656 / 681
19章 魔法少女と創滅神
626話 魔法少女と創滅神 2
しおりを挟む攻撃を当てる。
文字にすればたった6文字の名詞と助詞と動詞の羅列。こんな簡単なことが、今の私にとってはオリンピック金メダルより難しい。
私は素手で創滅神に殴りかかる。
ラノスも捨てて、この身ひとつで飛び込んだ。武器は全部ステッキだし、そのステッキは今遠い地面に転がっていた。
「はっはっはっ、肉弾戦とは脳筋だ。」
笑いながら私のパンチを躱していく。それなりに速いという自負はあるのに、こんなポンポン避けられると自信無くす。
ただ殴るだけじゃ……ダメだ。
一旦離れる。一定の距離を空けると、当然その分視界は広くなり魔力光がこれでもかと曝け出されているのを直視する羽目になる。段々と太陽のような輝きを持ち始める。
……こんなの、どうすりゃいいの。
腹を決めるか。しかし、私の心はまだそのタイミングじゃないと訴えている。
私の直感を信じて、まだ奥の手は秘匿しておく。
それもこれも、創滅神に一泡吹かせるため。嘘を嘘で塗り固めて、本当の域に到達するほどの嘘でなければ騙すことなんてできない。
「随分、余裕そうだね……!本当にこのままでいいの?」
何も言葉にしないのも寂しい。私は煽るように口の端を歪めた。空言だ。
「では、何かしてくれるのか?」
「どうだろうね。」
創滅神の視界に入った私は、魔力光を見て見ぬ振りして右腕を振り上げた。恐怖なんて、ここでは足枷にしかならない。
今私が使えるのはこの身と重力、それと空間。魔法はそもそも役に立たない。まぁ、魔力の温存だと思おう。
意味のない攻撃をするほど馬鹿ではない。
私の腕は、創滅神の左腕を弾いた。
「防がれたか……」
陰縮地で創滅神の左横に立っていた私に、創滅神は愉快そうに破顔する。「破壊しがいがある」と笑う。
「でも、当てたよ?攻撃。」
それに対し、私は勝ち誇ったように笑みを浮かべる。少しでも虚勢を張っていないと、気が狂いそうだ。
「お前は本当に捻くれている。見ていても思っていたが、揚げ足を取るのが上手いな。」
「防がれても、攻撃を当てたことには変わりないから。」
神なんだから自分の言葉に責任持ちなよ、と誤魔化しの聞かないように言ってやる。
「仕方ない。そういうルールにしてやるとしよう。」
すると、景色はパラパラと砕けるように落ちて姿を変えてゆく。その姿は———竹林だった。
「……これ、無限ループとかないよね。」
「さてな。我にも計り知れん。」
「嘘つくな。」
ジト目で刺しても反応はない。魔力光は止まらず光を放ち、刺々しくこちらを照らす。
あと何分だ……?確実に、あれから1分以上は経ってる。どれだけ多く見積もっても、4分未満。
なんなんだよ本当!自分の世界を囮に?しかも、何の躊躇もなく。
イカれてる。何度も頭をめぐる言葉。やはり恐怖と感じてしまうのはなぜか。そういうふうに考えさせられているのか。
分からないが、とにかく、目の前の相手をどうにかするほかない。
「来たらどうだ?クソガキ。」
そんな安っぽい挑発に乗らざる得ない状況に立たされていた。
「これなら……」
重力世界を維持しながら、新たな重力を生成する。それを弾にして放つ。攻撃に備え、一定距離を保ってから創滅神を中点にコンパスを描くように走る。
重力弾。理の攻撃くらい、効いてほしい。
それを龍法陣の要領でノーモーション重撃を繰り返す。しかし、動くそぶりすらない。
「お前も知ってるだろう。我は世界。世界そのものに、この世界の理ひとつでどうこういじったところで何も変わりはしない。」
「じゃあこれなら!」
創滅神は上を向いて、「ほぅ」と声を上げた。私の手にはステッキが握られていた。
龍神の魔法を粉砕したケアー。時間稼ぎくらいにはなる、と思いたい。
直後に爆音が響く。その威力は竹林の竹々を無惨に吹き飛ばしていく。
やばっ!周囲の被害が……って、これも向こうの作戦か。
好きに策を弄せるとかチートがすぎる。
なら、策を作る前に潰す。手数の多さが私の自慢だ。
空間魔法で全域を閉じ込め、そして重力世界をそこに凝縮した。そしてその隙に、創滅神がしているのを真似て自分自身に重力をまとって最低限の防御行為をとる。
すると、にわかに風向きが変わった。そして膨大な魔力が創滅神を中心に放出され、こちらへ突風の如く頬を撫でた。
「いやはや、お見事。少し破片が掠ってしまった。」
視界が晴れた時、創滅神は自分の頬骨のあたりを指さした。擦れたような痕が一瞬にして再生された。そして、世界がまたもや作り替えられる。
今度は……ティラン。
潮の匂いが漂ってきた。まさか、匂いまでもを再現するとは。より、創滅神の言葉に信憑性が追加されてしまった。
心のどこかに渦巻いていた嘘だろうという気持ちが粉砕され、浮かんだ隙間は暗澹としていた。
「まだ、終わらないぞ?」
絶望のピースが埋まっていく私とは裏腹に、悦びのピースをはめていく創滅神。その目は言うまでもなく、弧を描いていた。
私の体、いつまで保つかな……
再び戦闘は開始された。
あれからほんの少し経った。ここまで長い数分は初めて経験した気がする。
目の前には王都の景色が広がっていた。
やっとの思いで2度攻撃を当て、満身創痍なりながら現在。その時は学園やドリスに姿を変えた。精霊の森は霊神の保護下だからか現われることはなかったが、景色なんてどうでも良くなるくらいに私は疲弊している。
向こうは反撃すらしないのに、こっちだけ一方的に……
ジリ貧を超越した圧倒的差。
「タイムリミットだ。今までお前は何を守ってきたのだろうな。今、その全てが灰燼と化す。」
お前の感情を見せてみろ、そう言って妖艶に笑って見せた。美人が際立つ。
「世界の破壊を保留にして良かった!楽しい、楽しいじゃないか!」
「何笑ってん、の。」
王都の地面に両足をつけるのが精一杯で、微妙に途切れた言葉しか出ない。
無駄に魔力だけ余っちゃって……
私達も神経をすり減らして善戦してくれた。それでもこれとは、もはや笑うしかない。
重力を連発しすぎて、いつの間にやら重力世界も解除されていた。
今の私じゃ、100%勝ち目はない。
創滅神は待ち望んていたようにこう言った。
「ようやくだ。」
5分の間私を照らし続けた絶望の太陽は、急激に収縮して創滅神の掌中に収まる。
「いや、まだ早い。」
口の端が歪められた。何かよからぬことを企んでいる。が、何もできない。
なに、しようと…………まさか。
こういう直感は、なぜだか当たってしまう。
創滅神は空高く舞い上がる。
「全てを無に帰せ」。
それは、私にではなく王都に向かって放たれた一撃。人間の本能はよくできている。絶対に太刀打ちできないモノは理解できてしまう。
白い光が、全てを飲み込むということを予期するように空気を震わせる。
怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。
逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい。
けど、ダメだ。動かない。
私は拳を握ることしかできない。歯を食いしばって、唇を噛み締めて、ただ恐怖に慄くしかないのだ。
ああ、神は強い。やっぱり、太刀打ちできないんだ。
「……なんて、思ってたまるああああああああああぁぁぁぁぁぁ!」
握り拳を己の腹に勢いよく埋めた。鋭い痛みと、すっきりとした脳。薄く涙を流すのはお愛嬌。弱気な考えを、全て断ち切ってみせる。
絶対この世界を守る。生きて帰る。それが私のやるべきこと。
どんな呼び名でもいい。その未来が形作られる世界を、私が掴み取ると私に約束した。
心で私に叫ぶ。
やってやるよ、今度こそ!
まるで未来の私とひとつになったと感じ、背中を押されるように駆け出した。
白き閃光に対するは、瑠璃色の魔力。身体中を巡る魔力で神速を起動し、世界を破壊する一撃へと肉薄する。
「ほう、そんな奥の手を隠していたか!死に間際までよくやる!」
「らあああああぁぁぁぁぁ!」
創滅神の言葉を消し去る叫びと共に、光の直下で、私は両腕を伸ばした。
———————————————————————
異世界編クライマックス……!
とはいえ、この後「新章」魔導神編決定!!なんてことにはなりません。見ての通り、私、疲労困憊です。あとは、皆様の想像にお任せします。
細々と、たまに日常回を上げる可能性はありますが、不定期になることが予想されます。本当に、息抜きに書くつもりので。
ではでは、あともう1ヶ月ほど私の自己満足にお付き合いください。
追伸。
この1週間、不定期になる可能性がございます。もし投稿がなくとも死んだとかではないので、そこのところはご安心を。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる