663 / 681
20章 魔法少女と空
633話 魔導神は目を覚ます
しおりを挟むここ、どこ?
人生3度目のそんな間抜けな言葉。
それでも私はその言葉を本気で言ったつもりだ。
背中に硬い感触がある。寝かされている、というか酔っ払いが路上で寝ているような状況か。
現状が何も理解できず、私は体を起こす。服は……着ている。魔導着だが、厚手のコートと見えなくもない。
ここは世界のどこなのか、王都だといいな……なんて、呑気なことを思っていた。
「は……?」
私の目に飛び込んできた奇怪な光景……いや、それこそが当然だった光景を見て思わず声が出る。
車が横切った。信号が点滅する。広がるコンクリートジャングル。
半年前まで当然に過ごしていた、日本だ。
「……百合乃は?ロア達は……?」
首を振る。見れば見るほど日本の姿をする世界に、動揺を隠せない。
今、何時……というかここどこ?
太陽を見る。方角と高さ的に、まだ朝。通勤通学の時間だからか、こんなところに人は少ない。
自分が置かれている状況を理解すると、案外あっさり落ち着けるものだ。
一度息を吐いて、ここが何県の何市なのかを確認したい。
電柱でも探せばある程度のことは書いてある。
少し歩いて、道を曲がる。少し道が広がり、交差点が見えてきた。
その瞬間だった。クラクションが鳴り響いたのは。
「っ!」
私は勢いよく振り返る。トラックが、横入りをしている乗用車にクラクションを鳴らしていた。
「……夢?」
フラッシュバックするように情報が流れ込んでくる。ここが、私の死んだ場所。
みんな服装からして今は冬?外気温的に……あれ、服一枚なのにあんま寒くない。
異世界の能力は受け継がれてるってわけね。
とはいえ、見慣れた右上のステータス欄は消えている。現状を可視化して把握するのは難しそうだ。
私はこの世界の神ではないし、何もかもお見通しなんてこともない。
スマホさえあれば、と思うが……こっちの体はすでに火葬されてる可能性が高いし、残ってても処分か……事故で破損の可能性も高い。
あー!スマホ欲しい!神の力より現代の科学力!スマートフォーーンっ!
心の中で騒ぎ立てる。いつもは私達が何かツッコんでくれるというのに……今は、いない。
「この状況で、どうしろと……」
異世界に放り出されたよりも更に強い困惑を胸に、花の添えられた交差点を渡った。
「なんか、懐かしい。」
私は首をもたげて呟く。視線の先にあるのは高校の校舎。大きくも小さくもない、古くも新しくもない、至ってシンプルなどこにでもある校舎。こうやって懐かしむことなんて本来なかったはずだった。
半年、か。長かったな。
そして嫌な事実に直面することになる。半年。そう、半年間私は学校に通っていないのだ。
私、進級できなくない?
そんな簡単で最悪なことに気づいてしまう。ちょっと知らないふりしよう。
私は魔法で姿を隠し、気づかれないよう校舎に潜入する。
「前言ってた、あのドラマ見た?」
「見た見たー!」
「主演の俳優さん、肌めっちゃ綺麗だよねぇ……」
「私たちよりいいもんね……どんなケアしてるんだろう。」
女子高生の会話に聞き耳を立てながら、堂々と潜入する。潜んで入ると書いて潜入なのに、何も潜んでない。
ドラマ、ねぇ……元から興味ないのに半年いないからもうなんにも分かんない。
……というか、アニメももう2クール分終わってるんじゃ……
色々と思い出す。嫌なことばかり思い出す。
靴箱に着くと、2-3の後半の番号を目で追った。私は3組の後ろの方だったはずだ。
私は何度か往復して視線を彷徨わせた。
いくら探しても私の名前はなかった。
「……やっぱそうか。」
代わりに、私の番号の位置だけ空白があるだけ。ネームプレートもスリッパもない。私は仕方なく、魔法で生み出したスリッパを履いた。
私、やっぱり死んだ判定になってるのかな。
こそこそと3階の3組の教室に入る。授業前の喧騒、いつもの私ならラノベタイムと洒落込んでいるが、そんなアイテムは持ち合わせていない。
私の席を見れば、そこだけぽっかりと世界が変わったように隔離されていた。そういう空気が流れていた。
普通なら、誰もいないのをいいことに勝手放題椅子に座ったりするものの、私の席だけ異様な光景を映し出す。
何もない時間を過ごし、授業が開始される。いつもの先生に、いつもの授業。内容は半年分進んでいてさっぱりだけど、変わり映えのない光景。
そんな光景が今は新鮮に感じていた。
だけど私にはノートも教科書もプリントもない。置き勉していたはずの教科書類全てが消滅しており、30分も経つ頃には暇を持て余していた。
「暇だ。」
口に出しているが、その声も隠されているため聞こえない。透明人間ごっこを楽しめる。
「そういや、湯姫ってどうしてるかな。」
他人のノートの落書きの様子を覗くのにも飽き、ふと友人の名を思い出す。
湯姫にはお世話になったからね、私の頭の中で。だから、一応はお礼がしたい。
本人の預かり知らぬところでも、私がそう感じるんだから仕方ない。甘んじて礼を受け取ってもらいたい。
2年4組の湯姫。白城湯姫。私の親友。オタク友達。女将の孫娘。
私は3組を抜け出して、隣のクラスへ直撃隣の晩御飯することにした。出てくるのはご飯ではなく先生の授業だけど。
「うわぁ……こんな、授業中に外で歩くとかすごい背徳感。」
謎のふわふわ感に苛まれ、長年の刷り込みとは末恐ろしいと心から感じる。
「お邪魔しまーす。」
ガラガラ、と音を立てる。もちろん私が消音してるため聞こえない。
「ここ、去年の先輩たちも間違い多かったところだから、ちゃんと復習しなさい。この場合は、こっちの公式に当てはめて展開していけば———」
耳に入るのは優しげな女性の声。数学の竹下先生だ。
湯姫湯姫湯姫はっと…………………うん、寝てる。
湯姫の席は中央最前列。そんな環境で机に突っ伏し、寝ているというイカれた行為に呆れの念を抱く。
「これで平均点キープとか、やば。」
しっかり勉強しているのがアホらしくなる。
「あ、起きた。」
私が黒板の前に立つと、湯姫はしぱしぱと目を瞬かせて黒板を見つめた。もっかい寝た。
いや、それどういうモーション?鈍感キャラにも程があるって。
なんて心でツッコミショーを披露していると、授業時間60分を終えたことを告げるチャイムが鳴る。それと同時にむくりと起き上がる様には、もはやプロのソレを感じる。
よくこれで2年生に進級できたのかがものすごく気になる。
と、進級の見込みゼロの私は言う。だって私、死んでるらしいし。
高校を見て、なんとなく現状把握を完了させた。
私は廊下に出る。生徒の流れに逆らって、外へ出る道を進む。
カレンダーを見たら今日はどうやら11月28日らしい。
転生から、ほとんど6ヶ月。
再びここに来たということは、また何かが必要ということだ。……今回は、恐らく本物の世界だ。じゃなければ、私の不都合に染まっているはずがない。理由がない。
私は、この世界でやり残した何かを遂げなければ、あの世界には戻れない。
そう結論づけ、歩を速める。
そもそも……私は、戻りたいのかな。
ふと、疑問が生まれた。
そんな疑問も今は飲み込み、私はさらに速度を上げる。
動機がどうあれ、原因を探らなければならない。それだけが、今はっきりとしていること。
———————————————————————
謎の喪失感に包まれているcoverさんです。
何か問題があるわけではないのですが、こう、好きだった作品が唐突に完結したみたいな喪失感です。比喩表現なので、別に私の好きな作品は完結してないです。
もしかしたら、空さんの言う燃え尽き症候群的なものかもしれません。
ただ、それと同時にもっと感動できそうな話を書きたいという思いもあり、次作は果たして何が生まれるのやらと自分でも戦々恐々としております。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる