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エピローグ
650話 魔法最弱の世界に転生した魔法少女
しおりを挟むあれから1年が経ち、秋も中頃になってきた。
去年の今頃、私は学園で教師をしていたはずだけど、もう何年も前のことのように思えてしまう。
私は18歳となり、周囲の環境も大きく変化した。
王国は龍王国として再建が始まり、復興作業が進められた。私もその作業に加わり、炎上した家々の撤去や瓦礫の回収作業を国中回ってやらされた。
やるって言ったんだから、そこは筋を通した。
一方で私の領地はと言えば、フィリオの傘下に入り経営を代行してもらった。
資金は十分に貰えたし、領地の整地には私の力を使えばお金はいらない。
けれど、現在も領地の開発は続いている。労働力が欲しくてもパズールも王都もその他の街も復興に右往左往、することに対し全く手が足りなかった。でも、自分の領地が出来上がっていくのは少し楽しい。
パズールはより一層竹林の村とのつながりを深め、交渉の末に竹林含め周囲の土地をパズール領として賜り1つの街として併合した。
環境問題のために、王都を模して自然と領地を一体化させる作りになり、領地が馬鹿でかくなった。
当時「そんな簡単に領地もらえるの?」と質問したところ「ソラの権威を振るわせてもらった」と脳みそに雑草が生えてそうな言葉を返された。
パズールや王都の話はこのくらいにして、別の変化を話そう。
国王はルーアら龍と更に仲を深め、元アズリア神国の領地の一部と、帝国領の一部、王国領の一部を切り取り龍国を建設することになった。
すぐ近くに水資源が豊富な山が聳え立っており、龍にとっては都合がいい場所だった。
残ったアズリア神国の土地は、今回の戦争で亡くなった帝国民、神国民、王国民の墓地として扱い、併合することなく三国の中立地区になった。
帝国では新たな皇帝を取り決めることになり、本来なら帝国の人間から選ばれるはずだったが、権力者はほとんど全員死んだか逃亡かディティーの関係者なため、新たな人材が成長するまで龍王国の一部として国王が統治する流れとなる。
護衛として、私同伴で帝国に連れてかれた時は逃げてやろうかと思った。
こうして振り返ってみると、やたらと忙しない1年だったと感じる。細かく説明すれば、1日じゃ足りない。
国が細かい人口や村、集落の数を把握していないのはまずいからと調査や併合、折り合いをつけて安全を確保させた話とか、各街や各国へ移動を楽にするためにと道の整備や宿泊施設の設置を呼びかけたりとか、他にも本当にたくさんのことが進化していった。
より豊かな生活に向け、止まることなく人々は進んでいく。未だ深く残る戦争の痕に、辛い気持ちが込み上げることもある。
けど、新しい世界、新しい道、新しい日々を、全力で生き抜くしかない。そうして、今まで語ったように姿を変えていく。
私は神であって、この世界の民。創滅神のようには生きないし、絶対あんなふうにはならない。
もう1人の私の生きる理由が死んでしまったみんなの分まで生きること。あの私は、神なんだ。
なら私の生きる理由は、神の性質を変えることにしよう。今すぐにできることではない、ゆっくり、時間をかけないといけないことではあるけど、だからこそ理由になる。
世界を覆う力をすり替える、という話ではない。神という下界の秩序を守る存在が全て変化してしまえばそれこそ創滅神としていることは変わらない結果になる。
また創滅神のような存在が生まれてしまわないよう、私なりに頑張るつもりだ。
でも今は国の立て直しが先だ。
今日もフィリオの家に寄る予定がある。
私は長い回想から現実に戻り、部屋の窓から外を見る。晴れだ。いい仕事日和、ということはない。仕事はいつだって面倒だ。
窓越しに映る私の顔は、去年の私より大人びて見える。あの私と同じような見た目になりつつある。
約束の時間よりは早いが、私は増築された家から出る。手狭だから、半年前くらいに空いた時間で作り直した。
クルミルさんの世話する庭を通って、いつもの道に入る。ギルドの裏側の、少し盛り上がった土地の上から街を見下ろし、去年と少し変わった景色を堪能する。
空間移動しても良かったけど、その前に行きたい場所があった。
ちなみに百合乃達はというと冒険者の仕事をしている。百合乃はついにAランクにまで上がり、ツララとアーレはC、ラビアはDと自分なりに頑張ってくれている。
百合乃の装備を新調したのはまた別の機会に話そう。
街の中央あたりまで歩き、3階建ての小綺麗な家に着いた。アパートのように階段があるが、部屋数は2部屋。
誰の家かと言えば、ロア達の家だ。上の2階がロア達の家、その下が他従業員用の社宅兼空き家である。
カフェの方は、2階を取り払って店舗の一部に改装した。ティリーにはギルマスの家に帰ってもらって、新婚祝いにこの家の土地代を払ってあげてこれが完成したというわけだ。
2階に上がり、ノックをすれば戸が開く。もうすっかり姉のような振る舞いのサキと、それを優しく見守るロアが出てくる。
そうだ。めでたいことに、テレスさんとネトラーさんは子供を授かったのだ。5ヶ月らしい。
落ち着いてから、しっぽりとやったのだろう。
「赤ちゃん、お元気ですか?」
「ソラちゃんのおかげでね。こんなに良くしてもらっちゃって、いいのかしらって思うくらいよ。」
ネトラーさんはいつもの母性で迎えてくれた。お腹は少し膨れており、嬉しそうにお腹を撫でる。
「サキももうお姉ちゃんかぁ。」
「わたしもうおねえちゃん!ソラお姉ちゃんといっしょ!」
「そうだね。」
こっちに来たサキの頭をポンポンと撫でてやると、嬉しそうにはにかんだ。そのままガッチリホールドして、「あのねあのね」と話を続ける。
「この間ね、ネルお姉ちゃんも来てくれたんだぁ!」
「あぁ、そういえば帰ってきてたか。」
学園の課題調査のために一時帰宅している、とフィリオから聞いた。
学園はあれから魔法研究に力を入れ始めて、魔科学部に準ずる活動も増えてきたらしい。
その兼ね合いもあってか、魔法についてなんでも好きに調べるという課題を出されたという。期間は1ヶ月、その間出席は無しで結構、そういう課題だ。
「あの子が生まれて成長する頃には、この街にもちゃんとした学校ができると思うし……ま、発展してきてるね。」
「なんの話?」
「なんでも。」
うりうりと頭を撫でればそれで口封じは完成する。一通り撫でたところで、私は再び玄関に向かう。
「もう行くんですか、ソラお姉ちゃん。」
「ごめんね。これからフィリオと仕事があるからさ。もし、ネトラーさんが生まれそうになったら教えてね。手伝うからさ。」
「はい、もちろんです。」
ロアの頭にも手を置いて、気持ちよさそうに目を細めたところで踵を返す。
「あっ、空あ!こっちですぅ!」
「げ。」
玄関の外、階段の上から聞き覚えのある声を捉えて顔を渋める。
「討伐は終わった?」
「もちろんです!」
「いっぱい、狩った。」
と、獲物の魔物を掲げて微笑む。
「空も一緒に行きましょうよ~。」
「私これから仕事。」
「んもぉ、頑固なんですからぁ。」
階段を降りた時には捕捉されており、百合乃が侍フォームで抱きついてくる。
「はいはい……ついていけばいいんでしょ。」
「やっぱり空は優しいから大好きです!」
「気持ち悪い……」
頭でぐりぐり擦り付けてくる百合乃を引き剥がしながら、寄ってくるツララとアーレ、ラビアの相手もしながら……ああ鬱陶しい!
「あっつい……ちょっと離れて」と小さく呟く。
まあでも、これを守るために、頑張ったんだよね。
そう思うと、やっぱりちょっと嬉しくなる。
これが全てなくなる世界の私は、きっと想像することすらできない絶望の底にいるのだろう。
だから、この時間に感謝しなければいけないのかもしれない。
「ありがと、みんな。」
百合乃が私の胸から顔を上げる。
「なんで、ありがとうなんです?」
「元気でいてくれて。」
「なんなのですか、それ。」
ラビアが苦笑して、百合乃はにしっと笑って一歩下がった。そして、顔を見回す。
「「「「そんなの、私の台詞です!」わたしのセリフ!」わたしのセリフだよ!」私の台詞ですよ!」
みんな合わせて言うから、語尾が渋滞している。それがなんだかおかしくて、「はははっ!」と笑いが漏れる。
「なに、それ?」
こんなにも満たされて、こんなにも幸せで、こんなにも楽しい。
この世界に転生できて、私は心から良かったと思えた。
私はあの日、この魔法最弱の世界に、魔法が進歩し始めた世界に、転生した。
私はこの世界と共に、歩んでいく。
———————————————————————
END.
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