず、迷い込んでしまうかもしれません。
(そもそも、あれが人間の声とは限らねえな。)
狸が化かそうとしているか、またはこの世のものではない何かが、ワクを取り殺そうとしているのかもしれません。
そんな考えに一瞬背筋がぞくっとしました。
(いやいや、そんなわけはねえか。誰かが困っているんだ。足でも挫いて歩けなくなっているのかも知んねえ。)
ワクは、意を決して山道に足を踏み入れました。
夕暮れ時。ただでさえ辺りは薄暗くなっています。ましてや、山の中。ほどなく真っ暗になるでしょう。
ワクは、拾った枝に火を点け、その明かりを頼りに前へ進みました。
笛を鳴らしてみます。初めての野宿の日にお兄さんからもらった、あの竹笛です。
ピィーーっ!
するとそれに応えるように、
おーい! 
声はだいぶ近づいていました。こちらからも大声で呼んでみました。
「おーい。どうしたんだー!」
立ち止まって耳を澄まします。
「おーい、こっちだー、助けてくれー!」
前方に明かりが見えてきました。
大きな車。その手前に、何か大きな動物。車の影に、人が二人いるように見えます。さらに近づくと、動物は牛でした。フウフウと息の音を立てています。右の後輪のところに、二人の男がいます。明かりはその周辺を照らしています。
「どうしたんですか?」
「車輪が窪みにはまって、動けなくなったんです。」
男のひとりが答えました。
ワクは車輪の脇にしゃがみこんで、覗き込みました。たしかに、道の端の溝にはまり込んでいます。が、少し頑張れば抜け出せそうです。下り坂ですし。
「これ、牛車なんだな。初めて見たよ。」
「そんなことよりも、さっさと手を貸してくれ。こっちは急いでいるんだ!」
もう一人の男が、苛立ちを含んだ声で言います。
(なんだ、こいつ。)
ワクは思いましたが、こんな状況ですから気が立っているのでしょう。
「中に、小さな子供がいるんだ。熱を出している。」
「え!」
「だから一刻も早く抜け出して、医者に診せに行かねえと。」
「分かった。」
「地面が湿ってて滑りやすいからな。車輪の下にできるだけ枝を敷いて、滑りにくくするんだ。一緒に来い!」
「あ、ああ。」
ワクは言われるまま、ワクに命令した男について、枝を拾いに行きました。その男は若者でした。ワクと同年代ではないでしょうか。きびきびした無駄のない動きで、道の脇の茂みに分け入って行きます。
「よし、ここらあたりで枝を集めよう。できるだけたくさん拾えよ。」
ワクは黙って、枝を拾い集め始めました。
(なんだ、こいつ。若造のくせに、偉そうに。)
自分自身も間違いなく若造であるワクは、心の中でそう毒づきました。こんな状況でなかったら、文句を言ってやるところなのに。
やがて、それぞれに腕いっぱいに枝を抱えた二人が牛車に戻ると、もう一人の男が、牛車の幌の中から出て来るところでした。
「お嬢ちゃんはどうだい?」
「ええ、まだ熱が高いです。やっぱり早く医者に診せないと。」
男は答えました。こちらは中年男性です。子供はこの男の娘なのでしょう。若者よりもだいぶ年上に見えますが、物腰が丁寧です。二人は一体、どんな関係なのだろうか。非常事態にもかかわらず、ワクは一瞬そんなことを考えました。
ワクと若者の二人で車輪の下に枝をかませ、その周辺にも枝を敷き詰めました。
「よし、後ろから車を押すぞ。」
「あ、ああ。」
中年男性は、前に回って、牛を引きます。
三人で力を合わせて踏ん張ります。なかなか車は動きません。が、少なくとも、車輪がすべるのは防げているようでした。もう少しだ、とワクは思いました。
すると、
「力が足りねえ! もっと力を入れろよ、お前!」
ワクはこの若者の物の言い方にムッとしました。
「なんだと! お前だろ、力が足んねえのは! 腰に力が入ってねえんじゃねえのか?」
「つべこべ言わずにやれよ!」
ワクはこの一言で、気持ちが切れました。
「なんだその言い草は! さっきから聞いてれば、それが助けてもらう態度か!」
若者は一瞬きょとんとしました。ワクの怒りにピンと来ていない様子です。
「やめた。ばかばかしい。お前ら自分たちだけでやれよ!」
ワクは手を離し、牛車の横をすり抜けて、中年男性の横を通り、そのまま道を下って行きました。
「お、おい!」
後ろから若者の声が聞こえます。が、ワクは立ち止まりません。
「待てよ、おい、こら!」
が、ワクはしばらく歩いてから、さすがに立ち止まりました。怒りに任せてあんなことを言ったものの、この状況で彼らを見捨てて下山できるワクではありません。
(くそっ!)
ワクはくるりと向きを変え、牛車まで戻りました。
牛車では、戸惑っていた二人が、ほっとした表情でワクを迎えました。
「言っとくけどな、お前のためじゃないぞ! お嬢ちゃんのためだからな!」
ワクのその言葉に、若者は意外なことに、鋭い目つきのままで、口元にかすかな笑いを浮かべました。
それから三人は力を合わせ、何とか牛車を動かすことが出来ました。溝から抜け出したときには、三人がそろって歓声を上げました。が、ゆっくりはしていられません。早く医者に連れて行かなければ。ぐずぐずしていると夜中になってしまいます。
「おっちゃんは、お嬢ちゃんについててやりな。牛車は俺たちで進めるから。」
「ああ、ありがとう。」
やがて、一行はふもとの医者を見つけ、子供を診せて、ひと段落つきました。子供は、風邪をこじらせて重症化しているので、数日間ゆっくり寝かせるように、とのことでした。
診察室の廊下で、子供の父親は、二人の若者に、涙目で礼を言います。
「ありがとう、君たち、本当にありがとう。」
「いやあ。よかったすね。お嬢ちゃん。大変な病気じゃなくて。」
「ああ。それにしても、山の中で牛車が足を取られて、本当にどうしようかと思ったよ。君たちが通りかからなければ、俺ひとりでは…最悪、牛舎を捨ててあの子をおぶって下山することになったかも知れない。」
若者は、照れたように、にっと笑います。
「え?」
ワクは口を挟みました。
「お前も通りすがりだったのか?」
「あ? ああ、そうだけど?」
どうしてそんな当たり前のことを聞くんだ? という顔。
てっきり父娘の身内だと思っていたこの若者。助けてもらう立場のくせに横柄な。ワクはそう思っていたのです。そうじゃなかった。こいつも、行きずりの遭難者を助けようと、必死になっていたんだ――。
「よかったよ、お前が通りかかってくれて。俺一人では牛車を動かすには力が足りなかったぜ。助かったよ。」
若者はにっこり笑いました。
こいつ――、思ったほど嫌な奴じゃないかもしれない。ワクは今さらながら、そんなことを思いました。

その晩は、診療所の布団を借りて一泊し、翌朝、子供の具合が良くなるまで診療所に留まる父娘を残し、ワクと若者は出発しました。
「お前はどこへ行くんだ?」
二人で並んで歩きながら、ワクは若者に尋ねました。
「俺は、どこか住みやすい理想の地を探して旅をしている。この世のどこかに、そんな場所がきっとあるに違いない。」
「へー。」
「お前もか?」
「俺は、俺も似たようなもんだが…ほら、あの山を目指しているんだ。」
ワクは前方遥かにうっすらと見えている山を指さして言いました。
「あの山の向こうには、楽園があるんだぜ。」
「本当か?」
「ああ、たぶんな。」
「何だよ、たぶんって。」
若者はキラキラ光る目で、いたずらっぽく笑いました。笑うと色白の顔がクシャっとなって、少年のように見えます。背丈はワクと同じくらい。ワクよりも少し細身ですが、俊敏そうな身体つきです。事実、昨晩の動きも俊敏でした。
昨日の、山へ入って行く道との分岐点で、二人は別れました。若者は山の方へ行きます。ワクは平地を行きます。
「じゃあな。」
軽く手を振って、あっさりと離れていく若者の背中を見ながら、ワクはなぜか、この若者とはまたどこかで会うような気がしていました。

それから一週間ほど後、ワクはひとり、トボトボと歩いていました。ここ三日ほど、ほとんど誰とも口をきいていません。
初夏の日差しは、カラッとしながらもムンムンと熱く、夏の真っ盛りがすぐそこに来ていることを感じさせます。右手には小川、左手にはさっきからずっと、森を背景にして畑が続いています。歩を進めるにつれて、色んな作物が次々に姿を現します。刻々と変わって行くその光景を、ワクはずっと眺めながら歩いています。
朝からずっと歩きどおしだったため、少し休憩しようと、道端に腰を下ろしました。目の前には、赤いトマト畑。麦わら帽子をかぶった男性がひとり、作業をしています。
周囲は本当に長閑のどかな風景です。ホトトギスの声。暖かく、眠気を誘う大気。作業の男性も途中でいなくなり、辺りには誰もいなくなりました。なかなか立ち上がる気になれず、ひとり静かに、侘しさを味わっていました。ワクも少しは大人になったということでしょうか。
夕暮れ近くになって、風が少し冷たくなりました。ワクはようやく立ち上がり、歩き始めました。
ほどなく町並みが見えてきました。往来を行き来する人たちを見ると、なんだかホッとします。誰でもいいから話しかけてみたい。今度は急に、人恋しい気持ちが高まります。
すると、ある雑貨屋風の店の前。一人の男が、他の男たち数名に囲まれ、何やら責め立てられています。
「お前に違いねぇんだ。さっさと白状しろ!」
「やってねぇもんをどうやって白状しろっていうんだよ、このジジイ!」
「なんだと、くそガキめ!」
「しかも、俺ひとりで、どうやってそんなにたくさん盗めるってんだ。少しは頭を使って考えろよな。」
「仲間がいるんだろう、どうせ。」
囲まれている男は、声の感じから、若者のようです。どこかで聞いたような声でした。
周りの人だかりで、若者のことはよく見えません。誰も止めに入ろうとはせず、事のなりゆきを面白そうに眺めている様子です。ワクはしばらく、やりとりの内容に耳を傾けていました。
どうやらこの若者は、畑から野菜を盗んだ疑いをかけられているようです。その畑というのは、ワクが今まで延々と見続けてきた、あの畑のどこかでしょうか。
好奇心に駆られ、人だかりをかき分けて、若者の姿を見たとき、ワクは思わず、あっと声を出しました。
(あいつだ。)
隣に立っている見物人に声をかけてみます。
「盗みがあったのかい?」
「ああ。」
「いつ?」
「今日の午後らしいぞ。」
「へえ。何が盗まれたんだい?」
「畑のトマトだよ。」
(え? トマト畑なら今日の午後ずっと、俺、見てたじゃないか。でもこいつは見てねえな。)
もちろん、自分の見ていない時間帯があったかもしれないし、確たる証拠はないのですが、それでも彼が犯人でないことには、確信がありました。そもそも、この若者が盗みを働くなどとは、到底思えませんから。
ワクは人だかりの中心に踏み出して、
「ちょっと待ってくれよ!」
「なんだお前は? おっと、仲間が出てきやがった。やっぱりな。」
「いや、そうじゃなくて…。」
ワクは説明しました。自分は今日の午後ずっと、トマト畑を見ていた。が、この若者の姿は見ていない。こいつは犯人じゃない、と。
少し緊張しました。正直、絶対とは言い切れません。が、ワクは堂々と主張しました。こんなときにとても押しが強いワクです。
ワクの自信ありげな態度に気圧けおされたのか、周りの男たちは、まだ少し疑っているような風情ではありましたが、仕方なく若者を開放してくれました。
「じゃあ、おまえさんよ、他に怪しいヤツを見ただろう。なあ、見たにちげえねえ。どうなんだ?」
「ああ。いや。」
「どっちなんだ。」
「見た…かな。」
「どんなヤツだ?」
「お、男だった。遠目ではっきり分からなかったが。」
「いくつくれえのヤツだ?」
「よ、四十くらい…かな?」
「四十歳くらいの男だ?」
「…。」
「眉毛が太くて、鼻の横にでっけえホクロがあるヤツだろう?」
「あ、ああ、そうだったかもしれねえ…。」
遠目に見ただけで、しかも麦藁帽をかぶっていましたので、細かい顔の特徴なんて知りません。そもそも、四十歳くらいかどうかも、本当は分かりません。ワクが曖昧に答えると、相手は勝手に納得してくれました。
「そうか、あいつにちげえねぇ。くそっ。涼し気な顔して、タチが悪い! おい、行くぞ!」
そういうと、男たちの集団は、向こうへ走り去りました。
ワクはホッとして、全身の力が抜けました。その「眉毛が太くてホクロがある」男には悪いことをしましたが――。

「やあ、すまねえな。助かったぜ! …あ、お前!」
「おう、良かったな。疑いが晴れて。」
ワクはなぜか、この若者に再会したことに、さほど驚きを感じていませんでした。それは、大げさに言えば、なるべくしてこうなった、とでもいうような感覚でした。
「何てこった。二度も助けられるなんて。」
顔をクシャっとさせて、若者は言います。
「何か礼をしないとな。」
「そんなの、いらねえよ。」
が、ワクは、この若者とこのまま別れるのが淋しい気がして、
「礼はいらねえが…俺、今日の宿が決まっていないんだが、どっか知らねえか?」
「ああ、知ってるぜ。俺もまだこれからだが、もうこの時間だから、昨日泊まったところに今日も行こうかと思ってる。一緒に行こうぜ。」
「ああ。」
二人は連れ立って歩き出しました。ワクはすでに、この若者に対して一種の懐かしさのようなものを感じていました。
「これから行く宿には、とってもかわいい娘がいるんだぜ。」
「へー。その娘も泊っているのか?」
「いや、その宿の親父の娘だ。」
「そうか。それじゃ、下手に手出ししたらひどいめにあうじゃねえか。」
「手出しなんぞするもんか。俺はこっそり見ているだけでいいんだ。奥ゆかしいんだぜ、俺。」
可笑しみと共感、そしてなんだか温かいものが、胸に湧き上がってきます。
「あ、そうそう、おれ、センタ。」
「おれはワク。よろしくな。」
二人はそのまましばらく無言で肩を並べて歩きますが、センタはあちらこちらをきょろきょろ見回し、あまり落ち着きがあるようには見えません。
ワクはセンタに尋ねてみました。
「お前、歳はいくつなんだ? なんだか子供っぽいが?」
「ついこないだ、この四月で二十歳になった。」
「やっぱり。ガキだな。」
「いや、もう大人だって。二十歳だぞ。」
「ふん。」
「じゃあ、お前いくつだ?」
「二十一。」
「なんだ、変わらねえじゃねえかよ!」
いたずらっぽい表情で見つめてくる瞳は、やはりキラキラと輝いていました。

宿に着くと、センタが中へ向かって大きな声で呼びかけました。
「おーい、誰かいるかーい?」
「はーい。」
中から出てきたのは、若い娘でした。
「あら、昨日の! 何か忘れもの?」
「違うんだ。今日も泊めてもらいたいと思って。」
「あら、そうでしたか。そりゃ、ありがたいけれど、そちらの方はお連れさま?」
「ああ。今日は二人なんだ。」
「あいにく今日はあと一部屋しか空いてないの。お二人一緒の部屋なら大丈夫だけれど…。」
「ああ、いいよ。な?」
「ああ。」

部屋に荷物を置いて一息。
「な、かわいい子だっただろう?」
「うん、まあまあだな。」
「なんだと、こら!」
「まあ、俺は見る目が肥えているからな。お前とは経験が違う。」
「はは! 嘘つきやがれ。お前だって見るからにガキじゃねえか。」
それから二人は、お互いの境遇やこれまでのことを話し合いました。
センタは十八のときに家を出て、旅をしているという点ではワクと似た状況でした。が、彼の場合は目的地をはっきりと決めているわけではなく、どこか住みやすい場所を探しているところだということでした。
彼らは今の境遇が似ているだけでなく、生まれ育った環境も似ていました。父ひとり子ひとり。近所の大人たちみんなに育てられたようなもので、母親は知らないけれど、父には愛情いっぱいに育てられた。ある日、父親から、人生を考えるように言われ、旅に出ることにした。まるで、ワク自身の身の上話を聞いているようでした。
その夜、二人は酒屋で急きょ仕入れた酒を酌み交わしながら興に乗って話すうち、すっかり意気投合して、しばらくは道行を共にしよう、ということになりました。二人は慣れない酒を調子に乗って飲み続け、ようやく床に就いた――というより意識を失ったのは、夜半を大きく回った頃でした。

翌朝、二日酔いの頭で、遅めの時間に起きた二人。部屋に運んでもらった朝食を、仲良く並んでいただきます。
「うひょー、里芋の味噌汁! 俺、好きなんだよなー。」
センタはそう言って、一口飲むと、
「しかも、今朝はいつもより胃の腑に染みるぜ。やっぱり二日酔いには味噌汁だな。」
そんなセンタに、
「なんだ、二日酔いかよ。あの程度で。」
ワクが胸を反らします。
「いやいや、お前、人のことよく言うよ、その顔で。」
「?」
「青白い顔に、目がうつろで、髪はボサボサ。どうみても二日酔いだろうがよ!」
「くっ。」
センタは自分も青白い顔をしながら、ワクを馬鹿にしたように笑いました。
最初は食欲が今ひとつだった二人は、しかしながら食べ始めると、意外と箸が進みました。がつがつと食べながら、同時に声をそろえて叫ぶ二人。
「うめぇー!」
ワクは、口いっぱいに頬張ったセンタの顔を見て、
「やれやれ、こいつ。頬っぺたに飯粒付けて、本当、ガキだなあ、お前。」
自分も口の中をいっぱいにして、モゴモゴとした発音でそう偉ぶります。
センタも負けずに、
「いやいや、お前のほっぺにもついているから。飯粒。」
二人で顔を見合わせて、苦笑。
「くそっ。」
その言葉も、二人の声が重なりました。
そんな小競り合いを演じながらも、ワクはやはり、心がほんのりと温まっていくのを感じずにはいられません。

そうして、彼ら二人の同行が始まりました。
二人は時にはライバルのようでもあり、時には兄弟のようでもありました。
どちらか一方が落ち込んでいるときにはもう一方が元気づけたり、笑わせようとしたりしました。
臨時の仕事で、一緒に汗をかいたりもしました。
退屈な野宿の夜には、ワクが「メチャクチャ踊り」を披露し、それにも飽きると、くすぐり合いをしてケタケタと笑いました。
ワクは、この新しい相棒に、まるで旧知の仲であるような気安さと愛着を感じていました。
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