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18章 魔法少女と神の使徒
595話 魔法少女は助太刀する
しおりを挟む魔神の気配を辿る。
次々と襲いかかる刺客。いつ来てもおかしくない現状にハラハラしながら、それでも冷静に行動していかなければならない。
「それって、日本人のメンタルで乗り切れる……?」
日本人代表(?)17歳の高校生が呟いた。
「空~、見つかりました?」
「今やってる。」
探知能力とかないから、魔神のとんでも魔力を空間魔法で強引に感じ取るしかない。
通信魔導具も向こうが壊れてるのか機能しないし、確かに、絶望と希望の狭間の演出が上手いね。
乗り越えられなさそうで、乗り越えられそう。その後に生まれる心の隙間にって。ことね。
「んまぁ……なんとなく、は?」
「煮え切りませんね。」
「しょうがないでしょむずいんだから。」
どこぞの神と一緒にしないで、なんて言って、文句に文句で返した。
「時間もないのですから早くしませんか。」
「そうそう、ラビアの言うとおり。さっさとやって、さっさと帰ろう。」
「……です。」
最近はだいぶ慣れてきた座標転移で、なんとなくの場所に移動を開始した。
原理とかは未だに分かんない。勝手に、並行移動するエレベーターとでも考えてるから、そんな感じでイメージしよう!
視界の切り替わり方にも慣れてきて、初めのような驚きや感動はない。
どうせ厄介ごとに巻き込まれてるんだから、少し離れた位置に~と考える余裕すらある。
バアァァァァァァァァァァァンッ!
余裕、なかった。
転移直後、突然の轟音に全身を硬直させてしまった。目の前には、運悪く魔神。その上では少女が嫌な笑みを貼り付けている。
「あたしにそんな攻撃効かないから。もっと、面白いのちょうだいよ、ねぇ!」
「駄々っ子も程々にしなよ。その歳にもなって。」
紫紺の爆発が宙に踊り狂い、連鎖するように炸裂する。直接攻撃というより牽制、或いは爆風による間接攻撃を狙っているように見える。
うわぁお、空中をまるで海かのようにスイスイしてる。魚じゃん。
「……あれ?ネズミ、増えてる?」
視線がやってきた。こいつに睨まれると、痺れたように感じるのは気のせいか。
「また、名乗らなきゃいけない?」
「そんな律儀な相手なの、この人。」
絞り出せたのは、そんな質問だけだった。
「ま、いいや!全部全部、壊してあげちゃう!」
きゃははっ、と、文字に起こしてみれば一見無邪気に聞こえる悪魔の笑い声をあげた。
「ねぇ魔神、これ、どうすればいいと思う?」
「一旦、引けばいいと思うな。」
「じゃあそうしようか。」
神速で魔神の元まで行く。百合乃には目で合図し、ラビアを守るように頼む。願った通り、サーベルが抜かれてラビアを守るような立ち位置になる。
さっき、断絶使わせちゃったばっかだから……むずいね。やっぱり、私は決定力不足が否めないよね。
かと言って今頃軌道修正なんてできやしない。できることでやるしかない。
「重力世界。」
フィールド展開はカードゲームじゃ基本中の基本。殺し合いはカードゲームじゃないから基本じゃないけど。
「……?」
少女の星のような瞳が動揺に染まった。ゆっくりとはいえ、悠々と空を舞っていたというのに引き剥がされるように地面に落ちていっているんだから。
地面に落としちゃえば、攻撃も当てやすい。地龍魔法の射程圏内だしね。
地面があれば、そこは全てトラップ。
言葉の通り、数メートル離れた先にいくつかの土の槍を生み出した。重なり合って、バリケードと化す。
「邪魔……!」
槍の奥からはそんな声が聞こえてきた。
「気をつけろ。あいつは、魔法ごと破壊してくる。」
「大丈夫。ここでのルールは私。」
っていうのは建前で、なんとなくこれで対処できることが分かってるだけ。
一連の爆発の見てたけど、実際には何回か当たってる。平然としてるから気付きにくいけど……というか、当たっても当たり判定がない。そういう感じの能力かな?って思ってる。
だから、先にその当たり判定を重力で付けておいて、制限をかける。
「これ、もう今やっちゃった方がいいんじゃない?」
「焦るな。何をしてくるか、分からない。」
邪魔と連呼しながら槍をどんどんと叩く。やはり、私の見立ては間違ってなかった。
「よし、いけそう。」
「だから、待てっ!」
静止は耳に届かず、目の前の敵を排除することにいっぱいになった。
「…………もういいや、全部、消えちゃえ!」
槍越しに、目が光った気がした。その直後に誰かに思い切り地面に叩きつけられた。
「痛っ……」
「キミは死ぬ気か……!」
小さな叱咤が私に覆い被さる。その正体は魔神だ。
「逃げるぞ、ソラ!」
「え、あ、は?」
何が何だか分からないまま、何故か抱えられて放り投げられていた。その次に、百合乃とラビアが飛んでくる。
「いで。」
「わだしだって痛いですよ。」
私の体にぶつかった勢いでゴロンと地面に仰向けになった。その空は、微妙にオレンジ色に染まっていた。西の方から夜の気配が流れてくる。
「まったく、キミはどうしてそう無鉄砲なんだ。」
しかし、そんな風情たっぷりな風景を見ている時間は終わりを迎えた。呆れを多分に含んだ声が聞こえてきた。
「さっき、何が起こったの。」
「もっと抑揚を意識しよう。」
「そういうの、うざい。」
首はねおきの要領で立ち上がって、さっきとは全く違う景色を見渡した。
転移した、よね。多分。
「キミの推理は近かった。けど、ボクの言葉をよく聞くべきだった。」
「はいはい、ごめんって……」
「そうじゃない。あれは破壊に長けている。破壊という一点だけが創滅神に匹敵する強さだ。」
「……じゃあ、当たり判定ってのは……」
「具体的な推理は分からないけど、間違いだろうね。」
推測の甘さに、自分でも今愕然としてる。詰めが甘いなんてもんじゃない。
魔神がいなかったら、あれ、死んでたよね。
冷静に考えて、早計すぎた。見ただけで分かった気になって、それを実行しようとして死にかけた。間抜けすぎてものも言えない。
この濃すぎる半年間、何をしてたんだと引っ叩きたい。
私が背負ってる物の重さを考えろ。大切と必要を全て背負ってやり合ってんのに、こんなアホみたいな……
「ほんと、ごめん。」
「いや。逃げる隙を作ってくれたことに関しては、キミには素直に感謝してる。」
「そう……」
自然と顔は俯いた。過剰な自信の怖さを思い知った。
「……ねぇ。そういえばあいつ、なんで名乗ろうとしてたの?」
「あー、してましたね。」
「義務のように見えたわ。そうしなきゃいけない、そんなどこか義務感じみていたけれど……」
お尻や背中についた砂を払い落としながら、思案顔をする。
「名前、なんて言うの?」
「確か処刑人01リディキュール。」
「リディキュールです?」
「百合乃、心当たりあるの?」
反応が何かを知っているそれだった。
「心当たり、というより……リディキュールって、確かラテン語で笑いもの、滑稽という意味なんです。」
「ラテン語……ラテン語…………?」
普通の女子高生がラテン語を会得している事実に驚きを隠せない。
「今そういうのいいので。」
「あ、うん。……というか、01っていうくらいなら2、3っているのが妥当だよね。」
「ねちっこい攻撃をするなぁ、あのクソ神。」
言葉の雰囲気に反して、ものすごい怒りを感じる。その怒りに当てられ、私まで震えて……
あれ、別に震えてないな。
よく見れば、ポケットが振動しているだけだった。
「私のは、生きてるんだった。」
魔導具に魔力を込めて、応答した。なんとなく、要件は分かっている。ここまで創滅神と戦ってるんだ。少しくらい、思考もわかってくる。
『避難中の国民に襲撃があった』
ルーアの、冷たい言葉が鼓膜を突き刺した。
———————————————————————
なんか、雰囲気どんどん重くなっていきますね。私がしたいのは軽快なギャグ日常なんですけど。私、初めそのつもりでこの作品書いてたんですけど。
いつの間にこうなったぁぁぁぁぁぁぁぁ!
大変お見苦しい姿を晒してすいませんでした。
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