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20章 魔法少女と空
641話 魔導神は決意とともに
しおりを挟む目覚ましの音を鳴らして目が覚めたのは、7時ごろ。土曜日を示すその日に、私はむくりと怠惰な顔つきで起き上がる。
「支度、しないと。」
まるで正月帰りしていた娘が家に帰る時みたいに立ち上がり、寝ぼけた頭と頭部のままゴソゴソ部屋をいじる。
昨日……帰るって言っちゃったしね。
あの後、満腹の私は家に帰ってお義母さんにしっかり伝えた。
『明日、帰る』
私なりの誠意を込めて言った。夜に、お義父さんにも言った。これでバッチリだ。本当に、なんのしがらみもない。
頭の中にみんなの姿を思い浮かべる。そんなに時間は経っていないのに、懐かしく思えてくる思い出達。これから、増えていくんだ。
「ラノベは……いる。お金は……使えないし、ゲームはインターネットないから……」
ボソボソと仕分けをしていく。といっても、本棚ごと魔法で収納して終了だ。他に持ってくものはない。
知らない魔法をポンポン使えるって、なんか怖いなあ。
以前まで使えなかったはずがなんでもできるようになって若干ビビっている。
でも便利だから使わせてもらおう。そもそも私の能力なんだから、誰も文句は言わない。
パジャマから 魔導着にフォルムチェンジ。
これで準備は万端だ。
「この部屋ともしばらくお別れかな。」
部屋を眺めて、踵を返す。部屋を出て階段を降りて、いつも通りの朝を過ごす。
「おはよう、空。」
「うん、おはよう。」
お義母さんが味噌汁の味を確認している時に、軽い挨拶だけ交わして玄関へ向かう。
「朝ごはんだけでも、食べていけないのかしら?」
「ごめん。私、行かなきゃ。」
名残惜しそうに目を細めて、でも優しく微笑んだ。
「しっかりやっていきなさい。」
「うん。」
大きく頷いた。
私がいかないと、私がなんとかしないと、あの世界はもうじき崩れちゃうからね。
神になったから分かる。私という存在自体があの異世界なんだ。だから、そう簡単にはこっちに戻れない。対策が完成するまではね。
私が今度こそ行こうとした時、後ろから声がもうひとつ、聞こえた。
「いつでも帰ってきていいからね。」
お義父さんの声が聞こえてきた。私は、再度振り返って笑みを作る。
「今度は、向こうの友達も一緒に帰ってくる。」
2人の柔らかな笑みに後押しされるように、玄関を開いた。その先から吹く冬を運ぶ風。
こんなものに負けてちゃ、世界なんて救えないよね。
白い息を吐きながら、あの場所へと向かった。
歩く、歩く、歩く。太陽はまだ東に低い。月もうっすら見えている。
冷たさと静寂によって寂しさが生まれる。
それでも私は歩く。あの交差点に向かって。
次第に見えてきた目的地。まだ早朝、行き来の少ない私の死場所を眺めて立ち止まった。
「時空間創造……もう名称はいいや。めんど。」
後半本音が紛れた気もしないでもないが、意思を持って高く広がる天へ手を伸ばす。
「異世界転移。」
身体中を駆け巡る魔力。全てを体が思い出していく。魔力の流れ、魔力の感覚、魔法の行使の仕方。1本の糸を手繰り寄せるように、伸ばした手を掴む。
その先に繋がってるのは……向こうの私。
この体は、この世界に避難させられた時に無意識で作り出した肉体。だから向こうに戻る。
掴んだ綱を離すまいと力を込める。
その糸に魔力が集う。私の力が溶けて交わり浸透していく。そして目を閉じた。
この世界からは、さよならだ。
—————————
世界が生まれ変わって、この世界から神が消えて1日が経った。
日本でいう11月28日のことである。
各国、各大陸がこの状況に注目し、この異常に対面していた。
世界の崩壊が進んでいた。
地震が頻発し、魔物が荒れ狂い、空間が歪んだ。
その影響を唯一受けなかったのが、四神である霊神、龍神の結界内だけだった。
それも、世界が完全に崩壊すれば崩れ落ちる砂上の楼閣であるが。
「後、何日世界は保つと思う?」
円卓会議をするように龍神は四神に問うた。なぜか百合乃が混じっているが、問題はない。
「5日と約8時間。」
「そ、その根拠はどこにあるのかの?」
「世界に異変が起きて16時間が経った。ボクの見立てでは6日が限度だから、あと5日と8時間。」
魔神はあっけらかんと言い張って、とうとう足まで組み出した。
「はいはーい。空なら、こういう時は帰ってきます。なので保留にしましょう。」
「あらあらぁ、元も子もないこと言うわねぇ。」
「其方からこの会議の意味を根本から潰そうと言う意思を感じる。」
「バレちゃいました?」
百合乃はテヘッと笑って誤魔化す。視線が痛いのだった。
あの日空から空が降りて(?)きて、それを発見した四神がこの世界に連れてきた。
百合乃の隣にはその空がいる。空を愛で愛でしているため、百合乃の調子は絶好調が天を貫いている。
しかし、その平穏で愛しい時間を壊す者がいた。
「とりあえず、マスターから離れてもらえませんか。」
なんかよく分からん女がいた。まぁ、アリアである。
「初めから思ってましたけど、貴方誰です?」
「以前お会いしたと思いますが?」
「ごめんなさい。わたし、空以外の女の名前は覚えないタチなので。」
百合乃がぷいっとそっぽを向いた。四神は等しく「こいつら、邪魔だな」と感じた。
「貴方を過去からこの世界に戻した、元創滅神の傀儡、と言えば理解できますでしょうか。」
「傀儡……?」
百合乃が眉を曲げたところで、人神は思案顔でアリアを見た。
「其方、創滅神の側近をしていた人形か?」
「ええ。元、ですが。」
「エディ、なんで知ってんの?」
「創滅神に挑んだ時だ。ヴァルも会ったはずだ。」
「記憶にない。」
やらかした議員が言う言葉ランキング1位を吐きながら、アリアに目を向ける。
「随分、キャラ違くないか?」
「マスターが変われば趣向は変わります。創滅神アヌズレリアルは命令を遂行するための機械的タイプを、マスターは従者タイプを好かれていますので。」
「空……っ、メイド趣味が……?もしや、トートルーナさんはそのために……」
百合乃が意味不明な勘違いに耽っている。抜け出すのには後1時間はかかるだろう。
「マスターは今、その神体を休ませているのです。」
「そうよねぇ。突然、神になって、力を行使すれば、体が保つはずないわよねぇ。」
「逆に、生命を未だ維持できている方がおかしい。」
どうなってるのやら、と人神は肩を竦めた。しかし、それも想定通り。
「その娘は、どちらかといえば魂の摩耗が近い気がするけどね。」
口を挟んだのは魔神。
「魔法少女は相当、何かを抱え込んでいた。強さを信じるとしよう。」
魔神は席を立つと、やめだやめ、と手を振った。
「今は何したって無駄さ。その眠り姫の目を覚ます王子がいることを願うしかやりようはない。」
「ならわたしが!」
「魔法少女関連になると反応速度早いな、キミ。」
魔神は呆れたように目を細める。細い息を吐いたのち、再び口を開く。
「今は国民の安心を取り持とう。あとは、全部そこの少女がなんとかする。」
「他力本願も大概に……と言いたいがのぅ。我も同意見になってしまう。」
「なんだい?ヤル気?」
「チョット何言ってるか分からんの。」
そっぽを向く龍神、呆れから睨みに変わる魔神、諦め顔の人神、あらあらまあまあな霊神。
四者四様、されど結果はひとつ。
託された魔法少女、改め魔導神は、未だ日本で心と決着をつけていた。
今の四神の仕事は国民を安心させること。
創滅神はもういない。だから四神は、これよりただの先導者として再び世界を救わんとする。
———————————————————————
休み休みですみません。
頑張っていきたいのは山々なんですが、いかんせん寒くて寒くて。
布団が私を離してくれないんです。
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