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19章 魔法少女と創滅神
614話 魔法少女は救援をもらう
しおりを挟む私は、今出せる全ての力を振り絞って駆け出した。神速を使って、目の前にシャープを映す。
「重力世界。」
私の周囲は重力で支配された。私だけの空間。裁判長が座りそうな席と、机。そこに立つ。
手錠、いい加減邪魔だなぁ……
でもこれに関しては、さっきの断罪とは無関係だし……
手錠の繋ぎ目。そこに、上下から重力で押しつぶす。が、案の定何も起こらない。
「ステッキが無いのって案外初じゃない?」
今度は私が見下して、固まるシャープにブーツの爪先でトントン蹴る。
「……私の断罪から逃れられたのか?」
「そんなわけないじゃん。あなた、神何年目?」
煽り口調で喋るが、こんな役割を担っているだけあり未だ冷静だ。しかし、最初のような鷹揚で大きな態度は消え失せていた。
私を殺すよう判決を出したシャープが重ねて自害するように『刈命神』に命じた。
つ、ま、り、上書きされたってこと。
これに関しては適正な断罪と判定されるのかな?矛盾は生じずに上書きが成立してしまうってわけ。
私を殺すはずの神が断罪されて消えたから、私に出された判決も崩れる。
「私の言葉にあっさりノるなんて、神って案外自我強め?いや普通に組み込まれた生存本能かな。」
軽く推測を立ててみるが、こういう時の推測ほど当たらないことはない。火事場の馬鹿力も、火事場から離れれば効力はなくなる。
「私は別に神を殺したいわけじゃない。さっきの子は、どっちみち死んでたよ。あなたは生きるから、私も生きるから、あの子は死ぬ。」
「そうか。それがどうかしたか。」
「私は上に行きたい。立場じゃない、『核盤』だ。片道切符でいい。私にその権限をくれるなら見逃す。」
「ははっ、交渉にもならない。私にそのような大層な権利があると思うのか?」
過大評価だ、そう言って笑う。恐ろしいとさえ思える淡々とした笑い。
「じゃあ、情報出してよ。情報をさ。」
コンコンと頭上に爪先を当てる。シャープは動かない。重力に包まれてるんだから、そりゃそうだけど。
……なんか情報でも貰わないとここまでした価値がないんだけど?
逮捕までされてるんだから、少しくらいあってもいいと思うんだけどな。
周囲からは、何やらこちらを害そうとする神達が立ち上がっている。しかし、あのシャープですら手も足も出ていないという事実からか牽制の構えを解かない。
別に、今はたまたま完封してるだけで1対1で勝てる保証は全くない。その辺を勘違いしてくれているようで何よりだ。
長い沈黙が流れる。少しくらい頭潰してやろうか、そう思った時。にわかに気配を感じて振り返る。
「ソラ!情報なら、あたしから買わないかい?」
どこからともなく声が響いた。ちょっと前まで一緒にいた神の声。
「料金はもう貰ってるんだから!」
ぴょんと跳んでスタッと着地した。そっちを見遣れば、予想していた神が……
あれ、誰だあいつ。
と思ったら、予想の神はその誰だあいつに抱えられていた。抱えられているユユは手を振っていた。
「オーボルイニ……!」
「1人のか弱き子供を、寄ってたかって虐め倒すとはなんたる所業か。ラグダス、神とはいかなる者か理解しているか。」
途端に重力がかき消された。代わりに、私の手錠が粉々に消え去った。
「青髪殿が、こちらの友人で間違いなかろうか?」
「え……あー、まぁそうかな。」
「此奴らの相手は拙僧に任せてはくれぬか。ちぃとばかり、折檻しようぞ。」
ニヤリと笑った男はユユをゆっくり下すと、こちらに歩いてくる。
「拙僧の仕事はこれまでだ。桃髪殿は、そこの娘を連れて早く立ち去るが良いだろう。」
「誰か分からないけど、助けてくれてありがとう。」
私は至極真っ当に礼をして、目の前のシャープは無視をして地面に降りる。
別に私、恨みないし。
……いやそんなことないな。さっきまでの所業、恨みしかない。
今この状況でわざわざ神速を使うこともない。
「失礼」と言って、ユユを今度は私が抱える。
「もしかして、ソラって強い?」
「もしかしなくても、強いね。」
「やっぱり」と顔を綻ばせた。綻ばせて、ボロボロと涙を流す。神も、悲しい時は悲しいのか。
いや違う。ユユはその辺にのさばる役職持ちとは違う。使命も制限も、縛られるものもなにもないんだよね。
「それと、偽名。忘れてる。」
「あ。」
「まぁ、今更かぁ。」
首を回せば、明らかに目撃者がいる。1神ぐらい道連れにできても、全員となれば不可能だ。
それよりステッキを回収しないとなぁ。武器類、全部あそこだし。
困り果てていると、背後から殺気が飛んできた。
「おっと。」
殺気の方向には、ちっと舌打ちが1つ。その発信源はラグダスだ。
神って能力だけじゃなくて素でも強いの……?
地面を砕くダガーを見遣り、冷や汗を垂らす。
「私は時を乱すだけですからね。それがないにしても、今の攻撃を避けるのは少々驚いたね。」
とか言っても、表情は殺気が満ちに満ち溢れている。
「ちょっと離れてて。」
ユユを再度地面に立たせる。武器で守りたいのは山々だけど、その武器がないのだから仕方ない。
魔法もステッキから出さないと威力弱いし……使えないわけじゃないけどさぁ。
ちょっとため息を吐くと、殴りの構えをする。普段ステッキで殴るか魔法で潰すかラノスで撃つかだから、新鮮だ。
「やる気なのかな?」
「いつの間にその仮面拾ったの?さっき投げ捨ててたもんだとばっかり思ってたけど、今更本性隠しても遅いと思うよ。」
ピキッ。青筋が浮かんだ。
「望み通り……殺してやるよ!」
右手にダガー。神もかくや、というか神そのもののラグダスの速度は並のものじゃなかった。
これも生命力の成せる技、的な?
ダガーが私の首元に迫る。が、何を見間違えたのか、少しずれて刺突される。首の横には肘関節。そこを掴んで、締め上げる。
バギ、とエグい音を鳴らした。
「……っぐ。」
私は少し後ろに弾かれた。今のは関節を自分から外して、拘束を逃れたようだった。
そんな折れるほどやってないし。
向こうは自分の体など御構い無しのようだ。
生命力による回復力はえげつなく、やはり即死でないとあまり効力はなさそうだ。
しかし、少し目を細めて己の腕を凝視するラグダスを見て勘づく。平等の下では、最低限の生命維持以外での神の力は認められていない。
勝機はあるかもしれない。
やはりラグダスが強いのは、時を狂わせる力なのだ。
「いっちょやったるか。」
神速で潜り込んだ。なかなか賭けである自負はあるが、仕掛けないことにはどうにもならない。
先輩に習ったこと、ここで存分に振るわせてもらおうっと。
復習も兼ねてだ。
まずは掌底打ちをかます。
さすがに止められる。そのまま身を屈め、足を払おうとしたところで動きを止め、後退した。
今あのままやっていれば足を掴まれていた。
「バビロンを屠っているだけあるなぁっ!」
力が籠っているのは一目瞭然。後退したとはいえ、向こうからしてみれば一足一刀の間合い。ダガーで執拗にこの首を狙ってくる。
ボットかな?
首を逸らす。
縮光、認識阻害を起こす技。勘付かれないようにちゃんと回避行動は取った。
向こうは今度は腕を取られまいと即座に方向転換し、切り返した。
しかしそこに私はいない。
陰縮地で気配を悟らせず背後をとった。
「そこは私の間合いだッ!」
しかし、方向転換の力を止めずにさらに力を加えたラグダスは1回転し、私を正面に捉えた。右手に握られるダガーを正確に私の首筋に薙いだ。
ま、そこに私はいないんだけど。
ダガーが実際に狙っているのは、私の幻影だった。
「どこに攻撃してるの?」
私はラグダスの背中を強打した。それと一緒に蹴りを加えると、吹っ飛ぶ。
「はい、終了。」
手をパンパンと叩いて、長く息を吐く。だいぶ疲れた。
でもまだ一仕事残ってるんだよね……
あの神を縄で簀巻きにする作業が残っていたのだった。
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作者の私ですらこれからどうなるか分かりません。行き当たりばったりって怖いですね。
んん?それよりまた休みやがったなって?仕方ないのですよ、人間だもの。
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