662 / 681
19章 魔法少女と創滅神
632話 創滅
しおりを挟む「死ね。」
放った一撃は、重圧創造。実験を兼ねてなんて言ったら不謹慎だろうが、物事に犠牲はつきものだ。
……これじゃ、死なないか。
創滅神は、体を歪ませてなお口を開く。彼女の執着は一体どこへ向いているのか。
世界か、破壊か、創造か。それとも私か。
「これが報いというならば、存分に受けてやろう。それで世界が美しく曲がってくれるというなら、我としては本望だ。」
「結局したいことはされちゃったわけか。」
「悔しいか?生まれたての神の子よ。」
「その生まれたてに圧倒されてるの、誰かな。」
死ぬことが決まっているというのに、どんなメンタルの持ち主だとなんとも言えない気持ちになる。創滅神は、自分自身に執着はないらしい。
「どちらにせよ未来を紡げないのだ。好きにやらせてもらう。」
「まだ足掻くか。」
私はその尽くを無に帰し、1歩また1歩と距離を詰める。空中を歩く私と、撃墜しようとする創滅神。一見するといじめだ。
まぁいじめてんのはこっちだけど。
早々に決着を付けようと、無理矢理攻撃の姿勢を貫く創滅神の動きを強制的に止める。が、抵抗される。
「ここ、そっちの世界か。」
はたと思い出す。そりゃあ、戦いづらいわけだ。
「塗り変えろ。」
世界を壊すのではなく、上書きする。そんなイメージで世界を変革させる。
太陽と対立するなら、月か。
あたりはだんだんと暗くなる。空には星が瞬く。ならばそこに相応しいのは、満天の月明かりだろう。
皆既日食を起こすように太陽は消えていく。
「私のターンだ。」
わざわざ私が行くまでもない。淡々と、機械的に役目をこなす。
「来い。」
そう言うと、向こうは自然にやってくる。磁石が引き寄せられるみたいに。
これでおしまいか。燃え尽き症候群、だっけ?もうそんな感じだ。
目と鼻の先に創滅神がいる。手を伸ばせ触れられる。ゆっくり、右腕を持ち上げた。
「あぁ、惜しい。実に惜しい。我が生きて、世界の崩壊を目の当たりにしたかった。他者に託すしかできないとは、実に無念だ。」
左腕がボロボロだというのに、痛がるそぶりもなく笑って言った。
「我はお前を殺したかった。」
「そう。」
「殺せば変わると思っていた。」
「そう。」
「確かに、変わったな。お前は変革した。」
無駄話だと、私は切り捨てた。持ち上げた右腕で創滅神の胸に指を添える。
「老害は退場の時か。」
瞑目した。その顔は、諦めの中に強がりと名残惜しさが混ざっていた。
そうか。……創滅神が固執してたのは私でも神の本能でもない。
この、世界だ。
だから創滅神は最期まで世界を気にし、死にゆくのだ。
もっといい風にはできなかったのかな。
いや、無理か。
「所詮、神は神だ。」
本能も私への殺意も本物だった。本質を見たところで今更すぎる。
「———創滅。」
触れた指の先から、創滅神の身体は粒子となって消えていく。存在が抹消されていく。
「グッドラック。」
そんな陳腐でチープな言葉で締めくくり、私は踵を返した。空気が揺れる。世界が徐々に揺れていく。
『核盤』は創滅神の世界だんもんね。死んだら、そりゃ消えるか。
私は偽物の王都の地面に足をついた。
私は、勝ったんだ。
その瞬間、世界に気配を感じた。
「お見事でございます。」
ぱち、ぱちと小さく拍手が聞こえる。
「あなたは。」
「リンズベル、と呼ばれていました。」
「呼ばれていました、ね。」
その少女は、これで3度目の邂逅となる。目の前で主人が消滅していっているのに、真顔を貫いている。
「いいの?」
「何がでしょう。」
「創滅神、死んでるけど。」
「死んだ主人に興味はありません。今、世界の主導権は貴方へ移りました。」
私は、ゆっくり創滅神の方向へ視線を向ける。もう見ないと決めていたが、そうもいかなくなった。
これで、完全に消えたか。
足の先から頭のてっぺんまで、綺麗さっぱり消え失せた。
そして、目の前にまたもや文字が浮かび上がる。それが何か。予想は簡単についた。
———世界の改革を終了。世界の管理者が喪失したため、所有権を移行。………完了———
「これにて、私のマスターは貴方になりました。」
「あなたを作ったの、創滅神だよね。」
「所有権は世界の管理者にあります。何なりと、ご命令を。」
「あのさぁ、リンズベル……だっけ?元々、敵だったのに手のひら返しはないでしょ。」
目を細めて文句を垂れていると、更に文字が流れてくる。その文字に、より私は顔を顰めた。
———創滅神改め、魔導神が世界の管理者となり、全ての所有権を取得。称号の変革を開始。……終了。全ての変革を終了———
「なんなりと、ご命令を。」
私は頭に手を置いた。深いため息と共に、疲れを吐き出す。
何が何だか。ほんと、何が起きてるんだろう……
にわかに、足がふらついた。
「あれ…………意識、が……」
燃え尽き症候群なんかじゃない。突然体に力が入らなくなり、よろめいた。
「魔導神様……?」
「ここはもう、壊れる……から、私を……下界、に……」
「それは……」
「…………命令だ、アリア!」
「ッ!了解しました、マイマスター。」
その声を遠くで聞きながら、ふと思う。
私、最近意識飛ばしすぎじゃない?
そう思いながら、私の意識は遠くへ追いやられた。
—————————
その日、世界が揺れた。
「……やってくれたな、魔法少女。」
待ち望んだように、笑みを口に貼り付けた。
魔神は、安寧の地にて天を仰ぎ見た。
いや、世界に住む全ての人々が天を見た。今まで見たこともない美しい皆既日食が浮かんでいた。それはただの現象ではない。
天から神が舞い降りた、神々しい輝き。
「ヴァル。ようやく終わったな、余たちの戦いが。」
自然と四神は集まった。
大昔からの悲願が、この時この瞬間、成った。
「ワタクシの魂の反応がなくなったわぁ。あの子が、やってくれたのねぇ。」
「龍神様、貴方の願いはここに。」
下界は、浄化されるように変革を終えた。
「空……」
時を同じくして、百合乃も空を見る。2つの意味で空を見た。
この現象はどこからでも、何をしていてもその目に映る。
多くの魔物も、多くの人々も。
蓮もリュウムもロアもネルも、ユユもシャープもエージェンも、全てが瞳に同じ姿を描いていた。
新たな神を祝福するように、世界は煌めいている。
この日この時、世界は生まれ変わった。
———————————————————————
……今章最後なのに短くなってしまってすみません。ここで文字数稼ぎをして、なんとか3000字に到達させたいと思う次第でございます。はい。
ということで、次章最終章となりました。次も次で短くなるため、650話より多いかな?程度に収めるつもりです。
700話まで行けたらスッキリするんですけど……私も私で、この辺りで区切るのがやはりちょうどいいかなと感じていまして。
話数的には全くちょうど良くないですけど。
と、こんな風につらつら語っておりますと字数がどんどん埋まって参ります。
さて、ここで少し作者である私の話をしましょうか。
当初、ここまで続ける気はなかったんですよ。だから、いつでも終われるような、ちょっと特殊な異世界スローライフを演出していました。
なのにこの様です。後半、ばちばちダークなファンタジーに変貌していました。私自身驚きを隠せません。
一体誰がやったんだ!
今章も無事終了し、最後は空の問題を解決する番です。
今まで『異世界』という鳥籠の中で逃避し続けていた空さんにも、現実に向き合う時が来ました。
魔法少女でも魔導神でもなく、美水空の物語に決着をつける章が始まります。
まぁ、簡単に言えば日本に戻ってやり残したことをやるだけです。
ではでは、文字数も稼がせてもらったところで。また数日後。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる