635 / 681
19章 魔法少女と創滅神
605話 魔法少女と神斬り
しおりを挟む「ここかぁ?叛逆者が侵入したってぇのは。」
パラパラと瓦礫の礫が床に落ちる中、靴の音を響かせて男が声を発した。中だけじゃない、外もボロボロ。一瞬にして最悪のビフォーアフターをされた。
「あっ、あたしの店ぇぇ!」
甲高いユユの声をよそに、男は店内にずけずけと入ってくる。邪魔な瓦礫を足で蹴り飛ばす。
「一般神を巻き込むたぁ、良い度胸でねぇか。」
咥えていた何かをぺっと吐き出し、それを踏み潰した。ずっと片手に持っていた刀が床を擦りながら構えられた。
いや、どっちが巻き込んでるのって話よこれ!明らかに、10:0で向こうが悪いよね!
心の悲鳴は表に出さず、ゆっくり後ろに下がる。が、そこにはカウンターが。
「ねぇあなた、この人知り合いなのかい!?」
「なわけないじゃん!」
「だよね!」
お互いが叫びあっても何もない。男は冷酷な瞳を向けて、左足を1歩引いた。
「ワシの間合に入ったのがぁ、運の尽きだな。」
話が通じない奴ほど、やばい奴。
特に、初対面で殺しにくる奴は100%なんだよ!
という、当たり前のことで喚く。脳内で。
男の腕が少し動いた。何か来ると察し、カウンターの奥で突っ立っているユユを引っ掴んで背負い投げした。心の中でごめんと言っておく。
それを追うように、ヒュンと風を切る音が耳を撫でた。
「ほぅ、こいつを避けるたぁやるじゃないか。」
「ぎゃぁぁぁぁ!あたしの、あたしのぉ!」
「ちょ、今は黙ってユユ!」
その辺に転がったユユをさらに遠くへ投げ飛ばし、ステッキを振り抜いてバックステップ。
やばいやばいやばいやばい!
こいつはほんとにやばい。勝てる相手じゃない。私がどうやっても、こいつには勝てない。
心臓がバックバクしてる。今のは手加減してくれていた。もし本気なら、壁が削れるだけじゃ済まない。
男の方を見る。少しだけ穴の空いた後方の壁。原型があるだけまだ良いほうだ。
「『 刈命神』バビロンの名にかけて、本気でお前さんの命、いただくぞ。」
姿が消えた。神速で思い切り外へ逃げると、腕の一部が切り裂かれた。
「ぐぁ……っ!」
「大丈夫かい!」
遠くからユユの声が聞こえてくる。
あっぶなぁ……斬られたの、左腕で助かったぁ……
一命を取り留め、切断されかけた腕を修復する。
ユユの話によれば、その名が神の能力に直結しているらしい。例えば創滅神。創造と破滅の神。だから創滅。
つまり刈命神っていうのは、命を刈り取ることに長けた神ということか。
漢字を変えれば、名前を変えてきそうな名前してるけど。
「来るなユユ!」
血相を変えて走り寄ってくる。何度も躓きそうになり、最後には私に支えられてなんとか立ち上がった。
「来るなって言ったじゃん。」
「思い出したんだ、あの神のこと。」
視線を刀を振る男に向ける。
「詳しい話は後に回して。」
「分かってるよ。あれは、上盤の神バビロン。鬼の処刑者と呼ばれてる、命を刈ることになんの躊躇もない鬼だ。」
柔和な顔つきをしているが、殺意だけは異様に高い。私達にその殺意を向けたまま、口を開く。
「そこの神、どかんなら諸共殺すぞ。」
なんの感慨もなしにその言葉を繰り出した。殺す、神にとって命とは無にして発せられる言葉であるのだ。
コイツは、創滅神と同じ類ってことか。
「バビロン様!何故にこの娘を狙いになるのでしょう?」
ユユが前に出て言った。先ほど、耳元で『任せて』と囁かれた。任せてみればこれだ。
「言っただろう。そこにあるのは絶対の神である創滅神様に叛逆を企てる下郎だ。それを始末することになんか、異論でもあるっつぅのかぁ?」
私を生物としても認識していないような口ぶり。命ある、おもちゃ。そんな程度だ。
「そういえば、君はなんていうの?」
「空だけど。」
「ならソラ、走るよッ!」
「え、はぁ……?ちょっ!」
私の腕を掴んで途端に逃走に転じた。
「こんなところで情報屋を終わらせてまるかいって話よ!」
「こんなところで命を終わらせてまるかいって話だよ!」
ダッシュで建物の角を曲がった。曲がりくねり、もはや整理など行き届ようもない区間。そこを、ぐるぐると逃げ回る。
「これなら流石に……」
「おいおい、お前さんも創滅神様に逆らうってのか?」
嫌な音。何か岩を裂くような音が聞こえ、振り返れば建物がごと斬られていた。まるで豆腐のように、林立された建物が斜めに切り落とされて道を切り開いていく。
ちょちょちょちょっ!なんなのあの化け物!自分らの住処荒らして、アホじゃない!?
アホだからあんなことをしてるんだと、私が脳内からツッコむ。
「なんか弱点ないの!?」
「もしかしてソラ、バビロン様を倒す気なの?」
「殺す気なの。」
アホを見る目のユユに、愉快そうに笑って見せた。どうやらあれは上位の神らしい。何か証的なものをドロップしてくれるかもしれない。
『どこのゲームだよ』
という言葉は置いといて、ユユに掴まれた右腕を払って体を抱える。
「一旦引く。」
空間歩行と神速で、無理矢理距離をとった。
安息……とまではいかないけど、時間は稼げる。ぐっちゃぐちゃになった建物。あの倒壊に巻き込まれて、死んでる神もいるんじゃないだろうか。
それはバビロンという神も同じようで、少し手間取っているのが見てとれた。
「バトルジャンキーじゃないんだよ、私は。確実に勝てない相手には基本挑みたくない。だから、何か弱点、それに準ずる情報があったら教えて。」
お姫様抱っこのように抱かれたユユに問う。
「ない?そういう情報。」
「———あるよ。」
ニイっと、今度は自らもアホになって笑っていた。
なら、後はうまく策に嵌められればだけど……
すると、ユユは首だけ動かしぐっちゃぐちゃの島の上を指した。
「神は、だいたい秩序や理に則ってしか動けないわけ。あたしが生命力から神が生きるための栄養と魔力排出を行うように、バビロンは『死』を、それも『刈る』という行為を理にしてるの。」
いいかい?と、ユユは今度は私の目を見て言った。
「あんな化け物とやり合ってたんじゃ、命がいくらあっても刈られ放題死に放題だよ。」
「それは知ってる。」
「神には死はないけど、破壊はあるのさ。体のどこかにあるコアを破壊すれば、おしまいさ。形は様々だけどさ。あたしも細かいことまで知ってるわけじゃあないけど、このくらいで良いかい?」
私は「もちろん」と苦笑いのまま頷く。この場では理が絶対だ。重力魔法やら空間魔法は相手によっては木偶の坊もいいところ。だけど……
これ、成功するのかな……一か八かの賭けだけど、一応、やるにはやってみる。
目を向けた先には、一瞬でここまでやってきたバビロン。瓦礫を蹴って、飛んできた。
私のすぐ横を通っていき、ギリギリ斬られずに避けられた。
「ユユは向こうに。」
空間認識阻害の盾をいくつか並べ、さらにはローブを被せて飛ばした。そうそう、攻撃が当たる位置にはいないはずだ。
アニメのバグキャラじゃあるまいし、どこからでも攻撃なんてできない。と信じたい。
相手は重力に従って、加速しながら落下していく。その切先は、私を捉えている。
「重力世界。」
口が動いた。
ここでは理が優先される。つまり、私の理すら絶対になり得る。
世界がそのまま固まった。
ここは創滅神の世界ではなく、あくまでも神の世界。私の理は、まだ通用する。
「…………お前さん、神なのか?いや、でも話が違う……」
「どう思おうが勝手だけど、襲われたんだからこっちも襲ってもいいよね。」
空中で静止してしまったバビロンに近づく。
核があるんだよね、確か。
じっと観察する。が、特に何かを感じるわけでもない。何か思いつくことはないか、ない脳をフル回転させて推理する。
形は様々ね…………
神は理に則ってしか動けない……なら、理を失ったり逆らったりすれば?
そうか、と合点がいった。
『死』を与える神に『死』を与えてやれば、理に反する。ユユは言った。神に死はないけど、破壊はある。刈る側が刈られる側へ。
「まぁ、普通にやればいっか。」
ステッキを持ち上げた。そのまま、思い切り振り下ろす。
「案外あっけなかったかも。」
バビロンのいたであろう場所には、黒い粒子が舞うだけだった。
———————————————————————
11月というのに、まだ昼は暑いですね。寒暖差もありますし、皆様風邪にはご注意ください。
そんな私は、頭痛が痛いでございまする。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる