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20章 魔法少女と空
634話 魔導神は帰省する
しおりを挟む平日の真っ昼間。誰もいない電車に揺られながら、外の景色を懐かしむ。
「まだ半年なのにね。」
おかしくなって笑えてきた。異世界って恐ろしい。
私、家まで帰れるかな……
その前に認識遮断を直したいが、今直せば無賃乗車で捕まる。
この間『銘盤』で逮捕されたばっかなんだから、もう牢屋はこりごりだ。
もし捕まったら『半年間失踪中の高校生、無賃乗車で逮捕か!?』みたいな見出しの新聞とか作られそう。それはそれで面白そうではあるけど、面倒極まりない。
いやまぁ、異世界と違ってこの世界には少年法があるから懲役は課されないけどね。
ガタゴト揺られること数駅。最寄駅に到着し、帰路へと辿る。ホームに出ると、久々の空気を全身に浴びる。行きにきた時とは違う帰りの空気。
道は、自然と体が覚えていた。記憶にある建物を目印に進んでいく。
新しくアパートができていたり、店が一軒潰れてたりはしたけど、概ね私の知っている世界。
今までの記憶の地球を思い出しながら、ここが本物だと完全に確信する。
だからこそ、気になる点があった。
私はあの世界で、あのクソな父と母を美水智浩、未春だと勘違いしていたけど、現実には2人の苗字は白河だ。
その食い違いはなんなのか。あの世界がなんなのか。あの時は試練で割り切っていたが、やはり、引っかかる。
私は、本当に試練をクリアしたんだろうか。
私の足は、何故か止まっていた。あと数百メートル先に、少し古い2階建ての家がある。お義父さんとお義母さんの家。私の家。
美水博茂と美水優実。私の育ての親の住まう家。帰ろうとしても、どうしても震えて動かない。
「これで神とか、笑える。」
自嘲しても変わらない。動け動けと言いながら、その足は地面と仲良しこよしだ。
とりあえず、阻害は解くか。
それしかできることはない。
魔導着1枚が晒される。
異世界で神にまでなった私が、日本で動けず震えている。
怖い?不安?歓迎されないかもしれないから?気味悪がられるかもしれないから?
また、両親みたいに2人を嫌ってしまうかもしれないから?
「あぁ…………そうか。」
知らぬ間に働いた思考に、私はようやく腑に落ちた。
2人の本性を知る前の私は、幸せだった。言ってじゃん、自分で。幸せだったって。
そんな幸せに不幸で蓋をして、自殺した母を詰って、父を馬鹿にして。それで私は解決したつもりになっていた。
「私ってつくづく子供だ。子供すぎて幼児退行しそう。」
脳内でバブバブ言ってみる。いたたまれない気持ちが溢れる。
私は本能的に、思い出させようとあの過去を見せた……ってことかな。
それでも、嫌いなことには変わりない。それを曲げるつもりはない。
「怖いな。また、そうなりそう。」
ぶつくさとつぶやく。目が熱い。怖い、怖くてたまらない。よくやくできた新しい居場所がなくるかもしれない。
これは、私が私に課したミッションなのかもしれない。これをどうにかしないと、戻れない。そんなふうに。
時空間創造を使う。が、そこへ転移しようとしても、深層意識がそれを止める。
「行くしかないって……?厳し。」
いつの間に私は私に対してSになったんだ。そう文句を言いたい。
ここで鼓舞してくれる私達はもういないんだよね。
脳内で騒がしかったあの4人。結局受肉することもなく、消えてしまった。
今まで、ありがとう。私に言う。
その4人の意思を引き継ぐように、1歩。足を無理矢理前へ踏み込んだ。
「行ける?行ける…………行けるよ!」
さっきまでの葛藤が嘘のように消え去り、私は次へ次へと足を運ぶ。
必要なのは自分を越えること。それだけで、全部解決する。ちょっとしたきっかけで十分なんだ。
いつか、脳内で湯姫の言った言葉を思い出す。
訳がわからないのも含めて自分。それを制御して生きていく、それが人生なのかもしれない。
本当にそうだ。少しずつ、自分を偽るのが上手くなっていって、何が嘘か本当か、分からなくなっていく。
それを認識して、TPOによって制御していく。
「こんくらいの気持ちで十分なんだよ、きっと。」
晴れやかな気分を纏って、残った不安を全て見て見ぬふりをする。
「……なんて言うのが正解なんだろう。」
玄関の前に着き、ふとそう思った。
久しぶり?じゃ、なんか変だよね。無言は不審者だし、インターホンを押すのも、自分の家なんだからおかしい。
「ま、いっか。」
一瞬の逡巡の後、意を決して玄関扉のノブを掴む。
帰ってきたのか。やっと。
懐かしさが風に乗って私へ吹き付ける。
不用心だとは思うけど、今回ばかりはそのズボラっぷりに感謝する。
知ってる匂いが鼻をつく。
「ただいま。」
ドアはがちゃんと音を立てて閉まる。
不審者に思われないかな。……思われたら泣くよ。
遠くからペタペタと床を歩く音が耳に届く。洗濯でもしてるんだろうか。行ったり、来たり。
「私今見えてるよね。」
自分の両手を確認して呟く。
とりあえず会おう。会わなきゃ何も始まらない。
靴を脱いで、いつも通り学校から帰ってきた風に廊下を進む。進んで、左側。脱衣所の扉から、人影が現れた。
初老の女性が、私のお義母さんが、こちらを向いた。
「お義母、さん……?」
「あらまぁ、いつの間に帰ってきてたの?」
お義母さんは、いつもの柔和な笑みを浮かべていた。いつもの、抱擁感のある優しさを持っている。
「今、帰ってきたよ。」
「忙しくてね、ごめんなさい。気づかなかったわ。」
「いいの、全然大丈夫……気にして、ないから……」
「おかえりなさい、空。」
「うん………ただいま。ただいま、お義母さん。」
「そんなに泣いちゃって、どうしたの?」
困ったように微笑み、私に寄り添うお義母さん。すすってもすすっても鼻水は止まず、目からボロボロと熱いものが溢れる。
「ただいま……遅くなってごめん、心配かけて、ごめんなさい…………」
「なによ、おかしい子ね。」
「久しぶりだから……」
思わず抱きしめていた。お義母さんも私を抱きしめた。ようやく我が子と思えた人を亡くしたんだ。こんな小さな体でそれを受け止めていたんだ。それで、私に優しくしているんだ。心配させないために泣かないでくれているんだ。
私の心配なんて杞憂もいいところじゃん……こんな風に思っちゃうって分かってるから、お義母さんは……
親の温かみをひしひしと感じて、抱きしめられて、私はまた泣いた。何度も嗚咽を漏らしながら、声にならない声を届けた。涙は、枯れなかった。
「そろそろ、ご飯にしましょう。」
ひとしきり泣いて、お義母さんはくるりと踵を返してキッチンへ向かった。声が少しくぐもっていた。
私は、親のことを勘違いしてたのかもしれない。
泣き疲れて、食卓に向かって、思う。久しぶりのお義母さんの手料理。また泣いてしまいそうだ。
親は子供を育てる責任があって、それをしない奴はダメな奴だ。そんな風に思ってた。確かに親の責任はあると思う。
だけど、子がそれに甘んじるのは違う。
親だって人間だ。母親父親なんて生命体は存在しない。1人の人間。
失敗も、苦労も、悩みも、心配も、なんだって抱えている。その反面、嬉しさも、楽しさも、喜びも、全部持っている。
私は親の温かみを知っていた。随分昔に、お母さんに抱きしめてもらった。いじめられて、泣いて帰った日。強く抱きしめられ、「よく耐えてくれたね」って頭を撫でられた。
そんな過去も全て拭い去って、嫌な記憶で埋めて、私はクソと判断を下した。よく知ろうともせずに、クソみたいな人間だったと揶揄した。
私は、何をした?両親の仕事を手伝った?そんな記憶はない。両親を知ろうともしなかったし、その現状に甘えて胡座をかいていた。なのに、何もしなかった私はその居場所が崩壊したことに腹を立てて心で当たり散らした。
「私ってほんと、クソみたいだ。」
涙を拭って、ため息を吐く。
だから、今度は間違えない。今度はしっかり家族をやりたい。
お盆を持ったお義母さんが部屋に入る。「ありあわせのものだけど」なんて申し訳なさそうに笑って。
ありがとう、待っててくれて。
ありがとう、諦めないでくれて。
「さぁ、食べちゃいましょう。」
いただきますと口早に言った。私も続いて呟いた。
それと……ありがとう。
こんな私のために泣いてくれて。
少し赤く腫れたお義母さんの目元を見て、私は温かい味噌汁を啜った。
———————————————————————
休んでいた2日間、何をしていたって?寝てましたすみません。休日エンジョイしてました。ストック?そんなもの知りません!
まだもう少しあるのに、頑張らなきゃいけないのに……私を襲う睡魔が邪魔をしました。
それはそうと、空さんが号泣しましたね。頭の中で勝手に描写してください。この辺りは、私が変に触るより皆様が想像いただいた方が良いシーンが生まれると感じております。
今までのソラさんの態度を踏まえ、心から泣いた空さんをどう描写するのか……
では最後に一言。
両親にはしっかり感謝しましょう。私はできていません!私みたいにならないでくださいね!
追伸
普通に設定ミスりました。すみません。
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