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18章 魔法少女と神の使徒
601話 冷笑の瞳
しおりを挟む「ふはははっ!ただの龍と言ったことは訂正しよう!が、妾に勝てるほどの実力はない。」
ヒュイン、ヒュイン、と何かが宙を舞う。その存在は分からないが、魔力の流れが変わることに反応して避けている。
リュウムは脂汗を額に浮かべた。横腹は引き裂かれ、身体中血に塗れたその姿は、もはや満身創痍。それでも体に鞭打って、リュウムは仕事をまっとうしていた。
後ろには国民。処刑人と名乗る女は、縦横無尽に空中を飛び回り、ケタケタと笑い声を上げる。蹂躙の限りを尽くす。
センスフォーンらは、国民を守ることが精一杯で加勢には向かえない。
女……ルースレスはまた腕を振るった。
「……っ!」
かろうじて龍法陣を展開し、防御壁を張った。
「妾の斬撃を防ぐとは、面白いな。」
ジャストヒットさせないと簡単に崩壊してしまう。ハスキーボイスで失笑する。
「何が……おかしい。」
「そこらの有象無象を守ったところで、どうなる?あれを無視すれば、もしや逃げられる可能性もあるぞ。」
「龍神様の命に逆らうわけには……」
「つまらない主従関係だなぁ。」
壊しちゃおっか、と指を再び鳴らした。魔力が吹き飛び、リュウムも吹き飛んだ。
直前に龍化し、その硬い鱗でなんとか断ち切られずに済んだ。
再度人間の姿に戻り、連結龍法陣を組み立てる。
「ブースト!」
後ろに下がるより、前に行く方が勝ち目はある。猪突猛進し、腕を交差させる。ルースレスは何が起こるか、口角を少し上げて見下ろした。
「リミテッド。」
連結龍法陣がルースレスにまとわりついた。正三角形が幾重にも重なりあい、魔法陣を作る。それが目の前に、大量に、突然組み上げられた。
周囲を取り囲むそれに、首を回し眺めるだけのルースレス。
「能力制限か。」
何やら魔力的に障害を感じる。魔力妨害の、さらに上位の魔法か何か。魔法系統の攻撃を乱す、弱者の魔法。
防御系統の魔法とは、弱者が発展させた魔法なのだ。
「妾のコレは、特段魔法の類ではない。」
空間が割れたような音がした。実際に、リュウムの目に映る空間は歪んでいた。
「これで終いだ。」
そこからルースレスが体を出した。まるで空気に地面があるかのように歩いて脱出し、次第に空間は紡がれていった。
リュウムは死を覚悟した。
あの結界内で龍法陣に攻撃を仕掛けた場合、連鎖爆発が起こるように仕掛けていた。しかし、攻撃すらされずに終わった。
「ふぁ……つまんな。」
欠伸をした。もう飽きたと言わんばかりに、冷たい視線が送られる。犬が格下の上に乗るように、格下を見下げている。
「もう、終わりでいっか。」
パチン。指が鳴った。不可視の攻撃を感じた。龍の勘でおよそ15。一つの大きさは拳より一回り大きい程度。
もう、避けられるはずもなかった。
情けなくも、ぎゅっと目を瞑ってしまっていた。
「安いトリックね、姉さん。」
「見破ればどうということはないわね、アイリー。」
淡々とした声が、リュウムの目を開かせた。
「ほぅ。妾の攻撃を防いだか。」
楽しそうな声が降ってくる。
「攻撃だって、姉さん。」
「演技が上手ね。」
ルースレスの目の前に立ちはだかった敵。リュウムに加勢した新たな仲間。左手と右手を繋いだ銀髪の少女ら。
「加勢しにきたよ。」
「間接的とはいえ、合衆国の危険を守ってくれたこと、感謝するわ。」
拾肆彗が拾弍彗。姉のアウィリーと妹のアイリー。帝国より、派遣された少女らだ。
「コイツ、この世界の相手にはめっぽう強い。」
アウィリーが見上げる。ルースレスは見下すように笑った。
ルースレスの攻撃手段。不可視の帯が縦横無尽に動き回る。それだけ。
翼のように4本、長い帯が生えている。それが切断されたり、伸びたり……
「コイツ自身は強くない。」
「分かれば簡単ね、姉さん。」
どこに隠し持っていたのか、笏のような細長い棒が握られていた。
「分かったところで、対処できる技量がなければ妾には届かない。」
「なんか言ってるよ、姉さん。」
「言わせておけばいいのよ。」
手を繋いだまま、駆け出した。
ルースレスの帯は触手のように飛んでいき、2人を射抜かんとする。
双子の姉妹は、まるで一つの生物を思わせるコンビネーションでするりと身を翻して躱していく。
同時に跳ね、帯を足場にアウィリーが跳ぶ。瞬時に腕を引いて、その力で上昇したアイリーが笏で帯を折る。
帯はそのまま切れ、それすら武器となって2人を襲う。
「妾に近づいてみろ!ははっ、できたら褒めてやるぞ。」
「舐めてるわよ、姉さん。」
「痛い目に合わせてやりましょう。」
絶対に手は離さず、ぎゅっと互いに握り合った。
「拾肆彗か……興味が湧いてきた。」
ここまで接戦になるとは思わなかった。ルースレスの冷たいに瞳に光が宿る。
リュウムはこの光景を、ただただ見ていることしかできない。攻撃の正体も未だ分からず、なんとか安全を確保できたことに安堵してしまっていた。
目の前では、なぜか空中を跳び回る双子と微動だにしないルースレスがいた。(実際には帯を踏み台に跳び、切れ端に立っているだけ)
「当たらなければただの硬い布よ、姉さん。」
「そうね。魔法の絨毯ね。」
軽口を叩く暇もあるほど、余裕綽々の様子だ。が、対するルースレスもまた余裕をたっぷりと感じさせる面持ちをしている。
「お前たちでは妾には勝てん。所詮、紛い物だ。」
なんて、明朗に言うだけ。
踏み台にされた帯は、そのまま迂回してアウィリーに巻きつこうと回転する。それに気づいたアイリーが体を回して場所を移る。帯を鷲掴みにし、落下の力で振り子運動へと移行した。
体を大きく揺らし、アイリーは思いっきりアウィリーを投げ飛ばした。
「チェックメイトね。」
4本の帯はもうない。そのための縦横無尽の移動だ。
帯を引き戻し、攻撃をするのに2秒かかるとすれば、こちらは1秒足らずで事足りる。
「っ、手を離せたのか……」
無防備な体に笏が迫る。
刷り込み。初対面の相手にはめっぽう強い、ハッタリ。
しかしそれはただのハッタリにすぎない。
「神格上限、解放。」
冷笑が湛えられていた。
アウィリーの目の前には突然、数え切れないほどの帯が隙間もなく、まるで捕食するが如くこちらに向かっていた。
「奥義というのは、最後の最後まで取っておくものだぞ。もし妾の後にそれをしていたならば、結果は面白くなっていたかもしれないな。」
そのままアウィリーは飲み込まれてしまった。
が、突如バチバチバチバチィッ!と雷電が降り注いだ。帯が、焦げて消えていった。
「何奴だ!」
空には1つの影が浮かんでいる。
「面白そうなことしてんじゃねえか。」
不遜な態度を貫く男、式家蓮。
「誰だ、お前は。」
「名前を聞くならそっちから名乗んのが礼儀ってもんじゃねえのか?」
「……処刑人02、ルースレスだ。」
「蓮。」
男の気配は直前まで感じなかった。
腰が抜けて落下していくアウィリーを、アイリーが下でキャッチする。蓮は抜けた穴を塞ぐように、ゆっくり下降した。
「んじゃ、とりあえず死んどけ。」
また、雷撃が舞う。と思えば、ルースレスの体を雷の檻が覆った。
雷煌檻。蓮の魔法だ。
「その帯は、どうやら俺を傷つけられないらしい。しょぼいおもちゃだな。」
「……そっちこそ、しょぼい魔法をくれたものだ。」
雷が歪んだ。リュウムの龍法陣と同じように逃げられてしまう。
「生身だったらいいってことか。」
「が……っ!」
ズドンと、ビルから落ちたような落下音がする。追加して、バキゴキと人間からなってはいけない類の音も交わる。
「こういうことか。」
上には蓮が残っている。ならば、落下音の正体は……
もくもくと土埃が舞い上がる中を覗こうと、リュウムらは目を細める。
そこから、帯が大量に突き出された。
「意味ねえっつってんだろ。」
「かはっ!」
煙が晴れた。いつの間にか蓮は地面にいて、ルースレスを踏みつけていた。
「黙って突っ立ってんじゃねえよ。怪我人の治療でもしとけ。」
蓮は踏みつけたルースレスをまるでいないもののように扱い、指示を出す。
「思ったよりつまんねえな。」
その直後に、蓮は容赦無くルースレスを踏み潰した。地面は血を啜ることとなった。
———————————————————————
次回を終えれば最終章へ突入です。と言いたいんですが、キリが悪いので少し20章も書きます。こちらは短くなるでしょうが、お許しを。
内容は、魔法少女……美水空という人物をより深く掘り下げる形で進めていきます。お義母様やお義父様が出るかも……?
19章は、少し長めになるかもしれません。しかしながら短くなる可能性も秘めているので怖いところです。
バランス調整をしながら進めていきます。
さて、物は相談なんですが、エピローグの前にもう一度だけ私がくっちゃべってる話を入れたいんですけど……いいですか?
最初で最後とか言っちゃったましたけど、最後くらい……お願いできません?
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