69 / 106
山猫は雑踏を走る
Side一平(3)
しおりを挟む
大沼の証言を元に、萩原の隠れ家を見つけ出し急襲する。永井はそう言った。
確かに逃がした筈の大沼が合流しなかったことで、萩原達が「大沼がSRPに捕まったかもしれない」という結論に達するのは容易に想像できる。とすると、早々に隠れ家を引き払ってしまう危険性があるからだ。
そこはごみごみとした繁華街の奥にある雑居ビルのひとつ。繁華街と言っても昼間はまるでゴーストタウンのように人がいない。音を立てないように静かに、けれど隙なくSRPメンバーがビルを包囲していく。
一平もその中に加わっていた。
「確認する。麻生君がテレポートで室内へ飛び込む。その動揺している隙に佐川班は玄関から、屋良班は窓から室内へ突入。出入り口はその二か所だ。
麻生君は突入と同時にジャマーを起動、超能力を無効化する。ただし、ジャマーを起動させると麻生君自身も超能力が使えなくなることを忘れるな」
一平も真剣な顔で頷く。突入は危険なのでSRPの隊服を支給された。耐衝撃繊維仕立てのつなぎと防弾チョッキ、ブーツに手袋、ヘルメットのすべてが黒で、つなぎとベストの背にSRPのマークがプリントされている。にわか仕立てのSRP隊員の出来上がりだ。ただしこの季節だとちょっと暑い。
「目的は室内全員の制圧。蟻んこ一匹逃すんじゃねえぞ。屋良班が配置につき次第開始とする。散開!」
十五人ほどのメンバーが一斉に動く。一平は永井と共に拠点となっている指揮車に残った。
「麻生君、これ」
手渡されたのは金属製の箱だ。一見すると箱ティッシュくらいの大きさで、持ち運びしやすいように金属製の持ち手とオンオフのスイッチがついているだけのシンプルな見た目だ。これこそが「ジャマー」、組織が使っていた超能力を妨害して無効化する機械「バリア・システム」の改良型だ。永井によると今回のこれは、半径十メートル以内の超能力を無効化する機能を持っているらしい。
「へえ、こんな形になったんだ」
「確か麻生君は首輪と手錠が連動する奴をつけられていたんだったな。まったく、いい趣味してやがる」
永井が吐き捨てるように言った。それとほぼ同時に車載スピーカーがブツブツッと音を立てる。
《永井隊長。佐川班配置につきました》
《こちら屋良班、配置完了です》
ちょうど無線から連絡が入ってきた。一平はジャマーを手に立ち上がる。
「おう、了解。いいか、これから麻生君が突入する。麻生君からの合図と同時に全員突入。タイミングを間違えるな」
ちら、と永井が一平に視線をよこし、お互いに頷きあう。
「よし、麻生君頼んだぞ。行動を開始する。三、二、一、ゴー!」
合図と同時に一平は瞬間移動する。目の前の永井が姿を消し、画面が切り替わるように見慣れない部屋と男達の姿が現れた。
無機質な部屋にはソファーセットにローテーブル、あとはデスクとパイプ椅子が数脚置かれている。ローテーブルの上にはビールや酎ハイの空き缶、ペットボトル、乾き物やスナック菓子の袋が雑然と散らばっていて、飲んでいる真っ最中なのがわかる。男たちはソファーでだらっと座っているところへ突然現れた一平に目を丸くしているが、それに構わず一平はジャマーのスイッチをオンにした。
「誰だ、てめえ!」
「あっ! あの時の」
不健康そうな男が二人、座っていたソファーから跳ね起きる。ただし片方は大福のような、片方は鶏ガラのような見てくれの、正反対の不健康さだ。
部屋の中には全部で五人いて、他の数名にはぼんやりと見覚えがある。おそらく港でやり合った能力者達だろう、彼らも一平に見覚えがあるようだ。それをじろりと睨みつけ、意識を外さないようにしながら辺りを見回す。
「優はどこだ」
「て、てめえはあの時の! あ、あれ?」
男の一人が怒鳴っていたのをふと止める。おそらく、超能力を使えないことに気がついたのだろう。一平はジャマーを床に置いて、低い声で言った。
「俺は今気が立ってるんだ。とっとと話せ。おまえらは優の行方を知ってるのか」
「何の話だか知らねえなあ!」
一人を皮切りに、一斉に男達が躍りかかってくる。それらを全て難なく避け、得意の蹴りで一人を弾き飛ばした。確か、港で優を組み敷いた奴だ。男は文字通り吹っ飛び、派手な音を立てながら応接テーブルの上の物をなぎ倒して転がった。他の男達がそれを呆然と見ている。さらに「超能力使えないぞ?」とざわつき始めたのを尻目に、一平はヘルメットに内蔵されたインカムのスイッチを入れた。
「ジャマーの効果確認。いつでもどうぞ」
ガシャアアアアン!
一平の合図で一斉にSRPメンバーが室内になだれ込む。窓からドアから素早く飛び込み、全員を拘束するのにほんの一分もかからなかった。
「おい」
縛りあげられ床に転がされた一人に一平は声をかけた。
「萩原、ってのはどいつだ」
「萩原は出かけた。ここにはいねえ」
大福が答えた。
「何処だ」
「知らねえよ」
「んじゃあもう一度聞く。優を攫ったのはおまえらか」
「優? 誰だそりゃあ」
「しらばっくれんな!」
怒鳴りつける一平の肩を伊藤がぽん、と叩く。
「落ち着け。冷静にならないと必要な情報も聞き逃すぞ」
「――っ、すみません」
「この辺りは俺達のほうがプロだ。任せておけ」
伊藤の言う通りだ。少し頭を冷やさなくては。
確かに逃がした筈の大沼が合流しなかったことで、萩原達が「大沼がSRPに捕まったかもしれない」という結論に達するのは容易に想像できる。とすると、早々に隠れ家を引き払ってしまう危険性があるからだ。
そこはごみごみとした繁華街の奥にある雑居ビルのひとつ。繁華街と言っても昼間はまるでゴーストタウンのように人がいない。音を立てないように静かに、けれど隙なくSRPメンバーがビルを包囲していく。
一平もその中に加わっていた。
「確認する。麻生君がテレポートで室内へ飛び込む。その動揺している隙に佐川班は玄関から、屋良班は窓から室内へ突入。出入り口はその二か所だ。
麻生君は突入と同時にジャマーを起動、超能力を無効化する。ただし、ジャマーを起動させると麻生君自身も超能力が使えなくなることを忘れるな」
一平も真剣な顔で頷く。突入は危険なのでSRPの隊服を支給された。耐衝撃繊維仕立てのつなぎと防弾チョッキ、ブーツに手袋、ヘルメットのすべてが黒で、つなぎとベストの背にSRPのマークがプリントされている。にわか仕立てのSRP隊員の出来上がりだ。ただしこの季節だとちょっと暑い。
「目的は室内全員の制圧。蟻んこ一匹逃すんじゃねえぞ。屋良班が配置につき次第開始とする。散開!」
十五人ほどのメンバーが一斉に動く。一平は永井と共に拠点となっている指揮車に残った。
「麻生君、これ」
手渡されたのは金属製の箱だ。一見すると箱ティッシュくらいの大きさで、持ち運びしやすいように金属製の持ち手とオンオフのスイッチがついているだけのシンプルな見た目だ。これこそが「ジャマー」、組織が使っていた超能力を妨害して無効化する機械「バリア・システム」の改良型だ。永井によると今回のこれは、半径十メートル以内の超能力を無効化する機能を持っているらしい。
「へえ、こんな形になったんだ」
「確か麻生君は首輪と手錠が連動する奴をつけられていたんだったな。まったく、いい趣味してやがる」
永井が吐き捨てるように言った。それとほぼ同時に車載スピーカーがブツブツッと音を立てる。
《永井隊長。佐川班配置につきました》
《こちら屋良班、配置完了です》
ちょうど無線から連絡が入ってきた。一平はジャマーを手に立ち上がる。
「おう、了解。いいか、これから麻生君が突入する。麻生君からの合図と同時に全員突入。タイミングを間違えるな」
ちら、と永井が一平に視線をよこし、お互いに頷きあう。
「よし、麻生君頼んだぞ。行動を開始する。三、二、一、ゴー!」
合図と同時に一平は瞬間移動する。目の前の永井が姿を消し、画面が切り替わるように見慣れない部屋と男達の姿が現れた。
無機質な部屋にはソファーセットにローテーブル、あとはデスクとパイプ椅子が数脚置かれている。ローテーブルの上にはビールや酎ハイの空き缶、ペットボトル、乾き物やスナック菓子の袋が雑然と散らばっていて、飲んでいる真っ最中なのがわかる。男たちはソファーでだらっと座っているところへ突然現れた一平に目を丸くしているが、それに構わず一平はジャマーのスイッチをオンにした。
「誰だ、てめえ!」
「あっ! あの時の」
不健康そうな男が二人、座っていたソファーから跳ね起きる。ただし片方は大福のような、片方は鶏ガラのような見てくれの、正反対の不健康さだ。
部屋の中には全部で五人いて、他の数名にはぼんやりと見覚えがある。おそらく港でやり合った能力者達だろう、彼らも一平に見覚えがあるようだ。それをじろりと睨みつけ、意識を外さないようにしながら辺りを見回す。
「優はどこだ」
「て、てめえはあの時の! あ、あれ?」
男の一人が怒鳴っていたのをふと止める。おそらく、超能力を使えないことに気がついたのだろう。一平はジャマーを床に置いて、低い声で言った。
「俺は今気が立ってるんだ。とっとと話せ。おまえらは優の行方を知ってるのか」
「何の話だか知らねえなあ!」
一人を皮切りに、一斉に男達が躍りかかってくる。それらを全て難なく避け、得意の蹴りで一人を弾き飛ばした。確か、港で優を組み敷いた奴だ。男は文字通り吹っ飛び、派手な音を立てながら応接テーブルの上の物をなぎ倒して転がった。他の男達がそれを呆然と見ている。さらに「超能力使えないぞ?」とざわつき始めたのを尻目に、一平はヘルメットに内蔵されたインカムのスイッチを入れた。
「ジャマーの効果確認。いつでもどうぞ」
ガシャアアアアン!
一平の合図で一斉にSRPメンバーが室内になだれ込む。窓からドアから素早く飛び込み、全員を拘束するのにほんの一分もかからなかった。
「おい」
縛りあげられ床に転がされた一人に一平は声をかけた。
「萩原、ってのはどいつだ」
「萩原は出かけた。ここにはいねえ」
大福が答えた。
「何処だ」
「知らねえよ」
「んじゃあもう一度聞く。優を攫ったのはおまえらか」
「優? 誰だそりゃあ」
「しらばっくれんな!」
怒鳴りつける一平の肩を伊藤がぽん、と叩く。
「落ち着け。冷静にならないと必要な情報も聞き逃すぞ」
「――っ、すみません」
「この辺りは俺達のほうがプロだ。任せておけ」
伊藤の言う通りだ。少し頭を冷やさなくては。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
離婚して、公爵夫人になりました。
杉本凪咲
恋愛
夫の浮気を発見した私は彼を問い詰める。
だが、浮気を認めた夫は、子供の親権だけは譲らないと私に叫んだ。
権力を盾に脅され、渋々条件をのむ私。
失意の中実家に帰るが、公爵家から縁談が舞い込んできて……
【完結】後悔するのはあなたの方です。紛い物と言われた獣人クォーターは番の本音を受け入れられない
堀 和三盆
恋愛
「ああ、ラジョーネ! 僕はなんて幸せなのだろう! 愛する恋人の君が運命の番と判明したときの喜びと言ったらもう……!!」
「うふふ。私も幸せよ、アンスタン。そして私も貴方と同じ気持ちだわ。恋人の貴方が私の運命の番で本当に良かった」
私、ラジョーネ・ジュジュマンは狼獣人のクォーター。恋人で犬獣人のアンスタンとはつい先日、お互いが運命の番だと判明したばかり。恋人がたまたま番だったという奇跡に私は幸せの絶頂にいた。
『いつかアンスタンの番が現れて愛する彼を奪われてしまうかもしれない』……と、ずっと心配をしていたからだ。
その日もいつものように番で恋人のアンスタンと愛を語らっていたのだけれど。
「……実はね、本当は私ずっと心配だったの。だからアンスタンが番で安心したわ」
「僕もだよ、ラジョーネ。もし君が番じゃなかったら、愛する君を冷たく突き放して捨てなきゃいけないと思うと辛くて辛くて」
「え?」
「ん?」
彼の口から出てきた言葉に、私はふとした引っ掛かりを覚えてしまった。アンスタンは番が現れたら私を捨てるつもりだった? 私の方は番云々にかかわらず彼と結婚したいと思っていたのだけれど……。
甘やかしてあげたい、傷ついたきみを。 〜真実の恋は強引で優しいハイスペックな彼との一夜の過ちからはじまった〜
泉南佳那
恋愛
植田奈月27歳 総務部のマドンナ
×
島内亮介28歳 営業部のエース
******************
繊維メーカーに勤める奈月は、7年間付き合った彼氏に振られたばかり。
亮介は元プロサッカー選手で会社でNo.1のイケメン。
会社の帰り道、自転車にぶつかりそうになり転んでしまった奈月を助けたのは亮介。
彼女を食事に誘い、東京タワーの目の前のラグジュアリーホテルのラウンジへ向かう。
ずっと眠れないと打ち明けた奈月に
「なあ、俺を睡眠薬代わりにしないか?」と誘いかける亮介。
「ぐっすり寝かせてあけるよ、俺が。つらいことなんかなかったと思えるぐらい、頭が真っ白になるまで甘やかして」
そうして、一夜の過ちを犯したふたりは、その後……
******************
クールな遊び人と思いきや、実は超熱血でとっても一途な亮介と、失恋拗らせ女子奈月のじれじれハッピーエンド・ラブストーリー(^▽^)
他サイトで、中短編1位、トレンド1位を獲得した作品です❣️
助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる?
「年下上司なんてありえない!」
「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」
思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった!
人材業界へと転職した高井綾香。
そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。
綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。
ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……?
「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」
「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」
「はあ!?誘惑!?」
「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」
【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
藍生蕗
恋愛
子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。
しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。
いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。
※ 本編は4万字くらいのお話です
※ 他のサイトでも公開してます
※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。
※ ご都合主義
※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!)
※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。
→同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
【完結済み】だって私は妻ではなく、母親なのだから
鈴蘭
恋愛
結婚式の翌日、愛する夫からナターシャに告げられたのは、愛人がいて彼女は既に懐妊していると言う事実だった。
子はナターシャが産んだ事にする為、夫の許可が下りるまで、離れから出るなと言われ閉じ込められてしまう。
その離れに、夫は見向きもしないが、愛人は毎日嫌味を言いに来た。
幸せな結婚生活を夢見て嫁いで来た新妻には、あまりにも酷い仕打ちだった。
完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる