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18章 魔法少女と神の使徒
596話 価値を示せ
しおりを挟むネイファ・リンカは焦っていた。
魔法少女。あの忌々しい少女によって、合衆国に飛ばされていた。
合衆国の地図は頭に叩き込まれていたため脱出は可能だったが、余分な時間を取らされた。
もう夜だ。
それぞれの時間帯には、それぞれの香りがある。血の鉄臭い香りが鼻を満たした。
「このオレを殺しても……もっと上が、オマエを……」
「うるせぇから、その血ぃ臭え口閉じてください。」
ネイファは、地面で大量出血し這いつくばる男勝りな女に蹴りを喰らわせた。強めに血を吐いた。
拾肆彗が1人、壱彗リキュール。名の通り酒豪だ。
「貴方が突っ掛からなければ、余計なことをしなければこうはなりませんでしたよ。」
「……今の状況、分かってんのか……?」
「知っていますよ、当然。わたしたちは世界を敵に回した。それが?本物の世界は、わたしたちの味方です。」
「また、宗教か……」
くだらねぇ、そう吐き捨てた瞬間女の命は潰えた。目の据わったネイファが、影で脳天を突き刺した。
「このキャスケットに誓って。」
この道を歩み続ける限り、何人たりとも侮辱は許さない。キャスケットを片手で押さえ、水色の髪を振りながら、我が道を行く。
価値を示す。今ネイファにできる精一杯のアピールは、それだけだった。
目標は魔法少女の抹殺。それ以外ない。価値を示すのに、これ以上ない標的だ。
倒れ伏した拾肆彗なんて気にも止めず、影に潜っていった。
向かう先は王国。奴らの顔も、魔力も、知り尽くしているネイファにとって造作もないことだ。
「…………あれ、か。」
見つけたのは、あれからそれほど経っていない頃。慌てた様子で、何かをしている。
「影移動がなかったら、少し面倒でしたねぇ。」
目と鼻の先にいる標的。殺害衝動を抑えながら、息を潜めた。
今見えるのは4名。魔法少女、魔神、軍服少女、それと少女が1人。凛としている。
「あぁ、あの時の。存在感がなくて忘れていました。」
ラビア・イニシスという名前だ。
紅銀髪という珍しい髪色という特徴が無ければ、完全に記憶から消されているところだった。
必要なこと以外はあまり眼中にない。
「レンはいないようですね。ま、あの程度の雑魚ならどうとでもなりますけど。」
キャスケットを少し上げた。今から殺戮ショーを始める。あの少女を、挽肉にしてハンバーグに作り変えてやるのだ。そして美味しくいただいてやる。
影を集めた。半日前の倍返し。いや、100倍返しにしたって収まらない。尽くを壊し尽くして、創滅神の元に下してから殺してやるのだ。
指に魔力が溜まる。影が収縮し、指鉄砲の形がまるで小さな弓矢のようになって影を発射した。
ヒュインと風を割いた。
「魔断っ!」
しかし、影は消滅した。
「敵……?こんな忙しい時に!」
「向こうは手筈通り、任せよう。レンが足止めして、後から来る拾肆彗にトドメを刺してもらう。」
「……いける?」
「信じるしかないでしょう。」
魔神の言葉に賛同し、紅銀髪が一歩前に出た。邪魔だ。魔法少女を自然と庇うような位置に立っている。
「射抜き殺してやりましょうかね。」
「そこにいるのは分かっています!」
声がバレたか。一瞬そう思ったが、人間の聴覚程度は把握している。距離、声量、空気の流れ。どれをとっても、勘付かれるようなヘマはなかったはずだった。
しかし、バレているものはしかたない。
あの目、あの軍服は予想以上に鋭い。確実に、確信を持ってサーベルの切先をこちらに差し向けている。約20メートルは離れているのに。
「真っ向から勝負するわけないでしょ、こんなもの。」
ネイファは影を操った。
「拡散弾。」
パチン。指が弾かれた。影は、どこまでだって伸びていく。
昼間は安定していなかった空模様も、今は綺麗に月が出ている。人口灯などない森の中、月明かりが影を生み出す。
影のある場所が、全てテリトリー。
4人の中心を軸に、影が拡散するように飛び出した。
「…………っ!ネイファか……くそっ、めんどくさい!ほんと、めんどくさいっ!」
いち早くそれに気づいた魔法少女。空間操作で独自空間を貼り付け、回避した。重力を使ってくれることを期待したが、流石にそこまで馬鹿ではないか。
「ラビアさんは私の後ろに!」
「承知しました。」
「背後はわたしにお任せです!」
ラビアをサンドするように、2人が位置した。
「そこか。」
魔神の冷たい声が聞こえた。
「ファイア。」
声に反して暖かそうな名前の魔法が放たれた。威力は、決して温くないが。
熱線。ファイアなんて名ばかりの、アホ威力のビームが飛んできていた。この距離から、完璧な狙撃をされている。
「守れ!」
影が円盤を作り盾となった。ネイファは咄嗟に草むらに飛び込み、衝撃を抑えながらザワザワと音を立てた。
「そこかっ!」
パァァンッ!という炸裂音。魔法少女の、ラノスとかいう武器だ。
「なんでまた、こうやっかいなんでしょうかねぇ。」
若干キレ気味のトーンで、嫌そうに呟いた。
「処刑人とやらはいいの?ほんとに。すごい大事なイベントそうだけど。人神達のところ、助けに行かなくていい?」
「キミは気になるのか?」
「気になるから聞いてるの。」
向こうは雑談に夢中のようだ。今のうちに…‥とは行かないようだった。
「覚悟っ!」
「甘いですよ!」
ギリギリと、擦れるような音を鳴らしてサーベルを防いだ。影で作った、お手製の剣。急いで作ったにしては、なかなかに良作だ。
「勝てるとお思いです?」
「貴方こそ、勝てると思ってるんですかぁ?」
苦笑いとニタっとした笑み。
「空!ここはわたしが引き受けますので、2人はラビアと他をお願いしますっ!」
「このわたしを1人で相手するというんですか?自信がおありのようですねぇ。」
「皮肉とか挽肉にして食べますよ!」
挽肉ネタを奪われたことに腹が立ちながら、影の剣を振り上げる。地面からは鉤爪のような影が這い出す。
その動きについてくる百合乃は、構わずそれを踏み締め衝波で宙に飛んだ。
ネイファはその隙を狙って影の弓を弾き飛ばした。
「こっちを忘れちゃいけませんよ!」
左手を動かした。その指は帝剣に絡められ、素早く抜剣された。その勢いで影は斬られた。
「厄介ですねぇ。」
「こっちのセリフです!」
影の渦を引き起こし、休ませる隙を与えない。無駄な会話で、ペースは乱させない。
それでも百合乃はしがみつく。どれだけ格上だとしても、そのサーベルに魔断を宿し、瞳には情熱の炎を宿し、永遠に叶わぬと知っている恋心を燃料に動き続ける。その腕を振い続ける。
「時間、稼がせてもらいましたよ。」
ネイファの目の前に百合乃がいた。驚きに目を剥いていた。足が後ろに下がってしまった。
その時にはもう遅い。バランスが崩れ、重心が後ろにいってしまったために受け身を取るしかない。体を捻ってどうにかしようとするも、それを許さない相手がいた。
「これで、相手する気になりました?」
ぐわんと体が揺れる。百合乃の左腕がネイファの襟元を掴んで引き寄せたのだ。
「これで勝ったつもりですか?」
「ご冗談を。そんなわけないじゃないですか。」
腹に衝撃を感じた。ネイファは後方によろめき、片腕で腹を押さえた。正面を向けば、空中からクルクル回転しながら落下する帝剣をキャッチした百合乃がいた。
「勝負です。全力でいきます。わたしは空のために、負けられませんから。」
「そうですか。なら、貴方も一緒に地獄に落ちてください。」
目の前の少女を一つの障害として認め、影の剣を抜いた。
———————————————————————
あの、言い訳させてください。
最近メチャクチャにだるいんです。ほんとに。体調自体は悪くないので心配はないのですが、なんなんでしょうね。
リアルでのストレスですか?そうなんですか?
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