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20章 魔法少女と空
647話 魔導神は神界へ
しおりを挟むあの表彰式(仮)により、様々なことが決まった。龍王国の正式な決定(ルーアと国王が手を取り合って条約締結)と、山脈に龍の街を作る話が後半の主題で、多くの騎士や学園の魔科学部の子達が脚光を浴びた。
学園の再開は未定ながら、1ヶ月後を目処に再建、復興がなされるらしい。
国王は地方、王都の復興作業の分担や予算についてのお仕事がたくさんあるようなので早めに切り上げられた。
そして1週間後。
今日も今日とて、フィリオの家。
しかし今日は重大な案件で訪れていた。
メイドの1人もいない。私とフィリオ1対1。
「ネルはどうしてる?」
「学園が再開するまで家で待機だ。時々、外へ出ているようだがな。」
「それはなにより。」
「で、今日は何の用だ。」
フィリオは面倒事を目の前にしたみたいに表情が硬い。
「分かってるでしょ。」
「分かっていないと思うか?」
「私の領地預けていい?」
「…………はぁ。」
眉間をつねって小さく唸った。
だって私領主とか嫌だし。テーブルでフィリオみたいに書類と睨めっこするとかやだ。ほんとに。
「私の領地って未開発地で、パズールと王都の中継地点にさせるつもりでしょー、地図見れば分かるよ。」
「ソラもまともに考えることがあるんだな。」
「舐めてんの。」
人のことをダチョウとでも思ってんのか、と心の中で胸ぐらを掴んでやった。なんか虚しい。
「確かに、その意味も含まれているだろうな。わざわざこの街と王都の中間の未開地を与えたんだ、意味深長な考えもあるはずだ。」
「で、私みたいな2つの意味で成り上がりが領地経営なんてできないわけで。預けるって形で、運営を代行してもらえないかなと。」
「俺を過労死させる気か。」
フィリオは頭を抱えだす。
「ただでさえ、俺は王都との行き来が……」
「じゃあサービス!領地経営任せられてくれたら、手伝ってほしいことがあったらやるから。王都の往来がわずか1秒に!」
「………………まぁ、ソラに任せるよりは、マシか。」
渋々を超えて、搾りたてゴーヤジュース~青汁の粉を添えて~を一気飲みしたみたいに苦しそうな顔をする。
……私が言うのもなんだけど、そんな?
ちょっと可哀想に思うのだった。
「ほら、これ。これ食べて元気出して。」
私は、魔神と似たようなルートで日本から取り寄せたチョコレートを渡す。
雪ーのよーなくちーどけ、明治メ○ティーキッス。
心の中で棒読みな歌を歌い、放送するならモザイク確定な紙箱を出した。
「なんだ、これ。」
「うーん……なんて説明すれば……舌で溶ける滑らかな甘味?」
コーヒーと共に差し出した。これを献上して好感度アップを狙う。
このキッスのようなチョコを食べれば、減らず口もたちまち甘々に~。
もちろんそんな効果はない。
しかしフィリオは、雪降るパッケージを見つめながら考え耽るように黙る。
「…………ソラ、お前の力があれば一部気候を変化させることはできるか?」
「まぁ……できなくはないけど。それがどうしたの?」
「いいことを思いついた。」
なんとなく寒気を感じるのだった。
危険なフィリオから逃げ切った後にも、私の仕事は残っていた。
領地問題はフィリオに投げるとして、私は神としてこの世を統べなきゃならない。壮大に言ったけど、創滅神の残した制度を壊してこの世界の制度に作り変えるって作業だ。
創滅神は、世界を魔法最弱の世界にした。その理由は分からない。もしかしたら、偶然この形になってしまったのかもしれない。
けど、私は奴の残したこの世界をそのままにしたいとは思えなかった。
「久しぶり…………にしては最近か。」
神界の、少し眩い空。空飛ぶ孤島を見回す。
こういう神々しい雰囲気、割と好きかも。
この世界は、このままでいいか。全部が全部気に入らないで切り捨てちゃ、そもそも下界自体を消さなきゃならないし。
ユユのような神を滅ぼすことはしない。それが世界の秩序を守ってるのは事実だから。
変えるのは世界の形。
魔法が発展する世界に変えたい。単に魔法少女として過ごして魔法が好きになったっていう、それだけの話ではあるけど、好きなことを伸ばしていける世界にしたい。
そういう願望、神である私の願いが世界の形になる。らしい。
「あぁ……『核盤』の消滅で神界と下界の繋がりが緩くなってるなぁ。これ早く繋げないと、生命力の供給も魔力の供給もされないじゃん。」
とりあえず、元『核盤』だったところへ行くことにした。あそこからでないと干渉できない仕組みになってる。
今の私なら次元を超えて一発だから、楽になったもんだね。
名前をつけるならゲートオープンとでもいいそうな真っ黒ホールに侵入する。
「なんもなーい。」
創滅神戦を終えてから何も触れられなかった悲しい世界は、悲しいことになっていた。虚無だ。
「私がここにふんぞりかえってる図……は想像できない。2日で飽きるね。」
「おかえりですか。」
訂正、虚無プラス1人。
「ここにいたんだアリア。パズールにいなかったからどこ行ったのかと思ったよ。」
「マスターがここにお戻りになることは分かっていましたので。出待ちというやつです。」
「悪質なファンだー。」
どちらかというと入り待ちという話は、面倒なのでここではしない。
いちいち重箱の隅をつつくような行為は控えておこう。それっぽい態度にはそれっぽい返しをってね。
かと言って私の返しがそれっぽいかと言えば否である。
ふと見れば、アリアは虚無を見回す。何もないというのに、思い出すように。
「何か思うところでも?」
「私は人形です。マスターが変われば、記憶は残ったままに人格ごと全てが変わります。そのように、設定されているだけなのです。」
「……そっか、アリアはここで生まれたんだ。」
その名残惜しい横顔に心動かされない人は、相当な人外以外いないだろう。
でも、これもただの設定ね。
人形だってそこに心があれば生きてる、なんていうことは簡単だけど、そんな都合よくはいかない。
これが本当に設定なのは私が保証できる。
その設定を受け入れることが私のできること。
「それじゃやるよ。この『核盤』を消して、神々の世界を新たな形へ変えて、世界と再び繋ぎなおす。新しい歴史を紡ぐんだよ。」
「マスターの思うままに。」
—————————
それは、誰にも気づかれることのない神の変革。最初で最後のこの世界の神としての使命。
人が進化し、争い、滅び、また新たな姿に進化し、争い、滅びる。永遠の創滅を紡ぐこの世の道を、進歩の道へ導く。
強い願いを胸に、神界と下界は結ばれていく。
いらない神の力は消す。代わりに、代わりに新たな変革をもたらした。新たな世界に似合う変革の力を。
そうして今、新たに変革した世界が誕生した。
だからと言ってこの世界が完全で平和である保障はどこにもない。それでも、変えなければ世界は変わらない。
間違えていたとしても前に進むしかない。
その道を正していくのがかつて魔法少女だった彼女の人生。
きっと『世界』は、このように進歩している。
———————————————————————
今回と次回で魔導神編(勝手に付けた)を終わらせて、次回纏めて、その次に締める。これでピッタリ650話です。
そしてお待ちかね私のトークショー!
まぁ誰も待ちかねてないですけど。
いやいや、私が待ちかねてます!いやっほー!
ようやく時間も作れそうになってきたので、頑張りたいと思います。
何度も休んでしまい申し訳なく思いばかりです…………流石に焦っております。
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