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本編
十分間②
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海沿いの倉庫で叶野を待っていた男たちは、到着が遅れている彼女をいぶかしんでいた。
「遅いな」
「あの女、薬持って逃げちゃったんじゃないでしょうね」
「そりゃないだろ。あいつ、清野さんにメロメロだから」
「年甲斐もなく、な」
数人がげらげらと下品な笑い声をあげた。
倉庫の中には光流を含めて男ばかり六人いる。組織で光流が抱えていた超能力者のうちの一部だ。ここにいるのは光流に心酔している人間ばかりで、そうでなかった者たちは地下施設で騒ぎが起こってすぐに保管してあった薬の一部を盗んでどこか逃げてしまっていた。要は「清野についていれば甘い汁が吸える」と考えていた一団だ。逃げた中には優が会った萩原もいる。叶野には大沼に確保させておいた薬を預けてあって、それを持ってくるように指示してあった。
池田総一郎が逃げ出したあの時、地下施設はどこの手の者かわからない武装集団に急襲を受けていた。
組織の戦闘員も訓練は欠かしていなかったが、相手はそれ以上に場慣れしていて、結果地下施設は彼らに占領されてしまった。どうやら国家権力絡みの組織らしいということは途中で報告が入ったが、その頃にはもはや施設を捨てて逃亡せざるを得ない状況に追い込まれてしまっていた。
だから清野はそこにいた大沼と萩原に薬の在庫を持ってくるように命じた。大沼は第一研究室の在庫を言われた通り持ってきたが、倉庫に行った萩原はそのどさくさに紛れて薬の在庫を持ち出し、複数名で姿をくらませてしまったのだ。
光流は倉庫の奥まったところに積まれた箱に座り、ぎりっと爪を噛んだ。
子供の頃、母の紘代は自分を連れて家を出た。
母は昔から我儘で癇癪持ちだった。気に食わないことがあると当たり散らし、まだ幼い光流に厳しく当たることもあった。機嫌の上下が激しく、光流はずっとこの母が怖かった。だから逆らうことはせず、母の機嫌の悪い時はできるだけ息を潜めて隠れたりしていた。
どうやら紘代は光流を連れて家出し、家に戻る条件として蘇芳を追い出せと蔵人に迫っていたようだ。だが、蔵人は首を縦に振らなかった。そのせいでプライドが高すぎる紘代は家に戻ることができなかった。
そうして二人で過ごすうち、紘代はある男とつきあうようになった。
紘代と蔵人はいわゆる政略結婚で、恋愛感情らしきものはなかった。なので、紘代は男との恋に夢中になり、古川家に戻ることは忘れてしまったようだった。
だが、相手の男はクズだった。紘代に貢がせ、のしあがり、他に女を作った。それを知った紘代はショックからおかしくなり、ほどなくして帰らぬ人となった。そして光流はその相手の男に育てられたのだ。ただし、男から愛情を感じたことはない。元々出来のいい子供だったのと昴グループ会長の実子ということで利用価値を見込まれて教育を施されただけのことだ。
男は組織の旧幹部のひとりだった。
だから光流は憎む。幸せだった家から、やさしかった兄から自分を引きはがした母を。母をたぶらかし、裏切った男を。男が胡坐をかいて座っている組織を。
だから光流は男を追い落とし、組織を乗っ取る計画を立てた。
時間をかけ計画を練り、着々とこなしていった。
――兄さんに、会いたい。
その間も光流の心のよりどころは、やさしくしてくれた憧れの兄・蘇芳だった。組織の伝手を使って、その後の蘇芳についてもずいぶん調べた。蘇芳が男の子を引き取っている、その男の子についても調べた。
――憎いものが、もうひとつ増えた。
麻生一平。あいつを兄さんが大切にしているのが許せない。兄さんは俺だけの兄さんのはずだ。
爪をがりがりと噛み、自分の拠り所がなくなってしまったことに焦りを隠せない。
そうしてそんな気持ちを持て余しているうちに、気がついたのだ。
――そうだ。この組織を超能力者の集団として磨き上げよう。そして兄さんの手足として働く優秀な集団を作り上げるんだ。
――そうすればきっと、俺の方が麻生一平よりも価値があると兄さんも認めてくれる。諸手を挙げて俺を受け入れてくれる。
この時点で光流はどこかおかしくなっていたのかもしれない。発想が突飛すぎることに気がつきもしなかった。
光流=清野を頂点に「新しい人類のための世界を作る」というお題目の元、まるで新興宗教のように変わってしまった組織の一派。
それだけだと超能力者以外がついてこないので、光流は超能力者ではない者も、働きによっては重用すると説得する。
光流は頭がよく、弁も立つ。カリスマ的なオーラを持っている類の人間だ。だから人は面白いように集まった。
結果、組織は今や光流が手中に収めている。
クーデターは成功し、今までのさばっていた幹部連中はすべて光流の子飼いにすげかえた。
なのに。なのになのに。
がりり。
噛んだ爪からうっすらと血がにじんだ。
「いや、真面目に遅すぎる。様子を見てくるか」
ひとりがそう言って立ち上がった、その時だった。
がんっ!
派手な音がした。まるで車同士が正面衝突でもしたんじゃないか、と思うくらいに大きな音だった。
「なんだ?」
光流を除く男たちが様子を見に倉庫から出て行った。
倉庫を出た男たちは、少し離れた街灯の下に見たことのある青い軽乗用車を見つけた。
「あれ、叶野の車じゃねえか?」
男のうちのひとり、木村が言った。背の低い、洒落っ気のない三十がらみの男だ。レンズの分厚い黒ぶちの眼鏡で瞳が少し大きめに見える。
木村と青田、森川の三人が車の様子を見に行った。ボンネットを触るとまだ熱く、ここに着いたばかりだと思われた。
「あいつ、どこに行ったんだ」
森川があたりをきょろきょろと見回す。一方、あとの二人は西谷と大沼。倉庫の出口を出たところで立ち止まっている。光流の護衛をしているのだ。
――と。
「うわ!」
誰かが驚いて叫び声をあげる。瞬間的に二人の男女が木村たち三人と、倉庫前に残った二人のちょうど中間あたりに現れたのだ。
「あ! てめえは!」
大沼が声を荒げる。が、次の瞬間猛烈な衝撃が大沼の脇をかすめる。あっという間に距離を縮めてきた一平が、大沼の隣にいた西谷に蹴りを喰らわせたのだ。
西谷はその勢いで倉庫の開いている扉から中へ弾き飛ばされている。大沼はそれを目の端で捉えながらも、今度は自分へ迫ってくる一平の蹴りを捌くので必死だった。
ばん!
大谷の左脇を狙った足を両腕を使ってガードする。
「よお、あんたか。今回も勝てると思うなよ。三度目の正直って言うだろう」
受け止めた足を押さえたまま大沼はニヤリと笑う。一方の一平も蹴りを入れた姿勢のままでニヤリと笑う。
「二度あることは三度あるって言うだろ?」
大沼が一平の足を掴んだまま体重を移動して、一平の軸足を払いにかかる。だがその瞬間、一平が大沼の腕を掴んでぐんっと体重をかけた。重さのバランスが崩れ、大沼は足を踏ん張ることになり、わずかな隙ができる。そのまま体落としの要領で大沼はアスファルトに叩きつけられた。
「ぐっ」
勢い一平の肩が大沼の鳩尾にヒットし、またしても鳩尾を打たれた大沼は悶えることになる。
*****
大沼を倒し振り返ると、優はテレポートアウトした地点にまだいて、車のそばにいた三人組のうち二人を立て続けにPKで海に投げ飛ばしたところだった。
残された森川は一瞬呆然としていたようだが、すぐに猛然と優に向かってきた。
「てめえっ!」
森川が右腕を薙ぎ払うように振る。おそらくPKの能力者なのだろう、優が突き飛ばされるのが見えた。
「あっ!」
優は硬いアスファルトの上をざざっと滑る。衝撃でぐらぐらするのだろうか、起き上がったものの立ち上がれずにいるようだ。が、その時には森川が優の上に馬乗りになって押さえつけていた。
「優!」
一平は助けに行こうとしたが、大沼が復活してきて行く手を阻む。
「麻生! お前の相手はこの」
「邪魔だああああっ!」
一平の拳が大沼の左頬にまともに入る。ぐきぐきっと嫌な音がして、大沼の目がぐるりとひっくり返り白目をむく。そのままどすんと重たい音を立てて倒れた。二度あることは三度ある、の勝利だった。
大沼にはもう何の注意も向けず、一平は優に駆け寄った。
「そいつに触るな!」
言いながら殴りかかったが、何かに阻まれて拳が森川に届かない。
「バリアシステム? ――じゃないな、バリアを展開してるのか」
答える代わりに森川がにやっと笑った。
が、次の瞬間下から弾かれるように宙に跳んだ。組み敷かれていた優がPKで突き飛ばしたのだ。どうやら一平の拳を防ぐ方に気がそれて、優の方へバリアを展開し忘れたのだろう。森川はそのまま数メートル先へ落ちた。
「優、大丈夫か」
一平が助け起こすと、優は顔を少しゆがめて左腕を押さえた。半袖を着ていたので、むき出しの腕が派手にすりむいている。
一平は痛々しそうにそれを見て、数メートル先で倒れたままうなっている森川をにらみつける。
「あの野郎、女の子の肌にこんな傷つけやがって。ただじゃ済まさねえ」
だがさっき海に落とされた木村と青田が海から上がってきたので、意識はそちらへ向ける。
「懲りないな。まだやる気かよ」
立ち上がって構えを取る。海から上がってきた二人は緊張した面持ちで、間合いをはかっているようだ。じりじりと張りつめた時間が経過する。
がたん!
倉庫の方で音がした。それを契機に青田と木村が一平に躍りかかった。
「野郎おおおおお!」
一平は最小限の動きでそれをかわし、二人はたたらを踏む。振り返り、青田が低い姿勢で一平にタックルをかまそうと飛び掛かってくるが、狙いすましたようにそこへ一平の蹴りが飛んできて蹴り飛ばされる。一方の木村はどこで拾ったのか鉄パイプを握りしめて一平に殴りかかろうとしていたが、吹っ飛んできた青田とぶつかり絡まって転がってしまった。
「おい、あとはあんたひとりだぜ、光流さん」
倉庫の方を一平が振り向く。いつの間にか扉の所には光流が立っていて、恐ろしく無表情で優と一平を見ていた。
「遅いな」
「あの女、薬持って逃げちゃったんじゃないでしょうね」
「そりゃないだろ。あいつ、清野さんにメロメロだから」
「年甲斐もなく、な」
数人がげらげらと下品な笑い声をあげた。
倉庫の中には光流を含めて男ばかり六人いる。組織で光流が抱えていた超能力者のうちの一部だ。ここにいるのは光流に心酔している人間ばかりで、そうでなかった者たちは地下施設で騒ぎが起こってすぐに保管してあった薬の一部を盗んでどこか逃げてしまっていた。要は「清野についていれば甘い汁が吸える」と考えていた一団だ。逃げた中には優が会った萩原もいる。叶野には大沼に確保させておいた薬を預けてあって、それを持ってくるように指示してあった。
池田総一郎が逃げ出したあの時、地下施設はどこの手の者かわからない武装集団に急襲を受けていた。
組織の戦闘員も訓練は欠かしていなかったが、相手はそれ以上に場慣れしていて、結果地下施設は彼らに占領されてしまった。どうやら国家権力絡みの組織らしいということは途中で報告が入ったが、その頃にはもはや施設を捨てて逃亡せざるを得ない状況に追い込まれてしまっていた。
だから清野はそこにいた大沼と萩原に薬の在庫を持ってくるように命じた。大沼は第一研究室の在庫を言われた通り持ってきたが、倉庫に行った萩原はそのどさくさに紛れて薬の在庫を持ち出し、複数名で姿をくらませてしまったのだ。
光流は倉庫の奥まったところに積まれた箱に座り、ぎりっと爪を噛んだ。
子供の頃、母の紘代は自分を連れて家を出た。
母は昔から我儘で癇癪持ちだった。気に食わないことがあると当たり散らし、まだ幼い光流に厳しく当たることもあった。機嫌の上下が激しく、光流はずっとこの母が怖かった。だから逆らうことはせず、母の機嫌の悪い時はできるだけ息を潜めて隠れたりしていた。
どうやら紘代は光流を連れて家出し、家に戻る条件として蘇芳を追い出せと蔵人に迫っていたようだ。だが、蔵人は首を縦に振らなかった。そのせいでプライドが高すぎる紘代は家に戻ることができなかった。
そうして二人で過ごすうち、紘代はある男とつきあうようになった。
紘代と蔵人はいわゆる政略結婚で、恋愛感情らしきものはなかった。なので、紘代は男との恋に夢中になり、古川家に戻ることは忘れてしまったようだった。
だが、相手の男はクズだった。紘代に貢がせ、のしあがり、他に女を作った。それを知った紘代はショックからおかしくなり、ほどなくして帰らぬ人となった。そして光流はその相手の男に育てられたのだ。ただし、男から愛情を感じたことはない。元々出来のいい子供だったのと昴グループ会長の実子ということで利用価値を見込まれて教育を施されただけのことだ。
男は組織の旧幹部のひとりだった。
だから光流は憎む。幸せだった家から、やさしかった兄から自分を引きはがした母を。母をたぶらかし、裏切った男を。男が胡坐をかいて座っている組織を。
だから光流は男を追い落とし、組織を乗っ取る計画を立てた。
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――兄さんに、会いたい。
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――憎いものが、もうひとつ増えた。
麻生一平。あいつを兄さんが大切にしているのが許せない。兄さんは俺だけの兄さんのはずだ。
爪をがりがりと噛み、自分の拠り所がなくなってしまったことに焦りを隠せない。
そうしてそんな気持ちを持て余しているうちに、気がついたのだ。
――そうだ。この組織を超能力者の集団として磨き上げよう。そして兄さんの手足として働く優秀な集団を作り上げるんだ。
――そうすればきっと、俺の方が麻生一平よりも価値があると兄さんも認めてくれる。諸手を挙げて俺を受け入れてくれる。
この時点で光流はどこかおかしくなっていたのかもしれない。発想が突飛すぎることに気がつきもしなかった。
光流=清野を頂点に「新しい人類のための世界を作る」というお題目の元、まるで新興宗教のように変わってしまった組織の一派。
それだけだと超能力者以外がついてこないので、光流は超能力者ではない者も、働きによっては重用すると説得する。
光流は頭がよく、弁も立つ。カリスマ的なオーラを持っている類の人間だ。だから人は面白いように集まった。
結果、組織は今や光流が手中に収めている。
クーデターは成功し、今までのさばっていた幹部連中はすべて光流の子飼いにすげかえた。
なのに。なのになのに。
がりり。
噛んだ爪からうっすらと血がにじんだ。
「いや、真面目に遅すぎる。様子を見てくるか」
ひとりがそう言って立ち上がった、その時だった。
がんっ!
派手な音がした。まるで車同士が正面衝突でもしたんじゃないか、と思うくらいに大きな音だった。
「なんだ?」
光流を除く男たちが様子を見に倉庫から出て行った。
倉庫を出た男たちは、少し離れた街灯の下に見たことのある青い軽乗用車を見つけた。
「あれ、叶野の車じゃねえか?」
男のうちのひとり、木村が言った。背の低い、洒落っ気のない三十がらみの男だ。レンズの分厚い黒ぶちの眼鏡で瞳が少し大きめに見える。
木村と青田、森川の三人が車の様子を見に行った。ボンネットを触るとまだ熱く、ここに着いたばかりだと思われた。
「あいつ、どこに行ったんだ」
森川があたりをきょろきょろと見回す。一方、あとの二人は西谷と大沼。倉庫の出口を出たところで立ち止まっている。光流の護衛をしているのだ。
――と。
「うわ!」
誰かが驚いて叫び声をあげる。瞬間的に二人の男女が木村たち三人と、倉庫前に残った二人のちょうど中間あたりに現れたのだ。
「あ! てめえは!」
大沼が声を荒げる。が、次の瞬間猛烈な衝撃が大沼の脇をかすめる。あっという間に距離を縮めてきた一平が、大沼の隣にいた西谷に蹴りを喰らわせたのだ。
西谷はその勢いで倉庫の開いている扉から中へ弾き飛ばされている。大沼はそれを目の端で捉えながらも、今度は自分へ迫ってくる一平の蹴りを捌くので必死だった。
ばん!
大谷の左脇を狙った足を両腕を使ってガードする。
「よお、あんたか。今回も勝てると思うなよ。三度目の正直って言うだろう」
受け止めた足を押さえたまま大沼はニヤリと笑う。一方の一平も蹴りを入れた姿勢のままでニヤリと笑う。
「二度あることは三度あるって言うだろ?」
大沼が一平の足を掴んだまま体重を移動して、一平の軸足を払いにかかる。だがその瞬間、一平が大沼の腕を掴んでぐんっと体重をかけた。重さのバランスが崩れ、大沼は足を踏ん張ることになり、わずかな隙ができる。そのまま体落としの要領で大沼はアスファルトに叩きつけられた。
「ぐっ」
勢い一平の肩が大沼の鳩尾にヒットし、またしても鳩尾を打たれた大沼は悶えることになる。
*****
大沼を倒し振り返ると、優はテレポートアウトした地点にまだいて、車のそばにいた三人組のうち二人を立て続けにPKで海に投げ飛ばしたところだった。
残された森川は一瞬呆然としていたようだが、すぐに猛然と優に向かってきた。
「てめえっ!」
森川が右腕を薙ぎ払うように振る。おそらくPKの能力者なのだろう、優が突き飛ばされるのが見えた。
「あっ!」
優は硬いアスファルトの上をざざっと滑る。衝撃でぐらぐらするのだろうか、起き上がったものの立ち上がれずにいるようだ。が、その時には森川が優の上に馬乗りになって押さえつけていた。
「優!」
一平は助けに行こうとしたが、大沼が復活してきて行く手を阻む。
「麻生! お前の相手はこの」
「邪魔だああああっ!」
一平の拳が大沼の左頬にまともに入る。ぐきぐきっと嫌な音がして、大沼の目がぐるりとひっくり返り白目をむく。そのままどすんと重たい音を立てて倒れた。二度あることは三度ある、の勝利だった。
大沼にはもう何の注意も向けず、一平は優に駆け寄った。
「そいつに触るな!」
言いながら殴りかかったが、何かに阻まれて拳が森川に届かない。
「バリアシステム? ――じゃないな、バリアを展開してるのか」
答える代わりに森川がにやっと笑った。
が、次の瞬間下から弾かれるように宙に跳んだ。組み敷かれていた優がPKで突き飛ばしたのだ。どうやら一平の拳を防ぐ方に気がそれて、優の方へバリアを展開し忘れたのだろう。森川はそのまま数メートル先へ落ちた。
「優、大丈夫か」
一平が助け起こすと、優は顔を少しゆがめて左腕を押さえた。半袖を着ていたので、むき出しの腕が派手にすりむいている。
一平は痛々しそうにそれを見て、数メートル先で倒れたままうなっている森川をにらみつける。
「あの野郎、女の子の肌にこんな傷つけやがって。ただじゃ済まさねえ」
だがさっき海に落とされた木村と青田が海から上がってきたので、意識はそちらへ向ける。
「懲りないな。まだやる気かよ」
立ち上がって構えを取る。海から上がってきた二人は緊張した面持ちで、間合いをはかっているようだ。じりじりと張りつめた時間が経過する。
がたん!
倉庫の方で音がした。それを契機に青田と木村が一平に躍りかかった。
「野郎おおおおお!」
一平は最小限の動きでそれをかわし、二人はたたらを踏む。振り返り、青田が低い姿勢で一平にタックルをかまそうと飛び掛かってくるが、狙いすましたようにそこへ一平の蹴りが飛んできて蹴り飛ばされる。一方の木村はどこで拾ったのか鉄パイプを握りしめて一平に殴りかかろうとしていたが、吹っ飛んできた青田とぶつかり絡まって転がってしまった。
「おい、あとはあんたひとりだぜ、光流さん」
倉庫の方を一平が振り向く。いつの間にか扉の所には光流が立っていて、恐ろしく無表情で優と一平を見ていた。
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