魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ

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19章 魔法少女と創滅神

624話 一時の平和

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「我の名はルーア、四神が1柱龍神の名を冠しゅる者!」
ルーアはこの瞬間、世界で1番死にたくなった。

 先頭にいた、国王を含めた数百人が収まったところで、ルーアはそんな宣言をしたのだが……

「この方がワタシたち龍の長、龍神ルーア様であられます。」
「そうか。なかなか、覇気を持つものだ。」
リュウムと国王はつつがなく場を進行し始めた。

 おい、笑え。笑いたいなら笑え。生殺しが1番酷だぞ。
 ルーアは心でそんな呪詛を吐き連ねる。

「では、皆を。」
リュウムは奥へ奥へと人々を移動させる。大量にいるように見える王国民も、実を言えば半数程度しか集まってはいない。

 各村々では、己が村は己が守るという信念を持ち避難をしなかった。
 街の人間も、移動が困難であったり思い入れの強い人間は残った。最低限度の支援はしているが、果たして燃やされずに残っているのか。

 国王は自ら国へ戻りたい心を抑え、今ここにいる国民を守るために尽力しようと決意する。

「王とは難しいな。」
変革と時間の波に押し流されながら、嘆くように呟く。

「先代の王も世間に揉まれて育ったと伺っております。」
「そうか。今はその最中というわけか。」
オリーヴの言葉に頷いて、歩を早めた。

 一方で龍神は。
 言わずもがな、プルプル震えて羞恥に堪えていた。

 誰も何も言わない。逆にそれがもどかしい。
 魔法少女がその場にいたなら、何かしらいじってくれるだろう。いじってくれねば困る。

 置物と化し、リュウムの引率によって拡張閉鎖空間は人でいっぱいになっていく。
 そして限界を越えそうな羞恥。

 半分涙目になっているルーアを気にすることなく、誰も彼もがこの理想の世界を進んでいく。
 家や食料は十分にある。そう作ってある。それを作ったのは霊神とルーア。それは誇るべきだ。

「我……立場ない。」
誰にも聞こえぬように発した言葉は、空虚に消えていった。


「お邪魔するよ。」
百合乃と共に3柱の四神が侵入してくる。

 これは、リュウムの懸命な働きによってなんとか全員を送り届けた後のことだった。

 国民の反応はまちまちだ。
 知り合いがまだ下界に残っている者は、その者を憂いたり。はたまたこの状況に不安を隠しきれない者も。逃げ切れたと歓喜する者や、長旅の疲れに眠り果てた者。
 羞恥が治る頃には、そんな光景が見て取れた。

 そう、ようやく感情含め全てに片がついたのだ。そこに、心を乱す、安寧の地を揺るがす闖入者が……

「なんか普通ですね……もっとこう、神々しい世界なのかと。」
上を見上げた。初めは簡素で灰色な世界だったが、要望により日が昇り沈むように設計した。

 我の株、鰻登り間違いなし!

 心でそう思っていたルーアであった。

「本物と遜色ないな。新人にしては、なかなかよくやっている。」
人神が感心したように呟いた。小さいからか、どこかムカつく。

「ボク……太陽苦手なんだよね。」
「そんな吸血鬼みたいなこと……」
「ずっと城に籠ってたから、陽を浴びないんだよ。」
「ひきこもりの吸血鬼……最近どこかで……」
「主ら、BANされたいのかの!?」
突如として生まれたメタ。メタを超えて何かに違反しそうな台詞を吐きそうになった百合乃を静止させたルーアはやはり疲れたようにか細い息を吐いた。

「疲れる……主と話すと死ぬほど疲れる……」
「口調バグってません?」
「そろそろ炭火焼きにして喰ろうやろうか。」
「わたし鉄板焼きが好きです。あのジャンク感、背徳感がたまりませんよね。」
「会話を成立させる努力をせんか。」
軽くペシっと叩くと、大袈裟にのけ反った。「パワハラです!体罰厳禁処分確定神人生の危機!」などと供述しており、絶賛元気に被害者ぶっている。

「神人生ってぇ、たった3文字で矛盾してるわねぇ?」
ポワポワと会話に侵入してきた胸の悪魔が、さらに話をややこしくしてくる。

「龍神様。」
そこに、ようやく光の矢が差し込んだ。振り返れば、リュウムがいる。

「どうやら、アズリア教の信徒が迷い込んだようで。」
「…………」
「キミ、いつかすごいミスやらかしそう。」
魔神が目を細めながら指差した。

 完全に、空間のつながりを断つことを忘れていた。

「我が直接手を下すかの。」
「いえ。センスフォーンが代わりに対処しましたので。ワタシはこれから元の世界に降りて余った信徒を狩ろうかと。」
「そ、そうか……」
ルーアは少し寂しそうに言った。尻すぼみした声を、リュウムは聞いてか聞かずか行ってしまった。

 すると、にわかに百合乃がルーアの肩に手を置く。

「そういうことも、ありますよ。」
バーストを込めたパンチで殴ってやった。

—————————

 式家蓮は、まだ異世界の只中にいた。

 蓮は心の底から神が憎い。自らの手で殺してやりたい。しかし、届かない。そう思い知らされたのは、力では足りない別世界の存在を知ったから。

「だからって、諦めるわけねえだろうが。」
「ぐぇふっ!」
男をグーパンでKOし、ハンッと嘲笑う。

 乞食者べガー。相手のスキルを強奪する効果がある。神炎を手にし、耐性を得た。
 残った、コソコソと潜みゆっくり世界を破壊しようと目論む信徒どもを逆に燃やし尽くしてやる。それが第一目標。

 今している行為。今までした行為。そのすべては、創滅神を殺す役に立っている。実行犯でなくとも、関わって、己が殺したと納得できる形であるならば、納得させられるのならば、それでいい。

 納得させるための戦闘を繰り返していた。

「かかってこいよ、クソ信徒どもが。俺は機嫌が悪いんだよ。さっさとしねえと、問答無用にぶち殺すぞ。」
そんな捨て台詞を決めながら、信徒に囲まれた蓮は駆け出した。

 周囲には14。何度目の遭遇かは分からないが、今までの計算的に後4名は潜伏していると考えていい。

 とりあえず、周囲に大量の天光線をばら撒いた。

「「「「神の加護よ、我が身を守る盾となれ!神炎!」」」」
14の重なった声が聞こえる。それと同時に生まれる強烈な熱風。何度も経験した。もう、慣れた。

 視界に映る真っ赤な炎。それらを飛び越すように、超跳躍で上空に舞い上がる。

「風刎。」
真上から、炎に阻まれることなく首を刎ねた。

「1匹仕留め損ねたか。つまんねえ足掻きはすんなよ。」
「かっ、神の加護よ!」
炎が射出された。こんな雑魚でも、馬鹿にならない威力を持つ。

「消えろ。」
その炎を超える炎を、ぶちまけた。同じ性質同士が打ち消し合い、残った炎すら蓮が勝り飲み込んだ。

「出てこいよクソども!手間かけさせんじゃねえよ!」
思考加速と魔力感知の並行使用により、一瞬で見つけ出す。

「雷煌檻。」
その座標にすべて雷の檻を設置した。各檻から、悲鳴や驚愕の叫びが聞こえる。

「本当、つまんねえことしてんな。」
自嘲しながら、蓮は雷の槌を振り下ろした。

—————————

 打って変わって閉鎖空間にて。

 腹を抑えて蹲る少女が1人いた。

 しかし、四神は少し楽しそうだ。一時の平和というものを感じている。
 もしかしたらこんな未来は訪れなかったかもしれない。ターニングポイントをひとつでも遡れば、地獄が広がっていた可能性もあった。

 けれど、本物はここだけだ。未来にもこんな平和が続くといい。四神は皆、少なからずそう思って生きているのだ。
 四神だって、人なのだから。

———————————————————————

 最近やばいです。何がやばいかっていうと、やばいことがやばいんです。
 まず執筆時間が取れないことです。色々ありまして…………さらに加わる体調不良で、ストックもない状態。

 どうしましょう。
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