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20章 魔法少女と空
645話 魔導神はどこでもドア(範囲)
しおりを挟む「せめてご飯くらい食べさせてくれない?」
私は簡素な街並みを眺めながら、ルーアの横を着いて歩く。
「昨日のうちに今日の帰宅を約束しているからの、過労死の覚悟をしておくと良い。」
「神なったばっかなんだけど。」
「神ならば死なぬだろう。」
「そうだけどさ……」
扱いの酷さにため息がナイアガラだ。その気を紛らわすために、見慣れぬ景色を目に映す。
大人も子供も……男も女も。みんな一緒にここに来てる。一緒に頑張ってきたんだよね。
ここまで来るのにどれだけの苦労があったか、想像もつかない。普通の人間が長旅なんて、精神的にも辛いことが多いだろうに。
ちなみに私の仕事はここに迎えられた国民を全員、それぞれの村や街に帰すこと。
私は歩くどこでもドアということだ。
「ねぇ、ここに集められた人達ってどこ行ってるの。」
見えるのは本当に景色ばかり。人っ子1人、ネズミ1匹いない。いやネズミはいても困るけど。
「帰宅を約束したと言っておろう。全員、1ヶ所に集められておる。」
「うわぁ……」
密度がすごそう。そんな簡単な感想しか出てこない。
「しっかり街、村、集落ごとに集まっておる。安心せい。」
「何を安心しろと。」
「いちいち振り分けんでも済むだろう?少しは楽になっておる。」
とか言って、悠々と他人事を貫くルーア。
「ルーアも魔神も、転移使えるじゃん。なんで私なのー。」
「そう連発できるものでもない。我らだって、相当な魔力を消費しておる。この結界を作るのにどれだけの魔力を使ったと思っておる。」
「いやまぁ……確かにそうだけど。」
責めるに責められず、ぎこちない応答をする。
この規模、魔力が空になるまでやらないと難しいよね。ルーアは神になって日が浅い(とはいえ数百年は経ってる)し、ましてや連戦の後でときたら、私なら過労で倒れる自信があるね。
「でも魔神がやらないのは納得できない。」
「ボクは大規模ってのは無理なんだ。」
「おい。」
真横に、転移魔法の魔力が感じて足を止めた。
せめて、言動は一致させてから来い。
「キミはボクの話を聞いていたのか?」
「なにが?」
「大規模は無理、連射はいける、それだけのことだ。」
「この人数は無理ってこと?」
「そういうこと。」
ため息濃度90%の息を吐き、体から力を抜く。
「結局私は青狸の秘密な道具なのね。」
で、魔神は何用?半目で尋ねる。
「キミらを迎えに来た。ちなみに、国王は露出狂担当ね。」
「分かったよ。できることはやるって言っちゃったし、やるよもう。」
神使いが荒いのはこの際目を瞑ろう。
「じゃ、頼むよ。」
魔神は私達の肩に触れた。
転移した先は、雲の上だった。
真下には恐ろしいほどの人間。しかも整列されてる。すごい整列してる。気持ちのいいくらいの、例えるならコミケの列くらいの整いよう。
「神が顕現なさったぞ」「お美しい……」「神々しいわ」「ようやくうちに帰れるのね……」「世界は救われた」……etc。
多くの民の声が聞こえてくる。なんか私、神としてめっちゃ崇まれてる。
「ほら、しゃんとしな。今から、キミがこの場の中心人物だ。」
「我らの頂点なのだろう?威厳を見せんか。」
両側から背中んポンっと叩かれた。私は1歩前に出て、雲の上から何千万という人々を見下ろした。にわかに、叫び声が聞こえて来た。
「空あぁぁぁぁぁぁぁぁ!かっこいいです!イケメン!綺麗可愛い!」
「頑張ってくださぁい!」
「私の尊敬するソラさんをお見せください!」
「しっかりしてくださいよ、私の雇用主なんですから。」
「いつも通りでいいんですからね。」
それは、天をも貫くような声援。
みんな……
よく見れば、今まで会って来た人々。ギルドのみんな、依頼を共にした人達、訪れた街の、お世話になった人達も、学園の子達も、みんなみんな、私を見て手を挙げていた。激励が飛んでくる。
「私は魔導神。この世界を滅ぼそうと目論む創世神を滅した……そして今からこの場にいる全員を元の暮らしの場に帰す神だ!」
と、声を張り上げてみた。それとともに、私の力を可視化させるように魔力を広げた。深い海の底のような、瑠璃色が煌めく。
「……と言ってはみたけど、物語のような神じゃない。私は元は人間で、神になった。みんなと同じ、ただの国民の1人。だから、別次元の生物なんて思わなくていい、同じ世界、同じ国の民として、仲間として、接してほしい。」
手を広げて、抱きしめるように魔力を囲んだ。この程度は造作もない。
「神だって万能じゃない。これから世界の形は変わり、国々も形を変え、王国だって龍王国となり歩み始める。戻れば、まずは復興が始まる。私もやれることはやる。この国の王と約束を交わした。だから、信じてほしい。私を。」
この距離だ。さすがに小さな声で話されちゃ聞こえない、ひとりひとりの顔も位置も分からない。
魔法使えば分かるけど。
それは考えなかったことにしよう。
私はそれだけ語ると、1歩後ろに下がる。
すると今度は、下で霊神と人神か動き出した。何か説明でもしているように見える。
「面白い演説なんじゃない?誰もそんなことしろなんて言ってないけど。」
「民衆を動かす力はあったのではないか?誰もやれとは言っとらんが。」
「突然前に出させていうセリフがそれか……」
満面の煽り顔にパンチをお見舞いしたくなった。それでも、一抹の労いを感じて拳を下ろす。
さぁて、私はどこでもドアにでもなりますか。
—————————
魔導神率いる愉快な仲間たちは、演出用の雲から地上へと転移した。
ここからは、正真正銘魔導神空の出番。彼女にしかできない仕事だ。
事前に説明と通告、国王の納得の上での決行だ。ここまでお膳立てされて、失敗なんて許されない。
そんな中始まったお引越し大作戦は、指パッチンで始まった。
その時間およそ1秒。
「はい、次。」
まず転移されたのは、主要都市である王都の民。国王を中心として転移した。
しかし、人口や密度の関係上、王族や騎士・貴族、女子供、男の3つに分けて転移することとなった。
転移先は、王都の北部を占める広い平原。広く場所を取れるのはそこくらいしかない。
「本当に次々と……」「これが神様の……」「奇跡よ……」などと耳に届く声は理性で無視しつつ、これまた演出の指パッチンを行う。
魔神曰く、自分がやったというのを示す行動らしい。予備動作を作るなんてゲームじゃあるまいし、と思う魔導神だった。
「はい次。」
パチン、パチン、パチンと何度も指を鳴らす。だんだん擦れて痛くなって来た。でもカスったら恥ずかしいからと根性で指を鳴らす。
……そして時は流れ、運ばれてくる商品に値札を貼るような、出て来たモグラを叩くような、なんとも言えない作業ゲーを続けること数分。
数千万が数人になった。
「疲れた。」
「ご苦労さん。」
誰もいなくなった広大な世界で、魔導神はその3文字だけ口にした。
「あとは其方が戻ればいいだけだ。」
「戻るって……王都かパズール、どっち行けばいいの。」
「まほーしょーじょちゃん……じゃなくて、ソラちゃんはどこにでも転移できるんだからぁ、どっちでもいいんじゃないのぉ?」
「それもそっか。」
さっきまで使いすぎて、転移自体を脳が排除していた。もうやりたくないと訴えるのだ。
しかし使わないことには帰れない。
とりあえず、パズールの自宅に帰ることにした。王都もパズールも、他の街も、皆損害を被り復興を必要としている。
今は、悩んでいる場合じゃない。
「我はリュウムと共に、3匹を拾ってから王都に向かう。やらねばならぬこともあるからの。」
「ボクはキミについて行くよ。城に戻ったって、ゲームくらいしかない。」
「ワタクシもそうするわぁ。復興のお手伝いもしたいしねぇ。精霊の子たちにもぉ、声かけておくわぁ。」
「余は蓮についていく。アイツは目を離しておくには凶暴すぎる。早く元の世界に戻してやれ。」
四神は四神でやることがはっきりしている。
なら、自分もはっきりさせなくては。
意地を通すなら、最後の最後まで。責任は取ろう。
魔導神は、2人を置いて転移した。
———————————————————————
霜焼けになりました。はい。
寒いですよね最近。なんか指痛いなーって思って足を見たら赤く腫れてたんですよ。
言い換えると軽い凍傷。こっちの方が危なそうですね。
本編に触れますと、この件を皮切りに自己中な悪徳貴族は一斉駆除されます。
そりゃ、ほぼ全国民集められればやばいやつも露呈しますよね。俺が先だ私が先だと、醜い争いの嵐。みんな処分受けました。
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