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19章 魔法少女と創滅神
629話 異世界少女は命を賭す
しおりを挟む魔力光から無事生還した私は、またもや危機に迫られていた。
瑠璃色の魔力を放ち、生み出した小刀を片手に私は手足を一部拘束されていた。
「……っ!これ、やばいやつ!」
直感で気づき、私は焦燥感に駆られたように小刀を振り抜いた。しかし、金属音が響くだけで切れはしない。
……普通に魔法でいこう。
創滅神を見遣る。その瞬間バチバチと紫色の炎が鎖を伝ってくるのが見えてきた。
小刀を左手にパスし、掴む。そこに魔力を流せば想像通りの魔法が放てる。想像力命だ。
小刀で両足の鎖を薙いで切り落とす。
今度は豆腐のように簡単に切れた。小刀は薄い魔力の残像を残し、流れのままに右腕に絡みつく鎖も断ち切った。手足の解放された私は、地面に垂れていきそうになる鎖を掴んだ。
「せっかく解放されたというのに、何をするつもりだ?」
「さあね。」
惚けながら、鎖に集中する。紫色の炎は、どうせ神炎の強化版なんだろう。触れてしまう前に、早く。
何してるか?それは後のお楽しみ。
あと1秒も経てば燃え移る、そんなギリギリのタイミングで私は鎖を投げ捨てた。
すると、鎖は独りでに動き出して創滅神の元へ直進する。
「魔法の強奪か……?この世にない魔法を……」
「私の魔力はこの世界の魔力じゃないからね。使えない魔法も、使える。」
創滅神は特に焦った様子はなく、淡々と鎖を消去した。もちろん魔法を上書きしているから、向こうはゴリ押したわけだ。
向こうにも使えない魔法がある、と。じゃあ、日本に出てくる魔法とか、使っちゃえばいいのね。
日本人は魔法が使えないのに、よくもまぁあれだけの種類の魔法思いつくよね。
考えるより動く。無駄な思考を振り払って、創滅神へ肉薄せんと加速する。
途中で魔法が飛んでくる。当たったら死にそうな、ザ猛毒という色をした隕石のような魔弾。
空から降ってくるそれを、魔力を張り巡らせノールックで躱す。距離、落下位置、大きさ、全てバラバラ。
突然姿を現すそれを小刀を滑らせて軌道を逸らす。極力減速を避け、真正面にあるものは魔弾で吹き飛ばす。
その先に創滅神の姿が見えた。巨大な魔力の塊と共に。
「遅かったな。ここまで近づけば、避けられまい。」
「…………っ!」
脳が警笛を鳴らし、急停止しようとした時には口が動く。
「死にすら気づかず逝け。」
一瞬で体の節々が凍りついた。物理的に。
「ぁ……………ぅ、……ご、けない……?」
強烈な冷気が私の行動を妨げた。徐々に凍りつく私の体は、動かすことすら困難になっていた。
火炎魔法……?いや、それじゃあ私も燃える……どうすれば…………
不意に、創滅神に目がいく。正面に魔法陣のようなものが見えた。さすがに創滅神も、この規模の魔法をノー詠唱ノー媒介ではできないらしい。しかも、まだ発動中と見た。
つまりこの魔法は、あれを止めれば……
凍える体。衰える脳機能。無理矢理捻り出した答えを、ぶつけてみることにした。
「ディ、ス、タブ…………」
半分氷漬けとなった私。死にたくないと、足掻きを見せる。
一か八か……なんとか、なれ!
魔法陣から溢れ出す冷気。涼しい顔をする創滅神の顔は、程なくして驚嘆に変わった。
魔法陣に亀裂が入り、魔法の発動が乱れた。そのまま霧が晴れるように雲散霧消した。
「強奪に破壊、か。まるで神にでもなったつもりか。褒めてやろうか?」
「……結構だよ。」
顔を顰めて拒否した。こんな奴に褒められたところで虫唾が走るだけだ。
あと10秒もあれば、私死んでたんだよね。……おっそろしー。いや、ほんと。
未来の私はどうやって勝ったんだよ、と思う。
「全部、吹き飛ばせればいいのに。」
そう呟きながら、体に魔力を通して氷を溶かす。この氷は一応魔法判定だ。永続性もないし、少し助かった。
「両者が両者、決定打に欠けているなぁ。」
「そっちは絶対、奥の手あるでしょ。」
私が神速の域で放った雷撃の槍を片手でいなしながら、悪い笑みを浮かべていた。
手から波動でも出てんのかな……
理解不能な挙動をする魔法に疑念を抱きつつも、再度加速。魔力の流れに気を配り、奇襲が起こらないよう対策する。
その間、槍の攻撃を忘れない。
「面白い。我に魔法勝負か?———神の雨を降らせよう。」
「真正面からなんてやるつもりないしっ。」
私は己の背中に風魔法をぶつけた。奇想天外な移動方に苦笑されつつ、予想通りに創滅神の魔法を潜り抜けて私の射程距離に入る。
「で、我はいつ直線的な魔法だと言った?」
煽りの多分に含まれた言葉に、私の体は停止した。
「……ッ!」
腹に熱さを感じた。瞬時に魔力で穴を埋めて止血したため、大事には至らないだろう。
「熱線……?」
後ろを振り向くと、そこには別世界のような空間が広がっていた。正八面体が、等間隔に、無数に浮いている。
「よそ見の暇はない。」
細い魔力反応に、握られていた小刀を本能的に身を守るように振った。
これは……糸?
小刀と鍔迫り合いを続けている、肉眼には何も映らないそれを睨む。顔を傾けると、光が反射する。やはり、糸か。
「魔鋼糸と言うのだ。我が人形遊びに使っていたのだが、こうも使える。」
初めて創滅神の両腕が動く。滑らかに何かが横切り、危機を悟る。
手数が圧倒的に足りない……?押されてる……
呆然一方の現状を憂いても、目の前の危機をどうにかせねば全てが無に帰すことになる。
私は裸足の足にとある魔法を付与し、急加速する。空中に立つことができる魔法と、急加速の魔法だ。
糸の網を避けた、そう思った時には真後ろから熱線が飛ぶ。それも、湾曲するように飛んでくる。上体を逸らし、難を逃れる。
息を吐く間も無く、創滅神は腕をこちらに振るう。目視は不可能。魔力の流れだけを頼りに、小刀を糸にぶつける。切れない。ギリギリと擦れ合う。
投網のように迫る糸に、真正面から切り掛かっても挟み撃ちにされて死ぬだけ。跳躍するように膝を曲げると、風に押される形で天空へ逃避した。膠着状態を抜け出した。
しかし、熱線は空気を読まずに私を強襲する。うざったいので、小刀を投擲して直接正八面体を墜落させた。空いた手には刀を持ち、柄をクルクルと回して再び構えた。
背後から迫る糸、正面から迫る熱線。対処すべき案件が同時に迫り、冷や汗が浮かぶ。
まずは加速。正面の熱線を斬り、その勢いを殺さずに振り回す。刃に魔力を通して熱線を絡めとるように纏い、相殺する。
そのうちに糸の射程内に入ってしまう。その糸に、足を乗せて蹴飛ばした。
眼前に糸が広がる。私はその隙間を通し、魔法の球を放った。
「その程度の攻撃で我に傷をつけられると思うか。」
「思わないよ!」
その瞬間、私の姿は糸の奥から消えた。その代わり、創滅神の真正面に移動した。
「移動媒体か……!」
少し後ずさる創滅神に突きを放つ。が、それは左腕の糸に寸前で防がれた。残りの糸は隙を狙って大きく迂回する形で私に殺意を向ける。
この糸、面倒すぎ……
どうにかして破壊できないか。攻撃で破壊はできない。ディスタブか?いや、それをこの広範囲にやることはできない。
なら、鷲掴むっ!
左手で、左からくる糸を掴む。手のひらが熱い。出血している。けど、そんなことは今重要じゃない。
そこから流れる魔力に、集中する。
「させるわけないだろう。」
「残念、熱線はもう解析済み。」
背後で魔力が塗り替えられる。不敵な笑みを浮かべてやると、不愉快そうに眉を寄せた。
「放て。」
その全てはマスケットに姿を変えた。まばらに、銃声が聞こえる。
「自分ごと射抜く気か……!気狂いしたか、お前!」
光の弾が煌めく中、私は左手を開いた。
「解析完了。」
その一瞬で、糸は主人に向かって反旗を翻す。
「チェックメイトだ、創滅神。」
軽く息を切らせた私は、刀を向けた。
———————————————————————
えー、何度目か分かりませんラストスパートです!今話執筆中、謎の喉の違和感に悩まされていますが、なんとか書き上げました。
アレルギーの薬のせいか?そうなのか!?
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