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19章 魔法少女と創滅神

612話 魔法少女は処される

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 こんにちは。こちら魔法少女です。
 現在『銘盤』のとある一角にある牢獄へ取材に来ております。
 さて、肝心のその牢屋の中。一体どうなっているのでしょうか。

 左をご覧ください。壁です。
 右をご覧ください。壁です。
 上をご覧ください。壁です。
 正面は見ての通り檻です。

 さて、私はどう取材を終えればいいでしょうか。

「……何やってんだろ。」
巨大な虚無感に襲われ、棒立ちになる。

 暇すぎてやることないから取材ごっこしてたけど、取材するものが無さすぎる。あとオチがない。

 存在そのものが出オチのようなこの牢屋。私は一体どうすれば、ここから出られるのだろうか。

 重力で破壊を試みたものの、なぜか何も起こらない。これは推測だけど、『審判神』による審判の影響ではないかと思っている。
 無闇な推測は弱点になりかねないが、何もしないよりはマシだ。

「『審判神』、普通に厄介じゃん。」
言葉ひとつで、あの時私の自由を奪った神。審判の内容は絶対ということは、あの神がここにいることを許可した時点で脱出不能というわけだ。

 というか、今何時?

 こんなところには光も届かない。時間感覚が狂う。

「…………誰。」
小声で呟く。コツコツという遠くで聞こえる音と、微かな気配。この気配には覚えがある。虚無的な威圧感のある、アウラ。

「0166、出なさい。」
ドンピシャだ。アウラの淡々とした声が牢屋内に響く。

「0166って、なに?」
「この収容施設の呼び名ですが。」
「私は166神目ってことですね。」
ガチャガチャと音が鳴る。久々に外に出られるのか。

「余計なことを思わない方が貴方のためです。」
「余計なって、例えば?」
時間稼ぎ、なんてつもりはない。しかし、嫌がらせをしてやりたいという気持ちは少し含まれている。

「出なさい。」
「会話、成り立ってないんですけど。」
ギギギ、と鈍い音を立てて檻が開く。堅牢なそれからようやく解放される。

「では。」
踵を返し、歩いて行った。

「え?」
私の手首には、黒くて太くて硬いモノが。変な意味ではなく、手錠ってこと。

 着いてこいってこと……?

 駆け足でその後ろを追い、アウラの顔を覗こうとする。

「『断罪神』がみえました。貴方を断罪するまでの案内をしましょう。」
「……拒否権とかは?」
「現行犯ですので。」
「それでも、減刑できないかの交渉くらい……」
たん。ただ振り返っただけが、ここまで恐ろしいことはない。

「———くどい。ここで殺しましょうか?」
殺意ではない。飲み込まれそうな、深い虚無に攫われそうになった。私はただ「すみません」と謝ることしかできなかった。

 怖…………こりゃ、ユユがあそこまで震え上がるわけだよ……

 先ほどより数歩離れた位置で、私は歩みを再開した。

—————————

 路地裏で頭を隠している少女がいた。
 フードを深手に被っている。

 神は人間の生命力を吸収し、魔力と神の生命力へ変換させる。その生命力から生み出されたフードで、目立つ桃髪を隠した。

 情報屋、ユユは焦燥と狼狽に包まれていた。

「ソラが捕まった……アウラに、あのアウラに……殺されちゃうじゃないか、あんなの。」
震えることしかできなかった。情報屋として導かねばならないのに、そんな自分が震え上がり、声すらまともにあげられなかった。名前を伝えるので精一杯だった。

 もはや偽名の約束も忘れ、どうしようどうしようと魔法少女とは違った意味でその言葉を吐き続けた。

 このままでは『神盤』にも帰れない。それどころか、殺される危険性も高い。

 抹殺。
 その2文字がユユの勇気をズタズタに引き裂いていった。涙が止まらない。

 助けなきゃ、怖い。助けなきゃ、死にたくない。助けなきゃ、動けない。助けなきゃ、無理だ。足が、頭が、心が否定している。

「そのような蒼き顔でどうした。」
その時。初老手前の男が目の前に現れた。突如として、気配もなく。

 初老手前にしては少し筋肉がついている。

「ふむ、桃髪殿はいかような理由でこの地に。」
「…………あの、いや、その……」
男にしては長い神を後ろで括る、堅実な男という印象。

 聞いたことがある。

「あなたは『平等神』オーボルイニなのですか……?」
「いかにも。拙僧の名はオーボルイニである。」
うむ、と頷きにこやかに笑った。

 『平等神』オーボルイニ。彼の前では、権力も、強さも、能力も、何もかもが平等になる。
 彼の前には無限の平等が広がっている。

「あなたこそ何故、このような場所に……?」
「不平等に嘆く声を耳しましてな。拙僧は、桃髪殿のような助けを求める神に手を差し伸べるのだ。」
言葉の通り手を伸ばした。

「拙僧の願いはそれのみにあり。今の形を作り上げし彼の大神おおみかみ、アヌズレリアルに従うつもりは毛頭ないのである。尊ぶ存在ではあり申すが。」
「創滅神様に、そんなことを申していいのですかね。」
「このように平等の力を授かっているのだから、その裁量は拙僧にこそあり。平等であるのだ。」
怖いもの知らずの神だ。まるで、全て対等に見えているように、柔和な笑みをまた浮かべる。

「さて、桃髪殿はこの手を取るのか。それとも取らぬのか。」
「……とります。創滅神を……アウラを……仲間…………いえ、友人を助けてくれませんか?」
「———勿論だ。断る理由はない。」
オーボルイニは鷹揚に頷いた。全てを悟ったような聡い表情で。

「目的が同じならば、仲間と言えよう。仲間は平等な立場だ。畏まらずとも、身を楽にして構わぬよ。」
「うん、感謝するよ!一生感謝するさ!」
彼のそんな小さな願いを叶えることしか今はできないが、それだけはしようと、涙を拭って朗らかに笑んだ。

—————————

「お連れしました。」
「ご苦労だご苦労だ。そこにかけたまえ、アウラくん。」
不遜な笑みを常に湛えた女性は、空いた席を指差してアウラに勧める。

「では。」
控えめに腰をかけた。

「普段かような場を設けることはないんだがなぁ、今回は特別なようだ。君かね?神殺しの大罪を犯した少女というのは。」
『天啓神』から聞いているよ、と一瞬だけ睨みつけた。

「不当な審議はやめてください。詰問と自首強要は良くないですよ。」
そんな中、心臓に毛が生えたような返しをするのは、当然私だ。

 こうでもしてないと、不安と恐怖でちびりそうなんだよ!

 建前と強がりという鉄壁防御がなんとか功を奏している。でなければ、私の股からは黄色の液体が垂れていた頃だろう。

 私はアウラに連れられ、コロッセオのような円柱状で吹き抜けの施設を連れ込まれ、中央に立たされていた。
 周囲は客席?傍聴人席のようなもので、ぐるっと間を開けて何席かある。

 真ん中は私が立ち、その奥の荘厳で物理的に高い椅子に座るのが『断罪神』だ。

「面白いことを言うな。」
という言葉とは裏腹に、若干キレている。

「あの、そもそも私襲われてる立場なんですよ。あの盤島の建物めちゃくちゃにぶっ壊されて、しかも私追われて殺されかけたんですよ。」
「ほう、犯罪者ほどよく喋るというのはこういうことかね。」
「黙ってもらっていいですか。」
やたらと私に『犯罪者』というレッテルを貼り付けたいあの女。私に恨みでもあるのだろうか。

「罪は罪だ。代わりはしないんだがな。」
「弁解したいものですよ、普通。」
「『審議神』を介し、『痕跡神』に捕縛されたうえにこの私『断罪神』にまで咎められているというのに、強情な心の持ち主ではないか。」
手錠をかけられてどうすることもできないからといって、あの神は言いたい放題言ってくれる。

 ま、手錠なくても何もできないけど。
 怖いもん。

「それでは始めるとするか。」
カンッ!と木槌を叩いたような音が響き渡った。それが、断罪の始まりの音だった。

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 突然神の世界へ行ったと思えば、急に捕まって急に殺されそうになってる魔法少女空!一体これからどうなってしまうんだ!
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