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山猫は雑踏を走る
Side一平(2)
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一平が蘇芳に連絡して、蘇芳からSRPへ連絡が行き、大沼の回収が来たのはほんの十五分後だ。
「助かったよ、麻生君」
SRPの永井隊長がパン、と一平の二の腕を叩いた。いや、永井本人にはそんなつもりはないのだろうが、如何せんその野太い筋肉に覆われた腕は人に予想以上の衝撃を与えるのだ。痛む腕を心の奥でやり過ごしながら一平は永井に尋ねた。
「大沼はそっちで収容していたんですよね? ひょっとしてもう釈放されていたんですか?」
「いやいや、脱走したんだよ。こっちも探していたんだ。能力はなくなったと油断していた」
「へえ、じゃあ能力使って逃げ出したんだ。俺、奴の能力知らないんですよね」
「おそらくな。
実は今回大沼含め複数人が一斉に脱走していてな。鉄格子がぐにゃぐにゃに曲げられていたり扉がひしゃげていたり、どう考えても超能力を使わないとできないっちゅう証拠がいくつもある。脱走した中にはPK能力者がいて、その力を使ったと考えないと説明がつかないんだ。例の薬は彼らを収容していた施設には置いていなかったから、入手は不可能な筈なんだがなあ――ちなみに大沼は透視能力者だから、もし能力を使うとしたら見張りとかだろうな」
なるほど、実戦にはあまり関係なさそうな能力だ。
「だとすると、疑問は三つ。まず、どうやって薬を入手したか。二つ目はどうやって俺の居場所をかぎつけたか。三つ目は――奴が優を攫ったかどうか」
「優? 池田さんか?」
永井の口調がぴりっと緊張感を帯びる。一平は小さく首を横に振った。
「いや、そう決まった訳じゃないんです。ただ連絡が取れなくて探していたところに大沼が現れたんで」
「ふむ」
永井があごをなでながら少しの間考え込む。
「――なあ麻生君。どうだ、取引しないか」
やっぱりそう来たか。一平は内心で嫌な顔をする。先日かかってきた、一平が不機嫌になった原因の電話の主・永井はおそらくそう言うだろうとは予想していたが、思った通りだ。
「池田さんの捜索に我々も協力させてもらう。もちろん大沼の証言や情報も提供しよう。そのかわり」
「そちらの捜査の手伝い、ですよね」
そう、あの電話は超能力を使っての協力要請だった。というよりSRPへのスカウトと言った方が正しい。
「――今回だけですよ? 俺、ちゃんと就職してるんですから。あと、蘇芳にも話通させてもらいます」
「勿論だ。助かるよ」
ニヤッと笑った永井の顔は一癖も二癖もありそうで、一平はこの判断に自身が無くなってきた。
「おい、東に言ってあの山猫と連絡つけろ」
永井がすぐ脇にいた隊員に指示を出す。敬礼して走り去っていく隊員を見ながら「ああ軍隊式は肌に合わない」と一平はこっそりため息をついた。
その時だ。
「隊長! 大沼が目を覚ましました!」
隊員の声が永井を呼んだ。永井の目がとたんに厳しい色を帯び、無言で一平についてくるよう合図して走り出した。
「違う?」
手足を拘束され、SRPの大型ボックスカーを背に地面へ座らされている大沼がフン、と鼻を鳴らす。
「だから、ありゃあ物の例えだって。俺はP7には会ってない」
ダン! と大沼の顔の横すれすれを一平の足が踏みつけた。いわば片足で壁ドンしている状態だ。
「彼女をそんな風に呼ぶな」
「――とにかく、俺は知らねえ。そもそも本当に誘拐されたのか? そこから不確かなんだろ?」
お互い押し黙ってにらみ合う。その威圧感で周りを囲んでいた永井達が「うはあ」とドン引きしていたが、当の本人達はそれどころではない。
「大体よ、女がふっと連絡取れなくなるのなんてざらだろが。怒らせたんじゃねえの? それを誘拐だ何だと俺に罪を着せるのはお門違いってもんで」
「うっ」
思い当たる節が有り有りだ。たまらず顔をゆがめてしまった一平に大沼が「お?」と眉を上げた。
「なんだよ、図星かよ。あ~あ~、たまんねえなあ、ただの痴話げんかじゃねえか」
「ぐっ」
「色男さんよ、意外と女の扱い知らないのなぁ」
「あー、とりあえずな、じゃれるのはそのへんにしといてもらってだな」
やれやれといったふうに介入したのは永井だ。さすがは年の功と言ったところか。「じゃれてない!」という一平の叫びは無視された。
「大沼さんよ、あんたがあそこから脱走できた経緯を聞かしてもらおうか」
「――」
「どこかであの薬を入手したのか? あんた達を収容していた施設の場所は極秘になっていた筈だ。誰かが薬を差し入れたとも考えにくいが、逆にそれ以外に入手経路が考えられない」
「――」
「まあいい、戻ってからじっくり聞かせてもらうとするか」
この場での尋問は得策じゃないと切り上げた永井を、大沼が見上げた。
「まあ待てよ、おっさん。話してもいいが交換条件がある」
「条件?」
「こいつと」
そう言って大沼はあごで一平を示す。
「こいつともう一戦やらせろや」
「おお、そんなことでいいのか」
「ちょ、永井さん! 俺の意思は!」
とっとと了承してしまいそうな永井にあわてて噛みつくが、永井は嫌みなほどにいい笑顔で一平の肩をぽん、と叩いてきた。
「手伝ってくれるって言ったよな?」
――これも手伝いに入るんですか。
★☆★☆★☆
「娑婆とは全く隔絶されていると思っていたんだけどな、どういう訳か外部から連絡が来たんだ」
大沼はあっさりと口を割った。
「看守の一人がメモを持ってきたんだ。中には俺達を脱走させる日時と手順が書いてあった。それと一緒に薬が入っていた」
「薬、ってまさか」
「ああ、あの薬だ」
あの薬、人を超能力者にする薬。
その薬のせいで優も総一郎もひどい目にあったし、たくさんの人間が道を踏み外したりねじ曲げたりさせられた。事件の後、薬の制作方法と完成品の在庫は処分され、薬は闇に葬られた――が、未だ発見されていない完成品がある。
組織をSRPが抑える寸前に完成品を盗んで逃げ出した一団がいるのだ。
「萩原って男が首謀者だよ。あの時トンズラしやがった数人で薬飲んじゃいろいろやらかしてやがるらしい。
ところが、だ。どうやらスポンサーがついたらしいんだよな」
「スポンサー」
「誰かは知らねえよ? とにかく、萩原達は人手を集めたいらしい。そうなると、超能力の因子を持っているかどうかもわからねえ奴に無駄に薬を投与するよりは、薬で超能力者になった実績のある俺達を引き込んだ方が手っ取り早いと考えたんだろうな。脱走したいと同意した奴を能力使って脱走させたんだ」
「大沼さんよ、あんたそんなぺらぺらしゃべっちゃっていいのかい?」
永井がにやりとした嗤いを崩さずに聞いた。これだけ聞かれていないことも話していると、どこかに罠が潜んでいるのではないかと疑ってしまう。
「まあ疑われてもしょうがないわな――正直な、俺は萩原達には興味ねえんだ。あいつらは組織にいた頃から金目的だった。俺はあの人――清野さんのために働きたいと思ったから組織にいたんであって、そもそもあいつらとは考え方が違うんだよ。
俺が今回脱走したかったのは麻生の奴をボッコボコにしたかったからだ。萩原達が脱走に手を貸してくれるっつーから脱走させてもらったけどよ、そこから先は興味ねえ。とっとと逃げてきちまった。ああ、麻生と会ったのは偶然だ。俺は麻生に会いに古川の家に行くつもりで移動してたんだがな、飯でも食おうと新宿でうろついてたらたまたま見かけたから追いかけてきたんだ」
「偶然だったのか――まあ、それはいい。でも萩原とはつるめばまた薬をもらえるだろ? 超能力使えるのに未練はなかったのか」
「あぁ? 透視能力なんて女湯のノゾキ以外に何の役に立つってんだよ。俺の目的は麻生だ、別にそんな能力あってもなくても構ったこっちゃねえ」
うわあ、と大沼の話を聞いていた全員が思った。
せっかくの能力も、持っている人間が使い方をわかっていなければ宝の持ち腐れという顕著な例だ。情報を盗み見て売るとか泥棒するために貴重品のありかをのぞき見るとか、あるいは良いことにもいくらでも考えれば使い道があるのに、大沼は「女湯のノゾキ」しか思いつかなかったらしい。
小悪党というか、根は正直者というか。
「ただ、俺は脱走してそのまま奴らと別れちまったから、萩原達がこの先何をしようとしていたかまでは知らねえ。P7――じゃねえ、麻生の女に何かしようとしていたかどうかも、知らねえよ?」
「やっぱり萩原を捜すのが手っ取り早いか」
永井が腕組みしながらうなった。今まで探して見つからなかった一団だ、普通ならそうそう見つかるものじゃない。だが今回は大沼の情報がある。
「麻生君、今のところ池田さんは萩原に拉致された可能性がかなり高い。俺達はそれを追いつつ、別働隊にそれ以外の可能性を潰させる」
「わかりました、俺も萩原の方を手伝います」
「助かるよ。あっちは能力者だからな、正直心強い――おい伊藤、あのドラ猫には連絡がつかんのか」
永井が副官の伊藤に声をかける。
「はい、東も連絡が取れないみたいです」
「これだからあの気まぐれ猫は! まあ、仕方がない。東に言って別口を調べさせろ」
伊藤が連絡を取るために車に走って行くのを見ながら一平は永井に聞いた。
「その、猫って?」
「ああ、うちの特別部隊員でな。そのうち紹介するよ。えらい暴れ猫でな、東以外の言うことは聞かないもんですっかり東が世話係になっちまった」
使えるんだが問題児でな、と永井が肩をすくめた。
「助かったよ、麻生君」
SRPの永井隊長がパン、と一平の二の腕を叩いた。いや、永井本人にはそんなつもりはないのだろうが、如何せんその野太い筋肉に覆われた腕は人に予想以上の衝撃を与えるのだ。痛む腕を心の奥でやり過ごしながら一平は永井に尋ねた。
「大沼はそっちで収容していたんですよね? ひょっとしてもう釈放されていたんですか?」
「いやいや、脱走したんだよ。こっちも探していたんだ。能力はなくなったと油断していた」
「へえ、じゃあ能力使って逃げ出したんだ。俺、奴の能力知らないんですよね」
「おそらくな。
実は今回大沼含め複数人が一斉に脱走していてな。鉄格子がぐにゃぐにゃに曲げられていたり扉がひしゃげていたり、どう考えても超能力を使わないとできないっちゅう証拠がいくつもある。脱走した中にはPK能力者がいて、その力を使ったと考えないと説明がつかないんだ。例の薬は彼らを収容していた施設には置いていなかったから、入手は不可能な筈なんだがなあ――ちなみに大沼は透視能力者だから、もし能力を使うとしたら見張りとかだろうな」
なるほど、実戦にはあまり関係なさそうな能力だ。
「だとすると、疑問は三つ。まず、どうやって薬を入手したか。二つ目はどうやって俺の居場所をかぎつけたか。三つ目は――奴が優を攫ったかどうか」
「優? 池田さんか?」
永井の口調がぴりっと緊張感を帯びる。一平は小さく首を横に振った。
「いや、そう決まった訳じゃないんです。ただ連絡が取れなくて探していたところに大沼が現れたんで」
「ふむ」
永井があごをなでながら少しの間考え込む。
「――なあ麻生君。どうだ、取引しないか」
やっぱりそう来たか。一平は内心で嫌な顔をする。先日かかってきた、一平が不機嫌になった原因の電話の主・永井はおそらくそう言うだろうとは予想していたが、思った通りだ。
「池田さんの捜索に我々も協力させてもらう。もちろん大沼の証言や情報も提供しよう。そのかわり」
「そちらの捜査の手伝い、ですよね」
そう、あの電話は超能力を使っての協力要請だった。というよりSRPへのスカウトと言った方が正しい。
「――今回だけですよ? 俺、ちゃんと就職してるんですから。あと、蘇芳にも話通させてもらいます」
「勿論だ。助かるよ」
ニヤッと笑った永井の顔は一癖も二癖もありそうで、一平はこの判断に自身が無くなってきた。
「おい、東に言ってあの山猫と連絡つけろ」
永井がすぐ脇にいた隊員に指示を出す。敬礼して走り去っていく隊員を見ながら「ああ軍隊式は肌に合わない」と一平はこっそりため息をついた。
その時だ。
「隊長! 大沼が目を覚ましました!」
隊員の声が永井を呼んだ。永井の目がとたんに厳しい色を帯び、無言で一平についてくるよう合図して走り出した。
「違う?」
手足を拘束され、SRPの大型ボックスカーを背に地面へ座らされている大沼がフン、と鼻を鳴らす。
「だから、ありゃあ物の例えだって。俺はP7には会ってない」
ダン! と大沼の顔の横すれすれを一平の足が踏みつけた。いわば片足で壁ドンしている状態だ。
「彼女をそんな風に呼ぶな」
「――とにかく、俺は知らねえ。そもそも本当に誘拐されたのか? そこから不確かなんだろ?」
お互い押し黙ってにらみ合う。その威圧感で周りを囲んでいた永井達が「うはあ」とドン引きしていたが、当の本人達はそれどころではない。
「大体よ、女がふっと連絡取れなくなるのなんてざらだろが。怒らせたんじゃねえの? それを誘拐だ何だと俺に罪を着せるのはお門違いってもんで」
「うっ」
思い当たる節が有り有りだ。たまらず顔をゆがめてしまった一平に大沼が「お?」と眉を上げた。
「なんだよ、図星かよ。あ~あ~、たまんねえなあ、ただの痴話げんかじゃねえか」
「ぐっ」
「色男さんよ、意外と女の扱い知らないのなぁ」
「あー、とりあえずな、じゃれるのはそのへんにしといてもらってだな」
やれやれといったふうに介入したのは永井だ。さすがは年の功と言ったところか。「じゃれてない!」という一平の叫びは無視された。
「大沼さんよ、あんたがあそこから脱走できた経緯を聞かしてもらおうか」
「――」
「どこかであの薬を入手したのか? あんた達を収容していた施設の場所は極秘になっていた筈だ。誰かが薬を差し入れたとも考えにくいが、逆にそれ以外に入手経路が考えられない」
「――」
「まあいい、戻ってからじっくり聞かせてもらうとするか」
この場での尋問は得策じゃないと切り上げた永井を、大沼が見上げた。
「まあ待てよ、おっさん。話してもいいが交換条件がある」
「条件?」
「こいつと」
そう言って大沼はあごで一平を示す。
「こいつともう一戦やらせろや」
「おお、そんなことでいいのか」
「ちょ、永井さん! 俺の意思は!」
とっとと了承してしまいそうな永井にあわてて噛みつくが、永井は嫌みなほどにいい笑顔で一平の肩をぽん、と叩いてきた。
「手伝ってくれるって言ったよな?」
――これも手伝いに入るんですか。
★☆★☆★☆
「娑婆とは全く隔絶されていると思っていたんだけどな、どういう訳か外部から連絡が来たんだ」
大沼はあっさりと口を割った。
「看守の一人がメモを持ってきたんだ。中には俺達を脱走させる日時と手順が書いてあった。それと一緒に薬が入っていた」
「薬、ってまさか」
「ああ、あの薬だ」
あの薬、人を超能力者にする薬。
その薬のせいで優も総一郎もひどい目にあったし、たくさんの人間が道を踏み外したりねじ曲げたりさせられた。事件の後、薬の制作方法と完成品の在庫は処分され、薬は闇に葬られた――が、未だ発見されていない完成品がある。
組織をSRPが抑える寸前に完成品を盗んで逃げ出した一団がいるのだ。
「萩原って男が首謀者だよ。あの時トンズラしやがった数人で薬飲んじゃいろいろやらかしてやがるらしい。
ところが、だ。どうやらスポンサーがついたらしいんだよな」
「スポンサー」
「誰かは知らねえよ? とにかく、萩原達は人手を集めたいらしい。そうなると、超能力の因子を持っているかどうかもわからねえ奴に無駄に薬を投与するよりは、薬で超能力者になった実績のある俺達を引き込んだ方が手っ取り早いと考えたんだろうな。脱走したいと同意した奴を能力使って脱走させたんだ」
「大沼さんよ、あんたそんなぺらぺらしゃべっちゃっていいのかい?」
永井がにやりとした嗤いを崩さずに聞いた。これだけ聞かれていないことも話していると、どこかに罠が潜んでいるのではないかと疑ってしまう。
「まあ疑われてもしょうがないわな――正直な、俺は萩原達には興味ねえんだ。あいつらは組織にいた頃から金目的だった。俺はあの人――清野さんのために働きたいと思ったから組織にいたんであって、そもそもあいつらとは考え方が違うんだよ。
俺が今回脱走したかったのは麻生の奴をボッコボコにしたかったからだ。萩原達が脱走に手を貸してくれるっつーから脱走させてもらったけどよ、そこから先は興味ねえ。とっとと逃げてきちまった。ああ、麻生と会ったのは偶然だ。俺は麻生に会いに古川の家に行くつもりで移動してたんだがな、飯でも食おうと新宿でうろついてたらたまたま見かけたから追いかけてきたんだ」
「偶然だったのか――まあ、それはいい。でも萩原とはつるめばまた薬をもらえるだろ? 超能力使えるのに未練はなかったのか」
「あぁ? 透視能力なんて女湯のノゾキ以外に何の役に立つってんだよ。俺の目的は麻生だ、別にそんな能力あってもなくても構ったこっちゃねえ」
うわあ、と大沼の話を聞いていた全員が思った。
せっかくの能力も、持っている人間が使い方をわかっていなければ宝の持ち腐れという顕著な例だ。情報を盗み見て売るとか泥棒するために貴重品のありかをのぞき見るとか、あるいは良いことにもいくらでも考えれば使い道があるのに、大沼は「女湯のノゾキ」しか思いつかなかったらしい。
小悪党というか、根は正直者というか。
「ただ、俺は脱走してそのまま奴らと別れちまったから、萩原達がこの先何をしようとしていたかまでは知らねえ。P7――じゃねえ、麻生の女に何かしようとしていたかどうかも、知らねえよ?」
「やっぱり萩原を捜すのが手っ取り早いか」
永井が腕組みしながらうなった。今まで探して見つからなかった一団だ、普通ならそうそう見つかるものじゃない。だが今回は大沼の情報がある。
「麻生君、今のところ池田さんは萩原に拉致された可能性がかなり高い。俺達はそれを追いつつ、別働隊にそれ以外の可能性を潰させる」
「わかりました、俺も萩原の方を手伝います」
「助かるよ。あっちは能力者だからな、正直心強い――おい伊藤、あのドラ猫には連絡がつかんのか」
永井が副官の伊藤に声をかける。
「はい、東も連絡が取れないみたいです」
「これだからあの気まぐれ猫は! まあ、仕方がない。東に言って別口を調べさせろ」
伊藤が連絡を取るために車に走って行くのを見ながら一平は永井に聞いた。
「その、猫って?」
「ああ、うちの特別部隊員でな。そのうち紹介するよ。えらい暴れ猫でな、東以外の言うことは聞かないもんですっかり東が世話係になっちまった」
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