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8話 ジェイドの心

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 ジェイドに恥ずかしい場所を犯され……。

 翌朝、アンリエッタはベッドから出ることが出来ずにいた。
 ジェイドの運んできた朝食の良い匂いにも、食欲が全くわかない。

「いつまでそうしておいでですか」
「気分が悪いの……少し放っておいて」
「かしこまりました、お嬢様」

 ジェイドはアンリエッタにあんな痴態を演じさせたのに、何事もないかのように無表情を崩さない。

(ひどい人……私にあんなことをして……)

 アンリエッタは昨晩の行為をまた思い出して、枕に顔を伏せる。
 何度も何度も訪れる快楽。排泄器官をえぐられ、嬌声をあげる自分……全てが夢であってほしい。アンリエッタは何度も眠ろうと深く体をベッドにうずめた。
 しかしジェイドに執拗に、深奥まで探られた体は官能を知ってしまい、昨日の行為を思い出すとアンリエッタの腰はうずいてしまう。

(だめ……。妙な気分になってしまうわ)

 アンリエッタはベッドから抜け出し、寝間着の上にガウンを羽織って、外の空気を吸おうとベランダに続く窓を開けた。
 歩くと下半身に違和感があったが、軽い疼痛……強い痛みではない。そして、その疼痛すら昨日の官能を思い出させてしまう。
 アンリエッタは思い出す快楽を振り払うようにベランダに出て天を仰いだ。
 心地よい外の風がアンリエッタの頬を撫ぜる。
 外は森の緑の香り……そして昨晩も嗅いだ、庭の雨露薔薇の香りでいっぱいだ。小鳥のさえずりや木々のざわめく音を聞き、アンリエッタは静かに目を閉じた。
 この先どうなってしまうのか……。
 ジェイドの調教はどこまで続くのか……そして、いずれ自分は獣王の元へ嫁ぎ……見も知らぬ獣人の妻となるのだ。そしてまた、寝室で獣王からの陵辱を受けるのだ。
 それを思うと、不安で涙が滲んでくる。
 
(心がどんどんと沈んでしまうわ……。私は王女。誇り高く生きないと)

 アンリエッタは気持ちを入れ替え、ひとまず洗面と着替えをし、自堕落な朝を終わらせて1日を過ごす決意をする。
 呼び鈴でジェイドを呼んで、身支度をした。

「ご気分が良くなったようで何よりです」
「ジェイド。あなたは何もないように振る舞うのね……あんな事があったのに」

 跪くジェイドにドレスを着付けられながら、アンリエッタは彼を見下ろす。

「何もないように……ですか」
「そうよ。私にあんなことをして……平然としているわ。私はあなたが信じられないわ……」
「アンリエッタ様」

 着付けの仕上げに腰のリボンをきゅうと締め上げ、ジェイドは立ち上がる。

「私が何も感じてないわけではないのですよ」

 ジェイドの面影はどこか暗い……。
 ドキリとアンリエッタは震える。

「私は役割を果す為にここにおります。私が何を思い、考えるかは関係ありません。丁度お嬢様が、王女としての役目を果す為に、運命を受け入れたように」
「え……」

 それはどういう意味なのか……アンリエッタが尋ねるまもなく、ジェイドは軽く礼をして部屋を去っていった。
 何か意味深に聞こえたのは気のせいだろうか。

(彼の思い……考え……そうだわ。
 私は彼の気持ちを……心を、何も知らないんだわ)

 アンリエッタの足は、自然と庭園に向いていた。
 



「お嬢さん。よお、また来たのかい。俺と話すとまた怒られるぜ」
 
 バーナードは花壇から枯れた草や雑草を引き抜きながら、振り返りもしないで言った。

「……ごめんなさい。私のせいであなたも怒られたのね」
「お嬢さんのせいじゃないよ。でも、俺とは話さないほうがいいぜ」

 黙々と作業をしながらバーナードは言う。
 しかし彼の耳は、へしょり、としょげて、しおれた花のように倒れている。アンリエッタの飼っていた子犬が怒られた時と同じだ。

(わかりやすい……)

 アンリエッタはくすりと笑い、そっと納屋の方に歩いた。
 アンリエッタが屋敷からは死角になる納屋に入ったことに気づくと、バーナードも追ってきた。

「おいおい、ここはお嬢さんが入るような場所じゃないぜ」

 納屋の中には、園芸や農業に使う道具が置かれていた。
 アンリエッタはしげしげと珍しそうにそれらを眺める。園芸用具はどれも人間の使うものと大差無いように思える。

「ここにいればばれないわ」
「そうかもしれないけど、ジェイドのやつが怒るとろくな事にならないよ」

 バーナードは決まり悪そうに言うが、アンリエッタと話せて表情はニコニコと嬉しそうだ。耳も先ほどと違いピンと嬉しそうに立っている。
 その様子に、アンリエッタもなんとなく嬉しくなる。
 もう一度ぐるりと納屋を見回す……奥に小さなハシゴと、ロフトがあるようだった。

「あなたは一日ここにいるの?どこで寝ているの?」
「この納屋の屋根裏さ。以外に快適なもんだよ」
「まあ……この小屋の屋根裏で?ねえ、屋敷の使用人室は空いているでしょう。そちらに部屋を貰えれば?」
「無理さ。獣人の世界じゃ、おいらみたいな下級なモノと、貴族様は一緒の屋敷で寝ないんだよ。こうやって使用人だけの住まいを別に作るのが普通だ」
「そうなの……」

 アンリエッタの城には、使用人達が住む離れもあったが、城の中にもたくさんの使用人が住んでいた。
 文化差に驚きながらも、軽はずみに屋敷に来るよう言った自分を少し恥じてうつむいた。

「ねえ、ジェイドと何か……話した?昨日、私が少しだけ気を失ったでしょう、その後、彼と何か話したりした?」
「ああ……今朝、少しだけね」

 バーナードは少し言いにくそうにして両腕を頭の後ろで組んだ。ぶらぶらとその場を歩きまわり、ブツブツとつぶやきながら考えている様子だ。

「彼は、なんて言ってたの」
「……『お嬢様に触れていいのは私だけ』だってさ。あんたはきっと愛されてるね」

 狼獣人の意外な言葉に、アンリエッタは返答に窮する……。

「そんなはずないわ……もしそうなら、あんな酷い事……」
「あんな酷い事?」

 その言葉にバーナードが反応する。

「昨日何か酷いことをされたのか?お嬢さん」

 突如剣幕を変えたバーナードに詰め寄られ、アンリエッタは驚く。
 何をされたかなど、言えるはずもない。口にするのもはばかられるような行為をされたのだから。

「なあ、酷いことされたのか?お楽しみを覚えるっていうだけじゃなくてかい?」

 詰め寄ってくるバーナードに、アンリエッタはたじたじと後ずさった――。

(続く
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