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18章 魔法少女と神の使徒
602話 魔法少女
しおりを挟むパチパチと焚き火が弾ける。水分が弾けてるとかなんとかって聞いたことがある。
私は地面に体育座りをして、それを眺めていた。そして同時に「なんでこんなことしてんだろう」という気持ちを抱いた。
「なんでこんなことしてんだろう。」
ほら、口に出ちゃうくらいには思ってる。
「ねぇ、ほんとにこんなことする必要あるの?休憩タイムとかいる?」
そこでコーヒーか何かを淹れている魔神に尋ねる。よっしゃ最終決戦だ!と息巻いていた心はもはや鎮まり切り、コーヒーとは対照的に冷めていく。
「重要なことだ。」
「なにが重要かを聞かせてほしいんだけど。」
そういう黙りこくるのはなんなんだろう。
「こんなことしてるうちに、創滅神が隙ついてくるかもしれないよ。」
「見え透いた隙をつつくやつではないからな、あの神は。」
人神だ。後ろから声がして、振り向こうとすると頭に何か乗っけられる。そこの形的にコップ?
妙に頭部が暖かい……
まぁここは素直に、頭に手を伸ばしてコップを受け取る。ふーっとすると、黒い液体が揺れる。
「コーヒー……ではない?」
「精霊の森で取れる特別品よぉ~?」
遠くから霊神の声。変な匂いもしないので、一口口に含む。
ん……んぅ?これは、なんて表現するのが正しいんだ……?
口に入った瞬間は刺激というか苦味に近いのを感じて、口に広がると滑らかになって甘みが浮かんでくる。謎の飲み物。
不味くはない。魔法少女採点で星3.5だ。
「なにこれ。」
「さぁ?ワタクシも詳しくないから、分からないわぁ。」
「分からないものを飲ませないでよ。」
「美味しいのは分かってるわぁ。」
「もういいや。」
もう一度それを啜るも、あまり落ち着いた気分にはなれない。
ほんと、これなんの時間だろう。
「なぁ、キミ。」
「私は空だよ。」
「覚悟はできてるか?」
「いきなりなに?」
覚悟ができてるからここにいる、首を上げてそう言うと、「そういうんじゃないんだよ」と頭を掻いた。何気に私の言葉はスルーしている。
ならなんなのさ。
私達は黙ってる。この空気感はシリアスパートだからと理解しているのだ。
「失う覚悟だ。」
「失う覚悟……?」
「キミの話によれば、キミは創滅神を殺してその座に座ることになるんだろう?」
「そうだけど。」
「神になるということは、人を辞めるということだ。その意味を理解しているか?」
表現が遠回しで、何を言ってるか分からない。
「……エディ、代わりに説明してくれない。」
「嫌だ。余はやらん。」
「……………」
魔神は面倒そうな表情で、眉間に皺を寄せながらこっちを向いた。
なんで私が悪いみたいになってんだろうか。
「それぞれ、生物には物の考え方がある。人にも、精霊にも、かつての魔族だって、龍だって。」
私はそのままの姿勢で周囲を見渡す。人神が、霊神が、魔神が、ルーアがいる。
「それぞれ違う考えを持って、違う生を過ごしている。人は社会を作り、共存していく。精霊は自由気ままに生を謳歌し、魔族は戦闘に飢えていた。龍は寿命が長くて、何十という年月を昼寝で過ごしてしまう。」
魔神はつらつら言葉を並べていく。なんとなく分かってきたが、分からないふりをする。
「キミは人だ。誰かと共存して、誰かが好ましくて、誰かを守ろうとしている。でもだ。神になったら、どうなる?」
「どうなるの?」
「……惚けてると、ここで殺すよ。」
少し首を傾けた。威力が乗った魔弾が後ろに飛んでいった。
「人の心は無くなる、それでいいのか?そういう話をしているんだ。キミはこの世界には関係ない、逃げたってボクらは何も言わない。今のキミなら、大切だけなら守り切れるだろう?」
「落ち着けヴァル。」
人神が魔神の背中を宥めるようにポンと押す。
「この時間は、其方にこの問題について考えてもらうための時間だ。覚悟は、できているか。」
「覚悟……」
膝の間に顔を埋めた。よく分からない。
覚悟、カクゴ、かくご……?覚悟ってなんだ?
ゲシュタルト崩壊を起こした。
確かに、あの時の未来の私は私って感じじゃなかった。達観を超越したみたいな、『神』という生物がいたのなら、そういうものだと思えるような態度。
私は何も分かってなかったのかもしれない。
「其方はどうしたい?魔法少女として神を下すか、人として大切を守るか。」
「…………………………少し、時間を頂戴。」
目を伏せて、沈黙を貫く。そのための時間だということは理解した。
守りたいものだけ守っても、みんな、納得しないよね。そりゃ。
もうできたと思っていた覚悟。今更問われても、と思った覚悟。けど、いくら考えても正しさが見つからない。
『そもそも、私は正しさを求めてるわけじゃないよね』
『そうだよね。今、必要なのは、どうしたいか』
『要するに私の意思そのものを問うているというわけだな!』
『だな!』
楽しそうなCとD。後者は意味を分かっていない。絶対。
もし百合乃達だけ助けたら。
きっと何も言わない。私の言う通りにしてくれる。けど、絶対に違う未来を望んでいるはずだ。
『こうやって、嫌な苦笑を浮かべそう』
皮肉ったようにAは言う。
『ネルは少し怒るだろうね』
Bは苦笑しながら。
『ロアは何も言わないだろうな』
Cはキッパリと言い張った。
『私はどうなるんだろうねー』
Dは論点を変えて呟いた。
そんなことなら私から未来聞いておけばよかった。ま、そんなことしたら頼り切りすぎて弱々人間になりそうだけど。
そしてまたスタートラインへ戻ってくる。こうやってぐるぐるぐるぐる回っていくから、悩みというのは面倒くさい。
今重要なのは何か。
覚悟。
なんの覚悟?
神になる覚悟。私を失う覚悟。
腹は決まった?
まだ。少し迷ってる。
なんで?
受け入れてくれないかもしれない。私が守ったものの愛おしさを忘れたくない。
なら、忘れなければいい。
自問自答して、返ってきたそのアンサー。
こうやって希望論でしか物を語れないのも、私らしいっちゃ私らしい。推測も憶測も希望も綺麗事も、全部ぶち込んじゃえばいい。
この私らしいを失うか、私らしさのために他のみんなを捨てるか。
そんな選択肢、はなから間違っている。
新しい選択肢、それを作るのが変革者たる私の役目。
できないかもしれないけど、やらないと確率はゼロから上がることはない。
「やるしかないか。」
目を開くと、私の頭はすっぽりと膝の中に挟まったまま硬直していた。少し腰と背中が痛い。立って、お尻を払う。
「覚悟は決まったね。」
それを見て、魔神は笑った。霊神は微笑を湛えたままこちらを見る。人神もルーアも、歓迎するような目をしている。
「私がいない間、この世界は任せたよ!」
少しだけ声を張った。
「空。」
どこかから声が聞こえてきた。振り返ればラビアがいた。
「あなたが重大な決心をしたことは分かるわ。これしか言えないことが悔しいけれど———」
スタスタとこちらへやってくる。
「頑張って。」
優しい抱擁。虚を突かれたが、すぐに平静を取り戻して抱きしめ返した。少しして、どちらからというわけでもなく腕を離した。
「それと、これ。」
なにか、ふわふわした物を握らされた。色は青い。
「幸せの緋色の鳥って知っていますか。」
「幸せの…………」
記憶を巡らせると、脳裏にとある御伽話がよぎった。ピクニックの時、ネルが教えてくれたものだ。
「それとは少し違うけれど、思いがあれば関係ないと思いません?」
少し楽しそうな笑み。『緋色』の羽を握り、私はその笑みに応える。
「ありがと、ラビア。」
どういたしまして。その声を聞いてから、四神の下へ向かった。
「私、諦めないから。」
鼓舞するように呟いた言葉は、私に前を向かせた。
———————————————————————
今章は終了いたしました。
終わりが本当に近づいてきて、嬉しいやら寂しいやら。
最近はやりたいことをやるため、そろそろ終わらせようと思ったのですが、実際終わるとなると悲しいですね。
別にまだ終わりませんけどね!?
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