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19章 魔法少女と創滅神
609話 魔法少女は詐称する
しおりを挟む腹が減っては戦はできぬ。
だから私は飯を食らっている。
「料理好きの神とか珍味好きの神とかいるけど、食事ってそんないいものなのかい……?」
「神にとっては不要でも、人にとっては大事なことなの。」
即席サンドウィッチにかぶりつく私に、ユユは指摘する。
「タレ、ついてる。」
そんなものなかったかのように、私はしれっと拭う。
「神って食べ物もいらないし死なないし、楽しみって少なそうだよね。」
「そうでもないよ。あたしみたいに、何か役割を持つこともある。娯楽に飢えているんだ。」
「へぇ。」
そっちが聞いたのに、みたいな不機嫌そうな顔は人間そっくりだ。
神と人間って、あんま変わんないんだなぁ。
ここに来てから、そう思うことが増えてきた。といっても、そんな時間は経ってないけど。
さして不味くも美味しくもないサンドを全て貪り平らげたところで、軽く体を動かす。
「それじゃあまぁ、行こうか。」
ローブから王都の学園の制服(先生用の)に着替えて、エンブレムを装着。これで完璧だ。と思ったけど、エンブレムはつけっぱなしは良くないらしい。
ある程度身なりを整えておかなければ、怪しまれる可能性が高そうだ。
「神の顔と名前、全員覚えてるような神っているのかな。」
「それ専門の神なら、いないこともないんじゃないのかい?」
未開の領域であるこの神の世界。そんな危機感なく言われても、不安は収まらないし休まる暇もない。
「で、どこへ行けば『銘盤』とやらに行けるの?」
「街の中央には、ひとつだけ隔離されてる施設があるの。そこから、特殊船を飛ばして移動するんだ。」
「へぇ。」
情報屋から出て、中央部へ歩くこと数分。そんな会話でお茶を濁しつつ首を回す。
知らない景色に知らない街並み。整ってはないけど、こういうの見ると海外にいるって思うなぁ。
海外どころか神界ではあるんだけど、そんなもの些細な差だ。誤差誤差~。
「そういえば、特殊船って『銘盤』の神以外は乗れないの?」
「……話聞いてたの?」
ユユは若干呆れを含んだ目をこちらに向けてきた。
「一部の神は通れるよ。個体によって能力はまちまちだからね、人の生命力からより多くの力を抽出できる神こそが上に立つものとして重宝されるの。『銘盤』に格上げされることもあるんだから。」
私のほっぺに指をツンツンとしながら、笑っていた。
「やめふぇ。」
「聞こえない~。」
楽しそうでなによりだけど、私は一切楽しくないので即刻やめてほしい。
でも、格上げされるなら名付になるってことでしょ?名前、どうなるんだろう。
その疑問を口に出してみれば、ユユは澱みなく答える。
「『銘盤』に上がると、『命名神』っていう神に名をつけてもらうんだ。名を司る神で、その名を賜って仕舞えばその理のままでしか生きられなくなる。」
「力の代わりに自由、か。面倒そうだね。」
「でも、みんなその力が欲しいんだ。だから、『銘盤』は憧れの的さ。」
そう言いつつも、彼女自身はそこまで憧れているようには見えない。このままでいたい、そう感じる。
私も、わざわざ神になんてなりたくないしね。
けど、やんなきゃいけない。
怠い怠いと、頭の中で愚痴りながら歩む。
すると、遠目に何かが見えてきた。敷地的には公園ひとつ分くらい。その周囲を囲み、何者かが警備している。そんな感じ。
「神って寝なくても生きていけるんだ。」
ユユは遠い目で言った。彼らは、そういうことなのだろう。
永遠に仕事しなきゃいけないとかいう地獄。私なら耐えられないね。
どうやら、船を飛ばすのは中央にある結界内らしい。中に入っていく神が、ちらほらと見えている。
「ねぇ、エンブレムひとつしかないけど大丈夫なの?」
「カモフラージュとかで同伴する神もいるから、別に心配だないと思うけどな。心配かい?」
「そりゃあ。」
見知らぬ土地で詐欺まがい……というか、明らかに詐欺をやるなんてアホすぎる。
「いいってことでいいんだよね?よくないことないよね?」
「なんか言語バグってるけど大丈夫?」
あたしそっちの方が心配、と言って私の頭をぽんぽんしてくる。なんの意味があるんだろう。
……なんか鬱陶しくなってきたな。
いい加減やめいと振り払い、少し身なりを整えてから歩き出す。少し、緊張で硬いかもしれない。
エンブレムは胸に。
通りかかる際、きちんと警備の神に会釈した。少し驚いていたが、特に気にならなかった。
「ご苦労様です。こちらへ。」
中性的な声が聞こえてきた。そちらを向けば、顔が髪で隠れた神がいた。かみかみやかましい。
ホラー映画とかに出てきそうで怖。
どこを見てるか分からないのも怖い。なんか、視線があるようで動きがぎこちなくなる。
そんなホラー神の横を通ると、半球型の結界が一部開いた。扉のようになっている。
そこに踏み込むと、通った確認したようなタイミングで閉じられる。
後列が詰まらないように前を進むと……
「ねぇ。」
「なに?」
「あの敷地にどうやってこんな大きさの船?」
豪華客船を思わせるサイズだった。それが、目の前にあった。
「これが『銘盤』クオリティってことだねぇ。」
「もっと驚こうよ。」
その船には階段が取り付けられており、そこから登れる。というか、何故船なのに陸に直置き。
空中船だから……ってことにしとこう。謎の圧力に消される前に納得しておかなければ。
「さっきの神のこと、聞いていい?」
ということで、話題を一新した。
「さっきのは多分『審判神』だ。盤上の世界に、唯一複数いる神。それぞれの盤島に常駐しててね、審判の結果には逆らえないようになっているのさ。」
「なにそれ。存在も恐怖じゃん。」
「でも、1番安全だ。『審判神』は物事の審判をするだけ。しかも、現段階の利用は船だけ。危険はないよ。」
その危険を今さっき冒した私達。もしかしたら、死んでたかもしれない。そう思うとゾッとする。
「次からはもっと安全にね……」
「分かってる分かってる!」
「神の知識、私ないんだから。」
ようやく降りた肩の荷に余計な物が乗らぬ間に、私は船に乗り込んだ。
「うぉ……綺麗…………」
そんな私は現在、船内にいた。船内に入ると、今度はチップのようなものをもらった。それが部屋の鍵とユユは言う。
「見たことない……あたしの周りにはこんな上質な物は……ふぁぁぁぁ………!」
「奇声あげないで!?私の同行者なの忘れないで!」
神のくせに、変なところで人っぽい。
「一旦部屋行こうよ……」
連れ戻すのに10分かかった。
「へぇ、なかなかいい部屋じゃん。」
やっとの思いで到着した部屋。特に寝具はない。寝るなと言うことだろうか。
「人間用に作られてないんだから、当然さ。」
ユユは適当に椅子を引いて、そこに座った。
「人間にも序列があって、神にもあって、そんなのが重なりすぎてミルフィーユみたいになってる。」
「意思ある者なんだから、決まりがないと破綻する。仕方ないこと。」
ユユはその辺を割り切って過ごしている。情報屋なんてものを営んで、ちゃんと楽しんでいる。
「気になったんだけど、『命名神』がいるってことは、神が新しく生まれるってことだよね。どういう風に生まれるの?」
「あ~……そこまでは、流石に情報が入って来ないんだよ。あたしも気になってはいるんだよ?」
「そっか……確かに、そんなの分かっちゃったら誰でもなれちゃうか。」
ユユにも知らないことがあったようで、驚きを感じてしまった。
「でも、盤を移動できるような実力者は『銘盤』の神に推薦されるとは聞いたことある。」
噂程度さ、と軽く笑った。その後やっぱなしなしと手を振る。
「情報屋が不確定な情報流すなんて、ダメなことだから。噂話に留めておいて?」
いいかい?と口に指を当てて言ってきた。
変なこだわり強い人っているよね。
『銘盤』まで、このユユと一緒に過ごすことになってしまった。できるだけ刺激しないようにしてあげよう。また興奮されたらたまったものじゃない。
外の空気でも吸いにいくと誤魔化し、私は部屋から立ち去った。
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こんな新天地での冒険、今章中に終わるのかって?終わらせますよ。
それと、投稿ミスりました。すみません。
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