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18章 魔法少女と神の使徒
598話 魔法少女と神の雫
しおりを挟むルーアの報告を最後まで聞いて、安心にもならない安心を感じた。
纏めると、処刑人と名乗る人間が避難民を襲い、それを聞きつけた合衆国が帝国の指揮を王国の駐留兵に任せて拾肆彗に向かわせるというものだった。
幽霊対策に伯方の塩を買ってきたと言われているのと変わらない。
「そんなことしたって、帝国の方が緩むだけじゃん……」
何のための拾肆彗だよ、と若干イラつきながら周囲を見る。そんなことしたって何も起こらないけど、何かしてないと体がそわそわする。
代わりの人派遣するとかさ?ないの?合衆国も政治的介入をしてるっていう強調のための拾肆彗なのに……
まぁ、それはいいとして……
「いけると思う?処刑人……」
「さぁ。でも、処刑人程度に苦戦していたら、創滅神に勝てるわけないのは間違いない。」
「だよねぇ。」
脱力して、どうしようと頭を悩ませる。
「とりあえず、私達も向かった方がいいかな?」
「好きにすればいい。ボクとキミが生きていれば、どうにかできなくはないからね。」
もうすぐ日が昇る。なんとなく、今日は1日が長い。まるでゴムのように引き伸ばされている感覚。
ここ最近、本業もできてないし……かといって働いてないかといったら違う。残業手当で家買えるくらいのお金が欲しいくらいには働いてるよ、私。
でも、今はお金より人員がほしい。どんな感じって、百合乃くらいの。
「ひとまず、人神と霊神と合流しよう。そうしてから、国民の安全確保して決戦……その間は、任せたよ。」
百合乃を一瞥する。ふんす、とやる気をたぎらせている。
「みつけた。」
唐突な声。気配なんてない。バッと振り向くと、少女が立っていた。
「リディキュール……!」
魔神は目を細めて、不快そうに呟いた。
今さっき逃げたばっかだよね……なんでそんなすぐ追いつけるの?
頭に疑問符が浮かび、思考が止まっている最中。ラビアは、一歩前へ出た。
「貴方の目的はなんですか?別に、私としては貴方と事を交えたいわけではありませんので。穏便に解決を図りたいのだけど。」
「対話に応じると思ってる?」
ギラリと目が光った。
「さっきは、よくもやってくれたね。あたし、ちょっと壊れちゃったじゃん。」
指で頬を指した。ぱきっと一部が割れた。
割れた……?
自分の脳内で表現したその言葉にさらに疑問を持つ。
だって仕方ないじゃん。そのままの意味で、頬が割れてるんだから。
まるで、塗装が剥げた壁のように、そこだけ。
「では、これだけは答えてくださいませんか?」
無視された。でも、ラビアは言葉を続けた。
「貴方は何者で、なんの理由があって私たちを狙うの?」
「あたしは処刑者で、そっちは処刑対象だから。」
そう答えた瞬間に、瞬間移動のような動きでラビアに殴りかかった。
「神速っ!」
遅いと分かっていても、私はタックルをして無理矢理ラビアをパンチの軌道から外した。代わりに私が横腹を殴られた。見事に吹っ飛ばされた。
「っ…………ぃ、たくは、ない……?」
数メートルぶっ飛ばされているのにも関わらず、あまりダメージはない。魔法少女服ってここまですごかったっけ、思わずそう感じる。
……処刑人からのダメージはない?
「ちょっと、検証!」
魔神に合図を送った。とりあえず、今回は私が主に戦闘の役割。
「あははっ!すごいすごい、あたしの攻撃を食らってピンピンしてるなんてっ!」
「そりゃどうもっ!」
離れた位置から走り出す。魔神が無詠唱の魔法で牽制をし、それは案の定消滅させられる。
能力は破壊。
処刑人の正体が分からないからなんとも言えないけど……ナンバー付きってことは量産品?いや、そうとも言えないか。
テロ組織の《八奏》や、帝国の『六将桜』を思い出す。後者はディティーの捨て駒として扱われていたけど。
流星光槍を5つ出す。こういう系統の魔法は、魔力で回転させることによって貫通力が上がる。
魔法に慣れてきて、無意識にできるようになってきた。
それらを、接近の真っ最中に投げ飛ばす。
「つまんないよ、そんなの。」
手を触れた。やはり消える。魔力の類を消滅、とも考えたけど、どうもそんな感じでもないらしい。接近を終えた私は、ステッキを振り下ろしていた。
「ほら。」
つまらなさそうに、煌く瞳が見つめるのは、人差し指1本で押さえられたステッキ。
魔法も物理も効かない。じゃあ、何が効くんだろうね。
リディキュールは、空いたもう片方の腕をゆっくりと上げた。それを見ていたのに、何故かそれに反応できなかった。
「思考破壊……?」
小声でつぶやいた。次に、腹に衝撃が襲った。
「ぐっ…………」
痛くはない。けど、衝撃は衝撃だ。
これで大体検証終了、かな……
「弱い弱い、あたしに全部壊されちゃえ。魔法少女だかなんだか知らないけど、こんなものなら簡単じゃーん。」
おかしそうに笑って、片足でジャンプした。着地したのは、地面じゃなくて空中。
夕日をバックにって、ちょっと映えそうな画角やめてもらって。
私は眩しい夕日に1発ぶちかまそうと、指鉄砲を作って向けた。
「そんな手遊び、面白い?」
「全然。」
後ろを向く。百合乃がラビアを守る位置にいる。
「この後に及んで仲間の心配とか、うける~。ははっ!生まれて初めて、あたしこんなに笑ったかも。」
「そ。じゃ、それが人生最後の思い出ね。」
「え?」
素っ頓狂な声の主は、言うまでもなくリディキュール。自分の胸に手を当てると、赤いものがついていた。べっとりと手に張り付いた。
「理には弱いみたいだね。」
若干黒くなっていた空に人差し指を向け、息をふぅーっと吹きかけた。
私にダメージ入らない時点で分かってたけどね。
私の体は、創滅神謹製の特注品。そんじょそこらの異世界人じゃない。
多分、あれは不完全……というか、創滅神の性格からして、確実におもちゃの類だ。
この場合、百合乃はどうなるんだろうって話だけどね。
そこは、試したくはないかな。
流石に気が引ける。
「衝撃は来るけど、ダメージ自体はなしっと。……予想するに、創滅神に大きく関わってるものは破壊できないとかかな?」
軽く予想を立てて、胸に風穴の空いたリディキュールに刻一刻と迫る死の宣告をしに向かう。
だったらこの世界は創滅神が作ってるんだからー、っていうのもあるけどね。一応、予想はある。
個人的には薄まったんだって結論をつけてる。
世界を作ってから何千何万何億と時間が過ぎる中で、多くの生物の力によって変化し続けて純粋なものではなくなってる。だから、破壊自体は可能。
「これ、四神相手にはキツイかもね。無論他の人らもそうだけど。」
そう呟いていると、ある人物を思い出す。
蓮。そうだ。蓮も、創滅神からの転生者だ。
「やることも言うこともあるから、さっさと終わらせるよ。」
拳に纏わせたのは、重力。しかし、ただの重力ではなく殺しに特化した特別な重力。
相手の重力をめちゃくちゃに乱す技。名付けるなら、そう。重乱。
重力を乱す魔法。
「あたしを、誰だと……」
「リディキュール。ただのおもちゃ。」
煌く瞳は、虚しくも終わり時もまで輝いている。
できれば、殺したくはないんだけどね。
すれ違いざまに、肩を叩いた。
爆散した。
血の雨は、重力によって全て弾き返され、悪臭だけが立ち込める。
「あれ……威力強すぎない…………?」
最後の一言が余計だったなと、遅れながらそう思った。
———————————————————————
昼間はあれほど快晴だったというのに、夜になれば雷がどんどんどんどん鳴っております。
こんな事を言っていると、住んでいるおおよその位置を把握されかねませんが、そんなことしたところでなんの意味もないのでその点においては安心ですね。
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