上 下
653 / 681
19章 魔法少女と創滅神

623話 変革なき世界より

しおりを挟む

「創滅神様がお待ちです。」
そう言ったのは、リンズベル。『核盤』の使徒の一体。

 かつて創滅神が創った数々の粗悪品の道を通り抜けた先に、創滅神本人が鎮座している。

 他の使徒はといえば、『天啓神』の世界と『核盤』の中程にある空間に存在している。
 存在、という回りくどい言葉を使うのには意味がある。そこには成功した人形が保管されている。その人形こそが使徒で、利用できるものとなんとか使えるものの2種類がある。

 後者は、使徒として下界に数体下ろした。
 前者は、有事の際にのみに活動し、普段は最小限の稼働のみ。

 現在稼働中の使徒はリンズベル含め6。残り5体は、全て創滅神の邪魔にならないよう細心の注意と警戒を怠らず、警備をしている。

 創滅神の言葉は絶対。
 感情はない。忠誠心から付随する何かがあるだけ。

 死ねと言われれば死ぬし、死ぬと言われれば見守る。それが使徒。

 リンズベルの後ろには固唾を飲む少女が、魔法少女がいた。
 左右にはやはり役立たずの使徒もどき。正面は闇。壁にも見えぬし、扉にも見えぬ。だからといって道にも見えぬ。

「この先に創滅神が?」
辺りを見回す。奇妙な景色に戸惑いながら、正面を見据える。

 半年以上の時が経つ。短いようで、長い時間だった。思い返してみれば、本当に何年も前のことのように思える。

 転生も案外悪くなかった。
 確かに、もっと美人で体型が良くなる子供に転生させてほしいだとか、装備じゃなくて自分にチートを付与してくれだとかは思ったが、この服が呼んでくれた人との繋がりもある。

 日本じゃ知り合えなかった人。知らなかった考え方。決して無駄なものではない。

 下界を思い出してそう思いを巡らせる。

 拳を握って、太ももを何度か叩く。

 怖くないわけがない。

「鬼が出るか蛇が出るか……」
「創滅神様しか出ません。」
「人の雰囲気をぶち壊さないでよ。」
と文句を言うが、リンズベルにとってはどうせ死ぬ人間だ。何をしようが変わるまい。

 命令に則り、リンズベルはその闇へ潜った。魔法少女もそれに続いた。

 鬼でも蛇でもなく、この世を統べる神。
 世界そのものと相対し、敵に回した。

 魔法少女は「もうどうにでもなれ」と意を決して歩を速める。
 しかし闇を出てもそこは変わらぬ闇だった。そもそも、まだあの闇の壁の中なのかもしれない。

 せめて何か変化をつけてくれ。そう思っていると、突如として目の前に強大な気配を感じた。

 女がいた。その表現が正しくないのは分かる。あれが創滅神なのだと、瞬間に本能的に理解した。

「連れて参りました。」
「ご苦労。」
目を伏せ、満足げに頭を下げたところでリンズベルは魔法少女の視界から消えた。

「消えた?」
「少し離れてもらっただけだ。案ずるな、まだ何もしない。」
創滅神は側から見れば空気椅子をしている状態で言葉を発した。

 闇に座るという行為。魔法少女は思う。道中からして闇を全面に押し出すこの神は、闇が大好きな厨二病ではなかろうかと。

「ああ、この世界が気に食わぬか?面倒だから放置していたが、これならどうだ。」
パチンと指が弾かれた。魔法少女は、再度網膜がバグったのではないかと目を擦る。

「お前の思い浮かべるラスボス戦を演出してみたが。」
玉座に座した創滅神はすげなく言った。

 今まで突然何かしてくる通り魔的な魔法はあったが、今のは魔力の流れのひとつすら感じ取れなかった。
 まるでカメレオンのように擬態でもしたように。

 視界に映るは西洋風の城の一角。
 テンプレートに沿ったような魔王の間のような、少し縦長になっており奧に長い作り。

「座れ。」
再度指が鳴る。玉座とは階段で阻まれた位置に椅子が現れ、そこに座れと言うように視線を飛ばす。

「……じゃあ、失礼して。」
レッドカーペットを踏み締め、時間をかけてたどり着く。ゆっくりと腰を下ろし、緊張が一瞬ほぐれるのを感じて首を振った。

「こうして対面したのは初めてか。」
「まぁ。」
「我は創滅神、アヌズレリアル。お前をこの世界に呼び寄せた張本人……張本神か?」
「どっちでもいいよそんなの。」
「こうも神にツッコミができる人間とは、肝が据わっている。」
ハッ、と笑い飛ばして足を組み直す。

「私、殺されるわけ?」
「抵抗したいならすれば良い。」
「拳で?」
私21歳じゃないよ、と神にふざけたネタをぶつける。当然の如く無視される。

「ここは、テンプレートとやらに沿ったほうがいいか。例えば、ここで我が協力を申し出る、とかな。」
「なにそれ。」
「ダメか?」
「そういうのは意図があって然るべきで、なんとなく言うことじゃないでしょ。」
「テンプレも難しいな。」
テンプレ状況の中、ニヤリと創滅神は笑う。

 よく笑う。しかしこれが表か裏か、魔法少女には判別がつかない。

 ただ言えるのは、その姿だけ見ていればただの女子大生のように見えなくないということだけ。

「我の創った世界はもうじき終わる。この何百何千という短い時ではあったが、最後くらいは世間話でもして終わらせよう。」
「終わる前提なんだ。」
「終わらせるつもりでやるのだ。」
そこには、創滅神らしい破滅と創造に対する想いがこもっていた。

「正直に言おう。」
「トイレに行きたいとか?」
「我は怖いのだ。」
「漏れるのが?」
「お前がだ。」
ことごとく自身のボケを無視され、ツッコミがいないせいでそのボケは回収されずに宙に漂う。シリアスな展開が中和されてしまう。

「世界には我のような創世者が存在する。その想いが尊重された世界になる。」
「説明パート来たよ……」
決めた覚悟が少しほつれる気がして……でも、やはり聴くことにした。何も知らずにこの世界を変えるのも、違うと思った。

「お前のいた世界はとにかく生物に変化を求めた。環境を変化させ、進化させた。発展を覚えさせ、短き時間で半分神のような領域にも踏み込んでいる。」
何が言いたいの?と聞きたくなる。

 しかし魔法少女は黙る。人の話は最後まで聞きましょうと、小学校でも習う。相手は神だが。

「故に人間は脆弱だ。進化に適応するため、固定された力を扱うことがなくなったのだ。」
「この世界はどうなの?」
「破壊と創造のループだ。お前の世界にも、一部そのような民族がいるだろう。」
知った顔で魔法少女に告げる。

 確かに、テレビで熱帯地域の民族の衰退も進化もしない小さな世界を見たことがある。それが、世界全体で行われている。そう言っている。

「確かに手にする力は時間と共に変わるが、本質は変わりない。発展すれば破滅が訪れ、また発展する。これを繰り返し、同じ衰退と進化を繰り返す。」
だからだ。結論を叩き出すように言った。

「力なきお前たちを招いたつもりが、それが世界に変化と改革を産み続けている。四神も、うっすらとそれを理解しているのだろうな。」
「つまり創滅神は変化が怖いと?」
「そうだ。怖い。我の世界が、我の望まぬ形に変わる。」
質問に答えて、さらに言葉を続ける。

「だから何もかもを破壊する。ゼロから全てをやり直す。今度こそ、恒久の破滅の創造を生む。」
話を終えた創滅神はフッと鋭く息を吐いて背もたれに体を預けた。

 全てを聴き終えた魔法少女の心は、何も変わらなかった。
 結局、世界という隔絶されているはずの存在は創滅神の手の中にある。収めようとしている。

 神は幼稚だ。変化しないという説明にも合点がいく。

 何度も出した結論を固める。
 何があろうと神は神、人は人。同じ目線には立てない。

「頃合いか。」
何かを察した創滅神は遠くを見て呟く。

 神の正義と、人の正義。

 これが世界のターニングポイント。

———————————————————————

 次回1回休憩を入れて、その次に戦闘開始できたらいいなと思っております。
 今回、珍しく空さんがいるのに三人称視点でしたね。大体空さんの目がカメラなので、一人称が常でしたが。
 たまにはこういうこともあっていいでしょう。何せ私、疲れてますし。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

ピンクの髪のオバサン異世界に行く

拓海のり
ファンタジー
私こと小柳江麻は美容院で間違えて染まったピンクの髪のまま死んで異世界に行ってしまった。異世界ではオバサンは要らないようで放流される。だが何と神様のロンダリングにより美少女に変身してしまったのだ。 このお話は若返って美少女になったオバサンが沢山のイケメンに囲まれる逆ハーレム物語……、でもなくて、冒険したり、学校で悪役令嬢を相手にお約束のヒロインになったりな、お話です。多分ハッピーエンドになる筈。すみません、十万字位になりそうなので長編にしました。カテゴリ変更しました。

異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部) 想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。 結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。 色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部) 期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。 平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。 果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。 その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部) 【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】 【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

悪役令嬢は始祖竜の母となる

葉柚
ファンタジー
にゃんこ大好きな私はいつの間にか乙女ゲームの世界に転生していたようです。 しかも、なんと悪役令嬢として転生してしまったようです。 どうせ転生するのであればモブがよかったです。 この乙女ゲームでは精霊の卵を育てる必要があるんですが・・・。 精霊の卵が孵ったら悪役令嬢役の私は死んでしまうではないですか。 だって、悪役令嬢が育てた卵からは邪竜が孵るんですよ・・・? あれ? そう言えば邪竜が孵ったら、世界の人口が1/3まで減るんでした。 邪竜が生まれてこないようにするにはどうしたらいいんでしょう!?

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」 数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。 ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。 「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」 「あ、そういうのいいんで」 「えっ!?」 異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ―― ――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

処理中です...