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19章 魔法少女と創滅神

630話 改革と変革の天転

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 はぁ、はぁ、と繰り返し息を吸い、吐く。
 なるほど創滅神は的を射ている。どうやら私は自分が神になったとでも勘違いしていたらしい。

 肩で息をし、疲労を感じて認識を改める。私は疲弊している。まだ人間だ。

「驚いた。ここまで危機に直面するのは、今が初めてだ。」
「……なんか余裕そうじゃない?」
「そうか?どう思うかはお前の自由だ。我には関与の余地はない。」
「なんか含みない?」
私に刀を突きつけられながらも、軽口を叩けるこの神を素直に尊敬する。悪い意味で。

「抵抗しないんだ。」
「抵抗すれば逃してくれるのか?」
「なにこの会話、バカらし。」
けっ、と話をぶった斬る。

 ここまでやっても命の危機を感じさせるほどではない、かぁ。

 どこまでやれば陥落させられるのか。考えてもなにも出てこないし、いい魔法なんて都合のいいものはない。

 ここまで魔法を使って、だんだんこの力の源を理解し始めてきた。私だ。私が、私に送った力。
 私ってば、どこまで私に過保護なんだと呆れてくる。

 借り物の力でできるのは、こうやってなんとか応戦する程度。

「それで。」
不意に創滅神が目を伏せた。

「この茶番はいつ終わらせればいいのだ?」
開いた目には幾重にも重なった魔法陣が組まれていた。吸い込まれそうなほど深い。

 媒体って、人体でもいけるの!?

 神体と言うのが正しいとか、そういう細かい点を指摘するほどの暇はない。
 腐っても神は神。そう簡単に、死んではくれない。

 星を砕く光を放つノヴィエールという言葉を聞くより早く、視界は白色に染まった。

—————————

「まだ生きているか。……直撃を喰らう寸前重力で光を屈折させたか。」
しぶとい奴め、と呆れ混じりに笑った。未だ縛られているこの体を一瞥し、視線を変える。

 偽の王都の上空。世界の摂理に従い、加速しながら少女が落下する。この高さならば、直接手を下すまでもなく死ぬだろう。

 しかし、心が騒ぐ。
 一瞬、ほんの一瞬だけ命を危機を感じてしまった。刀を差し向けられたその鋭い眼光を見た時、経験したことのない焦燥が溢れ出した。

 これで、終わっているのか。

「我が目をつけた相手だ。やはり———」
その言葉の先が紡がれることはなかった。理由を示すように、大量の銃弾が放たれた。

ここは我が聖域なりセインヴェル。」
展開された見えない壁。連鎖する爆裂音。創滅神はその様子を眺めていた。

「これが最後だ。はっきりさせよう。」
創滅神は、爆裂の背後に立ち塞がっているであろう少女に声をかけた。

 爆煙の中の影が動いた。刀の先端らしき影が揺らめく。

 これを防ぎ抜けば創滅神の勝ち。
 貫ければ少女の勝ち。

 障壁に大量の魔力が注がれる。時を同じくして、煙の奥からも強大な魔力の流れが生まれるのを感じた。それが本当に魔力であるかは甚だ疑問であるが、類するものだろう。

「来い、美水空!」
創滅神は叫ぶ。初めて呼んだその名。

 直後の事。ガアァァァンッ!と、激しい振動が空気を震わせた。
 その正体は語るべきもなく空。刀の切先が、障壁を破らんと魔力を迸らせる。空の腕も震えている。魔力の一極集中により体が悲鳴を上げているのだ。

 その全身は血まみれ。魔力の補いもなく、ただ夥しい血液が全身伝ってポタポタと落ちていく。
 が、そんなものを気にするかと言うように握力を高める。

 創滅神はそれを眺める。人の足掻く様を最後まで。それが神というものだろうと言うように。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
無駄な魔法に魔力を使わない。無駄に力を分散させたところで無意味なことくらい馬鹿でも分かる。これは、そういう相手なのだ。

 徐々に、空間の振動と共にヒビが入る。それを好機と見た少女は、そこを重点的に突いた。威力が減衰していようとも、この一撃は間違いなく本気だ。己の本気を否定しないために、諦めない。

「砕けろおおおおおおおおおおお!」
長い拮抗状態を破る一声だった。

 障壁はただの魔力粒子に変わり、祝福するように小雨となる。
 少女は加速する。

 4メートル、3メートル、2メートル。一瞬にして距離を詰める。創滅神の胸に刀が触れる。時間はかからなかった。

 少女の握る柄にはさらに力が入り、捻るように刀を突き刺した。全身全霊の一撃だ。

 はっ、と耳元で薄く息が吐かれる。少女は両手で抱えるように柄を握ると、創滅神の懐に潜り深く、深く刺しこんだ。

「私の勝ちだよ、創滅神。」
鍔から溢れる真っ赤な血。致死量の鮮血が流れ出る。少女は晴れやかに言った。

 少女は刀を捻る。そして、引き抜いた。

 いや、正しくは引き抜こうとした、だ。

 引き抜けなかった。手首に温かく強い感触が感じられた。視線を押せば、手があった。創滅神の手。

「は……?」
「捕まえた。我の勝利だ。」
「ぁ……………」
刀から手が離れた。創滅神の左手が少女の腹部を貫通し、引き抜かれた。

「肉を切らせて骨を断つ。お前の国の諺だ。」
「なん、で…………」
腹を貫いたはずなのに。少女は言葉を繋ごうとするも、意識は繋がらなかった。

 もとより全身血まみれの死にかけ。死に損ないの、読んで字の如く必死の一撃だった。
 避けることも耐えることも叶わない。

 創滅神が右手を離すと、再び自由落下を始めた。今度こそ絶命しているはずだ。

 創滅神は血まみれの左腕を伸ばした。

爆ぜろバレット。」
最期に魔弾が少女を襲った。用心深い創滅神は、死体撃ちを繰り返す。

「世界の崩壊は始まった。」

—————————

 痛い、痛い、痛い、痛い。

 頭の中にはそんな短くも悲痛な言葉に埋め尽くされていた。真っ暗で、真っ白で、なにもない世界で1人閉じこもるように。

 生きているのか、死んでいるのか。それすらも理解できない。が、痛いというのだから神経はまだ働いている。それとも、幻肢痛のような幻の痛みなのだろうか。

 私には計り知れない。一介の人間風情に分かるわけもない。

 頭を駆け巡る痛みと苦しみ。熱さと冷たさ。矛盾した体の異常が心臓の鼓動のように等間隔でやってくる。

 私達が問いかけくることもない。あれは魔法少女服のスキルであって、私の力じゃない。
 これからどうなるのか。痛みが永遠に続くのか。

 下界はどうなっているだろう。
 それをこの目で見れないことが悔しい。情けない。絶望の未来を味わった私でさえ、突破した創滅神の壁。自分が、ちっぽけで脆弱な存在に思えてきた。

 百合乃との約束は果たせそうにない。ひとつの約束すら守れない。

 誰か……いや、自分がやらなきゃならないことだ。生きたい、痛い。でも、生きたい。味わうならもっと、生きてる痛みを味わいたい。

 約束を守るために。

 不意に、何か文字が現れる。慣れ親しんだ、ステータスの文字。

 改革と変革の天転
 発動条件クリア。使用可能。

 それだけが頭の中に入ってきた。情報として流れ込んでくる。

 これで生きられるのなら。

 私は決断する。

 これで、約束を果たせるのなら。悪魔になんて契約はしない。魔法少女になんかならない。
 私がなるのは、どうやら神らしい。なら、その未来を受け入れてやる。だから、私にせめて、百合乃の願いくらいは叶えさせてほしい。

 発動しろ、改革と変革の天転。

———————————————————————

 最近感想の大切さに気づき人の心を取り戻したcoverです。やっぱり、人の温かさというものは染みるものですね。

 それはそうと、私も今が踏ん張りどころだと理解しておりますので誠心誠意頑張らせていただく所存でございます。

 うん、ウソジャナイヨ。
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