650 / 681
19章 魔法少女と創滅神
620話 魔法少女と『天啓神』
しおりを挟む光の中を飛び出して、階段をいくらか上ったところ。そこでようやく使徒の背中をとらえた。
床は、本当に自分が立っているか不思議なレベルで黒い。光が全く反射されていない。
「これって『核盤』に向かってるんだよね!」
「お静かに。」
「あ、ごめん……」
たったったっ、と階段を駆け上がって1段後ろへ辿り着く。そこで、今度は囁くように尋ねてみる。
「気持ち悪いです。」
「……もういいや。」
興味を失ったように、景色に視界を移した。
『神盤』も『銘盤』はいやに明るかったけど、ここは真逆だね。薄気味悪い。
階段を上るにつれ、最初に感じていた『闇』という印象が薄れていってる。慣れただけではない。そこにぽっかり穴が空いたように、闇が無へ変化している。ような気がする。
「この先、中継地点があります。そこに1度立ち寄ります。」
「なんで?」
「そちらが『銘盤』と『核盤』の境目になっておりますから。『神盤』から『銘盤』では特殊船にての移動が可能ですが、ここからは狭間を通って次元を越える必要がありますので。」
長ったらしい説明に、最近覚えたばかりの神界のワードの波。押しつぶされそうになりながら、なんとか整理させる。
めちゃくちゃ厳重体制だけど、まぁそんなものだよね。ラスボスって。
しばらく階段を上って、何度かあとどれくらいか尋ねそうになったところでふと、シャープの意味深な言葉の数々を思い出した。
創滅神が私に執着……?確かに転生させられたけど、それだけなような……
未来の私もそんなようなことは言っていなかった。……からと言って、語られなかった可能性も捨てきれない。あの私は何を考えてるか本当に分からなかった。
めちゃくちゃに長い階段をそれなりに上る。どこまで続いているか分からないから、終わりの見えない長距離マラソンでもしてる気分。
魔法少女服なかったら、足がパンパンになるどころの騒ぎじゃないだろう。
「こちらです。」
しばらくしたところで、何もない階段の途中で彼女は足を止めた。
「こちらって……どちら?」
という純粋で至極真っ当である質問には答えず、綺麗な右向け右で向きを変えた。
いやだからどちらよ。
心の中で再度ツッコミをすると、突然道ができた。手を壁に置いたら、氷が急速に溶けて無くなるように道が出てきた。
わぁお。使徒マジック……
「このまま進んでいても何もありません。永遠に終わらない道を歩くことになります。正確に、ここを通らなければ辿り着くことはないです。」
横道を通り抜け、また歩き出す。
「ねえ。なんであなたは私を案内してくれるの?おかしくない?」
そもそもの問題を問う。だって、圧倒的に敵。
「知る絶望と知らぬ絶望。知らぬ間に死んでしまうより、知って絶望し死にゆく様を見たい。そう、創滅神様はおっしゃっておりました。」
「うわぁ……この上なく性格悪い。」
「あ゛?」
「いや、あの、申し訳ないです。」
その圧に負け、私はおずおずと引き下がる。猛獣から後退りするように。
この使徒ほんとに怖いんだけど。
創滅神を殺す側、それを連れてくる側、本人。この構図を成り立たせる方程式がいくら組んでも生まれない。だって、殺害予告してるやつを家に呼ばないでしょ。
しかし向こうは逆に殺し返す覚悟が決まってるらしい。とんだ変人……変神だ。
またまたいくらか歩いた先。そこは行き止まりだった。光の壁が立ちはだかっている。
「あれ、私はめられた?」
「貴方は創滅神様がその手でもって殺しますから、安心なさってください。」
「安心できないよぉ!それ!」
その言葉は本当に信用できるのか。というかそれ以前に殺される前提なことについて叫び、その声は光に吸収されるように反応されることはなかった。
あれだけ神界で殺されかけて……なに?つまり私、いい餌を食わせまくって肥えた状態で殺される豚みたいなもの?
さらに苛立ちが増加する。
初めの頃は「いつか会ってやる」みたいな目標的な立ち位置だったのに、いつの間にか殺す相手になっている。なんの因果だ。
「ここから次元を移動します。次元の狭間、とでも言いましょうか。」
足で、地面をトントンと叩いた。光の地面は波紋を広げ、徐々に浸透し歪んでいく。
ん……?なんか体に浮遊感が?
と思ったら、歪む光のなか私達はぷかぷか浮いていた。
「え?」
「口を閉じてください。舌、噛みます。」
私はボールのようにぶっ飛ばされた。
「上には上って、物理的すぎない……?」
真っ青な空、緑の大地。天国パターン2くらいの景色を広げている土地に立ち、呟く。
「ここ、どこなの?」
「『天啓神』の住処です。どれだけ探そうが、どれだけ足掻こうが、『銘盤』からここへ向かうのは不可能ということです。」
「真っ向からさっきまでしてたこと否定してくるね。」
人の心を折るのに特化したような性格だ。ジト目で早足になる背中を睨む。
「光りまくってり闇混ざってたり、青空だったり。どういう仕組みなの?この世界。」
「ここは『天啓神』が管理を一任されております。彼女の趣味でしょう。」
「趣味て。世界を趣味で染めないでほしいんだど。」
「そもそも、下界自体創滅神様が好きなように創造なさった世界ですので。」
話してる規模がデカすぎて、話を紡ぐ気になれない。スケール、もっとスモールに。
「素敵でしょう、この空。」
どこからか声が聞こえてきた。名前を呼ばれたと思ったが、どうやら文脈的に上のアレのことのようだ。
「彼女が『天啓神』エージェン。」
「アナタがレリアル様に狙われてるという……へぇ、なかなか面白そうね。」
ぺろっと舌なめずりをした。しかし、そんな妖艶そうな仕草の前に1つ言いたいことがある。
服着ろよ。
全裸だった。
そもそも神が服着てるという時点でアレなのかもしれないけど、服ありが普通の脳をしていた私にいきなり全裸をぶつけられても困惑しかない。
現状、思考停止している。
「自ら死地に飛び込む勇気は賞賛に値しますよ。」
褒めてるんだから貶してんだか分からないけど、笑みを湛えて拍手していた。
うーん……このコンビ、真逆なタイプだ。
淡々としまくってる使徒と、独特な雰囲気のある『天啓神』。神の声を告げるとか言っていたから、もっとこう、女神様的なものをイメージしてたんだけど。
「全裸、ねぇ……」
そこはもう暗黙の了解だ。10人中10人がないと言えばない。
この場にいる全員が気にしていないなら、それは気にするものではないということだよね!
そう暗示をかけ、なんとか納得まで漕ぎ着けた。
「それで、こっから『核盤』に行くんだっけ?」
「はい。ここは中継点なだけですから。」
軽く挨拶を交わした程度で、もう去るらしい。『天啓神』については全裸であること以外何も情報がない。
もうちょっとゆっくりしててもよかったんだけどなぁ。疲れたし。
そんな願望の真逆をいかれる。足は止まらない。全裸のエージェンさんはというと、聖母の笑みで手を振っていた。
「ワタシはレリアル様の言葉を他者に落とすことしかできないから、この言葉だけ送りましょう。『楽しみにしている』。」
「今言うことじゃないよ確実に!」
「早くしてください。創滅神様をお待たせしてはいけませんので。」
「ちょ、引っ張んない……でっ!?」
存在がボケに挟まれて、ツッコむ間もなく空に飛ばされた。
だからなんでこんな物理的!?
私と使徒さんは青空を突き抜け、闇の世界を潜っていった。
———————————————————————
この度coverさん、予約していたダブルワクチン接種をすることとなったんですよ。
つまりはそういうことです。
以前副反応で38.5度熱出したんですよ!?もしかしたら投稿されないこともあるかもしれませんが、その時は「こいつまた死んでんな」とでも思ってやっていてください。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる