Hermit【改稿版】

ひろたひかる

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山猫は雑踏を走る

Side一平(3)

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 大沼の証言を元に、萩原の隠れ家を見つけ出し急襲する。永井はそう言った。
 確かに逃がした筈の大沼が合流しなかったことで、萩原達が「大沼がSRPに捕まったかもしれない」という結論に達するのは容易に想像できる。とすると、早々に隠れ家を引き払ってしまう危険性があるからだ。

 そこはごみごみとした繁華街の奥にある雑居ビルのひとつ。繁華街と言っても昼間はまるでゴーストタウンのように人がいない。音を立てないように静かに、けれど隙なくSRPメンバーがビルを包囲していく。
 一平もその中に加わっていた。

「確認する。麻生君がテレポートで室内へ飛び込む。その動揺している隙に佐川班は玄関から、屋良班は窓から室内へ突入。出入り口はその二か所だ。
 麻生君は突入と同時にジャマーを起動、超能力を無効化する。ただし、ジャマーを起動させると麻生君自身も超能力が使えなくなることを忘れるな」

 一平も真剣な顔で頷く。突入は危険なのでSRPの隊服を支給された。耐衝撃繊維仕立てのつなぎと防弾チョッキ、ブーツに手袋、ヘルメットのすべてが黒で、つなぎとベストの背にSRPのマークがプリントされている。にわか仕立てのSRP隊員の出来上がりだ。ただしこの季節だとちょっと暑い。

「目的は室内全員の制圧。蟻んこ一匹逃すんじゃねえぞ。屋良班が配置につき次第開始とする。散開!」

 十五人ほどのメンバーが一斉に動く。一平は永井と共に拠点となっている指揮車に残った。

「麻生君、これ」

 手渡されたのは金属製の箱だ。一見すると箱ティッシュくらいの大きさで、持ち運びしやすいように金属製の持ち手とオンオフのスイッチがついているだけのシンプルな見た目だ。これこそが「ジャマー」、組織が使っていた超能力を妨害して無効化する機械「バリア・システム」の改良型だ。永井によると今回のこれは、半径十メートル以内の超能力を無効化する機能を持っているらしい。

「へえ、こんな形になったんだ」
「確か麻生君は首輪と手錠が連動する奴をつけられていたんだったな。まったく、いい趣味してやがる」

 永井が吐き捨てるように言った。それとほぼ同時に車載スピーカーがブツブツッと音を立てる。

 《永井隊長。佐川班配置につきました》
 《こちら屋良班、配置完了です》

 ちょうど無線から連絡が入ってきた。一平はジャマーを手に立ち上がる。

「おう、了解。いいか、これから麻生君が突入する。麻生君からの合図と同時に全員突入。タイミングを間違えるな」

 ちら、と永井が一平に視線をよこし、お互いに頷きあう。

「よし、麻生君頼んだぞ。行動を開始する。三、二、一、ゴー!」

 合図と同時に一平は瞬間移動する。目の前の永井が姿を消し、画面が切り替わるように見慣れない部屋と男達の姿が現れた。

 無機質な部屋にはソファーセットにローテーブル、あとはデスクとパイプ椅子が数脚置かれている。ローテーブルの上にはビールや酎ハイの空き缶、ペットボトル、乾き物やスナック菓子の袋が雑然と散らばっていて、飲んでいる真っ最中なのがわかる。男たちはソファーでだらっと座っているところへ突然現れた一平に目を丸くしているが、それに構わず一平はジャマーのスイッチをオンにした。

「誰だ、てめえ!」
「あっ! あの時の」

 不健康そうな男が二人、座っていたソファーから跳ね起きる。ただし片方は大福のような、片方は鶏ガラのような見てくれの、正反対の不健康さだ。
 部屋の中には全部で五人いて、他の数名にはぼんやりと見覚えがある。おそらく港でやり合った能力者達だろう、彼らも一平に見覚えがあるようだ。それをじろりと睨みつけ、意識を外さないようにしながら辺りを見回す。

「優はどこだ」
「て、てめえはあの時の! あ、あれ?」

 男の一人が怒鳴っていたのをふと止める。おそらく、超能力を使えないことに気がついたのだろう。一平はジャマーを床に置いて、低い声で言った。

「俺は今気が立ってるんだ。とっとと話せ。おまえらは優の行方を知ってるのか」
「何の話だか知らねえなあ!」

 一人を皮切りに、一斉に男達が躍りかかってくる。それらを全て難なく避け、得意の蹴りで一人を弾き飛ばした。確か、港で優を組み敷いた奴だ。男は文字通り吹っ飛び、派手な音を立てながら応接テーブルの上の物をなぎ倒して転がった。他の男達がそれを呆然と見ている。さらに「超能力使えないぞ?」とざわつき始めたのを尻目に、一平はヘルメットに内蔵されたインカムのスイッチを入れた。

「ジャマーの効果確認。いつでもどうぞ」

 ガシャアアアアン!

 一平の合図で一斉にSRPメンバーが室内になだれ込む。窓からドアから素早く飛び込み、全員を拘束するのにほんの一分もかからなかった。

「おい」

 縛りあげられ床に転がされた一人に一平は声をかけた。

「萩原、ってのはどいつだ」
「萩原は出かけた。ここにはいねえ」

 大福が答えた。

「何処だ」
「知らねえよ」
「んじゃあもう一度聞く。優を攫ったのはおまえらか」
「優? 誰だそりゃあ」
「しらばっくれんな!」

 怒鳴りつける一平の肩を伊藤がぽん、と叩く。

「落ち着け。冷静にならないと必要な情報も聞き逃すぞ」
「――っ、すみません」
「この辺りは俺達のほうがプロだ。任せておけ」

 伊藤の言う通りだ。少し頭を冷やさなくては。
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