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19章 魔法少女と創滅神
604話 魔法少女と盤島
しおりを挟むいつの間にか目の前に広がっていたのは、真っ暗な世界……ではなく、ほのかに光り輝く普通の世界。天井に照明器具を取り付けてるのかな、というほどの光量。眩しい、とまではいかなくとも気になる程度の光だ。
「ここは……」
後ろを振り返る。遠くに壁がある。上を見ると、何か飛んでいる。
こう、円錐を反対向きにして、壁をつけたみたいな。
浮島的な物体が、そこら辺に浮いている。もしやと思い、壁まで走る。魔力阻害などはないようで、空中歩行で壁の際までやってきた。
「障壁……?特殊な移動手段が必要とか、かな。」
コンコンと叩く。空間魔法は阻害されている。理そのものが貼り付けられているような印象だ。
「ここが神の世界……?なんか、それっぽくはあるけど…………創滅神、どこ。」
よっと、と言葉を漏らして壁から降りる。壁の周囲には何もないらしく、中央に行くしかなさそうだ。
情報収集とかできればいいんだけど……全員が全員創滅神の部下だったりしないよね。
最悪のパターンは、見つかって即刻戦闘だ。神とどうこうやり合ってたら、私死ぬ。死んじゃう。
内心ビクビク震え上がりながら、重たい1歩をこの浮島の中央へと向けた。
向けたのだったが……
「ナニコレ。」
目に飛び込んできたのは、街。街というには些か擾々としすぎているが。
人間界と違って門とか外壁とか、隔てるものとかないんだなぁ。
浮島の周囲は除くけど。
突然ポツポツと建物が立ち並び、中心に進むと密度が濃くなる。建蔽率やら容積率なんていう法律も何もないらしく、好き放題建て放題だ。
理がどうの言ってる神らしからぬ状態だね。
それでも、私が見てきたあの世界の建物とは似て非なる特徴がちらほらと見受けられた。
物珍しげに、首を回して様子を観察していると。
「ありゃ、見ない顔だ。」
声をかけられた。焦って振り向くと、桃髪が飛び込んできた。
「ねぇ君!異盤の子かい?」
ずいっと顔が寄せられた。鼻がくっつきそうな距離までグイグイと攻められ、建物の壁に背を付いて手で押しのける。
「いっ、異盤……?」
「え、違うのかい……?」
しょんぼりした犬のような顔。散歩を断られたみたいにしゅんとする。
「そ、そう……だと、思う、うん。」
「本当っ!?」
またもやグイグイっと詰め寄ってくる。
「ちょ、一旦離れて!」
もっと強く押しのけるの、ようやく1歩下がってくれた。
「あたしはユユ。情報屋の情報マスターユユとはあたしのこと!」
と思えば、無い胸に手を当ててむふんと言い張った。胸に関しては同類か。
「異盤の子ってことは、相当な身分ってことか。どこから来たの!?」
「まず異盤って何……!」
「知らないのかい?」
訝しむように目を細めた。やばい、これ殺されちゃう。そう思って出てきた言い訳は、そりゃまぁ酷いものだった。
「わっ、私!世間知らずでぇ……?」
尻すぼみ、それも半疑問系というダブルパンチ。ドラマ撮影の監督なら秒でダメ出しが飛ぶだろう。
「離島の方かい?なら仕方ないね。」
両肩に手を乗せられた。なんだこの人、マジで距離が近いぞ。
「異盤っていのは、この盤島とは違う盤からやってきた人のことを言うんだ。ちょうど、君みたいな。」
ユユと名乗る桃髪の女は、私のフードを手慣れた手つきで脱がせてきた。
「何してんの。」
「よーく顔を見せて。」
「嫌だけど。」
寄せられる頬を押し出し、なんとか回避する。
「で、話しかけたってことは何か用があったって事じゃない?」
「別に?ないけど。」
ん?と、ユユは惚けた様子もなく素で首を傾げた。
天然かぁ……この子、天然の天然だぁ……
触れてはならないものに触れてしまった気がする。
「んぅ……じゃあ!ここで会ったのも何かの縁だし、聞きたいことがあったら言いな!答えてあげる。」
情報屋の特別サービス!と、はにかんだ。
「じゃあまぁ、ここの島について……かな。」
「~っていうことで、この島は比較的安全なんだ。他の盤は物騒らしいからねぇ、この辺に越してくる神もたまにいるんだぁ。お偉いさんばっかだけどね。」
ユユは思った以上に口が軽かった。そして、語り上手。
島についてだけじゃない。神や魔力についても、何もかもべらべらと語ってくれた。
情報屋ってのも、信憑性が出てきた。
あれから、どこへ向かっているのか分からないが歩きながらそんな話を聞かされた。
少し中心から外れ、いろんな建物がいろんなふうにごったがえしている。
「創滅神様って、どう思う?」
ふと、語りの終わりにそう質問した。なんて質問するのが正解かは分からないけど、言葉の端々に上位の神がいることを示唆する言葉や尊敬の念は見てとれた。だから、とりあえず敬称はつけておく。
「どうって、そりゃ、この世界を作ってくれた最高神さ。この盤上の世界だけじゃない。下界もそう。」
「会ってみたいと思う?」
「一眼くらい見てみたいと思わないかい?けど、そんなの叶わないさ。」
クスッと笑って言った。
「周りには使徒様が侍っているしね、そう易々近づけないさ。あたしだって莫迦じゃない。」
「へぇ。」
軽く相槌を打った。それをどういうふうに解釈したのか知らなけど、ユユは更に踏み込んだように口を開いた。
「今、下界では戦が起こってるって噂、知ってるかい?」
「さぁ……?」
すっとぼけ。こんな技が効くとも思えないけど、天然物の天然には効くだろう。
「それが、創滅神様の手引きとも聞くんだ。……誰にも言っちゃダメだぞ?でないと、あたしの首が飛ぶ。」
自分の首に親指を当て、そのまま横にスライドさせた。
「今更なんだけど、私みたいに厄介なのにそんなこと言っちゃって良いの?」
あまりの警戒心の薄さに、普通に不安になってしまう。
「いいさ。あたしが興味を惹かれるってことは、そういうことだからね。」
ぱちこんとウインクを決め込んだ。それと同時に、ガラガラと音が鳴った。
「入って。あたしの本部。」
「本部……?」
「情報屋って言ったでしょ?あたしの情報と、何か対価をトレードするの。」
どうやら、神の世界に通貨は存在しないようだった。魔神の言うように、『神』には『神』の考えや生き方があるのだ。
「あなたに興味があるの。一目見た時にピンときたんだ。」
そこに座って、と勧められた先にはカウンターのようなものと小さな椅子。
閑散としてる……というか物が少ないって感じ?
さっぱりとしている、なんて次元を越している。引っ越し前の家を彷彿とさせる。
ユユは「よっと」と声を出してカウンターの向こう側へ行く。ジャンプで飛び越えて。
「あたしの情報とあなたの情報、トレードしないかい?」
その瞬間、建物が振動した。強烈な破壊音と共に。
———————————————————————
えー、謎展開になってしまいました。
それをなんとかカバーするために、誤魔化しの設定……げふんげふん。新情報をここで開示したいと思います。
魔力と神についてですね。
神のそもそもの定義は、魔力を生み出す者のことです。人が酸素を吸って二酸化炭素を出すように、創滅神の生み出す世界の力を得て、魔力を排出しています。
それが下界に流れて脈を通って~って感じです。
その神に色々くっついたのが創滅神やら、戦闘を得意にしてる奴らです。
なので『神』ではなく『創滅』神という名になっております。
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