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19章 魔法少女と創滅神
610話 魔法少女と銘盤
しおりを挟む船が動き出した。どういう風に動くかと思えば、突然転移的な形で盤から追い出されてそのまま空中スタートで動き出した。
「どのくらいかかるか聞いておけばよかった。」
「1日も経たないさ。」
突然後ろから声をかけられた。知らない声で肩が跳ねる。
「ごめんごめん、驚かせてしまったかな?」
振り返れば好青年。危うく声が出てしまいそうだった。
「私は『刻狂神』ラグダスだよ。貴方の名は?」
「私……?」
嫌な流れを感じ取り、後ろに下がろうとした。が、後ろには甲板。こんなところでくつろぐんじゃななかったと後悔する。
えーっと、何か打開策……まず名前は偽名が当然として、神の名前……?
ユユの言葉を思い出す。名前は、その神の理を示す。
「……『重換神』セレスト。」
帝国でも使った、青を意味する言葉を少し変えた名前。それと、適当に考えた神の名。
「初めて聞く名だね。新入りの神かな。何はともあれ、これからもよろしくね。何かあれば、頼ってくれていい。」
爽やかに微笑んだ。これは、ツラだけいいタイプの絶対ヤバいキャラだ。アニオタの私が言うんだから間違いない。
こう輩って後々裏切ってくるタイプだから嫌いなんだよなぁ。いれば場が円滑に進む感じはするけど、ストーリー的には障害。
と、自己紹介だけしかしてないのにボロクソに言われているラグダスさん。見た目の割に名前、ゴツい。
「また機会があったら……」
こういう時は無難に。下手なこと言って、殺されでもしたらたまったもんじゃない。
「うん、よろしくね。」
手が出された。握手しろ、と言わんばかりの手。爽やか笑顔の圧に負け、その手に私の手を重ねた。
「あは、あははぁ……」
ぎこちない笑みを返し、程なくして踵を返して室内に戻っていった。最後、しっかりこちらを見て手を振るあたりイケメン度が高い。
あれ、顔が良くないとできないよね。
イケメニウムを摂取しすぎて気持ち悪くなった私は、船の縁に体をもたれさせた。
「人も神も、付き合いってめんどぉ……」
小声で垂れ流した言葉は、風に流されて消えてしまった。
「『刻狂神』に会ったぁぁぁぁ!?」
そうやって絶叫するユユを席に戻し、宥めた。あれから部屋に戻り、あったことを説明した結果がこれだ。
「めっちゃ爽やかイケメンだった。私が嫌いなタイプ。別に嫌いではないけど。」
「それどっち……?…………なんて、今はどうでもいい!会ったって本当なのかい?」
結構ガチめに不安そうにしている。
あの爽やかイケメン、実はマッドサイエンティストだった~とかいうオチじゃないよね。
なんて軽めに考えていた。
「『刻狂神』は『銘盤』でも知らない神はいないくらいの有名神なんだよ!」
「……んん、凄いんだろうけど知ってるようで知らない単語ばっかでよく分かんない……!」
「そんなのどうでもいいでしょう!」
女子の怒号パラダイス。それもそこそこにして、なんとか話を再開させる。
「『刻狂神』ラグダスは、名の通り時を狂わせるんだ。」
「時間操作系の能力者……なにそれ、チート主人公じゃん。」
「とにかく強すぎるの。どんな攻撃も時を狂わせれば無かったことになる。避けたことすらも意味をなさない。最強と言ってもいいの。」
その言葉の数々は、脅しのようにしか聞こえない。けど、私が聞いた場合はもっとヤバいのではないかという仮説すらも浮かび上がる。
時を超えた攻撃とかされるんじゃないの……?時を狂わせられれば、今した攻撃の判定を未来に送って、時間差攻撃とか。
想像しただけでゾッとする。
「絶対敵対しないでおこう……」
「そうするのをお勧めするよ……」
2人とも、緊張の糸を張りすぎてがっくしと肩を落とす。
「あ、これ話しておきたいんだけど……」
「どれ?」
「私、その神に偽名名乗っちゃったんだけど。」
「……それ、『真偽神』に見つかったらアウトだよ。」
「なんでもありじゃん神って。」
もはやチーター集団化している。それでも『神盤』の神はなんの能力もないのだから、不公平は人だけの問題ではないと感じる。
神にもあるんだね、そういう不平等社会が。
なんだか急に親近感が湧いてきた。
「『重換神』セレストって名乗ったから、それでよろしく。」
「神の前ではその名前で呼ぶってことでいいのかい?」
「お願い。」
それだけ言って、椅子にもたれかかった。ベットがないから、寝れる場所がないのだけが不満だ。
船酔いない豪華客船の旅とか嬉しいけど、心も体も休まらないのが難点だ。
何もかもに危機感を持たなければとか、難儀すぎて言葉も出ない。
「仮眠するから、起こして……」
仕方ないね、という声を目を閉じて聞いた。この世界に朝とか夜とかあるかは分からないけど、夜くらいには着いてくれと願う。
今は少しでも……心を休ませないと……………
ユユがいる安心感からか、どっと疲れた精神からかは知らないけど、私はゆっくりと意識を手放していった。
—————————
「ええ、分かっていますとも。手筈通り。」
にこやかに、誰かと会話する男がいた。無論相手はこの場にいない。
「創滅神のお望み通りに。」
そう締め括ると、ふっと息を吐いた。
「あんな小娘1人を捻るのに、私が動員されるとは思いもしませんでしたよ。」
2本のダガーをくるっと手で回す。暇な時の手遊びでしていたことだが、いつの間にか上達していた。
手筈通りに行くのなら、『痕跡神』アウラが『刈命神』死亡の痕跡をあの少女から見つけ、捕縛する算段だ。
「あの小娘、特に強そうには思えなかったんですけどね。人は見かけによらない、ということですね。」
私が言うのもなんなのですが、と1人で笑う。
この命令を下したのは『天啓神』エージェン。創滅神の言葉を唯一下せる神。それしか能力はないが、それだけで重宝される。羨ましい限りだ。
その天啓はこうだ。
『うまいようにやれ』
さてどうしようか。顎に手を添える。
しかしそれを考えるのは彼の役割ではない。
ただの実行役なのだから。
—————————
裏で何が起きているのか、そんなことすら知らずにぐーすか寝息を立てている私。
「そろそろ着くから起きな、ソラ。」
体が揺れる。声が聞こえる。そして体が少し硬い。
「…………おはよう。」
「今はこんばんはの時間さ。」
しょぼしょぼした目を瞬いて、首を回す。特に何も変化はない。
「『銘盤』到着まで間も無くだから、さっさと準備済ませて。そんな身なりじゃ、疑われる。」
「ぇあ……ん、ごめん。」
くしゃくしゃになった服を見て、印象悪いなと私ですら思う。いい感じに魔力で温めた手(正確に言うと手袋だ)で、皺を伸ばす。
「しゃんとしてもらわないと、あたしが困る。」
「ごめんごめん。」
椅子から立ち上がり、身体をぐるぐる回す。そして伸びる。
「何してるのさ。」
「体ほぐしてるのだ。」
「なに?その変な喋り方。」
「さぁ?」
寝ぼけた頭では変なことしか出てこない。
眠気は無くなったし、最後は『核盤』に行くだけか。それも十分大変ではあるけど。
ユユは『行き来できるのは使徒様だけさ』と語っていた。どうしよう。今度は使徒を騙るか。
「まずはここを乗り切らないとなぁ……」
最後に息を整えて、準備完了。
またラグダスに遭うかもなのか……
それでも、神らしくをモットーに気丈な態度で扉を開いた。
———————————————————————
ほんと最近、寒いのか暑いのか分かりませんね。
体調管理気をつけないと、私みたいに体調崩しかねないので注意して過ごしてくださいね。
くれぐれも、私のような不健康生活は歩まぬように。
今になって自分の作品がどう見られてるのかが怖くなってきました。
皆さん知っての通り、私も知っての通り、こんな感じなので…………まぁ、そういうことなんでしょうね……
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