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20章 魔法少女と空
648話 魔導神と変革世界
しおりを挟む世界を変えたからって、そう簡単に様子が変わるわけじゃない。
メガネを外したからって美少女にもイケメンにもならないのと同じように、ちょっと変えたくらいじゃなにも変わらない。
イケメンがメガネをかけると「かっこいい!」になるのに対し、その逆がメガネかけると「うわメガネ……」になるこの不思議。
前者はイケメン主体なのに、後者はもう眼鏡に乗っ取られてる。代名詞メガネ。
と、本題から直角に曲がっていった話をなんとか掬い取り、メガネの話は傍に追いやる。
『神盤』も『銘盤』も、特に変わった様子はない。生命力が戻って気分の良さそうな神々がわらわらいるだけ。
そんな私もそのわらわらに混じり、とある『神盤』に降り立った。
「視察でしょうか。ならば私が行いますが。このような細事にマスターが出るなど非効率です。」
「まーその意味合いもあるけどさ。効率重視じゃないのよ、世界は。」
「そうでしょうか。」
「会いたい神もいるしね。」
「誰でしょう。」
全てにおいて法律に違反していそうな雑多な道々を進む。その後ろをぴたりとアリアがついてくる。
「会えば分かるよ。分からないかもだけど。」
「どちらですか。」
「どっちだろね。」
「マスター、変わられましたか。」
後ろから、平坦ながら含みのある言葉を投げかけられた。それも、設定だろうか。
変わった、ね。神になったんだし、ま、変わってるだろうね。
そんな旨を口に出す。
「素直ですね。」
「どうも。」
「褒めていないのですが。」
しかし質問を繰り返すことはなかった。私の黙る意図に逆らわないという意思、という解釈をしておいた。
解釈するだけだけど。
「頑張ったんだよ、私。私の世界、日本で……向こうに置いてきた未練も思い残しも全部全部なんとかして戻ってきた。ニュータイプな私になった。」
「ニュータイプですか。」
私には分かる、こいつ何も考えてないな。
あー、そろそろかな。この辺り見覚えあるし。
私は首を見回した。
適当に会話をしていると、ようやく目的の場所を目視できた。
「ここは?」
「情報屋。」
「半壊してますね。」
「誰かさんのせいでね。」
入口が爆散してる建物を眺めて言った。
「ここに目的の神が?」
「うん。ユユっていう、神間の情報共有?を、主とした生活を送ってる神。」
「情報共有ですか。」
「そ。小柄だけど快活な子。」
「小柄で快活。」
「ねぇ。」
「はい。」
「私の言葉、繰り返すのやめてくれる?」
アリアは口を閉ざした。なに、この子。私がこういうタイプ好きだと思ってる?
いやまぁ、嫌いじゃないけど。
気を取り直し、破壊された情報屋の中に入る。
お邪魔しまーすと軽い挨拶だけを前置きに、勝手に人の家に入る。どこぞのゲームみたいに、ノックひとつなく侵入したかと思えば壺を割りだすやつよりマシだ。
「いらっしゃい、どんな情報が……」
カウンターを模したようなテーブルを挟んだその奥に、生命力を強く含んだ瞳を持つ、桃色の少女がいた。
「ソラ、なのかい?」
「そうだよ。」
軽く返事をし、ユユへ近づく。
「もう分かってるとは思うけど、創滅神、ぶっ倒してきた。」
「そんな簡単に、すごいこと言わないでほしいよ。あたし、心配して……ずっと、心配してた……」
ユユは生命力の証である涙が、溢れようとして上を向く。
「あれ、なんで……神なのに、涙なんて……」
「神だって感情があってもいいんじゃない?物騒なこともあるかもだけどさ、こっちの方が楽しいでしょ。」
「マスター。私も涙を流した方がよいでしょうか。」
「空気読もうぜ。」
いいこと風を言っていた私に横槍を刺したアリアは、キョトンと首を傾げた。
「その……そこの神は何者なんだい?凄い力を感じる。」
すっかり感動シーンを終えてしまった。ユユは、再会パートを終えて質問パートに入る。
「ただの神とは思えない……けど、『銘盤』の神達とも違う。あたしの情報にもないの。」
「アリアね。前は創滅神の従者で使徒をやってた。私が『核盤』に行ったときに会ったと思うけど。」
「……………………………もしかして、あの……?」
困惑と画像検索すればトップのイラストに出てきそうなハの字の眉。
『ソラ……知ってるのかい?』
『使徒だよ』
『使徒…………?』
この会話を思い出すこと5秒。
「なんで敵が!?」
「今は味方ね。」
「はい。マスターの従順な下僕にございます。」
「そ、そうなの……」
次第に事を飲み込むと、次に現れるのは情報屋らしい探究心。
「ね、ねぇ。アリアちゃんのこと、調べてもいいかい?使徒、気になる。」
「最後カタコトだけど大丈夫かい?」
「あたしの語尾を奪わないでくれないかい。」
ユユはテーブルの奥で腰掛けた。さすがに、今すぐ調査!とかはしないらしい。されても困るけど。
「そもそも、今日は私が元気に神してる事を伝えにきたのと、顔を見にきただけだからね?」
「でも、あたしは嬉しいよ。」
「私も、ちゃんと元気そうで嬉しい。」
「感謝してるんだ、ソラに。」
「私もね。」
「…………今、あたしがソラにありがとうを言う時間なんだけど。」
ユユは目を細めて、不満そうに頬を膨らませた。リスだ。
「じゃ、受け取っとく。———どういたしまして。ほら、この世界の神と話せる機会を噛み締めなさい。」
「あははっ、ソラ、全然神っぽくないよぉ。」
「ひっどいなぁ。」
口を尖らせながら、笑顔のユユを見て内心満足する。
これを守った、そう思うと死んだ甲斐があったってものだ。
三途の川を反復横跳びした私はもはや死神なのかもしれない。
「私、下界でも用あるからさ……そろそろ行くよ。」
「また来てくれるかい?」
「来るよ。絶対。」
最後の言葉を強調して、左手で手を振る。
「『神盤』の神にしては、強い精神力でした。彼女は何者でしょうか。」
「ただの神でただの情報屋。そうじゃなければ私の友達。」
「マスターがそうおっしゃるのであれば、そうなのでしょう。」
「信じるんだ。」
「駄目でしたか。」
「いいけど。」
来た道を戻りながら、2人でぶつぶつと余分な話を広げる。ふと、先ほど振った左腕に目がいった。
そういえば、この左腕私のだよね。
義手は吹き飛んだし。
今頃感じる新鮮さ。この体になってから2週間弱経っているのに、慣れてるのやら慣れてないのやら。
「ねぇアリア。」
「いかがなさいましたか。」
「これから、どうするの?」
「これから……とは。」
「アリアはどこに行くの?もう『核盤』はないし。」
「それは…………」
アリアは若干俯いているように見えた。……そして、私はそんなアリアの手を取った。
「マスター?」
その目に激情のようなものはない。人間らしい感情が欠落している。
何度も頭をよぎった。これは設定、知ってる。設定という言葉が何度も何度も頭を巡る。
けど、それでも今は仲間だ。
「私の家に来なよ。もう7人も8人も変わんないし。」
「マスターの家ですか。」
「嫌ならいいけど。」
「命令でしょうか。」
「おい話聞け。」
「……」
「じゃあ命令。嫌か、嫌じゃないか。率直な気持ちを言って。」
「嫌ではありません。」
「なら決まり。」
私は握ったうちの左手を離して、横を歩く。
「これは。」
「細かいことはいいの。」
「そうですか。」
『神盤』の眩い光を浴びながら、私達は2人で歩く。アリアは私がいる限り、人でいいんだ。
創滅神関連の問題にようやく片がつき、肩の荷を下ろしながらアリアと下界に戻った。
アリアの今後も考えなければいけないしね。
———————————————————————
今年は幸先悪いですね……
地震やら飛行機が炎上やら、1月3日は何もなくてよかったです。もし寝ている間に何か起こったら知りませんけど、まぁないことを信じます。
陳腐な言葉で申し訳ないですが、被災された方もそうでない方も大きな怪我がないことを祈っております。
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