魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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19章 魔法少女と創滅神

626話 魔法少女と創滅神 2

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 攻撃を当てる。
 文字にすればたった6文字の名詞と助詞と動詞の羅列。こんな簡単なことが、今の私にとってはオリンピック金メダルより難しい。

 私は素手で創滅神に殴りかかる。
 ラノスも捨てて、この身ひとつで飛び込んだ。武器は全部ステッキだし、そのステッキは今遠い地面に転がっていた。

「はっはっはっ、肉弾戦とは脳筋だ。」
笑いながら私のパンチを躱していく。それなりに速いという自負はあるのに、こんなポンポン避けられると自信無くす。

 ただ殴るだけじゃ……ダメだ。

 一旦離れる。一定の距離を空けると、当然その分視界は広くなり魔力光がこれでもかと曝け出されているのを直視する羽目になる。段々と太陽のような輝きを持ち始める。

 ……こんなの、どうすりゃいいの。

 腹を決めるか。しかし、私の心はまだそのタイミングじゃないと訴えている。
 私の直感を信じて、まだ奥の手は秘匿しておく。

 それもこれも、創滅神に一泡吹かせるため。嘘を嘘で塗り固めて、本当の域に到達するほどの嘘でなければ騙すことなんてできない。

「随分、余裕そうだね……!本当にこのままでいいの?」
何も言葉にしないのも寂しい。私は煽るように口の端を歪めた。空言だ。

「では、何かしてくれるのか?」
「どうだろうね。」
創滅神の視界に入った私は、魔力光を見て見ぬ振りして右腕を振り上げた。恐怖なんて、ここでは足枷にしかならない。

 今私が使えるのはこの身と重力、それと空間。魔法はそもそも役に立たない。まぁ、魔力の温存だと思おう。

 意味のない攻撃をするほど馬鹿ではない。

 私の腕は、創滅神の左腕を弾いた。

「防がれたか……」
陰縮地で創滅神の左横に立っていた私に、創滅神は愉快そうに破顔する。「破壊しがいがある」と笑う。

「でも、当てたよ?攻撃。」
それに対し、私は勝ち誇ったように笑みを浮かべる。少しでも虚勢を張っていないと、気が狂いそうだ。

「お前は本当に捻くれている。見ていても思っていたが、揚げ足を取るのが上手いな。」
「防がれても、攻撃を当てたことには変わりないから。」
神なんだから自分の言葉に責任持ちなよ、と誤魔化しの聞かないように言ってやる。

「仕方ない。そういうルールにしてやるとしよう。」
すると、景色はパラパラと砕けるように落ちて姿を変えてゆく。その姿は———竹林だった。

「……これ、無限ループとかないよね。」
「さてな。我にも計り知れん。」
「嘘つくな。」
ジト目で刺しても反応はない。魔力光は止まらず光を放ち、刺々しくこちらを照らす。

 あと何分だ……?確実に、あれから1分以上は経ってる。どれだけ多く見積もっても、4分未満。

 なんなんだよ本当!自分の世界を囮に?しかも、何の躊躇もなく。

 イカれてる。何度も頭をめぐる言葉。やはり恐怖と感じてしまうのはなぜか。そういうふうに考えさせられているのか。
 分からないが、とにかく、目の前の相手をどうにかするほかない。

「来たらどうだ?クソガキ。」
そんな安っぽい挑発に乗らざる得ない状況に立たされていた。

「これなら……」
重力世界を維持しながら、新たな重力を生成する。それを弾にして放つ。攻撃に備え、一定距離を保ってから創滅神を中点にコンパスを描くように走る。

 重力弾。理の攻撃くらい、効いてほしい。

 それを龍法陣の要領でノーモーション重撃を繰り返す。しかし、動くそぶりすらない。

「お前も知ってるだろう。我は世界。世界そのものに、この世界の理ひとつでどうこういじったところで何も変わりはしない。」
「じゃあこれなら!」
創滅神は上を向いて、「ほぅ」と声を上げた。私の手にはステッキが握られていた。

 龍神の魔法を粉砕したケアー。時間稼ぎくらいにはなる、と思いたい。

 直後に爆音が響く。その威力は竹林の竹々を無惨に吹き飛ばしていく。

 やばっ!周囲の被害が……って、これも向こうの作戦か。

 好きに策を弄せるとかチートがすぎる。

 なら、策を作る前に潰す。手数の多さが私の自慢だ。

 空間魔法で全域を閉じ込め、そして重力世界をそこに凝縮した。そしてその隙に、創滅神がしているのを真似て自分自身に重力をまとって最低限の防御行為をとる。

 すると、にわかに風向きが変わった。そして膨大な魔力が創滅神を中心に放出され、こちらへ突風の如く頬を撫でた。

「いやはや、お見事。少し破片が掠ってしまった。」
視界が晴れた時、創滅神は自分の頬骨のあたりを指さした。擦れたような痕が一瞬にして再生された。そして、世界がまたもや作り替えられる。

 今度は……ティラン。

 潮の匂いが漂ってきた。まさか、匂いまでもを再現するとは。より、創滅神の言葉に信憑性が追加されてしまった。
 心のどこかに渦巻いていた嘘だろうという気持ちが粉砕され、浮かんだ隙間は暗澹としていた。

「まだ、終わらないぞ?」
絶望のピースが埋まっていく私とは裏腹に、悦びのピースをはめていく創滅神。その目は言うまでもなく、弧を描いていた。

 私の体、いつまで保つかな……

 再び戦闘は開始された。


 あれからほんの少し経った。ここまで長い数分は初めて経験した気がする。
 目の前には王都の景色が広がっていた。

 やっとの思いで2度攻撃を当て、満身創痍なりながら現在。その時は学園やドリスに姿を変えた。精霊の森は霊神の保護下だからか現われることはなかったが、景色なんてどうでも良くなるくらいに私は疲弊している。

 向こうは反撃すらしないのに、こっちだけ一方的に……

 ジリ貧を超越した圧倒的差。

「タイムリミットだ。今までお前は何を守ってきたのだろうな。今、その全てが灰燼と化す。」
お前の感情を見せてみろ、そう言って妖艶に笑って見せた。美人が際立つ。

「世界の破壊を保留にして良かった!楽しい、楽しいじゃないか!」
「何笑ってん、の。」
王都の地面に両足をつけるのが精一杯で、微妙に途切れた言葉しか出ない。

 無駄に魔力だけ余っちゃって……

 私達も神経をすり減らして善戦してくれた。それでもこれとは、もはや笑うしかない。

 重力を連発しすぎて、いつの間にやら重力世界も解除されていた。
 今の私じゃ、100%勝ち目はない。

 創滅神は待ち望んていたようにこう言った。

「ようやくだ。」
5分の間私を照らし続けた絶望の太陽は、急激に収縮して創滅神の掌中に収まる。

「いや、まだ早い。」
口の端が歪められた。何かよからぬことを企んでいる。が、何もできない。

 なに、しようと…………まさか。

 こういう直感は、なぜだか当たってしまう。
 創滅神は空高く舞い上がる。

全てを無に帰せイレイスレイ」。
それは、私にではなく王都に向かって放たれた一撃。人間の本能はよくできている。絶対に太刀打ちできないモノは理解できてしまう。

 白い光が、全てを飲み込むということを予期するように空気を震わせる。

 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。
 逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい。

 けど、ダメだ。動かない。

 私は拳を握ることしかできない。歯を食いしばって、唇を噛み締めて、ただ恐怖に慄くしかないのだ。

 ああ、神は強い。やっぱり、太刀打ちできないんだ。

「……なんて、思ってたまるああああああああああぁぁぁぁぁぁ!」
握り拳を己の腹に勢いよく埋めた。鋭い痛みと、すっきりとした脳。薄く涙を流すのはお愛嬌。弱気な考えを、全て断ち切ってみせる。

 絶対この世界を守る。生きて帰る。それが私のやるべきこと。
 どんな呼び名でもいい。その未来が形作られる世界を、私が掴み取ると私に約束した。

 心で私に叫ぶ。

 やってやるよ、今度こそ!

 まるで未来の私とひとつになったと感じ、背中を押されるように駆け出した。
 白き閃光に対するは、。身体中を巡る魔力で神速を起動し、世界を破壊する一撃へと肉薄する。

「ほう、そんな奥の手を隠していたか!死に間際までよくやる!」
「らあああああぁぁぁぁぁ!」
創滅神の言葉を消し去る叫びと共に、光の直下で、私は両腕を伸ばした。

———————————————————————

 異世界編クライマックス……!
 とはいえ、この後「新章」魔導神編決定!!なんてことにはなりません。見ての通り、私、疲労困憊です。あとは、皆様の想像にお任せします。

 細々と、たまに日常回を上げる可能性はありますが、不定期になることが予想されます。本当に、息抜きに書くつもりので。
 ではでは、あともう1ヶ月ほど私の自己満足にお付き合いください。

 追伸。
 この1週間、不定期になる可能性がございます。もし投稿がなくとも死んだとかではないので、そこのところはご安心を。
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